第1幕『逃走条件』
赤い隔壁が、夜の裏通りを塞いでいた。
向こう側の景色は見えている。
灯りの消えた自販機。意味のない文字列の貼り紙。ひび割れた舗装。遠くの街灯だけが、細い路地の端を頼りなく照らしている。
——なのに、通れる気がしない。
薄い光の膜が一枚あるだけだ。
それだけなのに、俺たちの足は止まっていた。
隔壁の向こう、エレノアがアニエス・ソレルを背に立っている。
背後には、小柄な少女型コア。
その周囲に、盾と刃と王冠みたいな兵装が、夜の暗がりへ大きく広がっていた。
エレノアが、赤い壁越しにこちらを見た。
「では、試してみなさい」
その声に、ルカがアリスの首へ顔を押しつけた。
アリスの腕が、ほんの少し深くなる。
「ルカ。頭部を固定します」
「……うん」
俺はセブンを握る。
握った、つもりだった。
指に力が入らない。
柄が手の中で半端に浮いて、右腕の奥がじんと熱くなる。
くそ。
さっきまで当たり前に振っていた剣が、今は持ち上げるだけで遠い。
身体が、勝手に俺を戦場の外へ押し戻そうとしてくる。
《警告:ユーザーの握力低下を確認》
「そういうの、実況しなくていい……」
《補足:把持継続に失敗した場合、当ユニットの戦術投入は困難となる》
「分かってるよ」
分かっているから、嫌なんだ。
今の俺が前に出ても、足手まといになる。
走れない。跳べない。たぶん、まともに振れない。
それでも、何もしないで立っているには、目の前の状況が悪すぎた。
セレスの手が、俺の肩を支えている。
彼女は一度だけ、俺の右手を見た。
震えている指。
持ち上がらないセブン。
それを見てから、前へ視線を戻す。
エレノアが薄く笑う。
「ずいぶん慎重なのね」
「慎重にならなきゃいけない状況を作った奴が言うなよ」
「感情的ね」
「負傷者つれた集団を囲って、処理対象呼ばわりする奴よりは健康的だろ」
濃い口紅だけが、わずかに歪んだ。
「青臭いわ」
その言葉で、セレスの指に少しだけ力が入る。
「リクくん、挑発に乗らない」
「乗ってない」
「乗りかけてる」
「……はい」
この人、こういう時は本当に容赦ない。
エレノアの視線が、セレスへ移った。
「あなたも随分と必死ね。そんなにその子たちを守りたいの?」
「現場にいる生存者を外へ出す。それだけよ」
「それだけ?」
エレノアは、ゆっくり瞬きをした。
「弱い者を抱えて、負傷者を庇って、逃げ道まで塞がれて。
それでまだ、自分は正しいことをしているつもり? 非合理だわ」
「合理的かどうかの話じゃないわ」
セレスは、俺の肩を支える角度を少しだけ変えた。
前に出るためじゃない。
村人たちから、エレノアの視線を切るためだ。
「ここにいる人たちは、救助対象よ」
「言葉を変えても、足手まといは足手まといよ」
「いいえ」
セレスの声は、それまでより強かった。
「生きている人間よ」
その言葉に、ミラが唇を噛んだ。
ガルドが、無意識に背筋を伸ばす。ユリウスはルカを見たあと、自分の足元を見た。逃げる準備だ。
次の合図を待っている。
エレノアは薄く息を吐いた。
「アニエス・ソレル」
アニエスの中心に浮かぶ少女型コアが、わずかに顔を上げた。
返事はない。
表情もない。
それでも、命令を聞いたことだけは分かった。
エレノアが手袋の留め金を、赤い爪で軽く叩く。
「“スカーレット・ステイク”」
左右に浮かぶ盾状装甲が開いた。
その継ぎ目に赤い光が走る。
——槍だ。
細く、長い。
処刑台に並べられた杭みたいな赤い槍が、暗い空中に一斉に並ぶ。
嫌な予感より先に、セレスが叫んだ。
「全員、伏せて!」
赤い槍が落ちる。
セレスが叫ぶより、アリスとエナの方が早かった。
「射出します」
アリスのワイヤーが、夜の裏通りに銀線を引いた。
壁の配管。折れた街灯。転がった標識の支柱。引っかけられる場所へ、迷いなく線を打ち込む。
同時に、エナの装甲片が散った。
ライムグリーンの光が、俺たちの前で重なる。
「通しませんっ!」
狭い路地に合わせて、小さな盾面が斜めに何枚も並ぶ。
落ちてくる角度をずらして、逸らすための壁だ。
ギィンッ、と金属音が弾けた。
一本が盾で跳ねる。
別の一本はワイヤーに触れ、軌道をわずかに逸らされた。
壁に刺さる。舗装を砕く。火花が、暗い路地を一瞬だけ白く照らす。
一本、俺たちのすぐ横に落ちた。
衝撃が胸に響いた。
「っ、ぐ……!」
息が詰まる。
痛い。
普通に痛い。
でも、当たってない。
それだけで、今は御の字だ。
《推定:初撃は制圧目的。精密照準ではない》
「だったら……次は狙って来るな」
俺が言うより先に、エレノアの目が細くなった。
「アニエス。あの女からやりなさい」
指先が、セレスを示す。
——まずい。
セレスは俺を支えている。
避けられない。俺も支えから外れたら、立っていられるか怪しい。
「セレスっ!」
言い切る前に、セレスの左手が腰のホルスターへ滑った。
取り出したのは、手のひらサイズの丸い器具。銀色の縁取り。表面の小さな留め具。
セレスの親指が、留め具を弾いた。
カシャン、と小さな音を立てて蓋が開く。
内側の鏡面に、青白い光が走った。
一見すると、携帯型の手鏡。
けど、化粧道具にしては作りが硬い。
厚い銀縁の奥で、細い術式線が順番に灯っていく。
「多重撹乱術式、展開……"ミラージュ・ミロワール"っ!」
ポン、と小さく光が弾けた。
次の瞬間、裏通りにセレスが増えた。
——ポン! ポン!
一人じゃない。
三人、五人、十人。
増えたセレスの隣には……俺!?
全員が俺の肩を支えている。
……いや、正確にはそう見える。
本物のセレスも、幻影のセレスも、同じ角度で俺を支え、同じ顔で前を睨んでいた。青白い輪郭の中に、俺の重みを受ける腕の形まで再現されていた。
「……え、なにこれ」
俺の声と同時に、アニエスの照準がぶれた。
赤い光が、本物のセレスから少し前に出た幻影へ移る。
次に、別の幻影へ。
また戻る。
一番近いセレス。
俺を支えているセレス。
エレノアを睨むセレス。
全部、セレスだ。
選べていない。
エレノアの声に、苛立ちが混じる。
「頭の悪い機体ね。優先度判定を飽和させられた程度で迷わないで」
「機械相手にキレるの、だいぶ余裕ないな」
「リクくん、挑発するまえに状況を見て」
「はい」
セレスが俺を支えたまま、半歩だけ動く。
それに合わせて、幻影のセレスたちも散った。
全員が、少しずつ違う方向へ。
全員が、俺らしき影を支えたまま。
夜の路地に、青白いセレスがばらける。
アニエスを向いていたせいで、エレノアの視線が迷った。
たぶん、完全に見失ったわけじゃない。
でも、一瞬でいい。
その一瞬だけが、今は命を繋ぐ。
「アニエス。“スカーレット・ステイク”、範囲指定。まとめて潰しなさい」
盾状装甲の内側で、赤い光が増えた。
今度は一本ずつじゃない。
面で来る。
セレスの幻影たちが、一斉に走る。
赤い槍が降る。幻影が貫かれる。青白い像が、夜の中で砕ける。
本物には、当たっていない。
セレスが息を切らしながらも叫んだ。
「アリスちゃん、エナちゃん! このまま防御継続!」
アリスが短く返す。
「継続可能です」
「はいっ!」
槍がまた落ちる。
エナの盾面が火花を散らす。
アリスのワイヤーが、跳ねる槍の角度をずらす。
持ちこたえてる。
でも、ずっとは無理だ。
エナの鎧は欠けている。
アリスだって無傷じゃない。
セレスの幻影も、今のでかなり魔力を食ったはずだ。
このまま同じことを続けたら、先にこっちが削り切られる。
だったら、どこを抜ける。
前は赤い壁。
上はアニエス。
横の路地も細い。囲まれてる。
くそ、どこだ。
どこか抜けられそうな場所……!
《地形スキャン開始》
セブンの声が俺の手から響く。
《左手側十七メートル先。地下通路入口を確認。地下構造内に固定障壁反応なし》
「……地下?」
思わず顔を上げた。
左手。
大通りへ繋がる地下道。
たしかに、半分崩れた案内板がある。
見落としていた……。
いや、見えてはいたけど、逃げ道として見ていなかった。
「本当か、セブン」
《肯定。隔壁構造は地表に限定。地下には同種反応なし》
「下は塞がってない……!」
セレスが、すぐに左側を見た。
エナもアリスも、その一瞬だけ視線を向ける。
暗い。狭い。
さっきの広域攻撃で、入口のコンクリが欠けて半分埋まりかけている。
だが、通れないほどじゃない。
——問題は、その先だ。
地下道へ入る時、全員で固まったら終わる。
狭い入口に人が詰まれば、槍の的になる。
「セブンくん、通路の幅は?」
《推定:横二名での通行は困難。一列移動を推奨》
セレスの目が、すぐに地下道入口へ向いた。
「先行と後送に分ける。先に抜けた側で、出口を守る人が必要よ」
エナが前へ出た。
「あたしが先に行きますっ!」
迷いがない。
即答だった。
「トマスさんも一緒に連れていきますっ。向こうに着いたら、出口を守ります!」
トマスが目を丸くする。
「俺、自力で走れる気はしないんだけど」
「だからですっ!」
エナが胸を張る。
欠けた鎧が、小さく鳴った。
「出口に置いといた方が安全ですっ!」
理屈は正しい。
出口側で防御を張れるのは、今この場じゃエナだけだ。
セレスは俺を支えながら撹乱。
俺は……走れない。
状況は最悪だ。
でも、最悪の中に、一本だけ線が見えた。
——とはいえ。
「賭けだな……」
口の中で呟く。
道を塞ぐ隔壁を乱発できるなら、詰み。
紅い杭での攻撃で入口を潰されたら、詰み。
エレノアが地下道に気づいて先回りしても、詰み。
……詰みばっかじゃねぇか。
でも、他にベットできる手はねぇ!
なら、急げ! 相手に考えさせる時間をやるな。
セレスが短く息を吸った。
「エナちゃん!」
「はいっ!」
「トマスさんを連れて、左手の地下道へ先行。入口で止まらないで。抜けた先で防御を展開して」
「はいっ!」
「地下道は一列。中で詰まったら全員が危険になる。トマスさんを抱えたまま、まずあなたが出口側を確保して」
エナの顔が、引き締まった。
いつもの元気な返事の前に、自分が最初に行く意味を理解した顔だった。
「アリスちゃん、村人を順番に地下道入口へ誘導! エナちゃんが抜けたら、次はルカちゃん、ユリウスくん、ミラさん、ガルドさんっ!」
アリスが短く頷いた。
「了解。搬送順、記憶しました」
「はいっ!」
エナがトマスを抱え直す。
「トマスさん、揺れます! 歯を食いしばって」
「落とさないでくれよ」
セレスが続ける。
「エナちゃんを信じて」
「それはもう、信じるしかないな」
消耗してる。エナも、無傷じゃない。
それでも、彼女は笑った。
「リクくんは、敵の照準を見て。声が出なければ、セブンくんに中継させて」
「……了解」
悔しいけど、助かった。
俺が叫ぶより、その方が速い。
セレスが前を見据えた。
「行って、エナちゃん!」
「はいっ!」
エナが走り出した。
トマスを抱えたまま、低く、左へ。
すぐに、エレノアの視線が動いた。
「アニエス。逃走経路を——」
「ミラージュ・ミロワール、撹乱継続」
セレスの声が、エレノアの命令にかぶさった。
——ぽん。
青白い幻影が弾ける。 建物の中へ向かうセレス。 俺を支えて逆方向へ動くセレス。 アニエスの横を抜けようとするセレス。
全部が、別々の方向へ散った。
アニエスの赤い光が割れる。
どれを撃つか、迷っている。
その一瞬で、エナが地下道へ届いた。
二人並べはかたがぶつかりそうな、暗い入り口。
それを薄く照らす蛍光灯。
エナがトマスを抱えたまま、暗い通路へ飛び込んだ。
姿が消える。
心臓が、嫌な跳ね方をした。
これで先にも待ち伏せがいたら。 通路が途中で塞がっていたら。
考えるな。
そう思うほど、嫌な想像ばかり浮かんだ。
身体中が痛いせいか、思考まで弱っている。
まだ起きていない最悪だけが、妙にくっきり見えた。
《エナの反応、地下を正常に移動中》
「……助かる、セブン」
直後に、アリスが動いた。
ルカを抱えたまま、ユリウスの胴にワイヤーを絡めて引き寄せる。
「ユリウス。転倒防止を実施します」
「え、あ、おお!」
ユリウスの声と同時に、アリスの太腿から、もう一本のワイヤーが地下道へ。
アリスが走る。
正確には、走るというより滑る。
ワイヤーを巻き取る勢いで、路面を噛まずに進む。
逃げる三人を見て、エレノアの指が下がる。
「子どもを狙いなさい」
ルカの肩が跳ねた。
ユリウスが、とっさに前へ出ようとして、アリスのワイヤーに引き戻される。
——ぽん。
青白い光が弾けた。
路地に、小さなセレスが現れた。
六歳くらい。
小柄で、髪も少し短い。
眼鏡だけが妙に大きくて、真面目な顔が余計に子供っぽい。
ぽん。
ぽん。
ぽん。
また増える。
逃げる子供セレス。
転んで涙目で立ち上がろうとする子供セレス。
転んだ子供セレスを助けに行く子供セレス。
その横で、やたら真面目に眼鏡を押し上げる子供セレス。
全部、セレスだ。
「……」
エレノアが黙った。
俺も……ちょっと黙った。
いや。
……これは。
「……なんか、可愛いな」
「リクくん! いまツッコミは邪魔!」
「はい」
重ねるように叱られた。
でも、その声は少し苦しそうだった。
セレスの呼吸が浅い。
俺を支える腕にも、さっきより力が入っている。
少しだけ緩みかけた気持ちを、すぐに引き締める。
「アリス、ルカを低く抱えろ!」
アリスに向かって叫ぶ。
いや……叫び声ってほど大きな声は出なかった。
それでも、胸がズキリと痛んだ。
「把握しました」
アリスがルカを抱えたまま沈む。
赤い槍が、子供セレスの群れへ降った。
青白い小さな影が、次々と砕ける。
ルカが目を閉じる。
ユリウスがその肩を守るように寄る。
でも、二人には当たらない。
……当たらせない!
アリスが地下道へ滑り込んだ。
ユリウスも続く。
ルカを抱えたアリスの影が、階段の暗がりへ消えた。
《アリスおよび二名、表通り方向へ移動》
「よし……!」
胸の痛みより先に、視線を上げる。
まだ終わってない。
ミラとガルド。
そして、俺とセレス。
エレノアも、それに気づいている。
濃い口紅が、暗がりの中で歪んだ。
「優先順位を決めるのね」
「……決めるしかねーからな」
「誰を先に逃がすか。誰を後に残すか。誰の危険を許容するか」
エレノアの声は静かだった。
静かなぶん、嫌な場所に刺さる。
「綺麗な言葉で包んでも、やっていることは選別よ」
セレスの肩が、わずかに止まった。
ほんの一瞬。
でも、俺には分かった。
こいつは、本当に嫌な場所を刺す。
選んでいるのは事実だ。
順番を決めているのも事実だ。
危険を後ろへ回しているのも事実だ。
だからどうした。
選ばなきゃ、全員死ぬ。
「ミラ、ガルド、次!」
息を切らすセレスの代わりに、なんとか叫ぶ。
「でも、リクさんは……っ」
ガルドが、ミラの手を強く引いた。
「迷ってる分だけ、邪魔になる!」
幻影のセレスが二人の周囲に走る。
負傷したセレス。
子供のセレス。
俺を抱えたセレス。
全部がバラバラに動き、アニエスの赤い照準を散らす。
赤い槍が落ちる。
ミラが悲鳴を飲み込む。
ガルドが肩で破片を受ける。
でも、止まらない。
地下道の入口まで、あと少し。
その時、エレノアが指を曲げた。
「入口を潰しなさい」
赤い光が、地下道の上へ集まった。
まずいっ!
そこを潰されたら終わる。
俺はセブンを握った。
握っただけだ。
振れるわけじゃない。
それでも、身体が勝手に前へ出ようとする。
「リクくん!」
「分かってる!」
いや分かってない。
身体が勝手に動いた。
頭じゃ止めているのに、足が前へ出ようとしている。
それを、セレスの腕が押さえた。
同時に、地下からライムグリーンの光が噴き上がる。
地下道から、盾がせり上がった。
入口の上に、斜めの防壁が組まれる。
エナの翠盾重壁……!
赤い槍がそこへ落ちた。
——轟音。
盾が軋む。
階段の入口が震える。
埃が噴き上がる。
でも、崩れない。
エナが、向こう側から踏ん張っている。
「エナ……助かった」
小さく呟く。
「ミラさん、ガルドさん、今!」
セレスの声で、二人が飛び込んだ。
ガルドがミラを先に押し込む。
自分も続いて、狭い地下道へ滑り落ちるように消える。
残ったのは、俺とセレスだけ。
エレノアは、その事実を待っていたみたいに、ゆっくり笑った。
「結局、最後に残るのは負傷者と、その世話係なのね」
「言い方が最悪だな……」
「事実よ」
「人間だからな、こっちは」
「人間だから醜いのよ」
エレノアの声は冷たかった。
でも、さっきまでの余裕はない。
苛立ちが混じっている。
セレスの幻影に、エナの盾に、アリスのワイヤーに、俺たちの足掻きに。
この女は、少しずつ焦らされている。
それだけで、少し息が入った。
「リクくん、歩ける?」
「歩く」
「答えになってない」
「今は、それで許してくれ」
セレスは一拍だけ黙った。
それから、短く息を吐く。
「許します。今回だけ」
「助かる」
赤い槍が、アニエスの周囲に並ぶ。
エレノアが、静かに指を下ろした。
「アニエス・ソレル。残りを処理しなさい」
赤い光が、俺たちへ集まる。
セレスの幻影が、最後にもう一度だけ増えた。
負傷者。
子供。
俺を支えるセレス。
倒れかけたセレス。
全部が混ざって、地下道に走る。
どれが本物か。
エレノアも、アニエスも、一瞬だけ迷った。
その一瞬でいい。
「行くぞ、セレス」
「ええ」
俺はセブンを杖にして、一歩を踏み出した。
胸が痛い。
腕が痛い。
足も、たぶんまともじゃない。
でも、前へ。
逃げ切れば勝ち。
その勝ちが、まだ遠くても……。
誰も落とさないために、今は一歩でいい。




