表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第三章 ~ハミルトンの魔女~
53/61

52.女王国絶対指令(インペリアルオーダー)

お待たせしました。

挿絵(By みてみん)


キャラクター紹介(26) アリシア・ローゼン・アリシアベル






春眠暁を覚えず。春の陽気に包まれて、今日も起床が遅れたとぼやく無精ひげを生やした精悍な男。彼はここ数日考えに考えて煮詰まっていた。



「今日は再び会合だったな。少しは進展があるといいのですが…」



広々とした寝室だが、持ち主の性格のせいなのか派手さはまるでない、質素な印象すら覚える。帝国の勇者デューラン・ディアステラはベッドから降りると、長い額分けの黒い前髪を軽く整え、壁にかけられたシックな色のローブを羽織った。


そして、壁に飾られた3本の剣のうち護身用のものを手に取ると、それを背中に括って自室を出る。



「おはようございます、デューラン様」



自室の扉の前に待機していたメイドの女性が深くお辞儀をした。



「ああ、おはようございます。べニーチェ」



そのまま廊下を進むデューラン、それに付き従うべニーチェと呼ばれるメイド。



「今日は午前中に私のパーティの面々と会って、今後の方針を議論する予定です。少しは話がまとまると良いのですが… これがまたそうもいかないものでしてね」



デューランが深いため息をつく。



「心中お察しします。しかし、あくまでこのような端女はしための言葉ですが、戦時下と比べて殿下も余裕があるように感じられますが」



「ははは、まぁそうなんですよね。今すぐに魔王軍が攻めてくるというわけではないので、やはりどこか気が楽ではありますよ。課題は山積みなんですけれどね」



少し乾いた感じに軽く笑うデューラン。すると廊下の奥からもう一人のメイドが、両側のスカートを両手でつまみ上げながらやや駆け足でこちらへやって来た。



「デューラン様! …し、失礼しました。おはようございます! はぁはぁ」



「おはようエマエリー。どうしましたか? 落ち着いてください」



メイドのエマエリーは胸のあたりを抑えながら息を整えると、デューランに向かい合った。



「その、本日の会合相手の、デューラン様のお仲間が玄関にお見えなのですが…」






急いで階下の正面玄関を開くデューラン。外に待っていたのは、おなじみの顔だった。


ひとりは大楯を担ぐタンクの大男、ウルバニア皇国聖竜騎士団所属のグランサム・エドガー・ライラス。もうひとりは仰々しい巨大な杖を持った男、ノグルシア連邦シデン出身のリュート・ダイナグン・スジャク。人界を跨ぐ勇者パーティの2人だ。



2人「デューラン!!」



「どうしたんですか? リュートにグランサム… クリステラは一緒ではないのですね?」



2人に歩み寄るデューラン。2人はどうも慌てている様子だ。グランサムが口を開く。



「クリステラは… 急だが先日祖国へ向かった! アンタへの報告が遅れて申し訳ないが… 俺もさっき置手紙に気付いたんだ!」



「本当に急だったのですデューラン! 私もさっき知ったのですが、それもそのはず…」



リュートがカバンから何やら出そうとしている。



「国に帰った!? 一体何が… 穏やかじゃありませんね」



デューランはリュートがカバンからだした物を注視する。それは新聞だった。



「今朝の民報です。正直この手の情報は国の機関のよりもリンドウィン特報誌の方が早い場合もある!!」



デューランは新聞をリュートから受け取ると、それを広げて目にした。



「なっ………!!?? アリス女王陛下が王位を退いた!? …次の女王は……アリシア・ローゼン・アリシアベルだと!!!!」



メイド2人「はわわわわわわわ」「ええっ!?」



デューランは目を険しくすると、2人と視線を交え、そして口を開いた。



「若きアリシア王国の軍神。アダマンタイト級の鋼の女皇…『鋼鉄こうてつのアリシア』が実権を握った_____






52.女王国絶対指令インペリアルオーダー






[アリシア王国 王都トゥルベリム北西 鋼鉄要塞タイタン]




ノグルシア連邦シデン地方からアリシア王国領へと連なる政宗マサムーン鉄山てつざん。その険しい山々を背に構える人界屈指の巨大な要塞タイタン。アリシア王国の象徴とも言えるその要塞は、王国を治めるアリシアベルの剛族の本拠地であり城である。


難攻不落を誇る要塞は禍々しい鉄の山々に囲まれ、足場にならない『鉄の結晶』と呼ばれた鋭利な鉄を土台に造られ、四方八方が鋼鉄の壁で固められていた。



「…くどいぞ疾風の。何度も言わせるなよ」



玉座に腰を下ろす鉄の塊が、謁見に訪れた緑翠オールバックのエルフを睨みつける。エルフは首を垂れて、床を見つめたままだ。



「母上の時にどの様な扱いだったかは知らんが、余が女王になったからには今までのようには行かぬ。お前は使えると評価されているから暫くは様子をみるが… 余の気に障ることをしたら直ぐにその首を刎ねてエルフどもの里へ贈りつけてやろう」



アリシア・ローゼン・アリシアベル女王はそう言うとニヤリと笑って付け加えた。



「冗談だよ、冗談」



広い額から汗が滴り落ち、その頭を中々持ち上げられずに硬直しているリベルダ・デウス・アラン。ギルド鋼鉄教会のAランクチーム『風林火』の風、プラチナ級冒険者である。


そんな彼が恐れを抱く女王アリシアは強大な力を持つ。その身体の四肢が全て禍々しい鉄の甲冑で出来ており、露出している妖艶な太ももと上半身の一部以外はミスリル金属の棘が巻き付いている。それは巻き付いているというよりも、もはや彼女の身体と一体化していた。


幼い頃の事故により身体がバラバラになったアリシアは、魔導の力マナを与えると自在に変化するという聖植物ミュランジェをアリシアベルの秘術によって身体へと寄生させて生き永らえたらしい。そして、その身はマナの循環によって自在に動かせるようになったという。言わば身体の大半をミュランジェによって蝕まれた鋼鉄人間である。


その侵蝕は彼女の頭部にまで及び、その美しい人形のような顔の半分は鋼鉄の仮面で覆われていた。髪の毛は世にも珍しいローズピンクの長髪。成長と共に育ったその肉体はもはや鋼そのもの。人間離れした力の彼女は人界屈指のアダマンタイト級戦士である。



『冗談ではない!』



リベルダは心で叫んだ。魔王軍との戦いがひと段落着いたというこの時期に、暴君が誕生し、更にはとんでもない言葉を口にしたのだ。



女王国絶対指令インペリアルオーダーだと!? そんなことをしたら、今度は人と人同士の戦争が始まってしまう! それだけは絶対に阻止しなければならない!』



「もう良い。下がれ、下郎」



アリシアは冷たくリベルダを見下すと、その鋼鉄の右腕を払った。更に深く首を垂れると、リベルダは口を開かずに玉座の間を後にした。静まり返った空間に扉の閉まる音だけが木霊し、徐々に消えてゆく。



「フンッ、癇に障るはえめ。いつまでも先代女王の時の感覚でいてもらっては困る。大体なんだ、3年前の侵攻で国が滅びた時は心の底から喜んだというのに… 死の軍勢を手に入れたリューベルトと死して尚存在し続けるハミルトン」



アリシアは思い出す。


彼女にとって、アリシア王国に定期的に贈り物をよこす南の小国、バイエル家が起源のツヴァイエルスはさほど煩わしいこともない。だが、そのバイエルの元にあの忌まわしきハミルトンの生き残りが現れたという情報を入手したのだった。もしやと思いアリシアはギルド長ガランディオに調べさせ、亡国ギルドの冒険者リストにハミルトンの名前が復活しているのを確認したのだ。



「ハミルトン…殺しつくしても鬱陶しい存在だ。なぁ我が従姉あねよ?」



凍てつくように冷たい視線を玉座から放つアリシア。その視線の先には巨腕で長身の女性騎士が1人。勇者デューランの仲間であるクリステラ・ローゼン・アリシアベルだ。



「恐れ多くも従妹アリシアさま。アタイには700年も前の魔女狩りのことなんてサッパリだ。ましてやアタイよりも若いアナタさまがハミルトンにこだわる理由が昔から理解できなかった」



アリシアは突如上着の甲冑を外した。クリステラの眼前に現れたのは妖艶だが禍々しい、鋼と美しい肌が織りなすコントラスト。



「余のこの身体をみても今のセリフを吐けるかクリステラ? 貴様にとっては所詮他人事かもしれぬが、余の身体をバラバラにしたのもかつてのハミルトンの遺物が原因なのだぞ?」



一歩後退ると軽く頭を下げるクリステラ。



「それは… 確かにそうですが、旧都アラベスクの遺跡からあの遺物を掘り起こしたのも我らアリシアベル。そもそも我が国に残るハミルトン本家の末裔とやらも無害な日常を平穏に暮らす夫婦だったじゃないですか。その彼らだって、本来受ける必要もなきアナタさまの身体への報復を、その命をもって受け切ったのだから」


「もはやインペリアルオーダーを下すまでも…」



アリシアはその片腕をクリステラへとかざすと、次の瞬間鋼鉄の腕を切り離して勢いよくクリステラの首を掴み、そして瞬く間に宙へと持ち上げた。



「さっきの蠅よりもよく喋る口だなクリステラァ! あ゛あ゛!? 余の身体をバラしておいて、そのか細き命如きで償えるわきゃねーーーだろ、ハハッ?」



「ガハッ…」《ドサッ》



宙に浮かぶ腕がクリステラの首を離して解放する。両手を地について呼吸を整えるクリステラ。



「…いいことを教えておいてやるよ。3年前のグランゾーラ侵攻、あれの切っ掛けを作ったのは余だ」



「なっ!?!?!?」



目を大きく見開くクリステラ。アリシアは宙の腕を再び元の身体へとハメ込んだ。



《ガシャッ》



「クラウディア教徒に紛れ込ました間者にとある仕掛けを施す様指示した。オルソリア島にな。まさかあのような大物が攻めてくるとは思わなかったがな、ククク」



玉座を立ちあがり、クリステラの元まで歩み寄るアリシア。



「アリシア… お前、本当に我がアリシアベルの者か?」



「そう悪魔を見るような眼をするなよ。しかし、あながち鋭いな」



そう言うとアリシアはクリステラの視線と合わせるためにしゃがみ込んだ。



「いい機会だ、身内には話す時かもしれぬ……… 余は生まれ変わりだ」



「え…!?」



「我らがアリシアベルのおおもと、古代タイタニア帝国の巨人の一族、700年前の魔女狩りを始めた張本人『アリスドレイク・キャナパー・ジ・タイタン』の転生体だよ_____






-------------------------------------------------------------------------------------






「大丈夫かリベルダ!?」



玉座の間の鋼鉄の扉を閉じると、外に待機していた2人の冒険者が心配して駆け寄る。冒険者ギルド『鋼鉄教会』所属のハンターで『風林火ふうりんか』の『林』ケルヴィム・アウロラ・べリムウッドと『火』ヴォルクス・ブルーラもとい『烈火のヴォルクス』だ。



「酷く顔色が悪いぞ… 何を言われた?」



「あぁ… お前たち、アリシアベルの宿敵を知っているか?」



リベルダは額に手を当てながら2人に問いかける。2人はお互い顔を見合わせると、ヴォルクスが口を開いた。



「歴史的にみれば、アリシアベルの宿敵は忌み嫌われし冥府魔導の力を操るものたち。魔女狩り対象の御三家、その中でも特にハミルトン家だろう? だがそんなのは現代のアリシア王国には大して意味を持たない。その頃の因縁はとうの昔に払拭されているし、当のハミルトン王家がラナ王国は3年前に滅んだ」



「ああ、私も聞いたが、3年前にハミルトン王家は全員死亡したと言われているぞ?」



ケルヴィムが付け加える。



「それが、ハミルトンは亡霊になっても存在し続けているだの、肉体を持つ生き残りが1人いるらしいだの、そんな夢のような話を語られた。そして、それら不安要素を全て滅するために女王国絶対指令インペリアルオーダーを下すとまでな!」



2人「インペリアルオーダーだと!!??」「それはまずいぞ!?」



深刻な表情へと変わる2人。ヴォルクスが再び口を開く。



「そんなことをしたら、王国鋼鉄騎士団全員が南へと駆り出される。ツヴァイエルスの兵との衝突や、最悪人界中の他国の反感を買う!」



頷くとリベルダは続けた。



「それに、死都アルカナに攻め入るとなると、人では到底太刀打ちできない亡者たちとの戦闘で、我らの国の兵たちも無残に死ぬだろう。昨年私は目の当たりにしたのだ、ギルド長会議で強大な力を! 死都アルカナの冒険者ギルド『深界迷宮』の長、オズマ・ミストリッチというアンデッドをな!」



2人「おお、その話なら知っている!!」「とんでもない化け物だったんだろう??」



「あぁ。その場にいたアダマンタイト級冒険者『緋炎のアルヴェント』でさえ、相対できるか分からんと言っていた」



2人「緋炎のがそう言ったのか!」「アダマンタイト級ですら敵わぬとは…」



「まぁ。そのオズマは幸い話の通じる理性あるものだったのだがな」



2人「嘘だろ、アンデッドだぞ?」「信じられん!」



廊下で立ち話をするも、徐々に白熱してきた3人組。要塞の衛兵たちが険しい視線を3人へと向け始めたのを見て、リベルダは2人を促した。



「とりあえず、歩きながら話そう」






黙々と歩く3人。最初に口を開いたのはヴォルクスだった。



「なぁリベルダよ。久々に会ってみてあ奴は… いや、あのお方はどうだった?」



ケルヴィムが目を大きく開くと、リベルダの返答を待った。



「どうって言ったってな、ヴォルクス… 何も変わらぬ。アリシア様は我らと共に在った頃とはまるで変わり果ててしまった。まるで我らの事など存じ得ぬという風にさえ感じる。癇に障れば俺の首を刎ねると、そう笑うのだ」



それを聞いたケルヴィムは肩を落とした。ヴォルクスが応える。



「まるで別人だな… 風林火われらいっかくだった頃のあ奴ならばそんな脅しはしなかった。気性は荒かったが、仲間想いの良い女だ」



「アリシア…様はあの時を境に豹変された。私たちの元を離れた時だって我々に対してもう未練はないと言っていた。あんなに仲間想いだった方がだ」



ケルヴィムが感傷に浸る。



「とにかく… 早くこの話をギルド長に。ガランディオ様に伝えねば!」



そう言うとリベルダはその歩みを速めた。






-------------------------------------------------------------------------------------






[アリシア王国 エヴァンローサ侯爵領 サウスガリアの街 エピリアム孤児院]




4人「ハミルトン!?」



驚く真紅の槍刃の4人。その名前は亡国の戦士であれば、誰でも親しみのある聞いたことのある姓だった。下唇を指でなぞりながら、ゆっくりと口にするメサリア。



「メイ・フロステリア・ラノア・ハミルトン… 私の… 本名…?」



「ええ。アナタは700年前、アリシア王国建国前にアリシアベルの剛族に追われた冥府魔導の一族。ハミルトン本家の最後の子よ。旧ラナ王国のハミルトン王家は分家がアリシアベルを逃れて栄えたものたちです」



あまりの驚きに静まり返るその場のものたち。メサリアは呟いた。



「…ということは、ラナ王国の王族は遠い親戚だったのね…」



「むしろアナタは本家の姫君と言えるでしょう」



シスターヴァルフは優しくそう言う。



「…姫と呼んでいたのが、本当の姫でござったか…」「マジか…」「すごい…メサリーがお姫様だったなんて!」



アーサー、ナハト、クオリアが驚く。



「なんだそうだったのか。…ちょっと懐かしいことを思い出したわ…」



メサリアは他の3人へと向き合う。



「宿命の杯の一番強かった魔法使いのお姉さんいたでしょ?」



3人「ああ、あのお化けみたいな舌の長い!(あと巨乳で巨尻!)」「白い聖騎士ばかりのチームで一人だけ浮いてた黒い暗黒魔導士!」「…プリパレイダ氏でござるな!」



「あのお姉さん、今だから言うけどハミルトン王家の第3皇女なんだ。私の遠い親戚だったのかぁ」



3人「ええええええ!!??」



盛り上がる礼拝堂。



「…なんだか懐かしいですわね。あの時、ゼネスさんに凄まれてビビるクレステルさんの前に立ちはだかってゼネスさんを睨みつけてましたわ」



クオリアが憂い呟く。



「勇者に任命された日、ギルドでバカ騒ぎしてくれた連中も…もういないんだよな…」



ナハトが目を手で覆う。



「うっ、ううっ!」



既に泣いているアーサー。



「先生、私の両親は何故、お亡くなりに?」



メサリアの問いに対して、暫く考え込むシスターヴァルフ。



「ご両親と生まれたてのアナタは田舎でひっそりと優雅に暮らしていたそうです。ですが…」


「当時6歳だったアリシア女王の第3皇女、アリシア・ローゼン・アリシアベル様が、旧都アラベスクに残されたハミルトンの秘宝に触れてしまい、お体をバラバラにされてしまう事故が起きたの。幸いとある秘術で命はとりとめたのだけれども」



4人「バラバラに!?」「それでも生きてたって…どういう」



「それを引き起こしたのがハミルトンの秘宝だったものだから、怒り狂ったアリス女王陛下が国内のハミルトン本家の末裔を見つけ出して処刑すると言い出したの。そして、世を忍んでご両親は生まれたばかりのアナタをこのエピリアム孤児院に託しに来たわ」


「そしてその後、アリス女王とアリシアベルのものたちの手によって……… 火炙りの刑にあいました」



4人「!!!!」「…なんてことを…」「嘘……!!」



メサリアは目を細めて涙を堪えた。



「酷い… 何も悪くないじゃない、私のお母さんもお父さんも、火炙りにされるようなこと何もしてない………!」



シスターヴァルフはメサリアの肩を優しく包んだ。そしてその頭を抱き寄せると、メサリアもそれに応えた。



「…あの…アリス女王… 幼女の皮を被った悪魔…」



メサリアが歯を食いしばった。頭に浮かんだのは何度か国の式典などで見かけたことのあるアリス女王の容姿。背が子供ほどで、とても成人して3人も子供がいるとは思えぬほどの若作りの幼女年増。



「気持ちを抑えるのです。復讐は何も生みませんよ…」



「分かってます、先生」



先生の胸元からその頭を離すと、少し泣きはらしたメサリアは頑張って笑みを作った。



「…その女王もつい先日、アリシア・ローゼン・アリシアベルに王位を簒奪さんだつされました」



4人「簒奪!?!?」



「ええ。簒奪の前から既に実権はほとんど首謀者に移っていたという話よ、何が起こるかわからないものね。今の女王はかつて身体をバラバラにされても生還された全身が鋼の女皇『鋼鉄のアリシア』アリス元女王は牢獄へ幽閉されたという話です」



「…気になるわね。そのアリシアさん、もしかしたらハミルトンの血を憎んでいるかもしれない… なんだかそんな気がしてならない………」



メサリアは礼拝堂のステンドグラスから差し込む陽光を遠い目で覗き込んだ。






-------------------------------------------------------------------------------------






[ツヴァイエルス王国 バイエル郊外 旧市街地 螺旋の古塔]




「言わない」



プイっとそっぽを向くプリパレイダ。困った顔をするライファーとソーニャ。クレステルはムスッと頬を膨らませた。



「お、教えなさい。プリパレイダ」



「嫌よ。私はここにいる、それでいいじゃない!」



「だ、だったら死んだ甲斐あったとか、い、痛かったとか、よ、蘇ったとか紛らわしいこと、言わないで!」



「うるさいわね、今はそんな気分じゃないんだもん! 滑舌よくしてから出直して来なさいクレステルちゃん!」



《ビキビキ》



両目を瞑って額に血管を浮きだたせるクレステル。深呼吸をすると言い放った。



「あーーーもう!! いいわよ!! 生意気な小娘め、強行突破に出るわ、大人しくそこに直りなさいな!」



2人「あっ………」



「えっ?」



悟るライファーとソーニャ。困惑するプリパレイダ。



「開示せよ、こ奴の全てを! 天位魔法…完全生体情報分析パーフェクトアナリティカルステータス!!」



「えっ…えええッ!?!?」《ピカァァァァァアアアッ》



突如魔法を唱えると光り出すプリパレイダの身体。そして光の粒子が集まると、クレステルの手前に魔導書が紡ぎ出された。その魔導書のページはパラパラと自動でめくられ続ける。



「何々? プリパレイダの非公開特技、上位魔法冥府幽体離脱グレイス・アンダーホロウは首を絞めて自身を幽体アストラル化させて、他の憑依可能オブジェクトへ憑依する能力。なるほど……… 憑依履歴、ホムンクルス…」



3人「ホムンクルス!?!?」



「………クレステル、あなた…本当にクレステル!?」



まんまるの可愛い目をぱちくり広げてクレステルを凝視するプリパレイダ。



「だって私ハイエルフですからッ! …後で説明するけど」



腰に手を当ててない胸を得意げに突き出すクレステル。



「つまり、あなたはホムンクルスに乗り移った状態で私たちの殿しんがりを務め、ファイアグリフォンに引き裂かれたと… その後本体に戻って来たと!」



2人「なんという…」「そんなことができるんスか!?」



(はぁっ)



ため息をつくプリパレイダ。



「ぜーんぶその通りよ。大したモノね。私は知り合いの生産職に精密な私のホムンクルスを作ってもらい、それに乗り移って動かすテスト中だった。その時にアルカナは襲われたのよ。だから、その身体で死んでも本体が無事なら戻って来れる…死ぬほど痛いけど!」



2人「はあ!?!?」



「そ、相当な禁術使いよ、アレほど精密なプリパレイダのホムンクルスを創れる生産職だなんて…あの時の感覚、人の身体と全く同じ構造つくりだ、だったわ」《オホン》



咳払いをして、わざとらしく滑舌の悪さを復活させるクレステル。



「でも、初めての幽体離脱と、あの戦いで保存してある私の本体とはぐれちゃって。本体へ戻ってくるまでに何か月も時を要したわ。その間に戦後処理とか諸々されてて死亡リストに載ってたの」



『おお』と言葉を失いつつもやっと納得がいった3人。クレステルが、何かに気付いて口を開いた。



「っていうか、あ、あんた…難度が」



(シーーーーッ!)


(い、わ、な、い、で)



慌てて小声でクレステルの肩を掴むプリパレイダ。



「ちょっと、やってみてくださいよ、幽体離脱」



ライファーがプリパレイダに求めた。



「もーーー、バレちゃったらしょうがないなーーーもーーー」



やたらモジモジ身体を動かしながらそう言うと、プリパレイダは自慢の愛杖『猿蓋鍾骨えんがいしょうこつ』を掲げた。



んッ♡ 我があるじさまぁん! 私の首を絞めてくださいッ!! グリッチャーホールドチョーカー!!」



3人「は?」



突如四方八方の空間の裂け目から禍々しい闇の鎖が現れると、プリパレイダが首に付けている巨大な鉄首輪へと繋がれる。



「上位魔法冥府幽体離脱グレイス・アンダーホロウ!!………」



そしてそれは一気にプリパレイダの首を締め付けた。



「ああッ、ッックゥゥゥーーーーーッッ!!!!♡」《ガクッ》



エロイ声を高々に上げると長い舌を出したままガクリと動かなくなるプリパレイダ。その身体の上には彼女の形をした幽体がハッキリと見えていた。



3人「……………」



《ドタバタ》



「ちょっと!! 人の家の真ん中でなんッて声出してんだハミルトン!! ってか何してんだ!!?」



螺旋階段の上から怒鳴りつけるルアンマハラ・バイエル。両手に持ったお盆の上のお茶をこぼしそうになっている。その顔は赤面していた。



3人「…うちのハミルトンが申し訳ございません」(赤面)




「ふんっ…忌々しいハミルトンの生き残りめが_____




突如聞こえて来たのはしゃがれた老人の声だった。



「サムザロイド爺! 何てこと言うの!」



同じ階層に顕れた黒いローブを纏った老人に声を荒げるルアンマハラ。



「黙れぃ、ルアンマハラや!! 我が一族とハミルトンの私怨、知らぬわけではあるまい!? なのに、数日も滞在させよって!!」



ザムザロイドは4人を見下すと再び口を開いた。



「我らバイエルを訪れたのが運の尽きだったな亡国の皇女よ。ワシは貴様がここを訪れた際、貴様らハミルトンを憎んで止まないかつての宿敵へと情報を流した」




「アリシアベルの次期女王様にじゃ」




5人「!!??」



「どういうことですかご老人?」



ライファーが目を更に細めて見上げる。



「700年前の魔女狩り、20年前の火炙り、3年前の王国滅亡と続いたハミルトンの忌まわしき運命の幕引きだということじゃ。魔女狩りの最終幕じゃよ_____



「いけない… アナタたち!! 今すぐこの地を離れなさい!! 出来るだけ遠くへ!!」



突如ルアンマハラが叫ぶ。立ちあがるソーニャ。



「どういうことっスか!?!?」



深刻に顔を曇らせるルアンマハラ。




「…我ら御三家の宿敵アリシアベル。その最も忌まわしき象徴『鋼鉄のアリシア』による掃討作戦がはじまる!!_____






-------------------------------------------------------------------------------------






[アリシア王国 鋼鉄要塞タイタン 中央広場]




「聞け、鋼の手足を持つ我が鋼鉄騎士団よ!」



要塞の中央にある巨大な広場に集められたアリシア王国が誇る屈強な鋼鉄騎士団の兵士たち。その数およそ数千人へと語り掛けるアリシア・ローゼン・アリシアベル16世。剛腕巨躯なクリステラよりも少し華奢な印象すら与えるその身体が腰かけるのは、彼女が召喚した数十メートルもある鋼鉄の巨人。その胸辺りにある仰々しい王座である。



「我らがアリシアベルのやり残した業、700年前の魔女狩りに終止符を打つ時が来た!!」



騒めく兵士たち。



「魔女狩りだって?」「まさかハミルトンが生きているのか?」「凄い…アリス様ですら召喚できなかった、あの鋼鉄の巨人を!」「なんというお方だ…」



簒奪されたという認識は民衆や兵士たちにはなく、納得が行かないのはアリス元女王とその側近のみであった。鋼鉄騎士団の兵士たちは既にアリシアを盛大に崇めているのが事実だ。



「あの忌まわしき冥府魔導に手を染めた一族ハミルトンは人を辞め、地を跋扈する亡者たちと化した。そして我ら人界の南に恐るべき脅威として存在し、我ら人々の安寧を脅かす存在」


「死都アルカナの化け物どもと対峙する前に、の魔女を火炙りの刑に処す!!」



兵士たち「の魔女!?」「やはり生き残りが!?」「ハミルトンめ!!」



アリシアは、巨人の胸の玉座から手の平へと立ちあがると、そのまま全兵士たちの眼前へと持ち上げられた。



女王国絶対指令インペリアルオーダーを発する!! のハミルトンの生き残り、亡国の戦士『プリパレイダ・ゴルザ・セイラ・ハミルトン第3皇女』を見つけだし捕縛しろ!!」




「このアリシア・ローゼン・アリシアベル自らの手で『奴』を括りつけて、炙り殺してやる_____






-------------------------------------------------------------------------------------

次話、本日です。


あと、感想と評価ほしいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ