51.光の兆し、闇の兆し、メイ・フロステリア
よろしくお願いします。
[ディアステラ帝国 魔法の都フィールズ 魔法省地下15階 魔導研究機関]
(時を遡ること、ロギア大戦の7日後_____)
異変を感じ始めたのはいつ頃からだろうか。魔導の深淵に触れたその時からか、はたまた初めて魔法で人を殺めた時からか。
ロギア大戦で自身の名前が歴史に刻まれる程の活躍を成した帝国軍の英雄、アイングリフ・ロギアは戦後に表彰されてからというもの、地上の光を浴びることなく遥か地中へと潜った。理由は自身の異変、そして予感。
アイングリフは思う。こういうことは前にも経験していた。決して初めてではない。魔導の知識など頭で幾らでも思考を巡らせることができるし、隅々まで理解もできる。だから、天才アイングリフにとっては、理論を現実に起こすことなど造作もない。
しかし、空を降らせたことは例外だ。人間でありながら、逸脱した知識と才能で天位魔法を行使したが、生身の身体はそれに耐えられない。行使した直後は魔導の高ぶりで、気分が高揚していた。そのせいで上位魔法ライトニングブレイズを何度も連発してしまった。
だがアイングリフは思った「そんなことはよくあることだ」と。しかし、身体の高揚は数日経っても消えなかった。それどころか5日を越えた辺りからは、獰猛な感情が時折津波の様に押し寄せてくる。危機感を覚えたアイングリフは、周りには休養だと言い、普段と変わらず一人で魔法省の最下層の自室へと引き籠ったのだ。
「まさか… 魔化しているのですか? 私は…」
大きく手の平を広げて自身の顔を覆うアイングリフは、指と指の間から迫真の眼を覗かせながら呟く。その身体は小刻みに震えている。
魔化の事例は自然界ではありふれている。田舎の猛牛が、ミストと地脈の魔力によって獰猛なディアブロへと変貌するとか。白麗なエルフが浄化と真逆の性質に触れたことによってダークエルフへと派生したなど。あとはオークやゴブリンが凶悪なハイオークやハイゴブリンへと変貌をとげるとか…
しかし、それらはどれもが魔力に耐性のある肉体の成せる業。自然界で最弱な人間にはその耐性はないのだと、アイングリフは知っていた。ほとんどの人間が下位魔法までしか使えない由縁だ。いつからかアイングリフは勘違いしていたのだ、自分は選ばれた人間だと。思いあがっていたのだ、自分は人間を越えたのだと。
だが、そこにあるのは天位魔法の魔力行使に肉体が耐えられないという事実。彼の肉体は人間の枠を越えられなかったという事実。
「まずい… こんな事なら事前に身体を改造しておくべきだったのか?? 悪魔と取引するべきだったのか?? バカ言え…そんなのはおとぎ話だ!!」
自室の床に蹲るアイングリフ。すると、自分以外に誰もいないはずの部屋から女性の声が聴こえた。
「ほぅ? 人にして天位魔法を行使した才ある者が如何様な者かと気になって来てみれば… やはり越えられませんでしたか」
「だ、誰ですか貴方は!!?」
苦しそうに声を絞り出すアイングリフ。
「私か? 私はこの地に住まう全ての者たちの母といったところかしら? この世界風に言うなれば… 鬼神フィフティマスよ」
黒い鉄扇で口元を隠しながら、美しく長い黒髪をなびかせる、シデン風の羽衣に包まれた美女がそこに立っていた。
「選べ、アイングリフ・ロギアよ。このまま魔化に耐えられず発狂して死ぬか、私の肉体改造を受け入れて魔化に耐えうる身体へと生まれ変わるか」
「我が眷属となれ! 私はお前のような強い男が野垂れ死ぬのは見とぅない」
額に第3の眼が現れ、人ならざる者がその手を差し伸べる。
「誰だか知りませんが、ひとつ確認させてください」
「なんだ?」
アイングリフが問う。
「貴方の眷属とやらになって、私は私でいられるのですか?」
「なんだ、そんなこと」
「重要なことですよ?」
「クスッ… そうね。君は今のままの正気でい続けられるわ」
「貴方の身元は誰が保障してくれるのでしょうか?」
「フフッ、あはははハハッ!!」
面白い質問についつい高笑いしてしまうテトラ・フィフティマス・ディエティ。
「…深淵のメサリアちゃんが保障するわ!」
「…あの深淵さんですか。いいでしょう、お願いします鬼神フィフティマス。我を眷属に…」
痛みが引いたのか、身体を小刻みに震わせた彼はもういない。アイングリフは片膝を着き手を添えると、首を垂れて服従のポーズをとった。
「よしなに」
そう呟くと、テトラはアイングリフの手を握った_____
51.光への兆し、闇への兆し、メイ・フロステリア
[メーデリア農国 ダッパルバス崩落水道 水の檻]
名前は長閑にして平凡、しかし歴戦にして強靭。人々のメーデリア農国の認識である。ウルバニア大半島には強大な帝国、神聖な皇国、歴史ある王国、民族的な合衆国がある。
それらに囲まれつつも一番広大な国土を誇るメーデリアには田舎というイメージが付き纏う。だが、蓋を開けてみれば見識は変わる。かつて栄えた強大なる古代フローレンツィア王朝の土台をそのまま引き継ぎし、各国の貴族を束ねる旧貴族家とエリン王家の総本山である。
王朝が崩壊してからは沢山の犯罪者の跋扈する犯罪大国へと変貌してしまうが、そのせいで屈強な冒険者や著名な犯罪者を何人も抱えてしまった。各冒険者ギルドのクライアントオーダーは他国の2倍以上で、その掲示板の広さも2倍以上。
俗に言うヤバい国『メーデリア』 そこの強さ基準は他国より一つランクが上とまで言われている。アダマンタイト級冒険者チーム『青天照』を物差しに測ると、メーデリア出身の『神速』と『呪縛』は2人で、『断罪』は1人で、彼ら4人を凌ぐとさえ言われていた。
更に人界と魔界までその名を轟かせる薬の権威の『先生』と、最近では全ての英雄を束ねる『吟遊風情』と、医学狂いの『死霊使い』なんてのも出て来たくらいだ。
それら全ての猛威に晒されているが故、ウルバニア大半島にある2つの巨大な牢獄『木の檻』と『水の檻』はメーデリアにあった。
鋼鉄のような木の根に覆われた薄暗い地下牢。その一角にひょうきんな性格のひょろい男が1人囚われていた。
「随分と遅かったじゃねーかよ、へへっ」
男はやや煽り気味に言う。
「取り調べっつったら早々に取り掛かるべきだろ? なぁ看守さんよぉ?」
男は決めつけた。ここは人界最大級の牢獄の一つ『水の檻』毎日食事を配りに来る看守が、今日に限ってはいつもと違う時間にやって来た。それが意味するのは未だに執り行われていない尋問と取り調べ、あるいは拷問だ。
だからだろう。男は驚いた。そして目を疑った。身を潜めるでもなく、強行突破してきたわけでもない。堂々と歩いて近づいてくる人物は、かつての仲間であり、昔の主人であった。
「おいおいおい……… 懐かしい恰好じゃねーかよ… 股間が奮い立つぜ。グリフィンシア…いや、マハラジャの首領よぉ………」
額に冷や汗を浮かべながらも、鼻息を荒くするヨルン・クリフスキー。
「久しぶりッスね、ヨルン。随分と待たせたわ」
「おいおい。俺は嬉しさでちびりそうだぜグリフィンシア。どうしたんだ? 心境の変化かそりゃあ??」
ゆっくり歩み寄るグリフィンシア。
「なんとか言えよ! なんなんだよその首からぶら下げてる蒼い印はよぉ!!?? グリフィンシア・マハラジャックさんよぉ!!!!????」
興奮から怒りに変わると、ヨルンは檻の隙間から手を伸ばし、胸元の冒険者証に掴みかかるとそれを胸ごと鷲掴みする。
「んッ……」
ゆっくりとその腕を掴むと強く引き寄せてヨルンの頭部を檻へと強打するグリフィンシア。ヨルンは倒れ込んだ。
「ガハッ…」
「まぁ、そんなに興奮しないでよ。私がいい女だからって」
「…ううっ、なんでだよぉ。俺たちを裏切ったのか首領よぉ。お前のそんな姿見たかなかったぜぇ」
涙を流すヨルン。ふと周りを見渡す。
「…おい。看守はどうしたんだ? 流石にアダマンタイト級冒険者さんとは言え、かつての仲間とのやり取りを監視なしにさせてくれるほどここは甘かぁねぇぞ??」
「私の呪縛シリーズよ。傀儡の呪縛。少しの間席を外してもらってるわ」
地べたのヨルンを見下すグリフィンシア。
「そうかぁ、アヒャッ! そりゃそうだよなぁ? 俺がうっかりお前とライエンの旦那の濃密な肉体関係なんざ口にした日にゃ、お前は速攻冒険者の資格はく奪の危機ってもんだぁ、ギャハハ!」
「言いたきゃ言えよ」
「ヒッ」
常人なら気絶寸前の殺気を当然の様にヨルンに放つグリフィンシア。ヨルンは息ができなくなるほど硬直した。ガクガク身体を震わせながら怯えるヨルンに詰め寄る。
「てめぇ忘れたのか? 秘密結社での仕事はあくまでも繋ぎ、アタシ等の悲願は元々ひとつだろうが。てめぇ等が不甲斐ないから自分の力のみでやってやろうってんだよ、アタシゃぁ。わかったら余計なことは口走るな、それを言いに来た」
「…口を割ったら…殺す」
股を開いてチンピラの様に詰めるグリフィンシア。そこには彼女がキースに見せる笑顔は皆無だった。
「は… ハヒィッ!」
恐怖し青ざめた顔で返事をするヨルン。
「…子供の頃アタシと遊んでくれた近所のヨルン兄ちゃんをいじめるなんてこと… アタシだって本当はしたくないのよ…」
そう言ったグリフィンシアは明後日の方向を向いていて表情は伺えない。
「…ひ、ひへっ。そうだよなぁ… 俺に遊んでとせがんだシアちゃんは…もういないんだよな」
ヨルンは肩の力を抜くと、優しく言葉を紡ぐ。グリフィンシアがそれに応える。
「そう考えると… 随分と遠いところまで来ちゃったよね…」
「だからこそ… アタシたちは一人も欠けちゃいけないのよ…」
(へっ、口を割ったら殺すだって? こんなにも仲間想いなお前が… 相変わらず捻くれてやがるぜ)
ヨルンは口には出さずに頷いた。
「お前。そこまでして…」
「目的のためなら私は何でも利用するわ。そのためであれば、私の愛する人でさえも…」
静かに両目を瞑るグリフィンシア。その美しい伏し目からは、既に邪気は感じられなかった。
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その日、老婆の心は不穏に蠢いていた。かつて老婆の管理する無法者たちの巣窟を力で律していた者たち、その片割れが久々にここを訪れたのだった。強大な畏れを抱いたその者には、文字通りの恐れと、どこか懐かしさすら感じる。
老婆の一族が管轄を任された水の檻は、一族の契約した精霊による特殊な封印がなされている。故に、中に立ち入るものならば、冒険者組合と老婆の一族の許可が必要だった。
「…なんじゃ。もう良いのか小娘?」
老婆は再び姿を現した女に雑な声の掛け方をする。元々そういう仲だ。そういう連中に形式ばった礼儀などない。
「ああ。世話になったなババア」
女も雑に返してくる。当然のやり取りだ。無法者に礼儀などない。気に食わないのは、老婆がその者とはそこそこ長い付き合いだというのと、年々増していくその女の美貌だ。その女は老婆が失ってしまった、欲しても戻らぬ全てを持っていた。
憎たらしい女だった。ひとたびその姿を、顔を見るや、暫く目を離すことが出来なくなるのだ。老婆は認めたくなかった、その者に見惚れているということを。そして自分の中で毎回の様に言い訳をしていた… 『何故だか知らぬ親近感がそうさせるんだ』と。
「小娘が!! 数年振りに顔を出してもその憎たらしさは変わらぬな!! なんでも貴様の思い通りに行く、そんな顔をしておる。その自信はどこから来るのじゃ」
「アタシの実力からかしら」
考え込む間もなく、さも当然の様に答えるグリフィンシア。そして老婆の方を見ると、不敵な笑みを浮かべる。その顔に悪意は感じない。
「各地で暗躍する影の者たちをまとめる女頭領か… 知っておるぞ。もう貴様のいた古巣はないのじゃろう? なのに何故今になってまた姿を現した? この地に何があると言うんじゃ?」
今まであまり踏み込まなかった話題に踏み込む老婆。この娘が何者で何を求めているのか、そろそろ老婆は答えが欲しかったのかもしれない。何故こんな小娘に惹きつけられるのかを。気まぐれに口から出たその言葉に、小娘は答える。
「アタシの血が騒めくのよ、ここに来るとね」
天井にある天然の天窓から差し込む光に照らされて陰を落とす女神像。その傍らに腰かけるグリフィンシア。
「血が騒めくと言うのか、貴様がこの地で?」
老婆は小娘へと歩み寄る。
「ワシは貴様に会うと血が騒めくぞい? 貴様たちのような底辺の出自の者たちと言葉を交わすことへの嫌悪感かもしれぬがな」
「あはッ、出たよ。お得意の我が高潔なる血筋ってやつ! そんなだから落ちぶれたんでしょーが、旧貴族シエルハントは!」
「黙れ小娘!! 貴様にシエルハントの何がわかる!!」
怒り出す老婆。周りにいるシエルハント家の者たちもそうだそうだと相槌を打った。
「わかるわよ。だってアタシはそれそのものだもの」
グリフィンシアが優しく微笑む。
「どういう意味じゃ! わかるとは!? 言うてみぃや!!?」
歯のない口から唾液が飛び散る程の勢いでグリフィンシアに迫るローズ・シエルハント。
「てめぇが言うてみぃ? アタシの名前、知ってるでしょ?」
「なんじゃい。確か… グリフィンシア・マハラジャックじゃったけぇ」
周りに確認をとるローズ。周りの者たちは頷いてそれに応える。
「ぶっぶーーーー!! 大外れぇーーーー!! そりゃあアタシの仮の名前ッスよぉーーーー!!」
大袈裟に両手でバッテンを作るグリフィンシア。
「キッ、きしゃま! 今まで騙しておったのか!! 本名を名乗れぇ無礼者が!!」
杖すら持ち上げて凄むローズ。グリフィンシアは人差し指をクイクイ招いた。
「ならよーく聞け…」
ローズに正面から向き合うグリフィンシア。その態度はとても誠意に満ちたものだった。
「私の名前はね… グリフィンシア… グリフィンシア・エレオノール・シエルハントって言うのよ」
一瞬時が止まった。
「な… なはッ… なんじゃとオオオオオ!?!?」
目ん玉むき出しで噴き出すローズ。周りの者たちも声を上げずに一斉にグリフィンシアを見た。
「も、もしや!! 幼少の頃に行方不明になった本家の娘… シアなのか!! のぉ、答えておくれや!!」
プルプル震えながら手を伸ばそうとするローズ。その目には大粒の涙が溢れ出る。
「シアは愛称でしょうに! もー、デジャブを感じるわね。でも仕方ないか、本家は私の本名を隠していた訳だし」
グリフィンシアは老婆の手を取り引き寄せて抱きしめる。
「約20年振りね、ばあや」
「お゛おっ… お゛おおおぉぉぉーーーーっ」
号泣するローズ・シエルハント。そして、グリフィンシアを囲むようにして頭を下げるシエルハントの者たち。
「姫様が生きておられた!」「あの首領が姫様だったとは!」「そうか、そうだったのか!」
「なんということじゃ、ワシァ姫様になんということを… この無礼者の首をどうか刎ねてくだされぇ! おおおぉぉ」
嘆き叫ぶローズ。
「もう! 刎ねないわよ!」
苦笑いするグリフィンシア。しかし、その瞳は酷く冷めていた。
「だから、今日私が水の檻に来たことは… 内緒にしてよね_____
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爽やかな風のなびく丘。両目を閉じて両の手を広げて風を感じる金髪の少女。蒼い空の下、あたたかな風は少女をくるりと一回りすると、過ぎ去ってゆく。
「ただいま、エヴァンローサ」
ゆっくりと瞼を開くと、メサリアは大きく深呼吸をした。
流麗の丘エヴァンローサから見渡すは特殊な白いレンガで出来たサウスガリアの街並み。アリシア王国エヴァンローサ侯爵領であるサウスガリアにはとある孤児院がある。
「メサリー。ヴァルフ先生がお見えになったようだぜ」
「うん、ナハっち。今行くわ」
風と景色を惜しみながらも、メサリアは丘を降り行くナハトの背中を追いかける。かつて、幼い頃ふたりがそうしていたように。
[アリシア王国東部 エヴァンローサ侯爵領サウスガリアの街 エピリアム孤児院]
流麗の丘エヴァンローサを少し下ると、丘の端と端を跨ぐように掛けられたアーチ状の渡り廊下が特徴の、緑色の教会がある。そこがメサリアとナハトが生まれ育った家、エピリアム孤児院だ。
孤児院までの道は並木道となっており緑が生い茂る。白煉瓦と深緑の織り成すコントラストがこのサウスガリアの街を彩っていた。至って栄えているような場所ではない田舎だが、その街の歴史は古く、その名は人界の間では有名だ。
アリシア王国の上流階級、エヴァンローサ侯爵は世界各国にも顔の通る貴族。まだまだ若い現当主『ルージュ・エヴァンローサ』の品格がこの街の隅々にまで行き渡っていた。
ナハトに連れられて孤児院の玄関へとやって来ると、その前にはとても身だしなみの良い初老のシスターが立っていた。隣にはクオリアとアーサーが付き添っている。ナハトとメサリアの姿を見ると、シスターは頭を深く下げて2人をもてなす。
「あなた方ですね、良くぞお戻りになられましたお二人とも。ここの孤児院の出の者とは聞いてますが……… ウォホン、ちょっと待ってね。直ぐに分かるわ。もっと近寄って顔を見せてくださいまし?」
ナハトとメサリアはお互いの顔を見合わせるとほんのり笑みを浮かべ、そしてシスターへと歩み寄った。シスターヴァルフはまずはメサリアへと向き合うと、両手を顔の両脇まで持ってきてマジマジと観察し出す。
「…なんとまぁ、あなただったのね! ココを出てから一度も音沙汰なかったから心配していたのよ? まぁまぁまぁ、今日は何という日でしょう! お帰りなさいメサリア・ノア・ヴァルフ!」
「ただいまです、シスター『クリスティーヌ・ヴァルフ』、いえ、ヴァルフ先生!」
その目に涙を浮かべて抱き合う2人。
「2年前に冒険者組合を通じて、あの子がうちに託されたときはビックリしたのよ?? まだお若いのにって! まさかそちらの殿方が…」
「先生! シーッ、シーーーッ!」
慌てながら先生に口止めをするメサリア。ナハトや他のメンバーにはなんの事かサッパリなようだ。
「ふむ……… まぁいいでしょう。片やメサリアということは、あらかた察しがついたわ。あなたはナハトね? 逞しくなっちゃってまぁ!」
ナハトに向き合うと歳に似合わずおどけてポンポンとナハトの胸筋を叩くシスターヴァルフ。
「お久しぶりだ先生。いやぁ、バレバレだったなメサリー。あえて名前伏せて先生呼び出したのによぉ? ハハッ」
頭をポリポリ掻きながら照れるナハト。
「当たり前よ。それにあなたたち以外のここの卒業生たちは、意外とここを訪れてくれるの。薄情なのはあなたたちくらいなのよーー?」
「でも仕方がないわよね、色々あったのだから。今や我が孤児院が誇る二つ名持ちのクリスタル級冒険者『深淵のメサリア』ちゃんと亡国の勇者『ナパームクルス』くんだものねぇ」(ニヤニヤ)
「な、なぜその名を、先生!?」
ナハトが少し照れながらあたふたする。
「さぁさぁ、立ち話もなんだし、中へお入り! そこのアナタたち2人もね!」
シスターヴァルフが4人を孤児院へと招き入れる。こじんまりとした古い礼拝堂は、あまり類を見ない天井の高さを誇り、古さをも圧倒している。縦長の美しいステンドグラスから陽光が差し込むさまはとても幻想的だ。
「ヴァルフせんせー!!」
孤児院の子供たち数人がシスターヴァルフへと駆け寄って来た。
「このお姉ちゃんたちは?」「誰ーー?」「うわっ、この人ろしゅつきょうだよー」
メサリアたちに群がる子供たち。慌てて胸元をしまうクオリアは赤面していた。
「この方々はね…」
シスターが説明しようとすると、ナハトが子供の輪の中へと入っていった。
「兄ちゃんたちはなぁ、エピリアムの卒業生だ。10年以上前までここにいたんだぜ? 今は冒険者をやってる」
「えー卒業生なんだ!」「おっちゃんじゃないの?」「わぁ、なかまだーーー!」「凄い、冒険者だって!」「でもどうせむめいの冒険者だよきっと」「オレ獣人ばるごす強くて好きだ」「えー、ときのばんにんのおばちゃんも強いんだぞ!」
「… こ、こんガキャー…」(ヒクヒク)
クソガキどもに言われて顔を引きつらせるナハト。それを見て笑うクオリアとアーサー。シスターが少し声を張る。
「コラコラ、あなたたちなんてこと言うの!」
「あとサイキョーの『しんえんのめさりあ』だよ、やっぱり」「そうそう、ちょー強いんだって」「やっぱしんえんだよな」
「ウッ」
顔を引きつらせるメサリア。シスターは子供たちに告げる。
「アナタたちーー? この女性がそのメサリアさんなのよ!?」
「えええ!? みえない!!」「うそだーーシスターいつも僕たちに嘘はダメって言うくせにーー」「ほんとに??」「騙されるなみんな、メサリアは赤い髪だろ? そこの人は金髪じゃんかーー」
メサリアが一瞬で髪の色を紅く染める。
「あ゛あ゛ん゛?、俺様が深淵のメサリアだ、呼んだかガキどもーーー!」(がおー)
子供たち「うわああああああ!!! へんしんした!!」「ほんもののしんえんだあああ!!」
大はしゃぎで逃げ回る子供たち。シスターヴァルフは変身したメサリアを目の当たりにして少しだけ驚いた。それから礼拝堂の奥の人物を呼び止める。
「マリアン、この子たちを東棟へ連れてってもらえるかしら?」
「はい、ヴァルフ先生」
明らかに子供たちの中では一番背の高い年長者らしい眼鏡をかけた女の子がやって来る。歳は13、4才といったところだ。マリアンは、その場の4人に軽く会釈をすると子供たちを行くように促す」
「…あ、あの。話を聞いていたんですけれど、冒険者の『深淵のメサリア』さん…ですよね?」
マリアンがやや地面に視線を釘付け気味に上目遣いでメサリアへ語り掛けた。
「ええ、私がそうよ?」
「でしたら、ロクサーヌお姉ちゃんをご存じでしょうか? 4年前にここを卒業して冒険者になったのですが、その、一度も音沙汰なくて。私の書いた手紙も返ってこなくて…」
モジモジと話すマリアン。
メサリア&ナハト「ロクサーヌ嬢!?」「ロクサーヌネキ!?」
2人が驚く。もちろん2人はその者を知っていた。かつての孤児院で暮らした仲間だ。メサリアが口を開く。
「ロクサーヌネキ…っていうかお姉ちゃんのことは覚えてるわ。でも私もナハトもお姉ちゃんよりも昔に孤児院から出ていってるからその後のことは… 冒険者になってたのも今知ったし」
「俺の一個下の子だ。忘れる訳がない… 彼女は竜の眼を持っていた」
クオリア&アーサー「竜の眼!?」
マリアンは今度はナハトにせがむ。
「そうです、そのロクサーヌお姉ちゃんです! 何か少しでも知っていたら教えてください! 冒険者に、ロクサーヌという名前の人は聞いたことありませんか?」
考え込む4人。
「…ひとり… いるわね」「いるでござるな」
クオリアとアーサーが呟いた。クオリアが続ける。
「これはワタクシの一族、旧貴族家の話なのですけれどもね。ワタクシのオッドニッサ家の本家の悪女『レジュアダ・オッドニッサ』ってのがいるのよ」
「あぁ、あの希乳早熟変態女か…」
ナハトが思い出す。
「ちょっとなんでアナタがあの女を知っているのよ!?!?」
「え゛ッ゛!? いや、その前にマリアンに答えてあげろよクオリア」
「………後でちゃんと説明してもらうわよ? ともかく」
クオリアはマリアンに向き直る。
「そのレジュアダはね、一応冒険者扱いなのだけれど一般のそれとは違うのよ。というのも、旧貴族家の戦士はあまり表には出てこないのよね。そのレジュアダも…認めたくはないけれどクリスタル級と言われているわ」
「そして、同じく旧貴族家のクリスタル級冒険者の中にはロクサーヌという戦士がいるわ。同じ理由で目立ってはいないのだけれども」
「ほんとですか!!」
表情を輝かせるマリアン。
「ええ。その名もロクサーヌ・ラヴァンクリプト。『喰葬冥狸』の二つ名を持つ死霊使いよ。先ほどナハトが竜の眼と言っていたわね? 旧貴族ラヴァンクリプト家は竜の末裔といわれていて、身体のどこかに必ず竜の痕跡があるわ。だから多分…ご本人ですわね」
「ロクサーヌお姉ちゃんが…クリスタル級冒険者…!」
目を輝かせるマリアン。
「それじゃあ仕方ないよね、手紙の返信なんて書く暇ないだろうし… でも、生きててよかった! ありがとうございます!」
そう言うとマリアンは一礼して、他の孤児たちについて行った。
「まさか、姫やナハトと同じ孤児院の出だったでござるか」「俺も驚きだ」「ロクサーヌネキの話、冒険者になって一度も聞いたことがなかった……… でも喰葬冥狸って二つ名は聞いたことある!」
「…やはり…そうだったのね。孤児だったあの子の一族が分かったと国のお偉い様に言われて、詳細を伏せられたまま引き取られたのです、ロクサーヌは… そして、あの子は元々冒険者になりたいと言っていたものですから。だからとても心配しておりました」
ふぅとため息をつくシスターヴァルフ。そしてメサリアへと向き合う。
「さて、ひと手間掛けさせてしまったわね。アナタがここに来たのは、観光に来たってわけではないのでしょう? もちろん、私とこの場所を懐かしんでくれたのであれば嬉しいけれど」
近くの椅子へと案内するシスター。腰掛けるシスターとメサリア。他の3人も次々に座った。
「ええ。もちろん懐かしくて寄りましたよ? でも、やっぱり。先生が私に卒業の時に言った言葉が気になって来ました」
「『アナタが大きくなって、自分のルーツが知りたくなったら私を訪ねて来なさい』と、先生は仰いましたよね? 孤児だった私が何処の者なのか、知っているのですか?」
「ええ。私はあなたの両親を知っています」
皆「ええッ!?!?」
その場の誰もが驚いた。孤児である子の親を知っていると、孤児院の先生が名言したのだ。
「私の両親… 生きてい_____
「いえ、残念ながらもうこの世にはいないのですが」
シュンと肩を落とすメサリアの肩をナハトが支える。
「…ですが、あなたの本名と何故孤児になったのかは、あなたに伝えられますよ」
3人「本名!?」
「…教えて… いただけますか、先生?」《ゴクリ》
息を呑むメサリア。メサリアの眼差しを受け止めるシスターヴァルフ。
「いいでしょう。まず、あなたの今の名前はアナタの本名を少しもじった名前、そしてファミリーネームは卒業するときに私のヴァルフを授けましたね? それと、ノアはあなたに箱舟があることを示唆するため、または祖国の名前の一部…」
少しためらいながらも、シスターは口を開いた。
「あなたの本当の名前は… 『メイ・フロステリア・ラノア・ハミルトン』… 魔女狩りでアリシアベルに追われたハミルトン本家の末裔ですのよ_____
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次話、未定です。
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