50.ハミルトンの亡霊
新章スタートです。最初から溢れ出まくるアイデアの数々。
キャラクター紹介(25) プリパレイダ・ゴルザ・セイラ・ハミルトン
[3年前 ラナ王国 聖都アルカナ攻防戦]
それは何の前触れもなく起こった…
秋のはじまりの季節、その日の気温は秋と言うには似つかわしくない冷気が辺りを漂っていた。首都アルカナの見晴らしの良い斜面の景色は濃霧に遮られ、空の太陽は雲に遮られ微かな光だけを放つ。
前日にオルソリア島へと赴いていた剛雷の三騎士から不吉な一報を受けていた王都守備隊は、平常時よりも少々警戒態勢を強め、また冒険者ギルド『夜光の祭典』所属の冒険者たちには各自警戒するように通達されていた。
そのため、突如南西の海から飛来した難度50前後のモンスターたちにもいち早く気付くことができた。しかし、それだけだった_____
「広範囲視覚分析… 光学映像でます!」
「なんだあれは… 一体どこから湧いてきたんだ!?」
ラナトリウス宮殿の壁上通路に魔導師による映像が映し出されると、そこには沢山の魔物の姿があった。
「鑑定士、わかるか!?」
「…あ、あれは、ファイアグリフォンと、翼狼の方はヴォルフスフィンドラ、いずれも難度50前後のミストレムリアの怪物です!!」
「なんだと!?!?」「ミストレムリアから来たのか!? 海を越えて!?」
ざわめく王都守備隊。
「それと… ま、まずいです! 目ん玉型の蝙蝠、あれはプロルト・アーリマン!! 神代の化け物、難度50後半!!」
「ぷろる… それって神話とか童話に出てくるアレか!?」「どうするんだ!?」「どのみち人の敵う相手じゃない… ましてや十数匹いるぞ!?」「本部に伝令だ、伝令!!」
混乱する兵士たち。瞬く間に首都アルカナの街へと響き渡る緊急警報の鐘の音。国民の悲鳴があたりを覆い尽くした。
西の海岸に降り立つ巨大な鷲の頭を持つライオン。
「おいおいおい、グリフォンが岸に一体来たぞ…」「ウォールオブプロテクション!!」
構える王都守備隊。すると野太い声が響き渡った。
「お前らは身を固めていろ! アイツぁー俺たちがやる!!」
「!? おいあれって、プラチナ級冒険者の」「魔晶連合のアレン・ヴェイラス!」「聖火の砦、リングナル・ノルア!」
顔に切り傷のある筋骨隆々の男と、炎の盾を持った色白の男が前へ出た。
「聖火の炎よ!! グリフォン如きの炎なぞ、お、おおおお!?!? ふぉおおおおおおおおおおおおおおああああ!?!!!」
突如ファイアグリフォンの炎に飲み込まれたリングナルが消し炭になる。
「ちぃっ… 魔剣! ぜ…!!」《ブシャァァァア》
次の瞬間ファイアグリフォンの爪に引き裂かれるアレン。
「て、撤退しろぉ!! 撤退だぁっ!!」「ひぃぃいいい!!」
ものの数刻で地獄絵図と化す首都アルカナ。上空からはファイアグリフォンの炎、街を跋扈する翼狼は次々に住民を噛み殺した。
「王よ、裏手からお逃げを!! もはや防衛は不可能です!!」
「ぬぅ……」
「いかがなさいましたか?」
玉座で沈黙する王は取り乱した感じは一切ない。焦る近衛兵たちはその様に困惑する。
「オズマよ、念のため地下へ行きアレの起動をしておけ」
「ハッ。かしこまりました」
1人玉座の間から出て行くオズマ・リューベルト魔導元帥。王は肘を着いて兵たちに口を開いた。
「皆の者よ、正念場だ。この国は滅ぶ」
「だめだ! さっき魔晶連合の連中が全滅したって!」
ガタイの良い聖騎士の男が細身高身長の聖騎士へと駆け寄る。
「全滅!!? やはり遭遇したら終わりのようですね!! 皆、撤退しながら住民の避難を!! 自身の身を第一に!!」
糸目を更に細めながら、背の高い聖騎士が言う。
「キャッ…!」
女魔導士が地面に躓いて転ぶ。
「マグノーリヤ、大丈夫ですか!?」
「私はいいから早く行ってライファー、すぐ追いつくから!」
次の瞬間上空から降り注ぐ炎。
「あぎゃあっああ゛あ゛ああぁーーー………ヒギッ…」《バチバチッ》
「マグノーリヤさん!!」「マグノーリヤあああ、うおおおおああ!!」
涙を流し雄たけびを上げるガタイの良い男の聖騎士。
「降りて来いよ化け物ぉ!!! 切り刻んでやる!! 俺が!! 降りて来いよ、卑怯者がああああ!!」《ゴオオオオッ》
次の瞬間炎に飲み込まれた。
「デリング!!!」
歯を食いしばるライファー・クラウン。
「ライファー、こっちはダメだ。えっ…あれは?」
駆けつけたソーニャが焼け焦げた2つの死体を凝視する。
「マグノーリヤさんと…デリングさんです」
「おい…嘘だと言ってくれ!!! ライファー!!!」
ライファーの肩を強く揺するソーニャ。すると、ソーニャと一緒に現れた男の聖騎士が頭を抱えて叫び出す。突如狂ったように走り出した。
「おおおあああっ、あああああああ!?!?」
「どうしたんですかリューク!!」「リュークそっちは危険だ戻れ!!」
少し行った場所で倒れるとひとしきり苦しんだ後に頭部が風船のような音を立てて破裂した。
2人「リューク!!!!」
近くの家の瓦礫の上に止まっている球体型のモンスターがリュークの方を見つめている。その禍々しい大きな単眼は次にライファーの方を向いた。
「ああっ!?」
突如頭を抱え出すライファーだが、直ぐに痛みが治まる。
「ライファー、ソーニャ、こ、こっち!!」
高台に現れたおさげブロンドのエルフがロッドを掲げて詠唱する。
「標的の解除、サーチャーデスペルト!!」
プロルト・アーリマンの視点が明後日の方角を向いた。少女エルフに駆けつけるライファーとソーニャ。
「嬢ちゃん!! 一緒にいたホーキンスとデレドアは?」
「狼の化け物に…食べられた…」
うつむくクレステル。その場の誰もが涙を流していた。
「こっちも、リューク、マグノーリヤ、デリングが…」「ちくしょおおお!!」
肩を震わすライファーと地面を激しく蹴りつけるソーニャ。ライファーは唸った。
「とにかく、宿命の杯、残りの4人だけでも生き残るのです! 何としても!!」
「姫ちん、姫ちんは今どこッスか!!」
焦りながら辺りを見回すソーニャ。すると、上空から一匹のファイアグリフォンが急降下してきた。身構える3人。
_____行き場を失いし死霊たちよ… ウォールオブウィスプアンダートワイライト!!」
灰色前髪パッツンの魔女が子猿の頭蓋からなるロッドを空に掲げると、瓦礫の山から使者たちの怨霊がおぞましい悲鳴を上げながらグリフォンへと襲いかかる。するとグリフォンは一旦よろめき、再び距離を取った。
「プリパレイダさん!?」「姫ちん!?」
「北のロベルハイムの森まで逃げろ!! あそこは安全よ!!」
プリパレイダが叫ぶ。
「しかし!!」
「ライファー!! 状況が分からないの?? あんたたちよりは多少相性のいい私が時間を稼ぐ!! 早く行けッ!! クレステル、2人を頼んだわよ…」
優しく微笑む片目が隠れた魔女。その額からは汗が滴り落ちた。
「うん、わかった」
クレステルは頷くと、ライファーとソーニャの背中を押し、そして駆け出した。
遠ざかるプリパレイダの後ろ姿。そこに群がるファイアグリフォン数体。生きたまま徐々に引き裂かれる魔女の肢体。声にならない断末魔。
「プリパレイダッ!! 嫌ああああああッ!!」
泣きじゃくるソーニャ、顔面を涙で汚しながら声を押し殺して走るライファー。そして森の方だけ見つめて突っ走るクレステル。その目は見開かれ、哀に暮れるのを必死に我慢していた…
50.ハミルトンの亡霊
[ツヴァイエルス王国 旧都バイエル オリヴィエラ宿舎]
「ハァっ… はぁっ…」
跳ね上がるように身を起こして目覚めるライファー。汗びっしょりの額を腕で拭う。
「なぜ… 今になってあの時の夢を…」
その目から涙が溢れ滴り落ちる。気付くと腰元から足にかけて温かな肌の温もりと柔らかな感触があった。
「どうしたの、ライファー。あの時の夢を見たの?」
腰元に腕を回しながら、上目づかいでソーニャが問いかける。その声色は普段よりも甘々しい。
「ええ。度々あの頃の夢は見るには見るんですが… 今日のはその、あまりにも鮮明な夢でして」
寝返りを打つと、ソーニャの眼つきが変わる。
「俺も未だに見るぜ。目の前で成す術もなく他の仲間たちを殺されたからな… 特に、最後俺は振り返っちまったから… 姫ちんがバラバラにされるのが目に焼き付いて取れないッスよ」
目元を隠すソーニャ。
「やはり近くまで来たのが原因なんでしょうかね。旧ラナ領は目と鼻の先ですから…」
ロギア大戦からはや1年。参戦した冒険者たちはその報酬を貰い、各地へと帰って行った。そして、亡国の戦士と呼ばれた者たちの身の回りにはちょっとした変化があった。
ナハト・レイラルドはクオリア・オッドニッサとアーサー・ユングリット、そしてメサリア・ノア・ヴァルフを加えて再び真紅の槍刃を再結成。セシル・トル・ライデンとキース・フラウデルはグリフィンシア・マハラジャックを加えて轟雷の三騎衆を結成した。
ライファー・クラウンとソーニャ・ジークステイルはクレステル・ユグドラを再び招いて宿命の杯を再編成。メルト・アーヴァリンテ・トゥエル・ファーバーは、雷聖ディライサ・ウルス・マギアと白魔導士アスラ・ゾディアック・フロムロランの夫婦と世界の旅へ。ドゥラク・ヤクシジはメーデリア南部へと戻った。
ゼネス・オルドバッカスはネフィルロッツェ・エリン・ファウラの紹介でメーデリアの緑の渠底を本拠地に活動しはじめた。キキエッタ・ウルス・マギアはロランデブルック高級住宅街のロニエ・フロムロランの邸宅の家事をこなしながら生産の生業を始めたようだ。
クゥエイス・ルフタは旧魔王城の管理をしている。最後にシルフのオルデイル・コサックは上京し、カフェテリア・デ・ヴァナンで店を始めたらしい。
また、ポラステリウム・エポックの山城竜馬と五十神出寅は未だに世界を傍観しているのだろう…
豪邸を宿舎へと改造した『オリヴィエラ宿舎』は古く年季が入っているが、良く手が行き届いている。中央入り口を入った3階までの吹き抜けスペースを食堂とし、2、3階に並ぶ東向きの扉から朝日が差し込む様は、何とも言い難い光景だ。
「なぁに朝から乳繰り合ってるのよ、性騎士バカップルめが」
食堂へと顔を出すと、半開きのジト目でらしくないセリフをぼやくハイエルフ。
「ぐっ…」「うっ…」
言葉を返せない2人が黙り込む。その顔は赤く染まっていた。
席に着き、クレステルと一緒に朝食のパンとスープを食べる2人。その間、ライファーはクレステルに今日観た夢のことを話す。
「そ、そう… た、多分土地のせいでもあるかもしれないわね…」
2人「土地?」
「う、うん。2人は知らない? ここ旧都バイエルはツヴァイエルス建国時の首都。…魔女狩りにあったバイエル家が南に逃れて築いた街」
2人「魔女狩り!?」
少し考え込んだライファーが口を開く。
「確かかなり昔に、アリシア王国の魔女狩りの都『旧都アラベスク』で魔女狩りがあったことは有名ですよね」
「そう。その魔女狩り対象だった御三家のうちのバイエル家がこの街を築き、リューベルト家はもう一つの家の護衛職に就いた」
クレステルが腕を組む。ソーニャが口を開く。
「もう一つの?」
「うん。御三家の最後の一角、ハミルトン王家」
2人「ハミルトン王家!?」「ハミルトンだって!?」
驚いて声を上げてしまった2人、その言葉に周囲の宿泊客が反応し、視線が集まる。その視線はちょっと異常なまで冷たいものだった。
慌てて口を塞ぐ2人。ソーニャがクレステルへと顔を近づけると、ヒソヒソ声で囁いた。
「姫ちん… プリパレイダ・ゴルザ・セイラ・ハミルトン!」
ライファーが口を手で塞いだままうんうん頷いた。クレステルも頷く。
「そう、それ。旧ラナ王国、ハミルトン王家、第3皇女で隠れて冒険者してたプリパレイダの一族とゆかりのある土地、旧都バイエル」
「…隠れてとは言いますけどね、実質は宿命の杯に在籍していた2人のプラチナ級冒険者、1人は僕ですけど… 僕よりも遥かに実力の高い、当時のチームの1番手ですよ彼女は」
ライファーが椅子の背もたれに寄りかかる。
「でも… そうでしたか。この街にそんなルーツが。でも僕が見た夢に直接影響しているのかどうか」
すると、食堂に居た1人の目付きの悪いおじいさんが3人のテーブルへやってきた。
「アンタら、冒険者か? ここの者じゃあないな? あの名前は出さんほうがええ。バイエルの者はよそ者にもあの名前にも敏感じゃ」
「はい。僕たちは他国の冒険者でして… しかし、そうでしたか。確かに歴史を鑑みればそうですよね…」
「ご忠告感謝ッス、御老人」
ライファーとソーニャが応える。立ったまま片手をテーブルに着いて身体を支えるおじいさん。相変わらず目付きは悪かった。
「バイエルの住民はルーツを重んじる。だから未だに700年前の魔女狩りを執行したアリシアベルの剛族を恨んでいるし、仲間だと思っていたリューベルト家がハミルトン家だけに肩入れしたことを憎み、ぬくぬく守られて王族を気取ったハミルトン家を許さぬのだ」
「…アンタら、何処の冒険者じゃ?」
「き、旧ラナ王国」
「なっ… なんじゃとお!?」
クレステルの返答に対して、今度はおじいさんが声を上げる。
「亡国の戦士か!? ならばなおのこと… 今、この街はある噂でもちきりなんじゃ。亡国の戦士の生き残りがいたのじゃ、御三家の!!」
3人「!!?」「ああ、ソレッすか、知ってるッすよ」「…で、でもそれ、生き残りっていうか、死んでるし」
「なんじゃ、知っておったのか…」
ため息をつくおじいさん。
「そうですよね、リューベルト魔導元帥、アンデッドになってしまわれましたけど御三家だったのですね、確かに王家の近衛だった」
納得し頷くライファー。
「違う違う! そっちじゃあない! 大体その情報は1年も前の情報だろうが、大戦前の情報じゃ、我々バイエルの者が今更その情報で騒ぐわけがなかろうが!」
3人「えっ!?」
おじいさんはテーブルに両手を着いた。そして声を潜めた。
「魔女じゃ。ハミルトンの魔女の生き残りが目撃されたのじゃ」
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[旧都バイエル郊外 旧市街地]
かつて栄えた旧都バイエルの大半は廃墟だ。自治体の規模で言うと、かつては『市』ほど栄えた街の人口が『町』ほどしかいないのだから当然だ。
そしてその郊外にあたる旧市街地は放棄されてから500年以上も経過しており、当時の姿をほぼそのまま残した街並みはツヴァイエルスの文化遺産に指定され、程良く管理が行き届いていた。
(噂の目撃情報は旧市街地じゃ。つい2、3日前の話じゃ…)
春も半ばの季節とはいえ、午前中の旧市街は霧がかっており湿度が高い上に気温が低い。人もまばらで非常に少ないからなおのこと静けさと相まって寒さが募る。
「ハミルトンの魔女ってことは、該当するのはやはり第2皇女ヒプマリン・リュース・セイラ・ハミルトンか第1皇女ベルセクサ・クオドア・レイラ・ハミルトンっスね。后妃は御遺体が見つかっているッスから」
「ですね。しかし、どうやってハミルトンの魔女と断定したのでしょうか? バイエルの民は皆ハミルトンの者を感知できるわけでもないでしょう」
「な、名乗ったらしい。さっき他の人からき、聞いた」
旧市街地を歩きながら話すソーニャ、ライファー、クレステル。3人とも浮足立っている。
「名乗るなら下の名前も名乗ってほしかったものですね」
ライファーがため息を付いた。
「ライファーにクレステルの嬢ちゃんよ、ひとつ気になってるんだがいいすか? 亡国の戦士って冒険者の話だよな? もしくは戦いを生業とする宮廷守護騎士団、あるいは王都守備隊。いくら魔女の血筋とはいえ、非戦闘員の第1皇女と第2皇女を亡国の戦士とは…」
「な、なんでも夜光の祭典のブローチをしていたらしい。さっき他の人から聞いた」
答えるクレステル。立ち止まる3人。
「でもそれって…」
ソーニャがそう呟く。3人の考える人物は1人だけだった。
「しかし、あの娘は… 今朝夢で観たから鮮明に覚えてます… グリフォン数体に生きたまま… うおぇ」
その場にうずくまり嘔吐するライファー。それを心配する余裕なく声を荒げるソーニャ。
「やめてくれ! 俺なんか全部見てたんスよ!! 恩人の姫ちんが… あんな無残に!!」
「ち、ちょっと、ふ、2人とも、落ちついて!」
焦るクレステル。
_____おやおやぁ? 懐かしい声が聞こえると思ったらー、やっぱり私の思った通り」
3人「えっ?」
「んばあっ!!」
突如路地の暗がりからお化け屋敷のお化けのポーズで飛び出してきた魔女帽子の女の子。長い舌をんべーと出しながらウィンクをかました。
「うわっ!?」「えっ…!?」「えええーーーーーーっ!?!?!?」
あまりもの衝撃に凍りつくその場の3人。お化けポーズの魔女は続ける。
「随分と減っちゃったね、生き残ったのアナタたちだけかぁー。…あ、遅れまして。本日付でチーム『宿命の杯』へと復帰いたしました、私、プリパレイダ・ゴルザ・セイラ・ハミルトンでございます! ったはッ♡」
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[旧都バイエル 旧市街地 螺旋の古塔]
旧市街地の奥地、半ば森の中に埋もれた場所に苔とツタに覆われた古びた塔がある。その塔の内部は螺旋階段になっており、螺旋は即ちバイエル家の象徴、冥府魔導の道しるべであった。
北の地アラベスクで魔女狩りにあったいわゆる御三家は、冥府魔導の力に特化しており、それ故に迫害された。冥府魔導の力は深淵へと螺旋状に続くイメージ。ハミルトン王家の設立したギルド『夜光の祭典』の印も螺旋が描かれている。
「ハミルトン、この者たちは?」
プリパレイダに連れられて入った3人を塔で出迎えたのは、魔女帽子をかぶった黒髪長髪の魔女だった。
「バイエル、その名はファミリーネームだ、ファーストネームで呼べ。まぁーあ? 確かに今となってはハミルトン家は私だけになったから、ある意味正しいのだけれども?」
「それを言うならば貴様も私をバイエルと呼ぶな。ここには数十名と同じ一族が暮らしておるのだ」
「まぁいいわ。この3人はかつての私の仲間たち。今しがたそこで偶然出会ったのよ」
「ということは亡国の戦士たちか? それにしても偶然すぎぬか? ぷ、プリパ…」
「プリパレイダよ、ルアンマハラ・バイエル」
「ルアンでいい。今お茶を用意して来よう、待っていろ」
そういうと、ルアンマハラは螺旋階段を上って行った。クレステルが呟く。
「ば、バイエル家の末裔?」
「そうよクレステル、相変わらず滑舌が悪いのね。私なんかこーんなに舌が長いのに滑舌いいわよ?」
再び長い舌をんべーと出してみるプリパレイダはどこか色っぽさが漂う。
「ねぇ、本当に姫ちんなの??」
「僕もソーニャも見ました、あなたが引き裂かれる姿を!」
そういうライファーとソーニャはお互いの腕を掴み合って震える。それを見たプリパレイダはハハーンと言うと、ライファーの右手を掴んだ。その手を突如自分の服の下へと、実った乳へと招き入れる。
「ン゛な゛ッ!?」
ソーニャから変な声が漏れる。慌てて赤面するライファー。
「ななな、何をしているんですかプリパレイダさん!?!?」
「ねぇ、感じる? 私の鼓動が」《はぁはぁ》
ライファーは慌てふためきながらも、自分の手に意識を集中する。
「はい… 鼓動を感じます、それに温もりも。本当に… 本当にプリパレイダさんなのですね… うっ」
「うん…」
涙するライファー、吐息が色っぽいプリパレイダ。ソーニャは慌ててライファーの腕を引っこ抜く。
「……いい加減にするッス!」(怒)
「やぁん」《すぽっ》
無言になるライファーと息が弾んでいるプリパレイダ。息をしているのを見て、今度はソーニャがプリパレイダに抱きついた。
「本当に、本当に良かったッス」
「うん、心配かけたね、ごめんなさい」
プリパレイダは両目を閉じてソーニャの抱擁に応えた。後ろからクレステルも抱きつく。
「よく生きてた。プリパレイダ」
「あなたも、ちゃんと約束を守ったわね。ソーニャとライファーを守って偉いぞ」
かつてそうしていたように、チームの姉御役としての振る舞いをするプリパレイダ。クレステルの頭をなでなでする。
「俺もライファーも姫ちんが引き裂かれてバラバラになったのを見たッス。酷いっスよ、あんなのトラウマもんスよ、いくら幻影で敵をまどわせるためとはいえー…」
するとプリパレイダは乾いた笑いを上げた。
「あーあれかぁ、あれは痛かったなぁ、でも3人を守れたのだから死んだ甲斐があったわよー、あははは」
3人「え゛!?」
プリパレイダは明後日の方を向き、凍るような目付きで口を開く。その眼に光はない。表情とは魔逆の明るいトーンで語るギャップは、どこか得体の知れない怖さを感じさせた。
「ねえみんな。私、ここに黄泉還って来て…良かったのかな?_____
振り向いた彼女は儚く笑う。一滴の涙がその眼から零れ落ちた。
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[ディアステラ帝国 西ヴァルキュディス地方 ウォールナットヒルズの村]
アウグスフローリアで開かれた英雄の末裔のお茶会の後、メルトとディライサとアスラは東の地を目指した。西ヴァルキュディス山脈沿いに東へ進むと、帝国南東端の村ウォールナットヒルズへと行き着く。
陽気に満ちた緑あふれる大自然に囲まれた長閑な村で、そこから更に東へ行くとノグルシアの要所ノーブルムースの街へと辿り着く。ただ、その間に立ちはだかる山の壁とエデッツェの谷が林道クォンタムハイドへの連絡を困難なものにしていた。
3人は東へ渡る前に、ウォールナットヒルズの民宿で準備を整えるため宿泊することにした。民宿の庭のテーブルで朝のコーヒーを飲みながら地方の新聞を広げて読みふける、ボサボサの緑翠短髪の少女がひとり_____
「ふーむ。やはり帝国の動きは勇者殿から聞いた通り、失った人員の編成や、国内の力を蓄える方向へと注力されているようですね。…そして、魔王陣営に動きは~なしっと!」
新聞を折りたたむメルト。遮られていた視界が開けると、向かいには野生に満ちた鋭い目付きの黒髪ウェーブの男がベーコンエッグトーストを食していた。
《バリッ、バリッ》
「両陣営あれだけ被害が出たのだ、しばらくはお互い干渉なしだとは思うがな。それに加えて魔王陣営があの酔っぱらった神様の奇襲を受けたのだからな、お気の毒としか言いようがない」
「あははッ。あれには驚きましたよ! あんな気軽に魔王陣営に踏み込めるのも、この世に数人と居ないでしょうね。しかし、あの後どなたか彼女へ連絡は取ったのですか?」
「神出鬼没のあの者に連絡取れるものなど、ジュピタリアとユノレヴィアくらいだろう。2人が連絡を取っていないのであれば、他の誰にそれができるというのだ?」
「無理ですね」
同時に片手でコーヒーカップを摘みあげると、ディライサとメルトはその中身を口へと運んだ。
「これからどうするのですかディライサ殿。戦前はアリシア王国からウルバニア皇国までざっくり周ったと聞き及んでますが?」
「ああ。クラウディア教で言うところの聖女の巡礼の行路のひとつを歩いたが、それだけで現世の成り立ちや風習を感じることができた。目的だった聖遺物の強化と古い知り合いにも会えたことだしな。それに新たな同胞にも出会えた」
「刀匠アンデルセン殿と水聖リッフェルティア殿ですよね! 凄いですよ、偶然出会ってしまうだなんて! やはり生ける伝説は伝説を引き寄せるのでしょうか」
両手を合わせて大げさに感動するメルト。かなり興奮気味に目を輝かせる。
「それなんだがな…」
突如声を潜めるディライサ。周囲をざっと見渡してからメルトへと投げ掛ける。メルトも自然と聞き耳をたてた。
「クレイドル・アンデルセンが未完成の駄作として闇市へと流したとある槍の一振りからの反応が途絶えたらしいのだ」
「反応…ですか?」
「というのもアンデルセンは自分の叩き上げた作品の大方の存在を感じ取れるらしいのだがな、3年前にその反応が消えたらしい、南の地でな」
「3年前の南の地…ってことはグランゾーラ侵攻、死都アルカナですか!?」
「そうだ。それも武器が壊れたのではないと言っていた。なんでも製作者の因果から逸脱したのだとか。例えばコレだ」
ディライサが傍らに常に持ち歩いている槍を持ち上げた。目を丸くして聞き入るメルト。
「我が愛槍なる『神槍アナザライトニング』、それからカトレアの神槍アナザヴォルテックス、メサリアの仲間の勇者が持つ神槍アナザドラグーンロード、どれもクレイドル・アンデルセン作で彼の意識を逸脱したものらしい」
「そして、新たに逸脱した駄作の名はギルティソーン…」
メルトが喉を鳴らす。
「ギルティソーン………」《ゴクリ》
「俺は危惧している。先日アウグスフローリアで俺は我が神槍と同等の気配を、ある者の武器から感じた。その者は戦いが不得意と装っていた」
「だがその者に流れる血は紛れもない英雄のそれ、風貌は現役勇者が認める程の強者感、何よりもあの災害を生き残ってしまったなどと言うが、偶然で生き残れる程の地獄ではなかったのだろう、聖都アルカナ攻防戦は?」
「えっ……!?」
メルトが意外な話の展開に驚いて席を立った。
「もう気付いたか?」
ディライサはもったいぶってから、メルトに告げた。
「我が子孫、亡国の戦士『キキエッタ・ウルス・マギア』は我々に嘘をついている_____
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[ディアステラ帝国 魔法の都フィールズ サウスブルームフィールド ヘアサロンゴールド]
「きゃあああああああああああっ!!」
響き渡る悲鳴。古びた街かどの散髪屋の入口に現われたのは巨大な毛むじゃら男。男は眉間にシワを寄せながら淡々と告げた。
「客だ」
「客か!?!? アンタが!?!?」「なんて迫力のある野人なの!?!?」「どれだけ放置したらそんなに髪の毛ぼーぼーになるんじゃ!!?」
「……………」
黙り込むけむじゃらの大男。すると巨体の後ろから金髪の少女が顔を覗かせた。
「あのぉーー、すみません、年季の入った手入れを放置した毛髪ですが、どうぞズバーッとやってあげて下さい」
冷や汗を浮かべながら笑顔をつくる少女。古びた散髪屋の老夫婦は、奥の扉から顔だけを覗かしてまるで危ないものを見るような様子で警戒をしていたが、少女の登場でフゥとため息をついた。
「随分と~ワイルドな野人、いや、野獣じゃな。まるで時の番人のところの獣人と公爵嬢のペアを見ているようじゃ。お嬢ちゃんのボーイフレンドか!!」
「ちッッがいますッッッて!!!」
全力で否定するメサリア。するとメサリアの後ろから申し訳なさそうに片手を上げて名乗り出るクオリア。
「ワタクシのボーイフレンドですわ…」
老夫婦「美女と野獣か!!」
全力で突っ込みを入れる老夫婦。その突っ込みは老夫婦の枯渇したエネルギーを根こそぎ奪う程であった。
真ん中の席に着席するナパームクルス、もといナハト・レイラルド。その重みに小さな椅子が軋む。
「んで、どんなふうに散髪するんじゃ」(それから椅子壊したら弁償してもらうからの)
「メモラルヴィジョン!」
メサリアが手をかざすと、彼女の記憶の中のかつてのナハトが映像として現れる。
「嬢ちゃん便利な魔法使えるのぅ、貴重じゃぞそれは、大事にせい。にしても…」
「コレがこ奴なのか!? 信じられん!!」「ええ、とても信じられないわ!」
驚く老夫婦。
「ほっといてくれ!!」
少しイラっとするナパームクルス。
「どれ、ワシがやろう。これは腕が鳴るぞい。まるで手入れを放置した庭の盆栽を1日かけて手がけるような思いじゃわい!」
「例えがいちいち秀逸か!」
メサリアが突っ込む。
そして_____
散髪屋の外で待つアーサー、キース、セシル、そしてグリフィンシア。メサリアとクオリアに続いて出て来た男を揃って観察する。
全員「誰!?!?」「誰ですか!!」「いやぁ懐かしい!!」「寧ろ誰だ!!」
「結局それを言われるのかよ俺は!!」
《ドッ》談笑
腹を抱えて笑い転げるものたち。軽くなった頭を掻きながら、隣のメサリアを見下ろすナハト。
「何はともあれ、これで本当にただいまだ、メサリー」
「ンフッ。おかえり、ナハっち!!」
春も半ばを過ぎた季節。新たに紡がれ始める冒険者たちの英雄譚_____
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次話、明日です。
あと感想と評価ほしいです!!




