45.イヴニスクランでの朝食
お待たせしました。連投です。
「号外だーー!! 号外!! 魔王軍が退いたぞーー!!」
戦争終結の知らせは、瞬く間にウルバニア大半島全土へと知れ渡った。その街へと情報が届くと、その日だけは皆が作業を止め、新聞を手に取り、思いのままに語り合う。
取り分け今回注目されたのは3つ。史上初の人間の天位魔法行使者が現れたこと、大将軍オードラー・マクシミリアンの討ち死に、そして聖剣グランステリオンを持つ謎の聖剣士だ。
「今回の戦は語るに尽きないな…」「ああ。大魔導師アイングリフ様!」「あの日西の空を見ていたが、本当に天が落ちて来たと思ったぞ!」
各国の政府や機関は新情報をまとめ、今後の方針を決めるために動いた。また、人界を代表して戦った帝国へ感謝の意を表し、支援物資や資金などを送り出す。帝国の上げた多大なる成果と被った多大なる被害に対し、人界全体で分かち合うために誰もが暫くの間手を止め思いふけった。
「失われた勇者の聖剣を魔王軍が持っていたらしい!」「なんと卑怯な。その力でデューラン様を撃退したのか…」「いやいや、聖剣だけあっても扱える者がいなければそうはならない。相手の魔人は金髪碧眼の聖剣士だったそうだぞ!?」
帝国の国内は様々な感情と情報で熱気に満ち、人の流れは帝国から隣のノグルシア連邦へ、そして山脈をまたいでクルス・オグナやメーデリアへと続いて行く。帝国の魔法庁は大混乱を極めており、各部門の長は24時間会議を余儀なくされ、円卓の椅子に腰が張り付いていた。
魔法の都フィールズの中で最も閑静と言われ好まれた北アルパインマギアフィールズでは、剣の館で報酬を貰う冒険者たちの姿で溢れ、その報酬でとりあえず散財しようと近場の酒場や店が賑わいをみせる。混雑が苦手な冒険者ならば、フィールズの最北端を更に北へ行った街『イヴニスクラン』へと洒落込むのが定石だった。
45.イヴニスクランでの朝食
「旦那ァ。仕入れましたぜ、新鮮なグランドベヒモスのもも肉、独断で買って来やした!」
「おおぅ、構わん構わん!! いい肉だ。敵さんだったとはいえ、この時期だけは豊富な肉に感謝せんとな! 肉料理の大判振る舞いだぜ!!」
テラス席で朝食をとる人たちの間に担ぎ込まれる巨大なモンスターの肉片。戦後のありきたりの風景であり風物詩だが、慣れない人はとことん慣れないらしい。
街道沿いの端の席には見慣れた聖女とエルフと技法師が朝食に勤しんでいた。
「うっ… もも肉とか言うからチラ見したら壮絶死した表情の頭も丸々一緒じゃないですか! 詐欺です、訴えます!」
メルトは喉の辺りを手で押さえ、無理やり肉を飲み込む素振りをした。
「み、見るのが悪い。気にしなければ、ふ、普通の美味しいお肉よ」
眠たそうな半開きの眼で口元をもぐもぐしているクレステル。右手にナイフ、左手にフォークをグー掴みしている。
「狂気ですよ! 戦った相手の死体食うなんて… 私、この時期だけは人もどうかしてるって思いますね」
フォークでクレステルを指しながら口をもぐもぐさせて喋りずらそうに喋るメルト。そんな言葉と相反する彼女にツッコミを入れるクレステル。
「メルト、行儀悪い」
連れ2人のやり取りを見ながら、上品に熱々の肉片を艶っぽい口へと運ぶメサリアは、十分に肉をかみ砕いてから飲み込んだ。
「前世の私の同族も、人間のハラワタが美味いって言ってましたから、どっちもどっちですよ。言っておきますけど、私は人のハラワタなんて食べたことないですからね!」
うわぁといった目でメサリアを見つめる2人。
「んで、これからどうするんですかメサリア。イヴニスクランにまで逃げて来ちゃいましたけれども、アンタの目的は剣の館での最新情報じゃないんですか?」
「そうよ! でもね、組合の参戦者名簿を見たら夜光の祭典ギルドのみんなの名前があったの! 鉢合わせちゃうかも…」『まぁ安否は気になるんだけれど…』
「会えばいいじゃないですか? 聞いてませんでしたけど、なんで彼らを避けているんですか? 数少ない亡国の生き残りなのでしょう?」
メルトがそう言うと、木のテーブルに片肘を着いて頬を乗せた。もう片方の手の平で銀のナイフをクルクル回している。
「…合わす顔がないのよ」
「合わす顔? どの面下げて会うかって話ですか?」
「あの時は… そう、みんなにあの姿とあの力をどう弁明すれば良いか… わからなかったの」
一際の沈黙が訪れる中、クレステルだけは黙々と皿の上の肉を食らい続けた。
「弁明… そうおっしゃいましたか。何もアンタが負い目感じることじゃないと思いますけども」
「その場に居なかった身として軽々しく言うつもりはないですが、仲間の死や国の滅亡はグランゾーラが招いた結果。アンタが責任を感じるなんておこがましいですよ」
「メルト! で、デリケートなのよコレは!」
クレステルの眼が一瞬だけ見開かれた。
「むしろ同郷のクレステルさんを見習ってください。メサリアは…彼らの仇を討ったのですから」
「うぅん………」
「ま、まぁ。アタシもそろそろ時効だと思ってる。み、みんなにも久しぶりに会いたいし。だからこの街に、き、来た」
一同は、戦時前に亡国の戦士たちが北アルパインマギアフィールズで寝泊まりしていた噂を聞いた。彼らに会いたい…とまでは話したわけではないが、自然と足がこちらへ赴かせたのも事実だった。
また、戦後処理に追われる帝国の者たちの予定を合間縫って、メルト主催のお茶会を開く予定があったため、帝国から離れるという選択肢はなかった。ロニエ・フロムロラン伯爵と同居中のネフィルロッツェの2人を招き、同時に翡翠晶ネットワークでアスラとディライサにも呼びかけ、きままな生活をおくるキキエッタを引きずって来る。
そうして目の前にいるメサリアと共にお茶会を催す。メルトにとってはひとつの大きな節目だった。かつての仲間の末裔と敵の末裔、はたまた張本人たちが集うのだ。きっと新たな何かが得られるに違いない、そう信じて。
「そういえば、話は変わりますけど。亡国の戦士の生き残りが新たに見つかったみたいですよ?」
2人「えっ!?!?」
「何というか、生き残りというか、死んでいるというか…」
2人「どういうこと!?!?」
「なんでも元ギルドマスターのアンデッドらしいです。言ってしまえば化け物です!」
2人「アンデッド!?!?」「ええええ!!??」
『元ギルドマスターってことは、オズマのスケベジジイじゃないの??』
口元に手をやり考え込むメサリア。そうこうやり取りをしていると、街道の奥からとある4人組が現れた。メサリアを背にして向かいのクレステルとメルトからは彼らの姿が前方に拝めた。
《ドガッ!》
地面を軽く蹴り飛ばす女聖騎士。蹴り飛ばした時に軽くその金髪が乱れた。
「朝からテメェの喘ぎ声で起こされるとは思わなかったぜクオリアよぉ! 隣の部屋に俺たちがいるのもお構いなしっすか!」
ぷんすか頬を膨らませるソーニャは、先ほどからナハトにべったりくっついているクオリアをひと睨みした。
「やぁねぇ、これからの事を考えて2年振りの魔力回路の確保を行ってただけの事よぉ。ねぇナハト?」
「…ナハトじゃない、ナパームクルスだ」
ややボーっとしている髭ずらの大男が無気力でそう答えた。その目は虚ろ気味で空を仰いでいる。ソーニャが顔を覗き込んで言った。
「こ、コイツ、賢者モードだ… 大体なぁクオリア、魔力回路構築だのの言い訳はテンプレなんだよなぁ!!」
「それにしても… あなたたちは同じ部屋にいたのに… なぁにもしてないの?」
2人「うっ///」「ゴホッゴホッ!」
赤面するソーニャと咳払いをするライファー。その様子をみてクスクスと小悪魔的に笑うクオリア。気持ちが晴れたのかブルンと彼女の胸元が開放的に揺れた。
「そ、そんなことよりも!」
「そんなことぉ!?」
「い、いえ、その…」
クオリアに突かれて本調子になれないライファー。
「何処でしたっけ、ゼネスさんとキースさんとセシルさんのお宿は。確かこのあたりだったはずですが…」
糸目のライファーが更に目を細めて辺りを見渡す。人は少ないが、朝日が差し込む石畳の街道の街並みと、朝食のいい匂いが漂う外席付きのダイニングが目に映り込む。
すると、ふと彼の視線がとある人影で止まった。糸目が急に大きく見開かれる。
「あれは…」
3人「あれ?」「??」「………」
全員の視線がとあるエルフへと注がれる。そのエルフは口に肉を突っ込みながら、半開きの眼で彼らへと視線を返した。エルフの瞼がフルで見開かれる。
「ら、ライファぁ??」
2人「クレステル!?!?」
急ぎ足で駆けつけるライファーとソーニャ。珍しく真ん丸に目を見開いてキョトンとしているクレステルにソーニャが飛びつく。
「今まで何処に行ってたっすか!! 会いたかった…クレステルの嬢ちゃん!!」《ギュムゥ!》
「そ、ソーニャ?? 苦じい…」
ライファーは目から涙を流し、軽く手でそれを拭った。
「ご無沙汰ですね、クレステル。ご無事なようで何よりですよ」
「ふ、2人ともこの街に来ていたなんて、ぐ、偶然ね」
ソーニャの抱擁から解放されたクレステルが驚きながら言う。そして、あっ、と声をこぼしてメサリアの方を向いた。なんと、彼女はフードを被ってテーブルに伏せていた。
「わぁ、こちらの方々がクレステルさんの同郷の方ですか? 初めまして、メルトと申します」
「ソーニャっす!」「チーム宿命の盃のライファーと申します」
メルトとソーニャたちが挨拶を交わす中、クレステルがメサリアに小声で投げかける。
(ちょっと、どうすんのよ?)
(なんでこんな簡単に遭遇するのよーーーー!?!?)
メサリアはワナワナしながらも依然としてテーブルに伏せている。
「ねぇ… ちょっと」
後ろからゆっくり歩み寄るクオリアが片手をやや上げて話しかける。
「そこの方… もしかして…」
「!? まさか」
クオリアの言葉に反応して、ずっと上の空だったナハトが正気に戻る。2人の視線がとある聖女の恰好の人物の背中へと寄せられた。
すると、テーブルに伏せていた聖女は起き上がると、ゆっくりとフードを下ろす。その髪の毛は… 深紅の赤だった。
「なんじゃ? 知らぬ奴らじゃな。わらわに何用じゃ?」
メサリアの雰囲気皆無で、圧倒するような気概をもって起き上がる聖女。ソーニャ、ライファーの順に視線を移すと、最後に後方の2人へと振り返った。
「ほぅ、中々に面妖な2人組じゃのぅ?」
一陣の懐かしい風が3人の間を駆け抜ける。ひとしきりの沈黙のあと、メサリアが口を開いた。
「なんじゃ、わらわがそんなにも珍しいかぇ?」
何食わぬキョトンとした表情をシレっとかもし出し、首を傾げるメサリア。
「…その変装は通用しないわよ」
「あっ…!」
クオリアにそう言われてハッと口に手をやるメサリア。隣のメルトが追い打ちをかけた。
「はぁ… 全く不器用ですねアンタは。もう観念したらどうですか? ねぇ、メ・サ・リ・ア?」
クオリアがナハトの元を離れ、目の前の赤髪の聖女へと飛びつくまで、ほんの一瞬の出来事だった。
「メサリー…あぁ、ワタクシたちのメサリーですわ!」
思い切りメサリアを抱きしめるクオリア。その目からはとめどなく涙が流れ落ちる。懐かしい香りをかぎながらメサリアは両目を閉じると、観念してクオリアを抱き返した。
「…ただいま。姉さん」
「おかえり…メサリー」
ほっこりする周囲の面々。
「本当に久しぶりだメサリー!」
髭面のむさい大男が涙を流して近寄ってくる。
「えっ、誰だお前??」
「え゛ッ゛!?」
真顔でメサリアに言われてショックを受けるナハト。そして、ナハトは口を開いた。
「俺だよ… な、ナパ………」
「ん? 本当に誰だ? ナパ?」
「ナハ…ナパ…ム………ぐぬぬ」
ニヤニヤと笑い出すソーニャとライファー。ブフッと大きく吹き出すとクオリアは真顔でナハトへと向き合った。
「ほら! 観念して本名を名乗れ! ナパームなんとか!」
「ぐぬぬぅ……… 俺だよ。ナハト・レイラルドだよ!」
満面の笑みの同郷の者たち。一足遅れてメサリアが反応を示した。
「ん?……… えええええええぇえええぇぇぇぇええッッ!?!? ナハっちぃぃ!?!? うそぉぉーーーー!!!!!?」
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[北の街イヴニスクラン 路地裏]
《カチッ》《シュボッ!》
眼鏡を掛けた金髪ポニーテールの青年は、朝のイヴニスクランの路地裏に背もたれを着くと、細めの葉巻を咥えた。腰に帯刀したかつての仲間の形見を鞘から引き抜くと、その鏡のような刀身で口元の葉巻の先を切り落とす。
そして再び脇差を鞘へと戻すと、手元の携帯発火装置で葉巻を点火した。
《フゥッ………》
ひと吸い大きくそれを吸い込むと、路地裏に覗く晴天の寒空目掛けて煙を豪快に吐いた。息も凍るので通常よりも多めに感じられる量の煙が、風のない空へとゆっくり漂い、そして消えていく。
「滅多に吸わないんだけどね、レイナ」
キースはそう言うともうひと吸い葉巻を吸った。
「フゥッ……… 実は彼女のことは、それなりに狙ってはいたんだが… どう考えても僕じゃ役不足だったよ」
キースはクオリアとナハトの事を頭に思い浮かべて、それを追い払った。
『やはり僕には君だけだったよ、レイナ。すまない、守ってやれなくて…』
いいよ_____
「えっ………?」
自身の心の言葉に対して女性の声が返って来た。キースはふと手元の葉巻の火を消すとポケットへと仕舞い込む。そして声の方を見上げた。
その声は明らかに、レイナのものとは違っていた。
「やぁ、お元気そうっすね」
キースが見上げると、壁に重力があるように、不自然に立ち尽くす小汚いマントの女がそこにはいた。
「お、お前は、グリフィンシア・マハラジャック!!?」
「アタシの残した解毒剤は良く効いたみたいっすねぇ…
_____キース」
グリフィンシアは細く、愛しさすら感じる程落ち着いた声で、彼の名前を口ずさんだ。
咄嗟に足に力を込め、壁へとよじ登るキース。グリフィンシアは軽々と距離を取ると、別の壁へと足を着く。
「意外と早漏なのね、公爵さまはっ、アハハハッ」
「この前、僕のチームメイトに君らが行なった狼藉、許すわけには行かない!」
キースは再び壁を蹴って、グリフィンシアとの距離を詰める。
「この前の…あの女ァ? 君にとってあの女はそんなに大切な人なの??」
グリフィンシアがやや真顔で投げかける。
「彼女は……… !!」
顔を曇らせ、言い詰まるキース。そして、意を決して言い放った。
「アビア・アクセル!!」
「んなっ!?!? アタシの業を…!!??」
キースの足元が光を帯びると、物凄い加速でグリフィンシアの背後へと距離を詰めた。意表をつかれた彼女はキースに壁へと押し付けられて拘束される。衝撃で彼女のひび割れた丸眼鏡が地面へと落ちた。
「大人しく………えっ!?!?」
キースが柔らかいモノに触れ、顔を赤らめる。壁に押し付けた彼女はマントの下に一切の衣を纏ってはいなかったからだ。グリフィンシアがキレイな生足をキースへと絡みつける。
「キース…?」
薄汚いマントとは真逆の綺麗な肢体をからませ、良い香りを漂わせるグリフィンシア。先ほどまでとは打って変わり、とても優しくキースの名前を呟くと、突如舌を忍ばせキースへと口づけを交わした。
「んッ…」「ぶはっ!」
「何をするんだ、君は!?!?///」
キースは顔を赤らめて身体を離そうとするが、脚で絡め捕られているので身動きが取れない。
「ねぇキース。アタシのこと…覚えてる?」
「はぁ? 何を言って…!?」
「アタシ…私…シアだよ。キース様…」
「えっ………!?」
綺麗に整った顔の金髪美女が、ピンク色の下唇を指でつまみながら上目遣いで訴えかける。
「シア…ちゃん? えっ………昔、貴族会で顔を合わせてた、旧貴族シエルハント家の…」
「シア・シエルハント!!?」
驚愕の事実に一際大きく声を上げるキース。その声が、誰も居ない朝の路地裏へと木霊した。
「グリフィンシア・エレオノール・シエルハントよ。シアは愛称でしょう? そんなことも忘れてしまったの? クスッ」
可愛らしく微笑むグリフィンシア。
「シアちゃん…な、なんだって君がクリスタル級冒険者に… トップアサシンギルドになんているんだ?」
やや落ち着きを払ったキースは、もはや彼女に身を任せていた。
「元よ。もうアサシンギルドにはいないわ。それよりも… 私との約束… 覚えて、ないわよね?」
「約束…だって?」
グリフィンシアはキースの肩に頭を置きながら耳元でささやいた。
「私を、お嫁さんにしてくれるのでしょう?_____
冬の早朝、イヴニスクランの路地裏に差し込む朝日。その陰りの中へと2人は次第に飲み込まれていった_____
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次話、未定です。
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