43.ラグロスによろしく!
よろしくお願いします。
キャラクター紹介(20) イーヴァデッサ・ウル・デスガイア
「ほう。貴様が名高き人の戦士、人類最強と云われる時の番人か」
「私は人類最強だなどとは思ってはおらぬ… 世の中は恐ろしくも強き化け物たちに満ち溢れている」
エスタリザの紅く鋭い瞳が、巨躯の大山羊の定まらぬ視線を正面から受け止める。彼女の銀髪が風に横靡く。
「メ゛ェェェエ゛! その通りだ。そして、その化け物たちとは我々魔人のことだ! 愚かな人間よ、より強き者と知りつつ挑むか!」
ラグロスがその巨大な剛腕を地面に突き立て、後ろ脚の樋爪を強く踏ん張ると、地面に大きなくぼみができた。
「そうだな… 半分正解といったところだ。確かにお前たち魔人共は手強い。だが、我々人の中にも化け物はいるぞ?」
エスタリザがそう言うと、並び立つバルゴスが何を思い出したのか… 自前の大楯に顔を隠して少し表情を曇らした。
「ホゥ… そしてそれが貴様だと言いたいのか、人のメスよ」
ラグロスの獣の眼球がギョロっとエスタリザを捉えて動いた。
「だから買い被るなと言っている。私はそれほどの者ではない。しかし言われたのでな、友たちに…」
白銀のレイピアを右手で突き出すと彼女は言い放った。
「ラグロスによろしく! …とな!」
43.ラグロスによろしく!
「アイングリフ!! いつまでそこに身を晒している!! 早く降りてこんか!!」
巨体の身なりを勲章の数々でかざられた軍服に包んだ白髭の男が、遥か上空へと叫んだ。
「オードラー将軍。あなたはあなたの軍の事だけを気にかけておれば良い。それよりも、ここはとても見晴らしが良いですね。敵軍の全容が丸見えです!」
「ライトニングブレイズ!」
アイングリフが左手を眼鏡に添えたまま、右手で敵軍を指さす。すると遥か上空の雲がピカッと煌めき、一閃の雷が敵軍の将官クラスと思われる魔人を貫いた。
すると、反撃の様にアイングリフ目掛けて飛来する魔法の数々。
「イージス・パノラミック!」
アイングリフの前方180度余りを光のシールドのようなものが覆うと、それら全ての魔法をはじき消した。
「指揮官がやられてから反撃しても遅すぎますよ。まるで無能の集まりですね。魔王軍の知力は虫程度なのですか?」
次々とアイングリフのライトニングブレイズで貫かれていく敵将たち。そしてまた新たな一閃が右端のやや特色を放つ軍の指揮官目指して放たれた。
その一閃は敵将に届く前に… 前方で突き出された槍へと落ち、槍の持ち主は何もなかったかのようにその槍を下ろした。
「ふむ。一筋縄で行くほど甘くはありませんか」
そう言うと、アイングリフはやや後方へと身を翻した。
「ロクス様、お下がりを。少々危険でございます」
「私が人間如きの攻撃で下がることなどないよ、ルーン。それよりも君はあの雷を受けて平気なのかね?」
美しく太いクリスタルの一本角を掲げたロングウェイブ銀髪の魔人は、白い蛇の頭を持つ軍馬から先ほどの雷を受けた男へと優しい音色で語り掛けた。
黒鉄の半面眼帯で顔の左半分を覆った金髪の男は、その青白い鱗交じりの肌の腕で槍の柄を地面へと突き刺す。
「ご心配有難く。しかし私はある程度雷耐性があるようでして。また、私の回復体質のことは閣下もご存じでしょう」
軽く敬礼をするルーン・フレイオン。その腰には剣も携えていた。
「フッ。誠に不思議な体質よ。我々魔人には種によって凄まじい再生能力を持つ者もいるが、君のそれはあれらとは違う、魔力による回復だ。そしてそれは我々魔人の不得意分野でもある」
「人間には神聖魔法とかいう小賢しい回復魔法があるらしいが、君のはそれに近い」
更に深く敬礼をすると、ルーンは先ほどまでアイングリフが居た方向の空を見上げる。
「しかし先ほどの人間、にわかには信じ難い。初手の天位魔法といい、先ほどの上位魔法といい、人の分を超えている。しかも異なる属性の魔法をこうも容易く連発するとは…」
「ルーンよ。我々イクシリス軍が今回の戦に加担したのも、近頃噂に聞く人間どもの戦力を炙り出すためだ。グランゾーラ様の失脚、クゥエイス殿の行へ不明、我ら領土の南方で出くわしたとされる強敵… どれもが人間の分を超えている」
見眼麗しきユニコーンのような男、ロクス・ファウラはその整った顔を歪めて眉間にしわを寄せた。
「解せませぬな。その南方の事件、ことに当たったのはあのアーリア・リア・クレシェントの部隊だと言います。奴の魔眼が記録したモノを、我らは観ていない。そして、それを機に魔王様とイクシリス様の態度に余裕が見られなくなった。きっと何かを隠しているに…」
「言うなルーンよ。分かっている。魔王様が恐らく敷いたであろう戒厳令は、ことがそれだけ我らに衝撃を与え得ると判断されたことを示唆する。ならば、我々もそれ相応の警戒態勢でことに臨むまでよ」
やや腑に落ちないと言った表情を残しつつも、ルーンは深くお辞儀をして部隊の前方へと歩みを進めた。ロクスは空を見上げる。
『ヤングルムンドよ、大丈夫なのか? 出だしは完全に人間共に持っていかれたぞ… 何をやっているのだ?』
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「ソニックレイピア!」
エスタリザが両腕を広げると3本の微振動するレイピアが宙を舞って3方向からラグロスに襲い掛かる。それらを俊敏にかわすラグロスの巨体だが、蹄に一本レイピアが突き刺さった。
「メ゛ェェェエ゛!!」
大きく拳を振りかざすラグロスの攻撃を真正面から受け止めたのは、人にしては巨体な獣のような男、獣人バルゴスだった。屈強な大盾に肩を押し付けて踏ん張る。
「グゥッ………!!!」
次の瞬間、バルゴスの盾をフワリと舞うように飛び越えて、エスタリザが美しい弧を描きながら大山羊目掛けて剣撃を繰り出す。
「白刃の舞い!」
エスタリザの握るレイピアと、空中を自在に飛び交うもう一本のレイピアの同時多方向からの剣撃がラグロスを襲う。それらが届く前にラグロスは後方へと跳躍した。
すかさずエスタリザの方を見向いた大山羊は、先ほどまでそこにいた戦乙女の姿が消えていることに戸惑う。
「ヌ゛ゥ!? 何処に…!?」
《ザシュッッ!!!》
「ク゛メ゛ェェェエ゛!?!?」
次の瞬間、ラグロスの左蹄に突き刺さったレイピアを振り抜くエスタリザ。太い丸太のようなラグロスの左脚を華麗に切断した。
「いつの間にそこに!?!?」
巨体が崩れ落ちるラグロス。
「良く言われるよ。まるで時を止めたかのような動きだと」
レイピアに着いた大山羊の血を素振りで軽く拭いながら、横目で崩れ落ちる大山羊を見届けるエスタリザ。しかし… 大山羊は倒れなかった。
《ズリュッッッ!!!》
切断された左脚が地に着く前に、瞬時に傷口から脚が生えると、そのまま蹄で地面を踏ん張りエスタリザへと跳躍した。
「んなっ!?!?」
エスタリザが振り向いて防御をする間もなく突進をかます大山羊。それを受け止めたのはテレポートしたかのように間に入ったバルゴスと大楯だった。
「守備、金剛の盾!!」
黄金に輝きを放つ盾ごとラグロスの突進はお構いなしにバルゴスを突き飛ばす。
「ぬあぁっ!!??」「!?!?………しまっ」
勢いあまってエスタリザの華奢な身体を巨大な手の平が地面へと押し付けた。歯ぎしりしながら蒸気のようなものを口の両端から噴き出す大山羊。
「中々良い動きだったぞ時の番人んん゛ん゛!」
「馬鹿なっ、瞬間再生能力だと? 獣の魔人が!?」
ラグロスはエスタリザを押し付けている方でない手の人差し指を伸ばして見せた。ラグロスの尻尾の頭がエスタリザを向く。そして、それは蛇の頭だった。
「調べが足りなかったな人間よ。我の種族はサーペントゴート。瞬間再生は得意分野だ」
「し、しかし開幕の天位魔法を食らった傷は未だに爛れて…」
エスタリザが言っている間に、ラグロスの傷だらけの身体は瞬く間に元通りの無傷となった。
「……まんまとかかったな。これが作戦というやつだメェエ゛」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべると、ラグロスはエスタリザを押さえつける腕に力を込める。しかし、そこにはエスタリザの姿はなかった。
「勉強になったぞ。見た目によらず、知性がそこそこあるようだな」
突如ラグロスの後方に現れるエスタリザ。突き刺さっていたレイピアを地面から抜くと、凛とした表情でその切っ先を大山羊へと向ける。
「………なるほど。レイピアの刺突した場所への転移魔法…といったところか」
大山羊の獣眼がギョロっとバルゴスの姿を捉える。彼もまた体勢を立て直してエスタリザの反対側から迫る。
「エスタリザ、一気に畳みかけるぞ。長期戦は…キツイ」
「あぁ。私も長引かせるのは性でわない。合わせろよ、バルゴス」
普段からそうしているように、息をピッタリ合わせる2人。
「メ゛ェ゛ッハハハハハ!! 人間にして臆さないその意気込みや良し!! そんな貴様等に恐怖を与えるとしようか!!!」
2人「!?」
大山羊は長い指を3本立てて見せる。
「聞いて驚くな人間どもよ。我はあと3回の変身を残している」
2人「な………んだと!?」
「我の真なる姿を見て、恐れおののけ人間どもメ゛ェェェエ゛!!」
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『なんだ、この感じは』
喧騒を掻い潜って導かれるように歩みを進める男。背中には長柄武器、腰には魔王軍には似つかわしくない白い剣を携えている。
それなりの身分だということと、周りの熱量に対してあまりにも正反対の落ち着きを纏う彼は、不思議と敵にも味方にも認知されずにいた。
『懐かしいのか俺は。人界へ降りて人を初めて目の当たりにしたその時から、俺には強烈な確信が生まれた』
魔王軍勢の端に置かれた軍に所属していたため、元々それなりに動きやすかった彼は軍を迂回するように帝国軍の第一軍の先頭を目指す。
そこで戦っていたのは黒髪前分けウェーブの髭を生やした鋭い眼差しの精悍な男。明らかに帝国軍の士気の源となりて、軍を率いている。
ルーン・フレイオンは顔半分を覆い隠す仮面のような眼帯に触れる。
「そうだ。俺はかつてこの世界にいた」
そう言い放つと、ルーンは前方の集団に目をやった。
勇者デューラン・ディアステラは自身の携える聖剣グランスカリファンの切っ先を前方へ向けて突き出した。
「我が聖剣グランスカリファンよ、光を集えて闇を滅せよ… 神聖剣『壱』ノ型 閃刃光!!」
勇者本人をも飲み込む光の閃光が聖剣の切っ先数十メートル先の魔物どもへと放たれ、そして光に飲み込まれた魔物は瞬く間に消滅した。前方に道が開かれる。
「さあゆけッ! 帝国軍兵士たちよ! 我らの未来に栄光を掴め!!」
呼応して魔の軍勢を押しのける帝国軍兵士たち。
「相変わらず見た目は黒いのに、眩しい男よね、アナタ」
デューランの後ろから歩み寄る女剣士。金髪隻眼で背丈は男のデューランと肩を並べる程ある。片手で背負うのは身の丈ほどもある巨大な大剣だった。
「2代前くらいまではブロンド髪の家系だったんですけどね、我が皇家は。祖母がシデンの血を引く漆黒の黒髪だったのです」
「勇者パーティとして各国を回った仲間で、今回参戦してくださったのは君だけだよ、クリス」
そう言われるとアリシア王国鋼鉄騎士団所属第2団長クリステラ・アリシアベルは少し頬を染めてデューランの視線から目を逸らす。
「仕方ないさ。他の国の勇者たちとは違う、帝国の勇者は人界を代表する勇者。メンバーも各国の者たちだったりするからな。今回アタイが参加できたのも、アリシア女王様の器の賜物さ」
「それに…」
クリステラは少し遠くを眺める。
「ミイルダさんはアタイ等に黙って、魔王軍と戦いおっ死んじまった。リュートとグランサムは国の命で動けない。仕方がないことなのよ!」
「そうですね…」
見つめ合う2人。
「じゃあね、戦いが終わったら美味い酒でも飲みましょうね、デューラン様♡」
そう言うとクリステラは地面を強く蹴って前方の軍勢へと跳躍した。相変わらずの身体能力だなと感心するデューラン。しかし、次の瞬間静かなる獰猛な気配を感じて身構えた。
振り向くとそこには誰にも警戒されていない黒い甲冑に身を包んだ金髪の男が1人。顔半分を黒い仮面のようなもので覆っているが、もう半分の肌が青白い鱗交じり。大きな2本の湾曲した白角が耳の辺りから口の側面へと生えていた。
「魔人!!」
デューランが咄嗟に自身の聖剣をルーンへと向けて構えると、ルーンは歩みをやめて立ち止まった。
「その構え、知っているぞ。人の種だけが得意とする神聖剣というやつ…だな」
「魔人にしてはよくご存じですね。それとも勇者の剣技は魔界でもそれなりに有名なのですか?」
「いや、俺が知っているだけだ。魔人はそもそもか弱き人間の技など警戒すらしない性分だ。勇者だろうがそれは変わらん」
「そうでしょうね。我が名はデューラン。ディアステラの子にして帝国の勇者なり!」
デューランが聖剣をルーンへ向けながら名乗り出る。すると、ルーンは瞳孔を見開いてニヤリと笑った。
「ほぅ… そうか、やはり貴様が。では見せてもらおうか、今の勇者の実力とやらを!」
ルーンは自前の槍を握ると、柄を地面へと固定した。
「魔王軍イクシリス隊所属、ルーン・フレイオン、参る!」
「驚きですよ、魔王軍にも礼儀を心得ている方がおられるとは…参ります!!」
デューランは一歩踏み出すと、一気に低姿勢のままルーンへと突撃した。
《キィン! ギィィインッ!!》
辺りに響き渡る鉄と鉄の衝突音。
「おい、あれ。デューラン様が戦っておられるぞ!!??」「まてまて、いつからそこまで敵が!!??」
「凄い…まるで剣技の極みだ」「相手の魔人も相当やるぞ? 勇者様の剣撃を全て受け切っている!」「感心してる場合か!! デューラン様ぁっ!!」
デューランは後方へと距離を取ると、左腕で汗を拭った。
「手出し無用!! 君たちは周りの警備と警戒を!!」
「ハッ!! かしこまりました!!」
周囲へと警戒を向ける帝国兵たち。デューランは眉間にしわを寄せると、目の前の戦士を凝視する。
『手強い!! それに私の動きを見切っている… 神聖剣は片目だけで捉えられるような技ではないというのに、あの男…』
「神聖剣…『参』ノ型、断絶!!」
デューランは聖剣を両手で持つと、上段からの素早い大振りに出た。光の刃が真正面からルーンへと振り下ろされる。ルーンは再びニヤリと笑った。
「……剣… 『肆』ノ型、抜刀昇!!」
《ガキィィィインンッ!!》
光の閃光と共に地面から上空へと腰の剣を振り上げるフレイオン。デューランは数メートル後方上空へと打ち上げられた後、着地を果たした。
「私の渾身の一撃が跳ね返された!? それよりも今の技は!?!? あの剣…見覚えが!!!」
デューランは大きく見開いて、ルーンの掲げる白い剣を凝視する。それはとても魔王軍が持つ武器とは縁の遠いモノだった。オーロラ色に輝くプラチナの刀身が周囲の光を何倍にも高めて反射している。
すかさず地を蹴りルーンへと剣撃を繰り出すデューラン。一撃目と二撃目ともに容易くかわされるが、三撃目の突きがルーンの眼帯の死角を狙って放たれると、彼の眼帯をかろうじて掠める。
漆黒の眼帯が地面へと落ちる。ルーンは眼帯に隠されていた金色のまつ毛と透き通る蒼い瞳を見開くと唱えた。
「神聖剣… 『肆』ノ型、扇ノ太刀!_____
ルーンの前方を半円を描くように光の斬撃が放たれると、デューランは聖剣を盾にそれを受け切った。再び遥か後方へと吹き飛ばされる。
デューランは地面へと手を着くと、ゆっくりと顔を上げた。その表情には驚きと恐怖が表れる。
「神聖剣の… 幻の肆ノ型…だと……??」
デューランは遠目にルーンの姿を捉える。今まで覆われていた半分の顔が露わになると、それは完全に人間のソレだった。
「…その姿… 金髪と蒼い瞳の聖剣士。カウンター特化の神聖剣『肆』ノ型。あの剣は!!?」
「中々やるじゃないか、帝国の勇者よ。流石はディアステラの血を引く者だ。しかし貴様の剣技は人へと向けられたことはない…ましてや同じ神聖剣使いへとはな」
「な…何を言っている!!」
ルーンは白い剣を掲げると吠えた。
「貴様の聖剣の名を教えろ。我が聖剣グランステリオンの供物としてやる!」
ルーン・フレイオンが剣を構える。先ほどまで覆い隠されていた人と変わらない見た目の半分を前面に構えたその姿は、まるでかつての英雄そのものだった_____
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次話、未定です。
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