26.予兆
2週間も空けてしまい申し訳ございません。最近仕事が忙しい…
[高層集落アルペンフット 中央ホール]
シルフの街アルペンフットはクルス・オグナの中でもかなり閉鎖的な部類に入る。外部との接触は常に最小限で、周りの情報や物資も基本的にはクルス・オグナ全域に散らばる少数のシルフ職員たちにさせている。
偉大なる風の精霊シルフェのご加護を受けているシルフたちは、基本的に街から外へは出ない。よって、里以外のクルス・オグナ全域で見かけるシルフたちは追放者や野良であり、里との繋がりがない精霊の庇護下にない者たちであった。
そのような閉鎖的な街の守りは堅く、古代魔法の結界と精鋭の守衛たちが昼夜問わず守りに努めていた。そんな街だからこそ外界からの接触は極めて少なく、守衛の衛兵たちはただひたすら立ち尽くすのみ。
『多忙なのは嬉しいことなのか… 最近は仕事が回って来てとても充実している。しかし、どうも毎回大事になっているような…』
衛兵ブリッツは守衛の槍の柄を地面に突き立てながら、来訪者と長老様のやり取りを眺める。
「無礼者め。それ、貴様たちの力をはよ示せ。ワシが見極めてやろうぞぇ?」
長老エゥルリカは宙に寝ころんで、何もないところに肘を着いて頭を支えた。来訪者たちはひたすら立ち尽くす。
『あの白い魔女の別嬪さん、口調がお粗末だと思ってはいたんだがなぁ… でも長老様は通せと仰るし、俺の失態じゃないよな?』
「ほれ、はよ示さぬか、下界の子らよ! そこの白い小娘!」
エゥルリカはそれなりに鋭い目つきで睨むように来訪者を見下す。どうやらネフィルロッツェの言動にご立腹の様子だ。
『この感じ、デジャヴだよなぁ。前回はこの後亜人と思しき女が大変身したんだよな。まぁ、そんなこと早々ないだろうがな』
ブリッツは前回と違って口を挟まず、静かに来訪者たちを観察する。
「どうやらアタシの何かが気に入らなかったようですね、わからねーですけど。しかし、聞き捨てなりませんね。小娘はてめぇの方じゃねーですか」
ネフィルロッツェがそう言うと、後ろの2人が頭を抱えた。ネフィルロッツェはシルフ族の長が幼い見た目で長生きだという知識は持っていたはずだ。しかし、彼女も彼女でエゥルリカに突っかかる。
「カカッ! ワシを小娘と申すか小童よ。良い、良いぞ!! 久しぶりじゃの、ワシの機嫌をここまで逆撫でする輩は」
エゥルリカは自身の光の羽根を大きく広げた。
「久々に本気で相手してやろうぞぇ。それなりに強きマナを感じて興味本位で招き入れたのが失敗であったわ。この代償、その身で償え下郎が!」
もはやどうにでもなれという感じで、無言で二人から遠ざかるドゥラクとメルト。衛兵ブリッツも長老がこうなってはもはや止められまいと、すんなり二人から距離を取った。
巨大な鉈を宙で引き寄せるネフィルロッツェ。
「いいでしょう。てめぇが強者だというのなら願ってもねーです。コチラからお相手願いましょうか」
(ふわり)
エゥルリカが少しだけ高く舞い上がると、そこで静止した。
「目覚めよ! 我が血に眠りし偉大なる祖霊シルフェの力よ! 我を原初の姿へ導き給へ!!」
エゥルリカの声がホール上層部まで木霊する。やがて声が響き渡ると、霧がかった上層部が突如まばゆい光で満ちた。沢山のエンジェルラダー(光のはしご)が上層部から舞い降りる。先ほどまでホール上部を舞っていたシルフの職員たちは壁を背に道を空けていた。
《ゴゴゴゴゴゴゴ》
突如、轟音と共にホールの上部から光と風が落ちて来た。風がエゥルリカの周囲に高速で纏わりつく。
「キャッ!」「うわっ!」「ちょ、長老さま!?」
メルト、ドゥラク、ブリッツは暴風で目を開けるのもままならない感じで二人をみつめた。光がエゥルリカへと収束し、彼女の身体が真っ白に光る。やがて暴風がそよ風程度へと落ち着いた。
「おぉ… 200年ぶりくらいかのぅ、エゥルリカ様の真のお姿を拝めるのは。嗚呼懐かしや」
ホールを先ほどまで飛んでいたシルフ職員の一人、少年の様に若い見た目のシルフがジジイ言葉で地へ舞い降りると、ブリッツの真横までのろのろ歩みを進めた。その者は腰を曲げ、杖を付いていた。
「書記長、エゥメラス・クァルバラン様!」
ブリッツが少年シルフの名前を呼ぶ。
「ふぉっふぉっふぉ、少年ブリッツよ。滅多に見れるものではないぞぇ。我らが祖霊シルフェに最も近いとされるエゥルリカ様の真のお姿よ。その目に焼き付けるのじゃ」
少年が自分よりも背の高い青年程度の見た目のブリッツを少年呼ばわりする。ブリッツがエゥルリカへ視線を戻すと、エゥルリカの身体の光がようやく収まるところだった。
そこに現れたのは、先ほどまでの2、3等身の幼女とは打って変わった8等身位の若い女性だった。シルフの光の羽根が通常の3倍ほど大きく巨大化し、まるで幻の蝶の如き見た目をしている。どうやったのかは知らないが、服装も先ほどまでの青系統の伝統服ではなく白い伝統衣装へと変わっていた。
その幼き瞳は失われ、何処を見ているかわからない全てを見透かしたような白き眼がその場の全員を見据えている。
「…戻して…」
ブリッツが呟く。
「ばっ、バカ者ぉ、何という事を言うんじゃ小僧や!」
エゥメラスが悪そうな腰で隣のブリッツを軽く蹴とばすが、直ぐにプルプル杖にしがみ付いた。
「まさに精霊王だねぇコレは」「まさか我が家の伝記の中の登場人物のような幻想的な存在にこうも連日お目にかかれるなんて… 私はこの依頼、同行出来てよかったですよ本当に」
ドゥラクとメルトがホールの隅で感激の余りを語り合う。
《人の小娘よ。早うその力を示せ。ワシはもうちょっとやそっとの事では驚かぬ。先日のような腰を抜かす出来事も早々ないじゃろうからな!》
「それが人界の隅に住む亜人の姿ですか? てめぇのはどう見ても精霊やミストレムリアの魔物と言った方が近い姿をしてやがると思いますがね。やれやれです」
《フフフ、ワシの力は魔王軍の魔人共に引けは取らぬぞぇ。立場こそ中立だが、仮に魔王軍の第3将ラグロスあたりと戦闘になってもワシの方に分があるかものぅ》
「アハハッ、そうですかそうですか。いいことを聞きました。わかりましたよ。それではこのアタシ、人界のクリスタル級冒険者ネフィルロッツェ・エリン・ファウラが力を示すとしましょう」
そういうとネフィルロッツェは帽子とメガネと黒いローブを脱いだ。そのクリスタルの二本角が光り輝く。
《なっ… 小娘や、その角、人間ではないのか?》
「フフッ」
突如ホール内に冷気が流れ込む。氷の結晶を纏いしその冷気は急速にネフィルロッツェの周囲へと収束し出した。ニヤリと微笑を浮かべると牙のような八重歯が口から姿を覗かせる。彼女は大鉈を持つ右腕を天に掲げた。
「嗚呼! この世のありとあらゆる影に潜みし温もり亡き闇よ、主に集いて祝福せよ!!」
急速に集まる氷の結晶。ネフィルロッツェの身体は白く発光し、その身体は6から8等身程へと引き延ばされる。ロングストレートな白髪は更に長さを増し、クリスタルの角も長く太いものへと変貌する。
身体を前に反らせると、彼女のお尻から4本の巨大な尻尾が生えて揺らめいた。服装も予め仕込んでおいた魔人の衣で淡い青の神秘的な衣装へと変化を遂げた。
誰もが目を見開いた。そこに顕れたのは伝説にうたわれる妖精王。先ほどまでの人の姿の時に内包していた凄みが全て表へ顕現し、膨大なマナのオーラの揺らぎが全身を纏っていた。その者は不敵な笑みを浮かべてエゥルリカを見上げる。
「何だとぉ!?」「嘘じゃ!」
ブリッツとエゥメラスが驚いて吹き出す。
《…全く、何が人界の小娘じゃ。魔人に変身するのが最近の人間の流行りなのかぇ?》(ボソッ)
エゥルリカは冷や汗を浮かべながら呟く。
「覇天風雲児よ。我はネフィルロッツェ・エリン・ファウラ!! この姿は我が祖先の隔世遺伝だ」
《その名は好かん!! というかファウラじゃと? 貴様の祖霊はカミラ・ファウラか? よもや人の身に伏していようとはのぅ!》
「我はハーフデビルだ。今は人界の冒険者よ」
《カカッ! その姿で人の冒険者とは片腹痛いわ! 目的はなんじゃ!!》
「我らの目的は風の回廊の使用許可だ。大人しく許可を出してはくれぬかな? それともまだ力を示せというのであればそうするが?」
そう言うとネフィルロッツェは大鉈を掲げて詠唱を始めた。
「この世の全てのエレメンタルよ。ひとつに集え…」
《ま、まてまてまて!! 貴様、かような力を持ちながら何故我らが風の回廊を求める!? 貴様ほどの力があれば地殻断崖を越えるなど造作もなかろうが!!?》
「我は飛べるが、我には連れが二人もいる。できれば安全に渡界したい」
すると、気を見計らってメルトが二人へと歩み寄った。
「ネフィ… もうそれぐらいにしておきましょう… ご挨拶が遅れました長老殿。私は500年前の勇者ご一行の末裔、技法師メルト・ファーバーという者でございます」
ネフィルロッツェとエゥルリカは身に纏う力をようやく弱めた。
《小娘や、メルファーバー伝記の正当な持ち主かぇ》
エゥルリカはメルトを睨みつけた。
「左様でございます」
《メル・ファーバーとカミラ様の末裔か、随分奇妙な組み合わせじゃわ。それに勇者ご一行と言えば、我が友『ジュピタリア・メイザー』の宿敵ではないか》
「魔王ジュピタリアの友…!?」
メルトの表情が強張る。
《なんじゃ、知らぬのかぇ? ワシと魔王ジュピタリアは義姉妹じゃ。調べが足りぬの。つまりワシにとって小娘、貴様は敵性存在ぞぇ》
「………」
メルトがエゥルリカを睨みつける。
《気に入らぬか? それならそれで構わぬ。ワシも貴様等は気に入らぬからの!》
エゥルリカが殺気をメルトへ向けて放つ。すかさずネフィルロッツェが大鉈をエゥルリカの喉元へと突き出した。
「我は力を示したが、それ以上がお望みか?」
《待て。ワシは力を測るのが得意じゃからな、貴様がワシの力を遥かに凌ぐことは分かっておる。不愉快じゃがな!》
「待ってください、ネフィ! すみません、我が祖先の血が少しだけうずいたようですが、貴方に対する私怨はありません。ご無礼を陳謝いたします」
そう言うとメルトは頭を深く下げた。
「ネフィ! そもそも貴方の言葉遣いが招いた結果です。エゥルリカ様へ謝りなさい!」
「え…」
「え…じゃありませんよ! ほら!!」
メルトが伝説の妖精王の如き姿のネフィルロッツェの頭を床に押し付ける。
「ご…ごめんなさいやがれ」
ネフィルロッツェが地面と向き合いながら言葉を絞り出した。
《フフフ… カカカッ!!! それじゃ、最初からそうしておれば良かったものを、うぬら!!》
突然エゥルリカが高笑いし出す。腹を抱えて暫くの間笑い続け、ようやく落ち着いた。
「まさか我の言葉遣いが原因だったとはな… すまなかった」
「ネフィ、もうその魔人モードの喋り口調やめていいんじゃないですか? 元々文法おかしいのに変な演技は自分の首を絞めますよ?」
改めてエゥルリカに謝るネフィルロッツェを、背中をさすってなだめるメルト。
《パチパチパチパチ》
その様子を一部始終観ていたドゥラクから拍手が上がった。
「いやいや、お見事だね。まさに大きな激突が起きそうだったというのに、上手くなだめるだなんて。流石はメルト君だ」
ドゥラクが歩み寄る。
《ふむ。お主は薬師寺先生だな? そちの薬には里の皆もワシもお世話になっておるぞ》
「認知されていようとは光栄でございます。ドゥラク・ヤクシジてす。よろしくお願いしますよ、美しき風の妖精王」
《カカッ、イケメンじゃの。不思議と悪い気がせんわ。して、うぬらは何用で魔大陸へと向かう? 人と魔人の争いに加担するつもりはないのでの、ワシは真意を知りたいぞぇ》
「薬草採取でございます。とりあえず、長老様にはコレをご献上いたします」
ドゥラクは手持ちのエリクシルを一つ、エゥルリカへと献上した。中央ホールに差し込む光が瓶に反射し、発光する蒼い液体が更に眩さを増す。
《コレは…!! エリクシルかぇ!? 主よ、コレをどこで?》
「深淵を冠する者が調合したモノでございますね。直接の面識はないんですけどね」
《深淵の? …ククク、カカッ!! なるほど、コレは中々に愉快じゃわ。カカカッ!》
笑いだすエゥルリカ。それに戸惑う3人。
(この3人をジュピ姉にけしかけてみるのも面白いのぅ? ワシを泣かしたお返しじゃわ)
エゥルリカが前へ一歩でる。
《うぬらの風の回廊の使用を許可するには一つ条件がある》
「条件でやがりますか?…んベッ!」《バシッ》
ネフィルロッツェがメルトに引っ叩かれる。
《そうじゃ。実はうぬらがここに来る少し前にとある集団が風の回廊を使っての。そやつらが帝国の人間を1人拐いよった。出来れば助けてやってほしくてのぅ。今から向かえばすぐにでも奴らに追いつくぞぇ》
「なっ、人攫いですか!?」
「いいでしょう。そいつらの特徴を教えてくださいやが… くださいますか?」
正義感の強いメルトが食いつき、ネフィルロッツェが条件を飲む。
《特徴かぇ? 1人は白い修道女で、1人はガスマスクを被った蝿の王、1人は我が里の追放者、1人は魔王軍第4将のメデューサじゃな》
「魔王軍の幹部!!??」「蝿の王!?!?」「その白い修道女、何もんですか…」
《拐われたのは背の高い青年じゃ》
「無用な争いは好ましくないんだけどね… それが条件だというのなら致し方ない。ネフィ君とメルト君の判断に任せるよ」
「私は助けに行くべきと思います! …が、その判断は私たちの中にネフィという切り札があるからこそです。実際私やドゥラク殿じゃ何も出来ませんし。どうしますかネフィ?」
「蝿の王と魔王軍の幹部が厄介そうですが、アタシならば問題ねーです。なんなら2人は薬草採取してて結構ですよ、アタシが対応致します。引き受けましょう」
《左様かぇ》
条件は承諾され、エゥルリカはニヤリと笑みを浮かべた。
《ネフィルロッツェとやら、貴様相当自分の力に自信があるようじゃな》
「常々思います。アタシはこの世を舐めている節がありますから…」
ネフィルロッツェは一息つく。
「自信ということであれば、もともと人界の理を半歩踏み外したこの身体、人間の間であらばちょっとやそっとの事では負ける気はしねーです。あと魔人の間だとしても、我が先祖の遺伝子が優秀であるらしく、それなりに上位の連中に食い込めるだけのモノだとわかりました。アタシは至って冷静ですよ」
《ほう… 貴様は自惚れてはおらぬと? 慢心してはおらぬと?》
「これは自惚れではねーです。言わば… アタシはアタシの限界が知りたい」
ネフィルロッツェはエゥルリカから顔を逸らし、明後日の方向を向く。
「こんな人でも魔人でもない、中途半端なアタシを産み落としたこの世に対しての怒り。その矛先を求めて足掻いてるだけです」
(いつかアタシが本気で喚いた時、そんなことをしても無駄だと諭してくれる強き者が現れることを心のどこかで望んでいるのかも…しれませんね)
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「ミストレムリアの地殻断崖の頂上!! 予想以上に見晴らしがよいです゛ね゛!!」《シュコー》
灰色の薄汚いマントに身を包み、黒い薄気味悪いガスマスクを付けたクリーチャーが、その重たそうな旅行用バッグを身に着けたまま重たそうに飛び跳ねていた。
その後ろ姿を眺めながらメサリアはかつてのメーデリアでの知り合いの事を思い出す。銀髪ボブカットのドレス姿の少女と目の前のガスマスクのクリーチャーとではあまりにも違うのは言うまでもなかった。
「キュレイアさん、元気にしてるかなぁ」
目の前にあるのは広大な緑あふれる大地。その大部分は霧と雲に覆われてよく見えなかった。
「こ、この大地に溢れるミストの霧、うかつに吸い込めばこの地に住まう魔人たちのように変貌を遂げてしまうかもしれないわね」《シュコー》
「おいクレステル、変貌を遂げたのは紛れもなくお前だっつーの! …おおっ!?」《ふらっ》
オルデイルがツッコミを入れるが、足元おぼつかなく倒れそうになる。隣にいたネイサが咄嗟にそれを支えた。
「想像はしてましたけど、予想通り酸素が少ないですね。メサリアさん、向かう場所のめどを早くつけて行きましょう。でないと僕もあまり持ちそうにないです」
そう言うとネイサもふら付いた。
「そうね。目標は決まっているから、皆さん直ぐに出発しましょう。そして下の方で今日は野宿します」
「ま゛ぁったく準備がなってないなぁ。あ、アタ゛シみた゛いにガスマスクと酸素ボンベを用意してこないからそ゛う゛なるのよ、う゛へ゛へぇ」《シュコー》
「コイツ、さっきそこで用を足したらいきなり元気になりやがって。トイレの準備をしてこなかったのは何処の誰だっつーの!」
「んん〜〜… 快便!!」《シュタッ》
クレステルは両手を広げ片足で立って、謎のポーズを決めた。
「しかしながら、これは凄い景色ですね… こんな広大な大地が人の世界の隣に広がっていただなんて」
ネイサがミストレムリアを展望しながら感動の余り、動けずにいる。
「そして、コイツがマナヘイズ深淵峡谷か…」
オルデイルがそう呟くと、足元から数メートル先にある底の見えない巨大な谷を見下ろした。崖の向こう岸が霞んで見えない程の巨大な谷で、下の方も雲と霧で霞んで見えない。完全なる闇がそこに存在した。下層へ行けば行くほど谷の幅が狭まり文字通りの峡谷となるらしい。
谷間を通る風が崖に反響して不思議な音を放っている。魔物も人もこの峡谷と断崖絶壁の二段構えを越えて渡界するのは困難であることが見て分かる程だ。
「え゛っ゛? ここを降りるの?」
「そうですよ、先輩」
「な、なにそれ怖い」《ヴヴヴヴヴヴヴヴ》
クレステルが不気味な身震いを始めた。
「それにしても… その格好ですとメサリアさんは本当にただの人間にしか見えませんねえ。完全に敵を油断させますね」
「う、うん。凄く無害、というか懐かしい」《シュコー》
クゥエイスとクレステルがそう言うと、メサリアをマジマジと見つめた。地殻断崖の頂上に着いた後、メサリアは周りを刺激しないようにとかつてラナ王国の勇者ご一行であった時分の格好へと着替えたのであった。金髪をツインテールにし、青い大きなリボンで両脇で結ぶ。
「これで無害よね!」(えっへん!)
「無害かも知れねぇが、どのみち魔物に遭遇したら襲われるだろうに。かわんねぇよ」
「僕が元々聞いていたメサリアさんの特徴はそんな感じでした。巷では髪の色が赤だと言われていますが、あれは変身したお姿だったんですね。そうされていると本当にただの人間にしか… え゛!?」
「!?!?」「!!??」
ネイサが話しかけていると、突如メサリアとクゥエイスの表情に緊張か走った。
「ど、どうしたのメサリアちゃん??」
「何? ………このプレッシャー………!?」
「コレは!? この感じは!? いや、しかし方角が人界からですね…」
「おいおいおいおい、どうしたんだよ2人共。おじさんに分かる様に説明してくれよぉ!」
オルデイルが説明を求めるが2人は考え込んだままだ。常に目を閉じているクゥエイスの瞳が珍しく見開いている。
「ヤバイですね。ミストレムリアの魔物かと思いましたが、コレは私たちが来た方角がからです。このままだとすぐに接触しそう… 皆さん、とりあえず早く降りましょう!」
「この感じ…彼女に似ていますが、いや、私の気のせいでしょう」
メサリアとクゥエイスは先ほど上がって来た方角を意識する。
「私がウィングオブセラフとパーティオブセラフを唱えますので、オルデイルさん舵取りお願いします!」
「お、おうおう、よくわかんねぇがヤバイもんが来るんだな?? じゃあみんな急げ!!」
「え、え、急ぐって゛ここか゛ら゛飛び降りる゛の゛ォ!?!?」《シュコー》
「ま、待ってください、心の準備が…」
「んんっ? ちょっとまった、おじさんもこの深さはちょーっと怖いぞ!?」《ガシッ》
「ちょっ!? オルデイルさん私の胸触らないでくださいーー!!」《ガッ》
「ん゛ゴォ゛ッ゛!? 堕ちる!!」《ガシッ》
「あっ、クレステルさん引っ張らないで、落ちますっあああ!!」《ガシッ》
「ちょっ!? ネイサさんもどこ掴んでるんですか!!」《バキッ》
一同《うわわわ、わわ!! うわああああああああああああああああああああああ!!!》
魔法を唱える間もなく、がんじがらめになって崖から4人は落下した。それぞれの絶叫が谷にこだまする。
「おやおや、これは楽しそうですねぇ… よいしょっ!!」
落下する4人を追うように、クゥエイスは両手を頭の先で合わせて姿勢よく崖へと頭から飛び降りた。
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キャラクター紹介⑭ 蠅の王
次話、最高峰の戦い、明日です。
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