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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
25/61

25.ネフィルロッツェ VS エゥルリカ

先週は更新できずにすみません。おまたせしました。




[砂の海 南西の街 ナブラカン]



人界ウルバニア大半島でも人族の住む領域から最も離れているクルス・オグナ南西。そこにあるオーガの街ナブラカンでは魔人との取引が盛んに行われていた。


人と魔人の争いの歴史は千年にも及ぶ。よって、亜人とはいえ魔人との大っぴらな交易はウルバニア大半島の大半を占める人族との友好を悪化させるとして避けられてきた。しかしナブラカンは数百年に渡る魔人信仰のため、クルス・オグナ内でも異色を放つ数少ない魔人に友好的な街であった。


今日もナブラカンでは魔人と思しき者たちが街中を行く…



「ブロリアンの旦那! こっちですぜ!」



ガタイの良いオーガの中ではやや細身のオーガがゴツイ方の身なりの良いオーガをせかす。



「お゛う! そうせかすなこのあわてんぼうめ。ヤルガ、てめぇの魂胆は分かってる。今日の取引の相手はあの闇のヒューラ族だからな、魔人マニアのてめぇがはしゃぐのも無理ない。なんでも魔王さま直轄の幹部の方が来られるとかなんとか」



「バレてやしたか! まぁ魔人カーストの5番目の種族ですからね、数ある魔人の種族の中でも上位の方々です。魔皇四天王の第1将から第4将までの順位がそのまま種族の(くらい)ですからね、その次にくる種族の方々でやんす」



「流石にグラティオロス種はこの街に来られないがな。今までだってせいぜいその魔人カーストの4番目『ニブルヘクサ種』が数年前に来られたくらいだ」



魔人マニアのヤルガはうんうんと頷く。彼はナブラカンオーガ族長代理のブロリアン・サ・グレルのお側付きという肩書だが、その本当の目論みは様々な魔人とのお目通りであった。



しばらく街の郊外の辺鄙な砂の道を歩く二人。秋だというのにまだまだ熱気の揺らぐ砂漠の道を、何食わぬ顔で細身と太身のオーガが行く。向かうは港だ。



港には数人のオーガたちが先に客人を出迎えていた。ヤルガたちは、黒いローブに身を包んだ3人の客人を目で捉える。3人からは黒い歪な靄が絶えずあふれ出し、そのローブの中身は全く見えなかった。



「おお! 族長代理殿、魔人さま方がお待ちです」



「すみません、お待たせいたしました。族長代理のブロリアンでございます」



オーガ数人を掻い潜って先頭に出ると、ブロリアンは3人の魔人に挨拶をする。すると3人のうち真ん中の黒い揺らめくローブが語り出した。



《族長代理よ、我はヒューラ族のブゥラ。今回の渡界(とかい)の目的は魔石の商いとこの地を拠点にした情報収集である》



地の奥底から聞こえるようなエコーがかった闇の声に怯むことなく、ブロリアンは応える。



「魔石と情報収集ですか…かしこまりました。市場の一区画を既に確保させております故、そちらまでご案内いたします。ちなみに何の魔石でしょうか?」



《魔石ジークムントの断片だ》



「ジークムント!?!?」



ブロリアンの隣に控えていたヤルガが声を上げた。



「落ち着けヤルガ!… そんなに貴重な魔石なのか?」



「かなり希少な魔石っすよ旦那! こりゃあ市場に出回ったらかなり大事ですぜ!」



興奮気味のヤルガをなだめるブロリアン。ブゥラが前に出た。



《案内しろ、族長代理よ》



「ハッ。ではこちらへどうぞ」



ブロリアンが3人を先導する。歩きながらブゥラは左端の同胞へと話しかけた。



《とりあえず商談か。ルフタの探索は後程だな…リーブラ》



《嗚呼。連絡が途絶えたメデューサの探索と情報収集の資金源とする… もしグランゾーラに続き奴もしくじったとすると、我ら魔王陣営にとって由々しき事態だ》



魔王軍参謀のリーブラ・オルガンシスは3人の中でも特に低音の声で囁いた。



「ん? どうしたヤルガ」



数歩進んでからブロリアンは振り向き、未だ立ち尽くすヤルガに声をかける。



「すみませんブロリアンの旦那…衛兵を2人お借りして少々あちらへ行って参ります」



「ぬ? いつもの勧か? わかった、そちらは任せるぞ。何かあったら直ぐに連絡をよこせ」



「かしこまりやしたぜ旦那」



先ほどまでの浮足状態とは打って変わって真剣な表情をみせるヤルガ。彼はその場にいた2人の衛兵オーガに声をかけると、海岸にそって進み始めた。



《何かあったのか族長代理よ》



ブゥラがヤルガたちを横目に尋ねる。



「わかりません。私の近衛を務めるヤルガは野生の勧が特に鋭い奴でして。たまに異物の気配を感じるとああやって様子を見に行くんですよ」



《異物か。我らには何も感じ取れなかったがな。我ら以外の異邦者がいるというのか?》



ブゥラはそう言うと視線を前に戻した。3人の魔人はブロリアンの後ろを行く。唯一リーブラだけは、ヤルガとその一行を視線で捉えたままだった。






-----------------------------------------------------------------------------






「お前ら、身を潜めろ」



ヤルガが鋭い眼差しで岩陰を睨む。2人の衛兵はヤルガの後ろに身を潜めた。やがて海岸を歩く3人のローブ姿の者を視界に捉える。



「ヤルガ様。あの身の丈、人間ですか?」



「何とも言えんなぁ。だけど、特に先頭の奴だ。先ほどのヒューラ族の魔人さま方よりもヤバい気が…する」



「魔人さま方よりも!? ってことはあの3人も魔人!?」



「とりあえず付いて来いモーリス。レベッカは後方待機だ。俺らに何かあったら一目散に仲間へ知らせろ」



「ハッ!」



女性の衛兵オーガを後方に残し、ヤルガとモーリスは岩陰から歩み出した。



「おい貴様ら、止まれ!!」



ヤルガが3人組へと声を上げた。3人組は歩みを止める。



「身元確認だ。この街に入るのであればこんな場所をうろつくとは思えんな。フードを取れ!」



ヤルガが一際大きな声で命令する。すると一番先頭の、3人の中では真ん中の背丈の者が前に出た。その者が頭を覆っているフードを取る。



「っなぁ!!??」



ヤルガが身体を跳ね上げて驚く!! 鬼の形相のオーガが大きく口を開けて固まると、驚いている顔というよりは威嚇しているかの如きものだった。



ローブをとったその者は白き透き通った肌と白い麗しきロングヘアーの魔人の女で、鋭く尖った両耳の上あたりから太いクリスタルの角が生えている。宝石のように深い輝きを放つ碧い瞳がヤルガの姿を捉えていた。フードに隠れていた大きくて長い四本の白い尾が後ろで風になびく。



「白き魔人!?」



衛兵モーリスがその麗しき姿に驚きながら、確認するように隣のヤルガに向く。ヤルガは魔人をみつめながら固まっていた。



「れ… れ、れれれれれ…」



ヤルガがようやく言葉を発する。



零魔(れいま)だとおおおおおおおおお!?!?」



「なんだ、我の姿がそんなに珍しいのかオーガの小僧よ」



白き魔人の女は不敵な笑みを浮かべてヤルガに問いかける。口の端からは白い牙が見えた。



「珍しいなんてもんじゃありません! この里を訪れた魔人さまの中で一番高位な存在かと! な、何故このような場所に零魔の魔人さまが?」



「少々西の街へ行くのにこの街を通らせてもらおうかとな」



「西の街… ここから西の集落といったらアルペンフットくらいですね。シルフの高層集落に御用でありますか?」



すると、ヤルガは隣のモーリスが説明を求めて自分をみつめていることに気付いた。



「モーリス。魔人カーストは知っているな?」



「ハッ! 魔人にとっての種族の絶対的上下関係でございます!」



「それならば話は速い。この方は魔人カースト2位の零魔さまだ!」



「なんと!!」「なんとまぁ!!」



衛兵モーリスと、後方で聞いていた衛兵レベッカも駆けつけながら驚いた。



「ククク。零魔を見るのは初めてかオーガたちよ」



「はい!! 初めてでございます!! …ところで後ろのお二方も零魔さまであられますか?」



「こ奴らは魔人だが零魔ではない。訳あってフードは取れんがな」



零魔の女はそう言うとヤルガに向き合った。



「我らは西の街へ向かうだけだ。良いか?」



「勿論でございます魔人さま!」



即答だった。心なしかフードを被った二人から身体の力が抜けたような気配がする。



「では、我は行くぞ。感謝するぞ、オーガの者よ」



「あ、あの。お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」



「名か…我はクシャトリカ。クシャトリカ・ファウラだ」






-----------------------------------------------------------------------------






3人の恐ろしい見た目のオーガたちが嬉しそうに手を振っている。それらを背にして、ローブで覆われた狭い視界を頼りに目の前の白き魔人の後ろを付いて行く。布に埋もれる鼻は、ローブに染み込ませた特殊なハーブの匂いでいっぱいだった。



「僕の薬草は役に立ったようだね」



隣を歩く背の高い全身ローブの男がそういうと軽くため息を付いた。



「ドゥラク殿の薬草もですが、何よりも…」



メルトは目の前のネフィルロッツェの変わり果てた姿をみつめる。



「あぁ、そうだね」



ドゥラクも同じくネフィルロッツェをみつめた。



「あぁーーもう! てめぇたちまで先ほどのオーガたちのような反応しないでくれやがれです、ドゥラク! メルト!」



そう言って後ろを振り返った白き魔人は少し涙目だった。見るからに伝説にうたわれるような妖精王の見た目なのに、その表情は人間のように豊かであった。



「しっかしネフィ… こうやって半魔形態になられると、ますます我が家の伝記に伝わるカミラのようですよ。こんな立派な尻尾まで4本も生えてくるなんて…」



「うん、こうやって魔人と一緒に行動してる自分が不思議でしょうがないよ、さっきからね」



メルトとドゥラクが真顔で答える。



「さ、さっきからアタシの魔力を抑えるのに精一杯ですよ。マジありえねーです。この姿にならなければ人間だとバレる、かと言ってこの姿になれば魔力がヤバいので魔人たちに気付かれても仕方がない」



見た目はただの伝説級の魔人が、ただの人間のように言葉を交わしていた。ネフィルロッツェはしばらくすると、再びローブで全身を覆う。



「とりあえず、このまま陸路で突っ切ります。アルペンフットは目と鼻の先です」



「了解ですよネフィ。とりあえず、早くこの暑苦しいローブを脱ぎたい一心ですよ」



「僕も、早くお風呂入りたいよ」



「二人とも、我慢しやがれです」



3人は海岸にそって西へと進む。しばらくしてネフィルロッツェは歩みを止めた。



「どうしたんですかネフィ?」



「二人とも後ろへ飛びのいてくださいやがれ!!」



突如叫ぶネフィルロッツェ。すると上空から物凄い勢いで黒い靄の塊が急降下して来た。



「冷気よ我が大鉈に集え、ゾラスハチェット!!」



ネフィルロッツェの詠唱に合わせて巨大な黒い鉈が大気中から冷気を集めて氷を纏った。黒い靄の落下を氷の鉈が受け止める。とてつもない衝撃派が生まれた。



《ドッゴォォォオオオオオオオオン》



黒い靄が弾き飛ばされ、中から黒いローブを纏いし者の姿が露わになる。その者の顔は未だ溢れ出す黒い靄で見ることができない。



《我の闇を受け止める氷の魔人か… 貴様、どこの者だ》



当たりに響き渡る悍ましいエコーがかった声。ネフィルロッツェのローブが衝撃による風で吹き飛んだ。そこに、何処からどう見ても白き麗しき妖精の如き魔人の姿が晒される。



「貴様こそ誰だ、我に向かってかような攻撃。後悔することになるぞ!?」



《なにっっ!?!?!? 零魔だとおおお!?!?!?》



突如驚いた声を上げると、黒ローブの者は攻撃を解いて後方へ距離を取った。表情は見えないが、その声はとても動揺している。



《リディアス様直轄の種族が何故ここに!?》



『リディアス!? 確か今の魔王の名前だったな…』



「そういう貴様は何者だと聞いている。答えぬのならば相応の仕打ちを覚悟しろ」



咄嗟に演技するネフィルロッツェ。魔王直轄というワードから自分の姿が上位の存在だという判断を下し、それ相応の態度で臨む。ネフィルロッツェは左手を掲げて詠唱を始めた。



「生きとし生ける全ての時を奪いたまえ、コキュー…」



《まてまてまて!! 我を見てわからぬか、ヒューラ族のリーブラだ!! 魔王軍参謀のリーブラだ!!》



『ま、魔王軍の参謀!?!? っていうか顔が見えねーですし』



魔王軍参謀という肩書を聞いたメルトの身体に激震が走るが、彼女はそれを鎮めるよう努めた。



「そのような見た目では顔も確認できぬではないか? それに何を怯えている。魔王軍参謀様ならば我にたじろぐ必要もないだろう?」



《我はヒューラ族だ、皆顔など持ち合わせておらんことくらい承知だろう! それに、魔人カースト上位の種族である貴様ら零魔に力で敵うわけがなかろう!》



参謀リーブラは両手を上げ身振り手振りあわあわと説明し始める。



『説明までしてくれるとは、これは有難いですね』



「我らもこの地で調査任務中だ。貴様ら同様な」《チラッ》



ネフィルロッツェは状況判断の憶測で言葉を連ねる。



《わかった。だが参謀の我も知らぬ人界での任務だと? 名前だけ聞いておこう》



『名前ですか。おばさんへの宣戦布告には丁度いいですね。伝達してもらいましょうか』



「我はクシャトリカ・ファウラだ。先ほどの攻撃、高くつくぞ。魔王軍参謀リーブラよ」



ネフィルロッツェは全く動揺せずに、不敵な笑みを浮かべながら言い放った。その姿をみつめる後方の2人はあっけにとられる。



《ファウラ…だと!?!? 馬鹿な、我の知らない零魔の頭首家の一族がいるというのか… イクシリスめ、隠しおって。しかも貴様の魔力量… ご頭首と大差ないではないか!!》



『大差ないのですか… いい情報ですよこれは。おばさんとドンパチやる時の大きな手掛かりとなりやがりますね』



「もういいだろうリーブラ。貴様らは貴様らの職務を全うしろ。我は行くぞ」



そう言うとネフィルロッツェはリーブラに背を向けた。



《先ほどはすまなかった。ご頭首には後で問いたださせてもらうが…これ程の者へのお目通りが叶って幸いだ。宜しくたのむ》



リーブラは軽く頭を下げた。ネフィルロッツェは軽く手を上げて反応すると、歩みを進めてその場を離れた。






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「てめぇたち、どうでしたか?」



「やっばいですよもう!! なんで魔王軍の参謀がこの街に!! 流石にバレたかと思いましたね!」



「僕なんか息を常に止めてたよ。薬師の出番なんて瀕死の仲間ができた時くらいだからね」



メルトが砂漠の砂に両手を付きながら言葉を発した。ドゥラクは両ひざを砂地に着いて空を見上げている。



「いや、流石にこの見た目で人間と疑われるわけはねーとは思ってましたが、魔王軍の参謀と名乗られた時には肝を冷やしましたね。相手の説明口調に救われましたよ。大分魔王陣営のことが見えてきましたね」



「まとめると、魔人には魔人カーストという種族の順位らしきものが存在する、その中で零魔はヒューラ族とやらよりも上位、参謀リーブラの言葉を信じればイクシリスおばさんは私と同等の魔力量、参謀は何やら人界に探りを入れている、零魔は魔王直轄の種族…と」



ネフィルロッツェが魔人の見た目のままノートにメモを書いていく。



「流石に参謀をあのまま葬り去っても良いか考えましたけど、わざわざ火の粉に飛びいるつもりはねーですから。今回の任務は薬草採取です、大人しくそちらを優先させていただきやがりましょうか」



「前から思ってたけどネフィ、言葉遣いおかしいですよ?」



「うっせーですメルト、そんなこと分かってます。生まれつきですコレは///」



「……………」



「さぁ、アタシの偽名工作が奴らにバレる前にとっととアルペンフットへ向かいますよ!!」



「うわぁーん、早くお風呂入りたいですぅ~~!!」



メルトが嘆く。潜水艇ロランシエル内には浴室はなく、船員たちは街に寄港してそこで日頃の汗を流しているそうだった。よって3人は既に2日ほど風呂に入れていない。そのうえナブラカンの砂漠の熱気が彼らに追い打ちをかける。



「僕の旅のお供の特別製香水の効力もそろそろ限界だねぇ。そろそろ臭うよみんな…」



「ドゥラク殿、私の嗅覚無効化魔法使います?」



3人はやや駆け足で海岸沿いを進んだ。






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[人界最西端の街 高層集落アルペンフット 守衛管理棟]



人界の端に位置するアルペンフットは、文字通り人界の境界線であるオデュッサイル地殻断崖を背に作られた高層集落だ。街の周囲の5割が地殻断崖、2割が悠久の丘と山岳地帯、3割が砂の海に面している。


約7割を天然の城壁に覆われた街は、残りの3割に防衛を割くだけで事足りた。よって砂漠に面した街の入り口には街を覆い囲うようにアーチ型の石柱構造物が柵のように並び立つ。連なる石柱の間のアーチ部分には、シルフ族の古代結界魔法による障壁が展開され可視化されている。


一つ一つの石柱構造物はそれなりに大きく、中は衛兵たちの宿泊も兼ねた個室、来訪者用の応接室なども用意されていた。



「一体どうなってるんだ」



応接室の扉の前を見張るシルフの衛兵は呟いた。



「ここ数年は来訪者など稀だったというのに、ここ数日だけで二組(ふたくみ)も… 歴史が動き出す予兆か何かか?」



《ドンッ》



隣にいる衛兵にどつかれる。



「ブリッツ、滅多なこと言うなよ。確かにこの前来訪された蠅の王(ベルゼバブ)には驚いたけどよぉ」



「アゥヴァート、そう言ってやるな。破錠のクレステルと言ってやれ」



衛兵ブリッツは笑いながら先日の来訪者の事を語る。



「しっかし驚いたのは、長老様が風の回廊をよそ者に使わせたことだよな」



「……………」



アゥヴァートの言葉に対して反応を示さないブリッツ。



「なぁ、相棒! 一体何があった? お前は見てたんだろ??」



「長老様のご命令だ。見たことは他言無用だとな」



ブリッツは口を閉ざす。



『言えるわけがねぇだろ。亜人だと思っていた女が実は魔人だったとはな。しかもエゥルリカ様のあの親しげなご様子と、話していた内容… 全部は聞き取れなかったが、恐らくは伝説の時代に所縁あるもの。それにあの姿はまるで…』



すると扉がノックされ、中から客人の一人が出てくる。



「湯浴みまでさせてくれるとは有り難ぇーです。私も連れも、旅の垢を隅々まで洗い落とせました」



白い肌と白いロングストレートの美しい魔女は衛兵に告げる。先ほどまでの丸メガネを外すと、雰囲気はまるで別人だった。ほんのりと薬剤の匂いが香って来る。



「当然だ。長老様に謁見する者は、必ずここで身体を清めてもらう仕来りだ。汚れし者を招き入れる訳にはいかんからな!」



ブリッツがそういうと、魔女の後ろから少年のような見た目の導師の女が顔を覗かせる。



「あのぉ、もう一人の連れのぉ~、背の高い男の方はどちらに?」



「あー、先生か。先生ならば向かいの応接室を使っている」



アゥヴァートが答える。



「あのぉ、何故あなた方までドゥラク殿を先生呼びなのですか?」



「知らないのか? 薬師寺道楽(やくしじどうらく)処方箋(しょほうせん)ってな、人界の有名な薬師の処方箋は万物に効く良きもの。先生のお薬は人種を越え国境を越えて人々の命を救っているんだ。お会いするのは初めてだがな」



「ほぇ~~」



そんなに有名な方だったのかと◇の口で驚くメルト。



「長老様が街に近づく強大な存在と称して、我らに警戒させた矢先に現れたのが人間とは驚いた。外では人間立ち入り禁止らしいが、長老様が許可を下された。中央ホールへご案内する」



すると、向いの扉が開きイケメンが現れた。



「やぁ、お嬢さん方。待ったかい?」《ふわっ》



風呂上りの爽やかさ相まってきざったらしい台詞を言うドゥラク。メルトもネフィルロッツェも不思議と嫌な気分はしなかった。



「うーん、やっぱりイケメン…」



「待ってねーです。行きますよ、ドゥラク」



3人は衛兵ブリッツの後ろを付いて行く。メルトがネフィルロッツェに寄り添い話しかけた。



「しっかしまぁ、断罪様と一緒にお風呂に入れるなんて夢みたいです。めちゃめちゃ堪能させてもらいました、目の保養です」



「バカ言ってねーでどうやって長老を説得するか頭を捻りやがれです」《ポカッ》



「あイタッ!」



メルトの頭を軽く小突くネフィルロッツェ。その様子をドゥラクは後ろから眺めてホッコリする。



「案外人種なんて関係なく分かり合えるものなのかもしれないねぇ」



「私はレイシストじゃありませんよ。ちゃんと私自身の目で見て判断します。私が問答無用で分かり合えない存在がいるとすれば、それは恐らくただ一人…」



メルトは正面に向き直るとそう言った。




_____今は亡き伝説の魔王、ジュピタリア・メイザーただ一人…だったかもしれませんね_____






-----------------------------------------------------------------------------






「開け~~~ごま!!」



《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ》



衛兵ブリッツが言い放つと、巨大な石の扉が重々しく開かれた。



『はぁ? 何ですかその呪文は!?』



ネフィルロッツェは心の中でツッコミを入れる。3人は中央ホールと呼ばれるアルペンフットの中枢に存在する大きな円柱型の遺跡へと足を踏み入れた。とても古い、歴史を感じる構造物だ。



中央ホールは薄暗く縦長で、無数に壁に開けられた窓から外界の光が差し込み交差し合っていた。それなりに明るいのは案内された最下層だけで、遥か上部は霧がかっていて差し込む光も少ない。天上が見えなかった。



上層部を行き交うシルフの羽の輝きが差し込む光に照らされて散りばめられている。とても神秘的な空間がそこにはあった。



「凄い…ですね。人界にこのような場所があるとは…」



上を見上げながら技法師メルト・ファーバーは呟く。



「恐らく魔大陸(ミストレムリア)にはこのような遺跡が沢山存在していると推測されます。我が家の伝記にもありますが、ミストレムリアはいわゆる古巣。ウルバニア大半島は古代文明から最も離れた土地とも言われておりますから」



「古代文明ですか。魔人の奴らは古代文明の産み落とした産物とも言われてやがりますからね」



「静粛に! …長老様!! 例のお客人方を連れて参りました!!」



衛兵ブリッツがホール中央に立って、言い放った。




_____左様かぇ_____




幼子の声がホールに響き渡る。念話のように頭に直接語り掛けてくるような感覚だ。ホール上層部から一人の幼女が緩やかにその妖精の羽を広げながら降下してくる。そして皆の前で宙に静止した。



「人の子が、シルフの里に何用じゃ?」



見慣れぬ伝統衣装に身を包んだ幼女がじじぃ言葉で語り掛ける。ネフィルロッツェが一歩前へ踏み出す。



てめぇ(・・・)が覇天風雲児ですか?」



一同『あっ!………』



「不思議な喋り方をしやがり(・・・)ますね。アタシは………」



一同『ああっ!!……………』



「無礼な奴じゃな、ええぃ面倒じゃ。小娘よ、力を示せ! 人間の小娘の分際でワシの力を凌駕することができれば話を聞いてやるわ!!」



シルフ族長老エゥルリカ・ベルティ・フォン・シルフェは鋭い眼光でオーラを放った。



「………」



一同『やっちまったなぁーーーー!!』






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次話、来週です。


あと、評価と感想ほしいです!!

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