22.難度SSS級ダンジョン、吟遊詩人にはムリゲー(下)
警告を受け。表現や展開などを全年齢向けに修正。オリジナルはミッドナイトへ移行しました。
おまたせしました。色々とぶっ飛んでます。
下部、キャラクター紹介追加しました。
サラマンドラ&レジュアダ
[旧ラナ王国 ロベルハイムの森北部 第37炭鉱出口]
5月も終わりに差し掛かり、ロベルハイムの森の新緑はより一層生い茂り、緑を深めていた。早朝の霧が完全に晴れきっておらず、露の降りた草木は横から差し込む朝日を散りばめている。
ツタで覆われた地面が少々窪んだ場所に、苔で覆われた小さな木の扉があった。
《ガタッ、ガタガタッ》
扉が音を立てる。おそらく何十年もの間開くことの無かったであろう苔の扉がゆっくりと開かれた。
「んあっ♡ やぁーっと外に出られたぁ~~!」
「流石に美味しいねぇ。森の朝の冷たい空気ってやつぁー! クゥゥーンッ!」
魔女の帽子で鼻の下まで顔が隠れたレジュアダが、自前の黒光りするロッドを杖代わりに自分の半分もの体重をかけて寄りかかり、杖をガクガクふるわせながら今にも倒れそうだった。彼女のローブはちゃんと全身を覆い隠している。
隣にいるラファルトは地に四つん這いになり、狼のように背筋を逸らせると、自身の銀色の尻尾を伸ばした。軽めに狼の鳴き声を上げる。実に2日半ぶりの地上であった。
《ガタガタッ》
静かに木製の扉が閉まる。最後に出てきた3人目、ロウメイが先に外へ出た2人の後ろ姿を無言で見つめる。その目は何故か虚ろだった。対して女性陣二人はとても生き生きとしている。
「あらロウくん。早くおいでおいで!」
レジュアダが左腕を上げてロウメイを懐へ招くと、ロウメイが近寄る。魔女は今度は杖ではなくロウメイに身体をあずけた。
「レジュ姉さん、重いですよ。ここが噂のロベルハイムの森なんですね?」
「そうよぉ~~。お姉さんの一族の森よ。それと、アレ、見えるかしら?」
レジュアダがロウメイに抱き着きながら右手で指さした先には、大きな盃の形をした魔法陣の泉があった。盃からは少しずつ雫が溢れて、周りの魔法陣にそれなりの水たまりを作っている。淡い光を放つ魔法陣が泉をほのかに発光させていた。
「あれは回復の盃よ。治療効果のある水を絶えず生成し続ける古代フローレンツィアの遺物。ワタクシたちもさすがに2日間以上湯あみもできずに臭いじゃない? 水浴びしてから出発しましょ?」
「そうだなぁ、俺も久々に猛々しく狂戦士化したからな。沢山汗かいたしひと浴びしていくか、なぁロウくん?」
「ラファー姉さんがそういうなら…」
「いよぉうし! 飛び込むわよ~~!」
痴女が泉へとダイブした。2人もそれに続く。
もう何も思うまい。ロウメイにとって、この2日間の出来事に比べればどんなことも些細だった。既に境地へ達してしまった彼は、目の前の光景を無心で眺める。
泉に寝っ転がる魔女と、両腕を着いて仰向けに寝転がる獣人。
《チュンチュン》《チチチチッ》
朝の静かな森には小鳥の囀りが響き、朝日が横から彼女ら2人を照らしている。中々絵になる光景だ。
「うわっ、なんですかこれ…凄い。身体の疲れがどんどん抜けていくみたい」
ロウメイがおずおずと泉に浸かり、ビックリする。すると、獣の足が二本伸びてきてロウメイを捉えた。
「程よい冷たさでちょうどいいよなァ、ロウくん」
後ろから抱き着くラファルト。そしてロウメイの前からは魔女の帽子が近づいてきた。
「とりゃあ!」《ザブンッ》
レジュアダが前からロウメイに飛びつく。
「ラファー姉、レジュ姉///」
ロウメイは身動きが取れない。
「さぁて、どうするのん、ロウくん? 森を南に出ると、直ぐに死都アルカナですわよ!」
「そ、そうですね。メアシス様からは調査任務とだけしか言われてないです。なので、とりあえず2か所だけ目標を視野に入れてます」
「2か所なァ。そのうち一つは夜光の祭典なんだろ?」
ラファルトがロウメイの頭を撫でながら言う。
「その通りですラファ。冒険者ギルドの今の状態をできる限り調査したいと思います。今現在、夜光の祭典のギルドの証をぶら下げた冒険者の数は確認されているだけで9人ですが、果たしてどうなのか。生き残りもいる可能性はありますから」
「2か所目はやはりラナトリウス宮殿ですかね。王族は死に絶え、民も大勢亡くなりました。しかし、山ほどあるはずの死体はアンデットに、死霊に。相当なミストの濃さだと聞いていますので、死体は魔物化してるでしょう。探す手間は省いていいです。正直ムダです」
「濃いミストが問題よね…」《ゴクッ》
レジュアダが喉を鳴らして言うと正面からまじめな顔でロウメイと向き合った。
「では… 基本的にはワタクシの精神統一を常時発動し、ロウくんの感知無効化の檻を強化し魔物から身を隠す。サラマンドラの獣の5感と第6感で敵との遭遇をかわして移動。敵にばれたらサラマンドラを狂戦士化させて、なるべく個別撃破。できなければ逃げる」
「了解だ。肉体のある敵ならばよし。死霊系、特に確認されている『シャドウオブウィスプ』に遭遇したら逃げるぜ?」
3人は顔を見合わせて頷いた。
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[死都アルカナ北部 幽幻の海原]
ロベルハイムの森の南を出ると、虹色の揺らぎが漂う明るい魔霧の世界が広がっている。クラウディア教会によってローレライと名付けられたその濃霧の海原は、かつてのアルカナ郊外の街の廃墟群だ。崩れ落ちた建物の残骸がミストから見え隠れしている。
その先、死都アルカナの中心部の方面は暗いミストに覆われていてよく見えない。ミストの濃さが段違いなのだ。
「己が信念を貫き通せ…精神統一!」
「大気の精霊よ、我らの存在を忘れ果てよ…感知無効化の檻!」
魔女が精神魔法を唱え吟遊詩人がクリスタルの琴に詠唱すると、琴は宙に浮いて淡く発光し始めた。
「よし、こっちだ付いてこい」
獣人が二人を先導する。宙の琴は3人が移動するとそれに合わせて移動した。
《キェェェエエエエ…》
周りを浮遊する明るめの戦士の霊が、明るめのミストに見え隠れする。3人の移動には一切気づいていない。
「勿論持ってきているのよねぇ… ディテクトマジック…クリーチャー・リファレンス!」
レジュアダが胸元のペンダントを握りしめて唱えると、ペンダントに文字が浮かび上がった。
「ガーディアンオブスピリッツ…難度30、ミストに生息、大気の水分を凝縮する氷魔法を苦手とする… ワタクシの氷魔法と相性が良いわね。でも戦ったら5分5分ってところかしら…」
「そ、そのペンダント、翡翠晶だったんですか!」
「じゃあ、もし感づかれたらお前に任せるぞレジュアダ。序盤から難度30がウヨウヨいやがる。この先身が持たねぇぞ…」
ラファルトとレジュアダが冷や汗を流す。先ほどまでの痴女たちとは思えないほどの真剣な顔がそこにはあった。3人は廃墟の物陰を忍び足で移動する。周りのミストは徐々に光を失って暗く、濃くなっていった。
やがて、先ほどのローレライ入口から見えていた、奥の方の暗いミストの領域へとたどり着いた。
「うっ… ヤバい。視界が歪む!?」
ラファルトが頭を抱える。目の前の暗いミストの海が、廃墟の街道をグネグネ歪めていた。
「精神統一!」
レジュアダが再び唱える。
「レジュ姉、あそこ!」
ロウメイが指さす先には1匹の犬が何かの死骸を食い散らかしていた。黒い毛並みの大型犬だが頭部の上半分の頭蓋が露呈し、両目から絶え間なくオーロラ色のミストが炎のように噴き出している。
「ソウルリヴァイアハウンド…難度… え? 難度42………」
レジュアダが言うと、3人の血の気がサッと引く。
「おいおいおい、シャドウオブウィスプ以上にやべえぞ…つぅか、やべぇ、見つかったか!!??」
話している間にソウルリヴァイアハウンドは咀嚼を止め、こちらを凝視していた。
「でっ、でもインビジブルは展開してますよラファ!」
「動物の勧か… こうも大気にミストが満ちていると、その流れとかでも違和感に気づく場合がある。俺も狼だからな。最悪の場合、俺が完全獣化して純炎狼になる」
「アンタが完全獣化したらワタクシでも手綱は握れないかもしれないわよサラマンドラ!」
そうこう言っている間に、ソウルリヴァイアハウンドがこちらへ歩み始めた。
「ば、バレてます… バレてますよ!」
ロウメイが後退りする。
「もう無駄だ、ロウメイ! インビジブル解除しろ!! 戦闘だ!!! ガルルルルルルッ!!!!」
ラファルトが四つん這いになって尻尾と長い銀髪を逆立てる。ロウメイが琴に触れると琴の発光が消えた。
《ブぉお゛オオおお゛オ゛オオオ゛オ゛オオオぉォォン゛!!》
気味の悪い波長の雄叫びを上げるソウルリヴァイアハウンド。その口元は人のように笑っていた。突如魔犬が駆け出す。ラファルトは腰の短剣の片方を口に咥え、四本足で立ち向かった。
《ガキィィーーーン》
口のダガーと魔犬の前足の爪がぶつかり合い、高い金切り音が当たりに響く。
「う゛ぅ゛ンッ!!」
首を横に振りぬくラファルト。魔犬が数メートル後方へと弾き飛ばされるが、間髪入れずに襲い掛かってきた。
「ラファ姉!! 今狂戦士化の魔法を…!!」
ロウメイがそう叫んだ矢先、男の声が後方から飛び込んできた。
「3人とも左に飛びのけ!!」
《ボシュッ》
突如巨大な影が後ろから飛び出して来た。反射的に3人が左側へ飛びのく。
「消し炭だアアア!! 爆炎槍!!! ぬぅぅううううう゛う゛ん!!!!」
《ズッヒュゥゥウウウウウーーーーーーーンンン!!!!!!》《ゲヒゃッ…》
物凄い大きなモーションで、手に持った巨大な燃え盛る槍を空中から投擲する大男。とてつもない轟音とともに放たれた槍は、次の瞬間ソウルリヴァイアハウンドの全身を粉砕して後ろ側の廃墟の地面を粉砕した。
《ドッッ……………ゴォォォオオオオオン!!!!!!!!》
直径数十メートルのクレーターが地面に生成され、中心部に刺さった燃え盛る炎の槍は、光の粒子と化して大気へと消えた。あたりのミストがしばらく吹き飛ぶ。
一同「なっ!?!?」「すっご……!!?」「んだと!?!?」
3人が振り向いた先のミストから堂々と登場したのは、物凄い筋骨隆々の上半身裸の大男だった。肩までかかる長いボサボサの赤い髪とモッサリと伸びきった口の周りの顎鬚、鋼のような胸筋には逆三角形の胸毛、8段割れの腹筋の下には腹毛がそれぞれ生えている。そして、胸には大きなX傷がついていた。
「大丈夫か?」
低くて渋い声で大男が3人に語り掛ける。
「たっ、助かりました!」
ロウメイが膝を着く。レジュアダは杖にしがみ付いて必死にうんうんと頷いた。
「お、お前…何者だ?」
「…俺の名前はナパームクルス。クラスは炎聖だ」
「炎聖ナパームクルス!? 浄化の炎を纏う戦士の最高クラスだと!?」
ラファルトは先ほどの魔犬の残骸に目をやる。微かに残った骨と肉片には真っ白の浄化の炎が微かに点いていた。
ロウメイがナパームクルスの首にかけているネックレスを凝視する。
「その証、冒険者ですね。何処のギルドの方なんですか??」
プラチナ金属で加工されたその証には、三日月の中心から螺旋を纏った一本の槍が突き出ていた。
「月夜の因果… 夜光の祭典の冒険者の証ですわ…」
レジュアダが男に近づく。
「なんだ女?」
「アナタ、先ほど浄化の炎を操るとき胸元に魔術刻印が光りましたよね。我が一族の魔術刻印…『プロミネンスリリック』が」
《ザワッ》
ロウメイとラファルトが驚く。
「そうか。お前オッドニッサの女か… ふふふ、なるほどな。あの女の面影がある」
ナパームクルスはレジュアダの全身を舐め回すように見てからそう言うと、明後日の方角を向いて続ける。
「話は後だ。ここにとどまるのはヤバい。もうすぐこの一帯にミストブリザードがやって来る。難度40越えの魔物が流れ込んでくるぞ! 今すぐ南南東の方角を目指す!!」
「ミストブリザード!?」「南南東? どうしてです?」
ロウメイが尋ねる。
「お前たちも用があるのではないか? ココから南南東といったら向かう先はただ一つ」
_____死都アルカナの冒険者ギルド「深界迷宮」だ。
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[死都アルカナ 冒険者ギルド 深界迷宮]
ラナ王国唯一のギルド夜光の祭典は国土の南に位置する、海を展望できる台地の上に建てられた水色の神殿だ。日当たりが良く、国民にも好まれていた絶景の場所。しかし、今はその面影すらない。
午前中であるのに真夜中のように黒ずんだミスト、海っぽい何かは黒く蠢く何かへと変貌し、あたり一面はまるで何千年も前に滅んだ王朝の如き廃墟群。とても2年前まで人の街だったとは思えない。
ナパームクルスは現地ガイドの如く、正確に3人を導いた。廃墟の物陰から広場を覗く。そこには大きな建物が正面から内部まで抉られて外装だけ残ったような、屋根のない三すくみの古めかしい灰色の壁が建っていた。中央に穴があり、まるでその穴に周りのモノが吸い込まれて陥没したかのような全貌だ。
「アレは一体なんだ…」
「深界迷宮だ」
ナパームクルスはラファルトの問いに簡潔に答える。
「さっきからその深界迷宮とか言うのはなんなんだよ。ココの冒険者ギルドは夜光の祭典なはずだろ?」
「そうだ。ここはかつて夜光の祭典と呼ばれていた神殿の跡地。なんで深界迷宮と名称が変わったのかはここのギルドマスターに直接聞くといい」
「ギルドマスター!? まさかここのギルドマスターはまだ健在なの?? この有り様で!??」
レジュアダが驚く。
「夜光の祭典のギルドマスターは、宮廷守護騎士団直属の魔導元帥だったはずよ?」
「詳しいな女。元冒険者か?」
「いえ……… 冒険者だったのはクオリアよ。ワタクシはただあの娘のもたらした情報を知っているだけ」
清く見開いたレジュアダの藍色とエメラルドの瞳がナパームクルスをみつめる。その顔からは痴女の面影はない。
「本当に懐かしい。あの女は緋色とエメラルドのオッドアイだったな…」
「やっぱりアナタ、あの子を知っているのね。もしかして、行方不明の勇者ナ…」「ナパームクルスだ!」
一同「……………」
レジュアダの台詞に被せて、かたくなにナパームクルスと名乗る大男。
「では付いて来い。深界迷宮へ入るぞ」
「ちょっと待てよ。正面から行くのは危ない! 他に入口は? というかお前は入った事があるとでもいうのか?」
ラファルトが抗議するがナパームクルスは歩みを止めない。
「獣人の戦士よ、入口など正面以外にはない。そして、俺はここに来るのは3度目だ。しかも今回は向こうから招待してきた程… 何一つ問題はない」
「招待された!? 一体誰がここにいるというのよ…」
ナパームクルスの後をラファルトが、そしてレジュアダがロウメイの手を繋ぎながら付いて行く。先ほどから何も喋らないロウメイは、先ほどの炎聖の一撃を考えていた。
『難度42のソウルリヴァイアハウンドを一度の投擲で滅するなんて… 彼の力はここにいる誰よりもずば抜けている。それどころかアダマンタイト級に部類されても可笑しくない。こんな戦士が今まで何処に隠れていたというのか』
『まさかずっとこの地で…死の都で生き延びてきたとでもいうのだろうか…』
ロウメイは前を堂々とあるく大男の後ろ姿を見据える。
「まるで古代の戦神みたいだ」
3人は地を抉るように窪んだ神殿の残骸の中心の穴へとたどり着いた。洞窟のように開いた穴には地の底へと続くのではないかと思えるような深い階段が存在した。階段の両脇には青白い炎の玉が行く先々を微かに照らしている。
炎聖の陰に隠れるように階段を下りながら周りを観察する3人。しばらく降りると、地下とは思えないほどの大きな空洞へとたどり着いた。およそ闘技場一個分ほどはあるであろう広さで、中央にある祭壇の青白い光に照らされている。祭壇には何本かの大きな柱が聳え立っていた。
「何よ…この祭壇。こんな遺跡…遥か神話の時代の遺物としか思えないわ」
「その通りだ女。ここは神話の時代の人々が創り上げた夜光の祭壇。夜光の祭典ギルドの名前の由来であり、ラナ王国の王族が大昔からその存在を隠して来たもの。元々ギルドの地下に存在していた場所だ」
「そんな! まさか人界を牛耳るクラウディア教会にまで秘密にしてきたなんて…大聖女様が知ったら凄く驚きますよ! コレは、大発見だ!」
話をしながら4人は祭壇の中心にまで差し掛かる。死に絶えた都の地下に、このような神秘的な青白い神殿が存在していたことに感無量な3人。歴史ある帝国の城内であってもこれ程の年月を感じる美しい造形美には敵わないだろう。
ナパームクルスが立ち止まる。スゥっと息を吸い込むと突然大きな声を発した。
「約束通りまた来たぞ!! ギルドマスタァァアアアア!!!」
「キャッ!?」「んなっ、どうしたんだよ急に!?」「わぁっ!?」
3人が驚く。すると、祭壇の奥にオーロラ色のミストがゆっくりと集まり、次第に人の形を模った。
そこに現れたのは、禍々しいロッドを右手に持った漆黒のローブを纏ったスキンヘッドの老人の魔導師だった。アンデット特有の生気を感じない死肉を付けた頭蓋骨に、その両目からは青白いミストの炎が絶えず噴き出し続けている。頬の肉が少ないせいか、常に笑っているような骸骨の悍ましい顔がこちらを向いた。
《よくぞ参られた… 生きた人間共よ…》
身動き出来ずにいた3人のうち、魔女がガチガチと震えるその右手でペンダントを掴みとった。
「でぃ…テクトマジッ…ク・クリーチャーリファレンスッ」
翡翠晶が淡く光ると文字を紡ぎ出した。その文字を震えるレジュアダの代わりに読み上げるラファルト。
「オズマ・ミストリッチ。地底暗渠クリフォトの盟主。ハイアンデット属・ハイミスト科。難度………59!?!?」
「…終わったわ…ワタクシたち」
力なく膝から崩れ落ちるレジュアダ。ロウメイも棒立ちで戦意の欠片もない。ラファルトは何もできない子供のような表情で、目の前の化け物をみつめた。
《来てくれて嬉しく思うぞ… 亡国の勇者ナハト・レイラルド…》
「ナパームクルスだァアアアア!!!」
凄い剣幕でナパームクルスが否定する。
「…やっぱり、そうなのね」
レジュアダが確信する。
「約束だ、俺の槍『ドラゴンスピア』の在り処を教えろ! 宮廷守護騎士団直属 オズマ・リューベルト魔導元帥!!!」
《オズマ・ミストリッチじゃああああああ!!!!》
魔物特有の悍ましい地獄の底から響き渡るような声でオズマが唸る。両目と口から青白いミストがより一段と強く噴出した。
《教えるのは我の真の名を呼べるようになってからじゃ、ナハトよ》
「ナパームクルスだと言っているだろうが!!!! オズマ・リューベルトォォオ!!」
《オズマ・ミストリッチじゃと言うておるだろうがああああ!!!!》
「教えろハゲ!!」
《こんの若造がぁ!! 貴様も数十年後には禿げてワシの気持ちがわかるじゃろ!!》
「なんだと! やるのか!? ハゲ!!」
《やってやろうじゃないか、このションベン餓鬼がああ!》
素手で殴り合う二人。
一同「…は?」
突如物凄く稚拙な子供の喧嘩が目の前で始まった。伝説レベルの化け物とアダマンタイトレベルの戦神がバカみたいな理由で殴り合う。とても信じがたい光景が繰り広げられる。
「えっ… 仲良いの?」
レジュアダが気の抜けた声で言う。
「みたい… だな」「ですね」
3人はあまりにも現実離れした展開に頭を真っ白にして、殴り合う2人をみつめた。
《人の名前を間違えるなと、ガキの頃からあれほど教えたじゃろがアアア!!》
「お前は人じゃないだろう!! まだ人の気分でいるのかあああ!!」
《ええぃ… 産土の煉獄浄土の呻き…グレイスグレア!!!》
オズマが宙を舞い、爛れた死肉の左掌をナパームクルスへと向けて詠唱する。突如オズマの背後に無数のオーロラ色の炎の玉が現れ、ナパームクルスめがけて放たれた。
「ぬぅぅああああああああっ!!! プロミネンスゼクト!!!」
ナパームクルスの鋼の肉体が白く発光し、オズマの攻撃を全て受け切って弾き飛ばした。レジュアダは翡翠晶の文字を眺めながら実況する。
「闇魔法グレイスグレア、推定魔法力…天位魔法相当。プロミネンスゼクト、モンクスキル『ゼクト』と浄化の炎『プロミネンスフレア』のハイブリットスキル…闇無効化…」
目が泳ぐ魔女、冷や汗が止まらない他2人。
「オズマ・ミストリッチぃぃ…」《フシュゥゥウ》
《ようやく認めたか、ナパームクルスよ》
2名の化け物が落ち着いて向かい合う。
《約束の槍じゃ、受け取れい》
オズマが祭壇のミストから一本の槍を取り出すと、ナパームクルスへと投げ渡した。
「なんだこれは…」
槍を握りしめながらナパームクルスがオズマを睨む。
《ミストで強化したら上位武器へとレベルアップしたわい。神槍アナザドラグーン・ロードじゃ》
「フンッ… まぁいいだろう」
ナパームクルスは槍を暫く見つめるとそう言った。どうやら気に入ったようだ。
《そこの人間共も来い》
オズマが観客3人組を呼ぶ。3人は恐る恐る歩み寄った。レジュアダが恐る恐る尋ねる。
「…あの、宮廷守護騎士団のオズマ魔導元帥ですわよね?」
《元魔導元帥…じゃ。ワシは人を辞めた。今はオズマ・ミストリッチじゃからな!》
眩いミストの目がレジュアダを捉える。
「ハイっ!! …話が通じるようなので、一体何があったのですか?」
《話せば永くなる。とりあえず勇者が何度かここに通って、ワシは人の心を取り戻すことができた…のかはわからないがそんな感じじゃ》
《しかし身体がこうなってはもう後戻りはできん。ワシはここを冒険者ギルド『深界迷宮』として、この死の都に骨を埋めることにした》
3人「……………」
《これも何かの縁じゃ。ほれ、貴様ら3人分の我がギルドの冒険者証じゃ。他の人間が入れぬ死のダンジョンへ自由に出入りするがいい》
3人「えええっ!!??」
《冥界の出入り口となったこの地の、特別な依頼をあっせんしてやるわい。神話級のマジックアイテムとかが手に入る機会もあるやもしれぬぞ、ケヒャッケヒャッ》
「俺も持っている。安心しろ」
ナパームクルスがギルド証を皆に見せた。
3人「ええええええええーーっ!!??」
こうして3人は、神話の領域への通行許可証を手に入れたのであった…
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キャラクター紹介⑫ ナパームクルス
次話、薬師寺道楽からの依頼、明日です。
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