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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
16/61

16.いざ! 魔大陸へ!!

コロナや色々で気がついたら半年も空いてしまいました。小説投稿再開します。

 


[アルペンフット 悠久(ゆうきゅう)の丘]



 1ヶ月前、ディアステラ帝国の帝都ステラザイルの魔法省にて執り行なわれた第35回臨時対策会議。そこにて議題に上がった深淵のメサリアの行くへを追うべく、帝国は使者を送ることを決めた。その使者に選ばれたのが彼、ネイサ・ボルパラントだ。


 ネイサは茶髪ショートの身長188cmある青年で帝都にある魔術師赤十字会付属学院 高等部の回復系魔術師のたまごだ。何故回復系魔術師の彼が使者に選ばれたのかというと、彼が類希なる探索者(サーチャー)でもあるからだ。魔力係数の大きいものであれば、希少な回復薬の元となる薬草の在り処から、膨大な魔力を持つ魔術師まで、かなり遠距離からでも感じ取る感覚がある。しかし、それはあくまでも感覚であり、魔力量(マナ量)を正確に測ったり見たりするのとは別物らしい。


 ネイサは臨時対策会議の後、学院の先生であるロニエ・フロムロラン魔術師赤十字会会長に使者として推薦されたのだった。彼はいつも薬草を採集する時と同じ感覚で、自分の嗅覚便りでアルペンフットまでたどり着いた。途中、クルス・オグナの国境を越える際には勇者デューランからの通行許可証となるモノまで使って(やや密入国に近いかたちで)、ようやく捜し求めた人物の元へと辿り付けたのだった。


 しかし、彼は今絶体絶命の窮地にいる。身体は地面へと押し付けられ身動きを封じられた。ネイサを押さえつけている者は未だかつて見たこともない、見るからに危険な魔人中の魔人といったオーラを放つ者だった。その目は冷徹で赤黒い眼球に燃え盛る炎のような真紅の瞳をしている。



小童(こわっぱ)よ、おとなしくするのじゃ」



 その者は物凄く冷徹な声で言い放った。ネイサの背筋に稲妻のような寒気が走る。



「た、たすけてください! 僕は無害だ! お願いします!!」



 堪らずネイサは言葉を吐き出す。齢十八で終わる人生なんて嫌だ! まだまだ人生これからなんだと自分に言い聞かせた。



「逃げぬと約束するなら離してやろうぞ?」



「わ、わかりました! 逃げません! 離してください!」



 そう言うとすんなり魔人はネイサの身体を離してくれた。ネイサは恐る恐る目の前の魔人を観察する。その者は神話や絵本で見るような美しい女性でやたら造形が整っている。異種族の男であってもその美貌に魅入られてしまうほどであり、ネイサはそれが逆に物凄く恐怖だった。



「主が帝国からの使者なのはわかった。メサリアを探しに来たのであろう? わらわがメサリアじゃ」



「ばっ、バカな… メサリアさんは魔人だったのですか!?」



「わらわは魔人ではない。身体のベースは人じゃ。しかし魂は魔人だとでも言うべきかのぅ? ククク」



 メサリアが不敵な笑みを浮かべる。会話しているうちにネイサの警戒も少し弱まったようだ。少なくとも危害を加えられてどうこうされるということは無さそうだとネイサは考えを改める。



「魂は魔人… とてもそのような話、直ぐに信じることは出来ませんが…そちらの方々は?」



 ネイサはクゥエイスのほうを見た。



「私は魔王軍第4将のクゥエイス・ルフタです」



「ぬぁっ!?!?!?!?!?!」



 ネイサは堪らず声を上げた。



 目の前には明らかに魔人の中の魔人ともいえる、見た目の美しさと威圧感を兼ね揃えた紅き女性が一人。片や傍に控えるは魔王軍の四天王の一角である黒髪色白のドラキュラのような男。そんなトンデモナイ状況を招くという事実を、つい先日までの自分は知るよしもなかったのだなと、彼は驚愕する。



「魔王軍の…幹部!?!?!?」



 案の定心配していたように、クゥエイスはバカ正直に名乗ってしまった。この切迫した状況に追い討ちをかける。ネイサは気休め程度にしかならないと知りつつも、その身を構えた。



「ぼ、僕達人間の宿敵…魔王軍の幹部と一緒にいるということは、メサリアさん、あなたは人の味方ではないのですか!?」



「いいや、わらわは人の味方じゃ。コヤツはわらわがこの前打ちのめして、我が傘下に下ったのじゃ。わらわの思うがままに動くぞ」



「ハッ。メサリア様に打ちのめされた私は、もはや貴女様の(しもべ)。なんなりとお申し付けくださいませ」



「も、もう何がなんだか… あ! そこのアナタはもしかしてクレステルさん!?」



「ええ。そうよ、アタシがクレステル」



 ネイサは助けを求めるようにクレステルの方を振り向いた。しかし、その希望は疑念へと変わる。



「その褐色肌、よもやクレステルさんまで闇落ちしてしまわれたのですか!?!?」



「ち、違う。これは闇落ちじゃない」



 もはや説明が面倒になってきた。この状況をどう説明すればよいのか、この場にいる誰もが判らずにいた。



「ち、ちょっとメサリアちゃん。わざわざこの場でその喋り口調を試す必要ないでしょ。威圧的過ぎて私でもビックリした。別人かと思うわよ」



「す、すみません先輩。そしてネイサさん、ごめんなさい」



 メサリアが頭を下げた。その場の張り詰めた空気が一気に失せた瞬間だった。



「えっ……… ええーーーーーーーっ!?!?!?」



 ネイサが間抜けな声を上げる。



「だって先輩、先ほどルリちゃんに言われたんですから、試せる時に試さないとでしょ?」



「タイミングが悪いのよ!」



「タイミングと言えばクゥエイス、アナタ何度魔王軍って名乗るのよ、いい加減にしなさいよ」



「事実ですので。どうやら私は嘘を着けない性質(たち)なのかもしれませんね…」



「アナタそれでも敵地潜入のスパイ??」



 目の前で繰り広げられる、ただの人の会話となんら変わらないやり取りを眺めていると、姿かたちだけ舞台衣装で変装した役者たちのように見えてくる。


 ネイサはもちろん、人は魔人の普通の暮らしや生活態度など見たことも聞いたこともないが、案外私たち人と大差ないのかもしれない。ネイサはそう思った。



「あのぉ~~~、すみません僕はどうしたら~~~~~?」



「あ、すみません。ネイサさんですよね?」



「あ、はい。ネイサと呼び捨てで構いません! えーとメサリアさんでよろしいですか?」



「はい。メサリアでいいですよ。歳も19だから1歳しか変わらないし、ほとんどタメよタメ!」



「ええっ!? なんで僕が18歳ってわかったんですかぁ?? っていうかその見た目で19歳って!! …いや失礼」



「アナタさっき口に出てたわよ? 齢十八で死にたくないって!」



 すると、メサリアは変身を完全に解いた。もはやこれからミストレムリアへ旅立つのだから、二本角ともお別れだ。完全に元のメサリアへと戻る。



「ちょっ!! メサリアちゃん!!///」



「んぇ?」



 目の前の見るからに童貞そうな青年の顔がみるみる赤く染まって行き、そして彼はぶっ倒れた。



「ネイサさん!!?」



「メサリアさん、早く服を着られては? お身体に障ります」



「キャーーーーーーーー、全裸!!!」



 相変わらず無表情で無関心のような平常心貫き男クゥエイスに告げられて、メサリアは真っ裸なことに気がつく。



 変身後は体毛と翼で重要な部分を隠せているが、変身を解く時はどうにかならないものだろうか_____






 -------------------------------------------------------------------------------------






 悪夢のようだ_____



 ディアステラ帝国の魔法学院の生徒として、名誉ある最初の帝国軍としての任務がとある冒険者との接触というのはネイサからしても好条件であった。初任務から魔王軍との交戦に入ることこそ稀だが、流石に最前線の帝国なだけあって戦闘任務に就く確立は非常に高い。


 帝国軍の戦闘員は、基本攻撃特化の一個分隊と回復系魔導士のセットで構成されている。戦場における回復系魔導士の役割は非常に大きいからだ。そんな中ネイサは回復系魔術師としての役割ではなく、その索敵スキルを買われ、有名な方と会う機会にも恵まれ、上手くいけば今後のコネにも繋がる初任務を得たのだった。


 しかし… ネイサは目を開く。



「なっ!?」



 ネイサは縄で縛られていた。身動きが取れない。そして目の前には先ほどの3名が待機しこちらを見ている。



「ご、ごめんねぇ~~ネイサさん~~。ちょ~っとおとなしくしててね~~」



「ええと、メサリアさんですよね?? どういうことですかコレは?? やはり先ほどの魔人じゃないってのは嘘だったのですか!?」



 ネイサは今は人の姿に戻っているメサリアに対して喚く。



「ううん。私は人よ。でもね、今さっき3人で話し合ったんだけど、ネイサさんをこのまま帝国へ帰すわけにはいかなくなっちゃったかな」



「ど、どうしてですか??」



「この状況をどう報告するのかしら? 私が魔人の姿をして、魔王軍の幹部と一緒にいることを報告されたらこちらにはデメリットしかないの」



「そ、それは…」



「でね? 考えたんだけどアナタ…私たち3人に同行して一緒に魔大陸(ミストレムリア)へ行きましょう!」



「ええっ!?!?!?」



 突然の申し出に驚くネイサ。驚き喚こうとも縛られているので思うように驚けない。



「そ、そう。しばらくアタシたちと旅をすれば、アナタのアタシたちに対する疑念や疑心も薄れる…はず」



 クレステルが気まずそうに付け加えた。



「ですねぇ…」



 クゥエイスは相変わらずのスマシ顔で頷く。



「ぎ、疑心はともかく。僕がミストレムリアへ行くんですか?? そんな無茶な!? 僕みたいな低レベルの魔術士が魔大陸へなんて渡って生き残れるはずがないじゃないですかああ! 嫌だ!! 死にたくないい!!!」



「それは大丈夫よ。私たちが全力でサポートするわ! 完全サポートよ!! 大船に乗った気持ちでいなさい!」(フフン)



 メサリアはドヤ顔を決めた。



「嫌だあああああ!!! まだ死にたくないいい!!!」



「安心するが良い、小童よ。断っても、今ここでわらわが速やかに天へ送ってやるわ」《ギロッ》



(ヒッ!?!?)



 ネイサは身体を硬直させ息を呑む。



「メサリアちゃん、こわいこわいこわい! 落ち着いて!!」



 クレステルがメサリアの肩をポンポン叩いた。



「………かりましたよ……… わかりましたよぉ! 一緒に行けばいいんでしょう!! もとより僕に選択肢はありませんよもぅ。あなた方から逃げ切ることすらできませんから!」



「分かればいいのよ。では契約を交わしましょう」



「えっ!? 契約!?」



 メサリアはクゥエイスから一枚のスクロールを譲り受けるとネイサの目の前でおっ拡げた。



「コレは契約書(ファウスト)というモノ。契約者の行動を縛る代わりに、あらゆる経験値の入りが格段と良くなる代物。魔力特化の魔人にしか創れない優れモノ!」



「悪魔の契約じゃないですか!! どうなっちゃうんですか僕はぁ!?!?」



「折角私たちと行動を共にするのだから、強化できるだけ強化しようと思いましてね」



「まさしく強化人間、うしゅしゅしゅ」



「そうですねぇ… 我々高レベルの3人がサポートするのですから、この青年はあっという間に化物に…」



「ええええぇぇえ??」



「さぁ、理解したのであればネイサ、この契約書の下にアナタの名前を書いて!」



 ネイサは縛られていた縄を解かれ、メサリアから魔法の契約書(ファウスト)と魔法の筆を受け取った。半ばヤケクソでネイサはその契約書に自分の名前をサインすると、クレステルが契約書を受け取り空へと掲げる。



魔人の契約デモニックコントラクト!!」



 クレステルの手を離れ、宙に浮かんだスクロールはたちまち光を放つと、再び丸まった最初の状態へと戻り、勢い良くネイサの胸の中へと放たれ潜り込んだ。



「うわぁっ!?」



「は、初めてやったけど、せ、成功したみたいね」



「流石は先輩。魔人の契約デモニックコントラクトは封印魔法の一種ですからね。ネイサ、これで先輩に解除してもらうまで契約は続くことになりますから! あなたの行動範囲は私達3人の近くに縛られることになります」



「か、かしこまりました。とりあえず、メサリアさん…」



 ネイサはキョトンとこちらを見る、自分よりも遥かに背の低い少女を見つめる。



「め、メサリアさん、勇者殿の伝言は伝えましたからね。僕の使者としての務めは半分完了致しました。使者がいつまで経っても本国へ戻らないことに関しての説明と責任は… その、よろしくお願いしますよ?」



「うむ!」



 小さき少女は満足気にそう言った。帝国の、それも勇者様からの使者を束縛し返答をしないまま行方をくらますというのにコノ堂々たる態度。ネイサはメサリアの強者にのみ許されたその態度に感動を覚え、勇者に匹敵するそのオーラと勇者のそれを天秤に掛けても釣り合いが取れてる(むしろ勇者様の方が格下?)状況に安堵した。


 つまり、メサリアにその横暴さを帝国に押し通すだけの力を感じ取ったのだ。言ってしまえば、帝国からメサリアに鞍替えするような気分である。


 すると、タイミングを見計らったかのように新たな声が聞こえてくる。



「おぉぉーい。待たせたなぁお前達、準備は整った! おっ… 帝国の使者さんとの話は終わったようだなぁ」



 オルデイル・コサックがそれなりに大きな荷物と共に現れ、気の毒そうにネイサを横目に見つめてきた。重荷の下の方には酒瓢箪(さけびょうたん)が二つ程ぶら下がっている。旅の途中で酒盛りでもするつもりのようだ。



「えっ!? お、おじさんももしかして付いて来るつもり??」



 クレステルがオルデイルの旅支度を見て尋ねると、オルデイルが不思議そうな顔で返事をした。



「ったりめぇじゃねぇかよ。なんだ、俺がお前等を見送るためだけに準備してるとでも思ったのかよぉ~?」



「む、娘さんは?」



「今まで通り、長老さまに預けてきた。万事オッケーだ!」



魔大陸(ミストレムリア)の冒険は危険と隣り合わせですよ?」



「そこはほら、お前さんやクレステルや魔王軍幹部さんが守ってくれるだろ? いや、守ってくれや。俺はシルフ族の為にお前等と共に魔大陸の情報を持ち帰る! …正直言うと、お前らに付いて行くと美味しい話が転がってそうでさ。お前さんの力はこの世の中を動かせる力だ、俺もその動きの中核から世界を見てみたい!」



 メサリアに向けたオルデイルの表情は今までの中で一番真剣に思える。メサリアは諦めた感じで肩を落とした。



「まぁ長老様としても、1人シルフ族の手の者を同行させたいんだろうな。なんたってメサリアちゃんの古い知り合いなんだろ? それに俺はさぁ、人を見る目はあるんだよ。メサリアちゃんとクレステルは大物だぜ。なぁ、俺もそこの帝国の使者のついでに守ってくれよ、頼むぜ!」



「フフッ。わかりましたよ、善処はしますけど何があっても恨まないでくださいよ?」



「おうよ! 恨むならお前らと俺を出会わせた神を恨むぜ!」



 《談笑》



 そのやり取りを傍から眺めていたネイサからは、メサリアたちに抱いていた疑念や疑心などはもう感じ取れなかった…






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[アルペンフット |風の回廊]




 悠久の丘の先は断崖に近づくにつれて幅が狭まり光も届きにくい。その暗がりの先にシルフ族の管理する『風の回廊』がある。


 何故か地底から闇雲に吹き出す上昇気流を、オデュッサイル地殻断崖の亀裂に古代魔法で固定した風のエレベーターだ。入り口に近づくにつれて風の吹き出る轟音が大きくなる。シルフ族が管理するまでは地底に凄む竜の鳴り止まない咆哮と恐れられ、近づく者は誰もいなかったとされている。



 ネイサの旅支度を街で軽く済ませ、全員が風の回廊入り口に揃うと時刻は正午に差し掛かっていた。太陽は地殻断崖の真上に在り、人里に大きな影を落とす準備をしている。



「シルフ歴42年の俺でさえ、風の回廊を使うのは初めてだ。そもそもコレを使って魔大陸へ出入りしていたのはシルフ族の上層部の何人かと特定の魔人の行商人のみとされてっからなぁ」



「ま、魔人の行商人? 魔人との取引があるの?」



「まぁそう警戒するなクレステル。魔人との取引なんざ亜人国家クルス・オグナじゃ暗黙の了解みたいなもんだ。それなりの数の都市や街が魔人と密かに定期的な貿易を行ってるようだぜ? もちろん魔人との交易自体は表沙汰に出来ないから、魔人の姿を見られる亜人の数は限られているけどな」



「そういえば、先輩。カフェ・デ・ヴァナンの料理長が私のことを魔人と気付いていました」



「え゛っ? あのオークのおっちゃんが?」



「え゛え゛っ゛?? やっぱり魔人だったんですかメサリアさん!?」



「魂は、ってことよネイサ!!」



「そ、その魂が魔人って、未だに僕は理解できてないんですけれども」



「…旅の途中でそのうち打ち明けるわよ…」



 風の回廊の入り口を進むと、そこには中央ホールの上層部を飛んでいた役員達と同じ神官の正装をしたシルフ2名と白いローブの魔導師が1人待機していた。



「長老様の客人、メサリア殿ご一行じゃの? 待っておったぞ」



「薬屋のババァじゃねーか!!」



「誰がババァじゃ追放者如きが舐めた口を利くなコサック!!」



「えっ、お知り合い? というかババァとか失礼にも程があるわよおじさん。こんなに若くて美人さんなのに…」



 そう言ってクレステルがどう見ても20代前半くらいにしか見えない魔導師を見ると、彼女は優しく微笑んだ。



「ばぁか、シルフってのはエルフも同様、歳とっても大抵は若作りなんだよ。シルフの血が濃ければ濃いほど外見は歳を取らない。長老様がそうだっただろ? そこのババァも200歳以上だ」



 一同「えええーーーーーっ!?!?」



「そして俺はシルフの血があまり濃くないから、42歳にしてこのオッサン風な見た目だ。42つったらシルフの中じゃ子供と変わらねぇんだがよ」



「口を慎めぃコサック。これでもワシは長老様の子孫じゃからの」



「ルリちゃん、あの見た目で結婚してたのか… 負けた…」



 メサリアは膝を着いた。



「メサリアちゃん、前世では結婚してなかったの? 500年も生きていたのに?」



「結婚せずに独り身だったわね」



「まぁご子息はいませんでしたけど、結構な数の殿方と遊ばれて…」《ゴッ》



 メサリアが透かさずクゥエイスの腹をグーパンした。



「私も迂闊だったわぁ… フレイダに死の瀬戸際まで追い詰められるとは思っていなかったから、子孫も後継者も何も準備していなかった…」



「恐らく、今の魔王リディアスはかつての我が臣下、三魔皇(さんまこう)のうち最も始祖である私に近いとされていた黒き魔人、グラティオロス種のクリム・ゾランの子孫でしょう?」



 メサリアがクゥエイスの方を向いた。殴られた腹を抱えながら彼は口を開く。



「お察しの通りでございます。リディアス様はクリム様のお孫様でございます」



「あぁ、やっぱり…」



 ふとメサリアは列の最後尾に目を追いやる。そこにいる背の高い青年が表情を強張らせながらこちらを見ていた。



「一体……… あなた方は何を話しておられるのですか??」



「そうね………」



 メサリアは何かを諦めたようなため息をついた。その場になんとも言えない沈黙が垣間訪れる。そして一同は洞窟を進み、鳴り響く轟音の中、最奥の魔方陣へとたどり着いた。



 そこは巨大な縦の空洞で、真上は何処までも続いている。上層からは光が差し込んで来ていて、空洞はほんのりと明るい。魔方陣を設置してあるフロアだけ広めのホールのようになっており、フロアの中心部にある巨大な穴からは暴風が上昇し続けていた。文字通りの轟音が辺りに響き渡る。その巨大な穴にはうっすらと光る巨大な魔方陣が張られていた。天然の洞窟のあらゆるところに装飾や掘り込みや柱などがあり、雰囲気的にも神殿のホールのようだ。



 メサリアが轟音と暴風に耐えられずといった具合で両目を瞑り、口を開いた。



「魔導士の方!! 準備は出来ています!! さっそく私達を!!!」《きゃああ》



「合い分かった!! 説明は受けていると思うが!!! シルフのコサック以外は補助魔法ウィングオブセラフで妖精の光の羽根を生やしてもらう!!! そして補助魔法パーティオブセラフでパーティメンバーが上昇気流でばらばらにならないように見えないチェーンで繋ぐ!!!」



 魔導士が2人の神官に目で合図を送ると、2人は頷いて魔方陣の反対側の配置へと向かった。



「後は光の羽根が勝手に風を受けて体が上昇していくからの!!!! コサック坊!!! 上昇しながらの微調整は貴様がやれ!!!」



「わかってるっつーの!!! ってことで嬢ちゃんたちと兄ちゃんたちよぉ、噴出孔の魔方陣の円に沿って満遍なく散らばって!!! 俺が合図したら一斉に飛び込め!! いいな!!?」



「んえぇ!? おっちゃん!!! 最後聴こえない!!!」



「あーいーずーしーたーらー!!! 一斉にーー!!! 飛び込めー!!」



「わーかったーー!!!」



「クレステル!!! そんな重装備だからー!!! 聞こえねぇんだよ!!!」



「んあー??」



 口をわざとらしく開いて大声で会話するオルデイルとクレステルだが、決して大げさではなく、そうしないと声が聴こえないくらいに風の轟音が凄い。その上クレステルはアルペンフットへ来たときよりも更に過剰に探検服やゴーグルやメットなどを被っており、一見誰だお前というくらいには誰か判別し辛い風貌をしていた。



 《ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!》



 一同は噴出孔の巨大な魔方陣に沿ってばらばらに配置完了した。



 魔導師と神官2人が杖を掲げると、魔方陣が強めに発光し始めた。



「我らが始祖ユノレヴィアよ、この者達に羽根と妖精のご加護を授けたまへ!!!」



「ウィングオブセラフ!!!!」「パーティオブセラフ!!!!」



「今じゃあ!!! ゆけぇ、天の彼方へぇ!!!!」



「お、お前等ぁあ!! 飛び込めぇえ!!!」



 魔導士とコサックが叫ぶと同時に、全員が一斉に穴へと飛び込んだ。



「きゃああああああああああああああああああああああ」「うわあああああああああああああああああああああ」「のわあああああああああああああああああああああ」「あわわわわあああああああああああああああああああ」「はっはっは、これはこれは楽しいものですねぇ……」



 一同は濁流に飲まれたか弱い魚の群れのように天井へと消えていった。






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 風の回廊の見所は、オデュッサイル地殻断崖の亀裂の裂け目からの景色を、上昇しながら眺められるところにある。クルス・オグナの大地から更に先のメーデリアの緑の大地や、蒼く鮮やかな南の海などを一望出来るのであった。


 上昇速度もそれなりに緩やかになり風の轟音も多少落ち着く頃になると、それまで叫んだり喚いてた一同もようやく落ち着きを取り戻しお互いに会話できるくらいになっていた。



「凄く綺麗… こんな上空からの景色なんて見たことがないはずなのに、なんだかとても懐かしい感じ…」



「かつての貴女は見ていたでしょうからね、この景色を」



 人界ウルバニア大半島の景色を一望しながら、メサリアはその景色に心奪われる様子だった。クゥエイスがメサリアをなだめるような口調で口添えする。



「へへへぇ、おじさんはこっちの景色の方が好きだぜぇ!」



「ぎゃあああ! ち、ちょっとオジサンやめてよ! アナタこの気流の水先案内人なんだから一番上に行きなさいよ!」



「言われなくてもなァ! 魔大陸に入っちまえば、どうせ俺の活躍できる場なんて今この時と、飯を作る時くれぇのもんだからよッ!!」



 クレステルの真下でローブの中を覗いていたオルデイルは、シルフの羽根を自在に操り一同の一番上へと移動した。



「なんという一日だ… 現実味がありませんよ、もう… こんな景色が拝めるだなんて」



「帝国に閉じこもってちゃあ、この景色は見れないわね、うんうん」



「いや、メサリアさんが魔大陸(ミストレムリア)へ行くと言わなければまず見れませんでしたよこの景色はぁ」



 精神的に一番不安定で心配だったネイサは、なんだかんだいって顔に笑みを浮かべていた。満更でもないといった感じで景色を楽しんでいるようだ。それもそうだろう、彼は殆どの人がその短い人生で眺めることがないであろう風景を目の当たりにしているのだから。


 メサリアはふと先ほどのことを思い出す。魔導士のシルフが下の魔方陣で唱える時に口にした名前はかつてのメサリアの友人とされている者の名前であった。メサリアにその記憶はない…



『始祖ユノレヴィアか… ハイエルフの旧友…』



 目先のクレステルを視界に捉えつつ、メサリアは思い出す。補助魔法パーティオブセラフとウィングオブセラフはその詠唱時の祝詞(のりと)が示すとおり、起源の存在から力を借りる原始魔法の一種なのだろう。メサリアの内に秘めたるジュピタリアの知識がそう囁く。


 しかし、メサリアが目にしたのは、魔導士が唱えた直後にクレステルから光が放たれ皆に鎖が紡がれるといった現象だった。



『先輩もハイエルフだから、始祖と何か関係があるのかな?』



 _____知りたいか?



 《ドックン!!!》



「!?!?」



 突如心に鳴り響いたように感じた。言葉がメサリアに訴えかける。メサリアは両目を瞑り、息を一度大きく吸ってから吐いた。




『知りたいか?』



「あなたは、誰??」



『俺はお前だ』



「私?」



『そうだ。俺はお前であり、お前は俺でもある。俺がいなければお前は生まれず、そしてまたお前が生まれなければ俺もここには存在しない』



「まさか、貴女は…」



『もう気づいているんだろう?? 俺だよ俺』



「私の人生を狂わせた元凶にして、私の中に眠る大きな存在…」




 《魔王ジュピタリア・メイザー!!》




「ククク、酷い言われようだな… どうあがこうが俺はお前自身だというのに」



 真紅の長い髪をなびかせながら、ジュピタリアはメサリアの中で不敵に笑った_____





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次話も早めに投稿心がけます。

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