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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
15/61

15.シルフのロリ長老曰く

随分と感覚が開いてしまいましたが、最新話よろしくおねがいします。


下部、キャラクター紹介追加しました。

 



 [高層集落アルペンフット 中央ホール]




「全員揃ったな」



 横から朝日に照らされる中、オルデイル、メサリア、クレステル、クゥエイスの4名は地殻断崖麓に並ぶ高層集落のうち中央に位置するひと際巨大な円柱の建造物の前まで来ていた。見たことのない金属で造られたその円柱の巨大構造物はその後ろ半分が地殻断崖の壁にめり込んでいる。もしかしたら、その構造物は半円柱でめり込んで見えるのは目の錯覚でしかないのかもしれない。


 その時の流れを感じる古びた塔ともいえる構造物に、メサリアはどこか懐かしさを感じていた。



「む… 貴様、先ほどの(あやかし)か。ダークエルフだったのか」



 ブリッツと呼ばれていた衛兵がクレステルを見てそう言ったが、もはや誰も突っ込みを入れなかった。



「貴様の服装、我々の里の伝統衣装である中華服(ちゅうかふく)に通じるものがあるな。それっぽいというか、もしかしたらルーツは同じなのかもな。我々シルフは遥か昔にエルフから派生した種族と言われているしな」



「んー、どうなのかしら。あ、アタシの故郷の伝統衣装ってわけではないけど、アタシが特別好んで着てるって感じ?」



「クレステル! お前服の代え持ってたのかよ、だったら服取り替えるくらいすりゃ良かったのによ!」



「嫌よ。着替える時はお風呂の後って決まってるじゃない。大元の身体が汚いまま綺麗な服着るのって抵抗ない??」



「んやわからねぇよ! いや、わからなくもないがよぉ…」



「そもそも、定期的にメサリアちゃんがアタシに水系魔法(アクアマリン)を使ってくれさえいればアタシももう少しまともだったかも…」



「んえぇぇえ!? 私のせいですかぁ先輩?? 魔法も万能ではないんですよぉ~、水の無い砂漠で水系魔法をバンバン使えたら都合良すぎでしょう。皆さんの飲み水と、少し顔洗う程度の量しか精製出来ませんでしたね。なんででしょう、炎や雷や土や風の魔法なら特に環境に余り左右されずに使えると思うんですけど、水だと空気中や土壌の水分が足りない場所だと使えないのかな」



「メサリアさんの様に魔力がある方でも、魔法は使用する環境に左右されるものですからね。まずは環境から変える必要があります。まお…メサリアさんの場合、天候操作系の魔法で雨を降らせてからアクアマリンを使えばよろしかったのではないでしょうか?」



「あ、その手があったか。で、でもほら? 私途中まで皆に正体隠してたから、その感覚で大それた魔法なんて使う気になれなかったというかぁ? あはははは」



「…むぅ。何やら良くわからんが… 貴様ら! 準備ができたなら中央ホールへ入るぞ。静粛にしろよ? ここは族長もとい長老エゥルリカ様がいらっしゃる神聖な場所だからな」



 メサリアたちの会話を衛兵ブリッツが締めくくると、一同は中央ホールと呼ばれる円柱の巨大な構造物の入口へと歩みを進めた。正面入り口のそれなりに大きな扉の前へ来ると、ブリッツは言い放った。



「開け~~~ごま!!」



 《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ》



 大きな扉が開き始める。



『はぁ? 何その呪文!?』



 メサリアが心の中で突っ込みを入れたのも虚しく、一同は中央ホールへ入場を果たした。



 一同「おおおおおぉぉ…」



 絶景だった。中央ホールの内部は空洞のように上まで筒抜けで、ホールの壁にある無数の窓から朝日が光線のようにホール内部へと降り注いでいる。光源はその窓の光だけでホールは全体的に暗く、逆にそれが神秘さをかもしだしている。ホールの天井はもの凄く高く、更に建物内だというのに上層部は霧がかっているようで、暗さも相まってか最下層からは見えなかった。窓からの光に度々映し出される無数の煌めきは、ホールの上層部を飛び交うシルフ職員の羽根の反射で、まるで妖精が舞っているかのような光景だった。



 衛兵ブリッツがホール中央に立って、言い放った。



「長老様!! 先ほど通達しました追放者オルデイルとその一味を連れて参りました!!」




 _____左様かぇ_____





 子供の女の子の声がその場に響き渡る。響き渡るというよりは頭に直接念話してくるテレパスのような感覚だ。


 間もなくホールの上層部から小さな女の子が舞い降りてきた。その姿はクレステルの着ているような伝統衣装を纏い、髪の毛は真っ白で両サイドでもみ上げを結び肩の前に持ってきている。肌は白く、その瞳は瑠璃色だった。


 その者は地に足を着く寸前で、宙に浮いた状態で静止した。



「皆の者! 長老様だ! 無礼のないように!」



 ブリッツが軽くお辞儀をすると、視界の端へ控えた。



「皆の者、よくぞ参られたのぅ。ワシがこのシルフ族の族長、もとい長老を務めておる『エゥルリカ・ベルティ・フォン・シルフェ』じゃ」



「長老ですか? 幼い女の子が?」



「じ、じじい言葉の幼女、新しい。デュフフフ」



 クゥエイスとクレステルがそういうと、オルデイルが前へ出てしゃがみ込んだ。



「お、お前ら長老様にそれは失礼だぞ! …長老様、ご無沙汰しております。このオルデイル・コサック、2年ぶりの帰還を果たしました。追放された身ながら、再び長老様のご尊顔を仰ぐ御無礼をお許しください」



「良い。久しいのぅ、オルデイルよ。そしてよくぞ参られた異邦の者たちよ。ワシはこんな成りじゃが、これでも500年以上は生きておる。シルフの中でも風の妖精シルフェに近い血筋での、シルフがシルフェから派生したとされる800年程前の代の先祖返りとも云われておる」



「はじめまして。私は亡国の聖女メサリア・ノア・ヴァルフと申します」



「は、はじめまして。アタシは同じく亡国の魔導士クレステル・ユグドラ」



「魔王軍第4将クゥエイス・ルフタでございます」



「!!?? ハァ!?!? 魔王軍???」



 視界の端で衛兵ブリッツが構えの挙動をすると、長老エゥルリカが手でそれを抑えた。



「良い。ある程度は我が里へ来た時に既に感じ取っておる。悪意がないことはとうに知れておる」



「おい… クゥエイス… だからそこは流石に隠せとあれほど…」《コソコソ》



「すみません、メサリアさん…」



「ふむふむ、色々と複雑な事情がありそうじゃのぅ。してオルデイルよ、クリスタルオーヴをワシに見せよ」



「ハッ… こちらでございます」



 オルデイルはあらかじめ用意していたクリスタルオーヴを長老へと献上した。



「ほほぅ、これはたまげたわい。確かにクリスタルオーヴに失われたはずのマナが満たされておるのぅ。じゃが、2年前にクリスタルオーヴが内包しておったマナ量はせいぜい7割といったところじゃ。しかし今のコレは完全に満たされておる」



「なっ… まことですかソレは!?」



 ブリッツが驚いてつい言葉を挟んだ。



「うむ。ワシもコレがかような輝きを放つのを未だかつて見たことがないわい。どのような手品を使った、オルデイルよ?」



「…そ、それは」



「ふむ。おおかたお主の連れが関係しているのじゃろうて」



 エゥルリカはオルデイルの後ろに控える3人を見据える。



「随分と不思議な組み合わせよのぅ。ダークエルフに魔人に… そちらの牛のような女子(おなご)は魔人かや? いや、人か…」



「エゥルリカ様。こちらのメサリア・ノア・ヴァル殿が」



「ヴァルフ!」



「わ、わりぃ。ヴァルフ殿がこのクリスタルオーヴを2日で満たしてくれました」



「2日で!? 馬鹿を言うな!!」



 再びブリッツが視界の端から言葉を挟む。



「ほ、本当だ! 信じてくれよ!」



 エゥルリカは目を細める。



「ふむ。メサリアとやらが、ただ者ではないことくらい最初からわかっておるわ。して、何か意図があってのことじゃろう? 見返りはなんじゃ」



「オルデイルさんから聞きました。シルフの持つ地殻断崖の上への道『風の回廊』の使用許可を」



「なるほどのぅ。まぁ言うほど切羽詰まってもおらぬのじゃろう。クリスタルオーヴを満たす程のマナの持ち主が、その気になれば自力で地殻断崖を越えることができるのくらいワシにだって分かるわい」



「えっ!? そうなのメサリアちゃん!?!?」



 クレステルがとっさに隣のメサリアへ振り向く。



「ま、まぁやり様はいくらでも思いつきますよ先輩。でも一応人としてのルートを模索するべきなので…」



「あぁ… そゆことね…」



「ふむ。とりあえずオルデイルよ、どのような形であれお主の使命の旅は果たされた。この時点をもってお主の追放罪の刑を取り消す」



「ほ、ほんとでございますか長老!!?」



 オルデイルがしゃがみ込んだ体制から身体を起こす。



「じゃが、お主の身勝手で軽率な行動のおかげで一族の宝のひとつが効力を失ったのも事実。今回はたまたまそちらのメサリアとやらに出会えたから良かったものの、本来ならば終身刑となっていたことをしかと受け止めよ」



「ハハーッ! このオルデイル、しかと受け取りました!」



「貴様軽すぎるぞ、もっと反省しろ!!」



 ブリッツがまた横槍を入れた。



「オルデイルよ、そなたがクリスタルオーヴを使ってまで救ったお主の娘の命、娘本人はどう思っているのかのぅ? 後で本人に会ってやるとよい。あ奴も父親が恋しかったじゃろう」



「ハッ! ありがたきお言葉!」



「娘!? 父親!?!?」



「お、オジサン結婚してたのね」



「なんだなんだその目は、俺にだって国宝を賭してまで救いたい娘がいるんだよ」



「…親バカ」



 《談笑》



 エゥルリカが足を浮かせた状態で4人へと近寄る。



「わしからも礼を言うぞ、メサリアとやら。結果論じゃが、我がシルフの国宝が未だかつてない輝きを得て我が手元に戻ってきた。感謝する」



「いえいえこちらこそ。では風の回廊を使わせていただけるのでしょうか?」



「うむ、使用許可をやろう。しかし、条件がひとつだけある」



「条件…ですか?」



 伝統衣装を纏い羽根を生やした幼女は、間を置いてから告げた。



「お主、この場にて本来の姿を晒したもれ!」



 一同「!!??」



「クリスタルオーヴを容易く2日で満たす程の魔力の持ち主。その名も『深淵のメサリア』じゃったかのぅ? まさかワシがお主をただの人と言われて信じるとでも思ったかぇ?」



「深淵のメサリア!? メサリアちゃんが??」



 オルデイルが慌てふためく。



「そして、そちらのダークエルフは『破錠のクレステル』ときた。…ハーフエルフと聞いておったがのぅ」



「なぬっ!? 破錠のクレステルって大解除魔導士の? クレステルが!?」



 またまたオルデイルが驚愕する。



「最後にそちらの魔王軍第4将のクゥエイスとやら。我らシルフも亜人も魔王軍とは敵対しておらなんだが、それでも魔王軍の幹部が何故オルデイルと共にいるのか。その理由は聞くまでもないのぅ、そちらのメサリアとやらが関係してるのじゃろう?」



「……………」



「幸い今日はホールを飛び交う職員も少ない。特に人目を気にすることはないじゃろ?」



 エゥルリカはそう言ってホールの上層を仰いだ。クレステルとオルデイルはメサリアの様子を伺う。



「メサリアちゃん? 嫌なら嫌って言ってもいいのよ?」



 心配そうにクレステルが尋ねるが、クレステル本人はメサリアのかつての魔王としての姿を拝みたい気持ちと半々といったところだった。これからも良きパートナーとして一緒に旅して行きたい、だからこそ彼女の深淵、彼女の正体までシッカリと目に焼き付けておきたい、知っておきたい、そういった気持がクレステルに溢れて来たようだった。



「エゥルリカ様! そりゃあちょっと、俺はメサリアちゃんの力で救われたし、メサリアちゃんが理由(わけ)あって正体を隠してるのだって知っている。恩を仇で返すような真似はしたくねぇし、そりゃあシルフの恥になっちまう!」



「きっ、貴様!! エゥルリカ様のお言葉が恥と抜かすか!!」



 再びブリッツが横槍を入れた。



「よい… ワシだって多少は自覚しておるわい。じゃが、好奇心が遥かに勝る。まぁ良いではないかぇ? 断ってもうぬらは自力で崖を登れるのじゃからの。強いて言うなら、歳上の頼みごとは聞くべきじゃということかのぅ?」



 エゥルリカが幼女の姿で生意気そうに年上風をふかせた。彼女はフフンといった感じにその右肩に乗っていたおさげを右手で軽く払う。



 《ピキッ》



 一瞬背筋が凍るような気配が一同を襲った。



「いいでしょう。私もそんなアナタが恐れ慄く様をみてみたくなりました。後悔しないで下さいね?」(ニッコリ)



「ほぅ? 言うではないか餓鬼が。このワシが慄くじゃと? 言っておくがコレでも亜人でトップクラスの魔力の保持者じゃ。そこらのぽっと出じゃ話にもならぬ。ワシがうぬを見極めてやるからはよう晒すとよい」



 エゥルリカは先ほどまで取り繕っていた表向きの態度を急変させ、明らかにメサリアを挑発していた。



「お、おいおい2人ともぉー!」(汗)



 オルデイルが慌てふためき、クレステルはハラハラドキドキ、クゥエイスは無心だった。



 エゥルリカが宙に胡坐をかいて右腕の肘をついて頬を乗せた。



「それ、晒したもれ。ワシが見極めてやろうぞぇ」(フフン)



 3人がメサリアから少し距離をとると、メサリアは羽織っていたローブを脱いで薄着になった。



「ちょっ、メサリアちゃんよぉ、こんなところで///」



 オルデイルが鼻血を吹き出しそうになって鼻を抑える。



「うへへぇ、相変わらずいい身体してるわぁメサリアちゃん」



 クレステルがヤラシイ表情で茶化す。



「だって、毎回変身するたびに服を新調するのは勿体ないじゃないですかぁ」



「変身じゃと?」



 エゥルリカが首を傾げると、それを見たメサリアが笑みを浮かべた。あたりを黒い霧のような靄が漂い始める。




 そこにいる誰もが見ていた、そして目を疑った。先ほどまでそこにいた金髪の聖女の髪の毛が、燃え盛る炎のような真紅に染まりあがる。



 両手両足は火竜のような鉤爪のものへと変化し、肉つきの良い太ももと股ぐらから下半身は紅い体毛に覆われ、両目は鋭くつりあがり、口からは牙が生える。純白の薄着が引き裂かれると、大きな乳房が現れ、妖艶な魔獣の容姿へと変化した。



 身体をのばすと、生まれたての雛が羽を伸ばすかの如く、黒い大きな翼竜の翼が背中の腰あたりから姿を現す。そこには神話にしか登場しないであろう妖艶で美しくも猛々しい魔人の姿があった。




「なっ…!?!?」



 衛兵のブリッツは絶句している模様。



「しゅ、しゅごい! メサリアちゃんカッコイイ!」



 クレステルは目を輝かせていた。



「お懐かしいお姿、感激でございます!」



 クゥエイスは感涙のご様子。



「えぇええええーーー!?!? うっそぉぉーーーんッ!!??」



 オルデイルが目玉が飛び出るほど驚愕して叫んだ。



 そして、シルフの長老エゥルリカは… その足を地に着いていた。身体を小刻みに震わせ、我慢できないといった具合に膝から崩れ落ちる。見開いたその目は涙で滲んでいた。



「…え? ………えっ??」



 エゥルリカは思考停止している。するとそこにメサリアが魔人の姿で歩み寄った。構図的に見下す形でメサリアは目の前の幼女に告げる。



「俺様に生意気な態度をとるたぁ、お頭(おつむ)は随分と成長したじゃねぇか、シルフの先祖返りのクソガキが」



「あっ…あぁ………!」



 赤ん坊が這い蹲るようにエゥルリカが両手両足を地に着いた状態から右手を伸ばした。その手は震えている。



「きっ、貴様ぁ! 長老様に何をした! 長老様から離れろ!!」



 衛兵のブリッツが精一杯の言葉を紡ぎ出したが、その身体は硬直してその場を離れられずといった具合だ。そんなブリッツを横目にメサリアはエゥルリカを抱き上げると、エゥルリカの頭をなで始めた。



「達者だな、ルリちゃん」



「うっ… ジュピ姉ぇ! なんでっ、なんで生きてるの?? ふぐぅぅッ」



 目から涙が溢れ出し、突如エゥルリカは赤子のように泣き出した。



 ホールの上空を飛び交う数名のシルフ職員も、何事かといった具合でその歩みを止めていた。あたりをエゥルリカの泣き声がこだまする。



 メサリアはエゥルリカを抱きかかえながらクレステルの方へ歩み寄る。そして視線を少し落としながら言った。



「先輩、これが俺の姿です。こ、怖いですかね?」



 クレステルは拳を強く握り、勢いをつけて一歩前へ歩み出た。言葉を飲み込む。



「ううん? 全然怖くないよ。変身したのはアタシに見せるためでもあったんだよねメサリアちゃん………ありがとう、見せてくれて」



「先輩…」



「なんじぁ、随分とまぁむず痒いのぅ。まるで男女の恋仲を見ているようじゃぞ?」



「うわぁっ!?」「ブッ!?」



 メサリアとクレステルは幼女のツッコミに不意を突かれる。メサリアの腕の中でうずくまっているエゥルリカはその涙を拭って続けた。



「本当に…本当にビックリしたわぃ。そんじょそこらのぽっと出の魔力系バカくらいにしか思っておらなんだから、少し先輩風を吹かしてやろうと思った挙句がとんでもない事実じゃわい」



「どういう関係なの?」



 クレステルが尋ねる。



「エルフの小娘や。ワシとジュピタリアは義姉妹(ぎきょうだい)といったものに近い。かつてワシが幼子の頃、亜人と魔人の友好の証として、暫く魔王城に厄介になっておった時分がある。じゃから、500年前お姉さまが勇者に敗北したと聞きし時は激しく勇者を憎んだものよ。しかし、生きておったとはのぅ…」



 幼女のうっとりした視線を受けつつもメサリアは説明する。



「転生だ。俺は人の女に転生し、つい2年ほど前に前世の記憶に目覚めた。だから今の俺様は俺であって俺じゃない。メサリアとしての自我が強いからな」



「なんと! ではやはり最初に人か問うたのは間違っておらんかったようじゃのぅ」



 ふと3人は周りの視線に気づく。ホールの上層に浮いている職員数名も衛兵ブリッツもオルデイルもなんだなんだとコチラを注視していた。



「聞け、この場にいる皆の者たちよ! 今ここで見聞きしたことは他言無用、この者たちにまつわる事も他言無用じゃ! まさか長老たるワシが泣き喚いたなどと言いふらす輩はここにはおるまい? 心得たかや?」



 一同「ハッ、畏まりました長老様!」



 シルフ一同が揃いも揃って返事をする。エゥルリカは肩の力を抜くと2人を腕の中から見上げた。



「これで満足かや?」



「そ、そうね。メサリアちゃん?」



「上出来だ、クソガキ」



「まださっきワシが餓鬼呼ばわりしたことを根に持っとるのかぇ、姉さまよ。本当にすまぬ… じゃから昔のようにルリと呼んでたもれ」



「わかったよ、ルリ。しかし俺は転生したから、実際に魂の年齢的には同い年くらいになるわけだがなぁ…」



「ふむ、確かにのぅ。奇妙なものじゃな、姉と慕っておった者に歳が追いつくというのも」



「ちなみにルリよ、先ほどクレステル先輩のことをハーフエルフと言っていたな。それは間違いだ、先輩はハイエルフだからな」



「な、なんと!? ハイエルフと申すか、このダークエルフの娘っ子が!!??」



「いや先輩はダークエルフでは…」



「いと懐かしや。思い出すぞ、ワシが姉さまのところへ召喚された時のことを。あの時もハイエルフであるユノさまの紹介でワシは魔王城へ赴いたのじゃったの」



「ユノ…ユノレヴィアか。くっ、俺様としたことが、記憶がっ!!」



「め、メサリアちゃん。口調が、はわわわわ」



「あー、すまん先輩、どうも昔の口調に戻っちまう。折角だからこの際新しい口調に変えちまおうかな」



「ふむ… ならばワシからの提案じゃ姉さまよ」



 コホンと幼女が間をおく。



「…そのお姿の時の一人称は『わらわ』、口調はワシと同じ感じの『ジジイ言葉』を色っぽくした感じでどうじゃろうかの?」






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 [アルペンフット 悠久(ゆうきゅう)の丘]




 時刻は午前11時を回ろうとしていた。太陽は真上まで登り、もう少しで地殻断崖の裏に隠れてしまう。中央ホールで長老の認可を得たメサリアたちは風の回廊のあるアルペンフット南部の悠久(ゆうきゅう)の丘へと来ていた。悠久の丘は高層集落を見渡せる高い場所にある丘で、丘の先には風の回廊の入口がある。丘の上からの里の眺めは中々の絶景であった。


 オルデイルは娘に会うべく一度皆と別れ、後ほどこの丘で合流する予定だった。それともう一つ、先ほどエゥルリカに告げられたことだが、どうやらこの街に数日前から帝国からの使者なる者が滞在していて、メサリアたちとの接触を図っているとのことだ。人である彼が厳戒態勢のクルス・オグナにいることは非常に危険であり、エゥルリカの独断で密入国した彼をかくまっているらしい。エゥルリカがメサリアの話を聞いたのも彼からだったとのことだ。


 彼とはこの丘で会えるようはからってもらっていた。



「帝国からの使者が私を探してここまで来るとはねぇ。しかも、話から察するに帝国の正式な使者って感じ?」



「概ねメサリアちゃんの噂を聞いて、せ、接触を図ったってところでしょ。魔王軍と交戦中の帝国にとって、強い味方のカードは揃えておきたいところだと思うの」



「そうだとして、先輩。今一番まずいのはクゥエイスの存在ですよ。魔王軍と交戦中の帝国の使者が、私に会いに来たら魔王軍幹部と一緒にいたって、もう最悪じゃないですか!」



「わ、和解は無理そう…よね?」



「無理ですよー!! 帝国の正式な使者ってことは帝国軍の手下。どう考えても戦時下の今じゃ和解なんて無理無理!」



「でもその彼が用があるのはメサリアちゃんにだよね」



「用があるのが私に対してだとしても! 私が既に魔王軍の幹部と一緒にいることが問題ですよ。下手な情報を帝国に持ち帰られたら、私が人類を裏切ったって話になりかねない!」



 するとクゥエイスが提案してきた。



「私が魔王軍幹部で魔人であることを隠し通せばよいのでは?」



「いやまぁ、そうなんだけれども。アナタ、自分から晒していくタイプじゃない? 自己紹介の時に直ぐ名乗っちゃうでしょうが!!」



「……………」



 そんなやり取りをしていると、丘の麓から登ってくる人影が見えた。その者はフードを被っていて様子を伺えないが、おそらくは帝国からの使者であることは間違いない。



「お~~~~い! お~~~~~い!」



 マントの男が手を振ってくる。



「すみませ~~~ん! お待たせしました~~~!」



 クレステルの後ろあたりから登って来た彼はメサリアからだと少し見づらかった。クレステルとクゥエイスが間にいるので邪魔だった。



「こちらに深淵のメサリアさんがいると聞きまして。ハァっハァっ、この丘キツぅー! 1か月程探してようやく会えましたよぉー、ハァっハァっ」



 かなり若いであろうその男は、息を切らしていて地面を向いている。その顔は伺えない。



「ええ。私がメサリア・ノア・ヴァルフです。アナタは?」



 メサリアがクゥエイスを除けて前へ出た。



「あっ、はい! 僕はネイサ・ボルパラントという者です。帝国の勇者デューラン・ディアステラ様からの依頼で、勇者様が是非メサリアさんにお目にかかりたいとの話でして~~、ハァっハァっ」



「帝国の勇者が私を?」



「はい! そうなんです。実は…」



 使者の男は頭にかかったフードを脱ぎ、顔をようやく上げた。



「!?!?!?!?!!?!?!?!?」



「はぇ?」



 顔を上げた途端に衝撃を受けたかの如く身体を硬直させ、急に動かなくなる帝国の使者。その反応に対してメサリアは間抜けな声しか出なかった。



「あっ!」



「ああっ!!?」



 間髪入れずにクゥエイスとクレステルが何かに気付いたような声を上げる。



「ヒッ、ヒィィィイイイイ!! なんでこんなところに魔人がいるんだああああああああああ!!??」



「あ………ああああああああぁあぁあぁーーーーーっっっッッッ!!??」



 メサリアは叫んだ。そう、彼女は先ほどエゥルリカの前で変身した時のままの格好だったのだ。燃え盛るような真紅の天然パーマ長髪が丘に吹く風でなびく。漆黒の魔牛の二本角に、腰からは魔人の翼、紅い体毛に覆われたムチムチの脚に鉤爪の腕。どこからどう見ても魔人だった。



『またしてもやってしまったああああああああああああああああああああ!!!!!』



 クゥエイスのことをとやかく云々言える立場ではない。思えば2年前からずっとうっかりの連続だった。特に今回のはとてつもなくバカげたうっかりだ。メサリアは頭を抱える。



「ヒィィイイイイイ!!!」



 ようやく硬直した身体が動いた帝国の使者は、もの凄い勢いで丘を駆け下りはじめた。それをみたメサリアは咄嗟に身体を動かす。高速で使者の身体を地面へ押さえつけ、彼の身動きを完全に封じた。



「や、やめろおおお!! こ、殺さないでくれええええ!!!」



 涙目でこちらへ恐怖の表情を訴えかけてくる使者に対して、メサリアは頭をフル回転させて今この状況に最適な言葉を模索する。そして言葉を選び出して使者へと言い放った。




 _____おい貴様。そのか弱き命、散らしたくなければわらわの言うとおりにしろ_____




『やっちまったなァ!!』





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キャラクター紹介⑨ エゥルリカ・ベルティ・フォン・シルフェ

挿絵(By みてみん)

小説自体は1話執筆するのに1日程度でやってます。ちょっと最近忙しい…

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