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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
13/61

13.名だたる強豪の集まり

最近2日で一万文字。なかなかハイペースだと思いますが、長続きはしないと思います…

 



 《今より1ヶ月後の話》




 [ノグルシア連邦 ノーブルムース 賢者の館(けんじゃのやかた)]




 秋も終わり、ようやく本格的に寒くなりつつある冬の初頭、帝国の隣国であるノグルシア連邦の街ノーブルムースは目覚しい賑わいをみせていた。もともと温泉街でもあるノーブルムースの集客率は、一年を通してみても冬に集中している。しかし、今回は観光とは別の理由があった。それは魔王軍との戦いの開戦だ。これまで2年間沈黙を続けてきた魔の軍勢が再びその戦火の火種を落とそうとしていた。


 帝国から各地へと通達された魔王軍侵攻の兆しの知らせは瞬く間に各地のギルド本部と中枢へと通達され、特にクリスタル級以上の冒険者には召集もかかっていた。そしてその開戦予想日もあと1ヵ月後に迫り、各地から集まった猛者たちはノーブルムースで準備を整え、いつでも出発できるようギルド本部『賢者の館』にて待機していた。魔王軍との開戦前には必ず見られるノーブルムースの賑わい様といえる。



「おい見ろよ、あの四人組…四聖八剣(しせいはっけん)だ」「ウルバニア皇国の勇者御一行か」「先ほど我らがノグルシアの高波組(たかなみぐみ)葉隠(はがくれ)さまがおられたぞ」



緋炎(ひえん)のアルヴェントだ! アダマンタイト級冒険者の!!」「アダマンタイト級!!?」「さっき奥のカフェに陣取ってた緑色の軍服集団、あれは何だ?」「お前知らないのか? メーデリアの伝説の支援部隊『メディック』だよ。彼らに支援を任せれば最高の状態で戦闘し続けられるという万能屋だ」



 時刻は夜7時をまわっていた。賢者の館の1階ロビーは緊急時のためにもかなり広めのつくりではあるが、そのロビーが人で埋め尽くされている。ギルドの外には冒険者以外の民衆も野次馬のように集まっていた。各国の名高い戦士達が集まっているのなら当然ともいえる。



「ブリジット、他になにか気付いたか?」



 四聖八剣と呼ばれるチームのうち黒髪短髪の男騎士がメイジハットを被ったエメラルドブロンド髪の眼鏡っ娘に話しかけた。



「アレ、あそこにいるロング白髪長身の騎士とその後ろにいるショート金髪女騎士。おそらく亡国の戦士」



「あれは… 宿命の杯(しゅくめいのさかずき)のライファー・クラウンか!」



「ってことはもう1人はソーニャ・ジークステイルかな。随分と死んだよね、あのチームも」



「所詮は人数だけ多い見掛け倒しのチームだったってことだろ? ハッ」



 茶髪軽装備の短剣を帯びた青年が生意気そうにいうと黒髪の騎士がそれに応えた。



「馬鹿を言うなテスタロント、2年前のグランゾーラ侵攻において難度50もの魔物の強襲に耐えられるチームが何処にいる? 寧ろ生き残りがいる方が奇跡だろ」



「はいはいそうですね。レイモンドは堅苦しいなぁ」



「あれ、宿命の杯ってあと1人生き残りいなかった?」



 魔導師ブリジット・キャットシーはチームリーダーのレイモンド・マルスに問いかけた。



「もうチームから離脱したらしいけどな…超有名人だぞもう1人の魔導師は」



「…破錠のクレステル! 私が冒険者登録したときからの憧れ!」



「あー、破錠のクレステルは知ってるわ俺でも。俺のクラスは解除魔法も扱うからな」



 シーフのテスタロント・ロビンソンは態度を改めた。



「そうか、破錠の… ならしかたねぇな、生き残っただけでも御の字ってか…」



「レイもん。あとはあの一角にいる5人組がアリシア王国の風林火(ふうりんか)。2階席の右端を占領してるのがこの国のチーム『サジタリウス』かな」



「遠距離特化のアーチャーと砲撃魔術師だけの特殊チームか」



 この四聖八剣のように、帝国からの発表を待つ者よりも、集まってきた名だたる戦士達の情報集めをする者たちの方がこの場には多いようだ。





 ライファーは相変わらずの如く細めた目であたりを見回す。高身長の彼はこういう時には便利なものだと改めて実感していた。


 魔王軍との開戦に召集がかかったのはクリスタル級以上の冒険者だちであるが、プラチナ級やそれ以下の階級の冒険者たちの参戦は任意であった。そもそも召集がかかっただけで、クリスタル級やアダマンタイト級の冒険者の面々も参戦するかは本人の意思次第、もともと強制力のない召集だ。だからこそ、とりあえず開戦の地の近くまで来てみたという冒険者チームも多いようで、情報を集めてから参戦の是非を決めるということも良くある話だ。



「やはり知り合いという知り合いはまだいませんね… 今日あたりには来ていると思ったのですが」



「まだ新着情報の発表まで小一時間あるぜライファー。そう急ぐこともねーっての」



 男口調の女騎士ソーニャがライファーの肩に腕をかけ寄りかかる。そして耳元で囁いた。



「この賢者の館に来てから入手した情報だが、つい2ヶ月ほど前までここにクレステル嬢ちゃんがいたらしい」《ひそひそ》



「なんと!!? 彼女は今何をしているのですか?? 我々の元を去ったときも、また会いましょうとしか言ってくれませんでした」



「それが、どうやらSS(ダブルエス)級のクライアントオーダーを遂行中らしいぞ。二人組みで」《ひそひそ》



「ダブルエス級!? なんて無謀な… それにしてもパートナーを作ったのですね彼女は。一体誰が…」



「それが…_____




 _____深淵(しんえん)のメサリア、らしい_____




 《ザワッ》



「深淵のメサリアだって!?」「マジかよ、どこだ!?」「いやここにはいねぇって!」「なんだよ紛らわしい」


「一度拝んでみたいな、噂の美女とやらを」「グランゾーラを一騎打ちで屠るらしいからな」「俺はウルバニア皇国の聖獣を討伐した話聞いたぞ!」



 少しばかし声が漏れたのか、ソーニャが呟いた名前を聞いた周りのギャラリーが一斉にざわめいた。ソーニャはおっとやってしまったと言いそうな顔でその口を両手で塞いだ。



「…メサリアさん、あっという間に時の人となってしまわれましたね」



「ああ。あんなに可愛らしい嬢ちゃんが深淵だもんな。随分と風貌も変わったらしい。俺も会ってみたいがな」



「そうですね。しかしクレステルの相方がメサリアさんなのは意外でした。でも…あの二人ならば安心ですね」



「そうだな…」



 ライファーはどこか寂しげな表情で館の天上を見上げた。そんなライファーの頭をよしよしとなでるソーニャ。



「ソーニャさん、恥ずかしいからやめて下さい///」



「そう照れるな照れるな、クックック」



 この2年間で二人の仲もそれまでとは違う発展を遂げているようだった。2年前の戦いを生き延びた者達の絆は深い。





 《キャッ!》《うわっ!!》



「オラァ!! 邪魔だ邪魔だァ!! 冒険者意外の野次馬共はどけぇ!!」



 突如ロビーに響き渡る荒っぽい声とともにやって来たのは黒装束の6人組だった。その全員が首元から鼻の上まで黒い布で覆い隠している。顔の肌がむき出しの部分には6人が6人とも険悪な人相の悪い目付きをしていた。



 彼らはこの国の2大冒険者チームの一方で屋根裏番衆(やねうらばんしゅう)紫苑(しおん)」。もう片方のチーム「高波組(たかなみぐみ)」と張り合う強靭な集団だ。そのうち先頭を歩く小柄のがたいの良い大声の男、チームリーダーのイガグリ・サイチョウはつづける。



「ケッ! お祭りじゃねえんだぞ。我が紫電(シデン)の威厳と言うものをこやつ等に見せつけるでござる、うぬら!」



「まったくだぜイガさん。俺ら屋根裏番衆がコイツ等全員出し抜いてやるぜ」



 物凄い低音の声で、長身黒髪オールバックの眉無し鋭利な目付きの男が喋った。ゲンガ・バジリスクという名の忍者で、フウマ手裏剣という巨大な武器を背負っている。世間では妖怪バジリスクとう二つ名で恐れられていた。



 彼ら屋根裏番衆が到着してからロビー内の熱気はやや冷めたが、再びざわめきが起こった。



 《ざわっ》《ざわっ》



「おいアレ!」「あっ!!」



 民衆の視線は正面入り口から新たに入ってきた一団をとらえていた。



真紅の剛雷(しんくのごうらい)!!」「亡国の勇者ご一行よ!」「あれが!!」



 そこには懐かしき冒険者たちが顔を並べて立っていた。






 -------------------------------------------------------------------------------------






「予想以上に目立ってますわよ、皆さん…どうしましょう」



 巨大なメイジハットで少し顔を隠し、全開の胸元を少々ローブで隠しつつ、魔導師クオリア・オッドニッサは他の3人に告げる。



「いやはやコレほどとは…正直やり辛いですよね…」



 キース・フラウデルは少々うつむき、自慢の青縁メガネを指で持上げると、光の反射でその目を隠した。



「これでは落ち着いて知り合い探しすらできませんよ、まったく」



 勇者セシル・トル・ライデンは皆の一歩前へ出て堂々と3人をロビー半ばまで導いた。



「この2年間何度もこうでござる、そろそろ慣れないといけないでござろうがぁー… その、全然慣れないでござるなぁ///」



 手持ちの大盾で頭から下を完全に隠しながら、猫背で3人の後ろをついていく巨大な男アーサー・ユングリットが、相も変わらずの独特の口調でおどおど喋った。



 《ピクリ》



「ぬ、あの4人の中から我らの方言が聞こえたが、気のせいでござるか?」



 屋根裏番衆のイガグリがアーサーの方を睨み付けた。続けてゲンガも(がん)を飛ばす。



「イガさん、そりゃあ聞き間違いじゃねーかな?」



「な、なんか睨まれてるでござるよぉぉ~~ひぃ~~」



「落ち着いてくださいアーサーさん…あれは」



 すると、セシルが珍しく目付きを鋭くして、睨みを利かす連中の方へと足を進めた。



「ちょ、ちょっとセシルさん!? 落ち着いてらして!?」



 クオリアが慌ててセシルを止めようとするが、それはかなわなかった。セシルが屋根裏番衆の5人の脇側へと辿りつく。そして5人のうちの1人、色黒の茶髪の男に視線を向けた。男が口を開く…



雷鳴(らいめい)のセシルか。拙者、鎖縛(さばく)零士郎(れいしろう)に何か用か?」



 セシルは荷物の中から太刀を取り出すと、零士郎へと差し出した。



「受け取ってくれ、零士郎殿。いや、レイシロウ・ホールチェイン。君の妹の形見だ」



「なっ!!?」



 それを聞いていたキースが動揺する。彼らのかつての仲間、レイナ・ホールチェインの実兄が目の前の野蛮な集団にいた。



「…話は何度も聞いている。俺の妹は真っ先に殺されたらしいな… 貴兄(きけい)ら男どもは何をしていたのかと考えれば実に腹立たしいが、それも俺の身勝手な感情なのだろう、許せ」



「私達がついていながら、面目ありません」



 零士郎はセシルの持つ太刀を受け取った。



「こんな弱い武器一本で、我らの里を抜け出すからだぞ、レイナ…」《ボソッ》



 零士郎の目からは、先ほどまでの威圧感は完全に抜け落ち、ただ1人の妹の冥福を祈る兄の慈悲深い眼差しへと変わっていた。



「そこの金髪メガネ!」



「ぼ、僕ですか!?」



「受け取れ!」



 《ブンッ》



 零士郎はキースへと妹の形見を投げ渡した。



「それは良く使い込まれた脇差(わきざし)だ。太刀には及ばぬ武器だが、小回りは利く。帯刀していてもさして支えにはならぬだろう、君が使ってくれたまえ!」



「なぜそんな、僕が?」



「妹が殺されたとき、君が真っ先に泣き、真っ先に敵へと突っ込んでくれたことは聞き及んでいる。レイナも君が使ってくれた方が喜ぶだろう」



 そう告げると零士郎は他の屋根裏番衆の裏の方へと姿を消した。



「………ありがたく、頂戴いたします」



 キースはレイナの脇差を握り締め、その目に涙を浮べた。






 -------------------------------------------------------------------------------------






「みなさん、お久しぶりです!」



「やはり来てましたね、ライファー!」



 周囲の注目もやや落ち着き、タイミングを見計らって声をかけてきたライファーにキースが手を上げる。



「お前ら元気しとったかい~~? うにうに!」



「ちょっと、こら、やめなさいな、こんな民衆の前で!!///」



 クオリアの背後に回りこみ、ソーニャが胸を鷲掴みにすると、物凄い歓声が上がった。



 《うおおおおおおおおお!》《いいぞもっとやれ女騎士いいい!》



「いてっ!」



 ソーニャがクオリアのロッドで頭をぶたれる。



「ソーニャ? あなたの爆乳も晒し上げるわよ?」《ゴゴゴゴゴゴ》



「冗談だよ冗談! 俺らの仲じゃスキンシップのうちだろ~~!!」



 すると、正面入り口のほうから黒い甲冑の大男がやってきた。



「漆黒だ!」「漆黒のゼネス!」「漆黒!!!」「クリスタル級の漆黒!」



 彼が現れるところに漆黒コールと呼ばれる現象が起こる。周りの冒険者たちの『漆黒』の呟きが自然と連なって、あたりを包んだ。



「フンッ」



 漆黒のゼネスはよもや聞くまいと言った佇まいで漆黒コールを掻い潜ると、亡国の戦士の一団の前へとたどり着いた。



「久しいな、貴様ら」



「ゼネス殿、お久しぶりでございます」



「お久しゅうございますわ」



「おっおっ、ゼネスの旦那じゃないっすか~~。俺の事覚えてますか?」



「フンッ、貴様のことなど覚えておらぬわジークステイル!」



「なぁんだ、ちゃんと覚えてくれてるじゃないですか~~」(にやにや)



「クラウン! こやつを何とかしろ!」



「ハッ! ということで、落ち着いてくださいソーニャ!」



「うがああ~~~~~!!」



 ライファーがソーニャを羽交い絞めにすると、一団に笑いが生じる。2年前の事件を機に、漆黒のゼネスと他の冒険者との距離が縮まっていた。言ってしまえば漆黒のゼネスは、心を開いてとっつきやすくなったのだ。それが誰のお陰なのか、一同は皆言わずとも理解していた。



「流石にこの2年間、コレほどまで亡国の戦士と言われる私達が集まることもありませんでしたね」



「少々面子が足りんがな、レイラルドはどうした?」



「ナハトはぁー… その、未だにどこにいるかもわからんでござる。噂すら聞かぬでござるからなぁ…」



「フンッ、どこぞでの垂れ死んでなければ良いがな! 破錠のクレステルはどうした?」



 ゼネスがライファーの方を向く。



「クレステルは既に宿命の杯のメンバーからは抜けています。が、先ほど情報を入手しました。2ヶ月ほど前にこの館でSS級のクライアントオーダーを二人で受けたということです」



「SS級とは!!」「やるなぁハーフエルフの嬢ちゃん!」「しかし2人でSS級とはまた無謀な…もう1人はどなたですか?」



 セシルがライファーに問う。



「もう1人は、深淵のメサリアさんです」



「メサリアさん!?」「姫が!?」「メサリアさんですか!?」「メサリー!?」「ぬぅ…あ奴か」



 新たに集まった5人が驚きをあらわにする。ゼネスが続けた。



「貴様ら、2年前の詳細、特にヴァルフに関して誰にも喋っていないだろうな?」《ヒソッ》



 ゼネスはその場に集まった6人へ問いかけた。もちろんその場の6人ともゼネスの言わんとすることは直ぐに理解した。2年前その場にいなかったライファーとソーニャだけは話でその事を聞いて知っていた。



 一同「もちろん!」「もちろんです!」



 クオリアが続けた。



「あの時私たちを救ってくれた事実と、その後2年間の冒険者としての彼女の活躍を知れば、あの子が私たち《人側》であることは疑いようがありませんわよ」《ボソッ》



「そうでござるな。今はそれがわかってさえいれば十分でござるよ。神位魔法を使ったことやその姿から皆うすうす気付いているとは思うでござるが…」《ヒソッ》



「アーサー!! あなた…」



「すまないでござる」



 その場の事情を知る7人は、決して2年前のことをうやむやにしたいわけではなかった。メサリアの正体の憶測もある程度は定まっていた。それでもそれを突き止めようと無用な混乱を招くようなことはせず、いつか彼女本人の口から話してくれることを待つことに決めたのだった。



「次に彼女に出会えた時には、こちらから聞いてみてもいいと思いますよ。もう時効ですよその時には! 腹を割って話せることを期待しましょう!」



 キースが握り締めた脇差を胸にする。






 《ガチャ》



「おおっ!?」「時間か!!?」



 二階の最奥の間へと続く扉がゆっくりと開かれた。すると扉の向こうから1人の女性が現れた。



「なっ!!??」「まさか!!??」



 長い銀髪の女性は見慣れぬエメラルドグリーンの甲冑と法具と思われる3本の白銀のレイピアを帯剣していた。甲冑はシッカリとしているが軽装備にも見え動き易い印象を与える。額当てのエメラルドのバイザーは仮面の様に彼女の鼻から上を隠していた。


 彼女が二階中央にまで足を運び、一階ロビーからも二階からも良く見える位置で立ち止まると、あたりからたちまち歓声が上がった。



時の番人(ときのばんにん)だ!!」「まさか、アダマンタイト級のクロノス!!」「エスタリザ・クロノスだ!!」「うおおおおおおお!!!」


「人類最強の戦士エスタリザ!!」「エスタリザ様!!」「最強! 最強!!」「おおおおおおおおおお!!」



 エスタリザは3本のうちひとつのレイピアを取り出すと、前へ掲げた。



「聞けッ、この地に集いし人の子らよ! たった今帝国の剣の館からメッセージが届いた。10日後の明朝、閉鎖せし帝国の国門を順次開放するとのことだ。この戦に参戦せし冒険者諸君は剣の館を目指し、そこで帝国軍の指揮下に入れ! 今回の戦は今までよりも苛烈になると予想されている。我々は帝国軍の第二軍として第一軍の後方に待機することとなるだろう!」



 《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!》



 鋭くも美しい声が館に響き渡る。その場にいた誰もが声を張り上げてそれに応じた。館内の熱気は最高潮に達する。



「10日後か! まだもう少しあるな!」「なぁに、10日なんてあっという間だぞ」「今回冒険者側からの参戦者が結構多いみたいだな!」



「エスタリザ様も参戦されるのでしょうか!?!?」



「あぁ。今回ばかりは私も参戦させていただく。帝国軍側も切り札を用意しているそうだ。それに加えてこちらも追撃せよとのお達しだ」



「帝国軍の切り札!? 大魔導師さまだろうか…」「忘れるな、デューラン様もおられるぞ!!」「魔王軍め、2年前の借りを返させてもらうぞ!!」



 鎮まりを知らない熱気の中、エスタリザ・クロノスは階段を下り進み、1階ロビーのとある集団へと歩み寄った。



「ちょ、ちょちょちょっとみんな見るでござる。こ、こちらにくるでござるよ、エスタリザ殿が!」



「なっ… 私たちに…ですか?」



「これはこれは、光栄だな」



「フンッ」



 エスタリザは立ち止まり、そして軽く会釈した。



「あなた方か、亡国の戦士たちは。初めましての方は初めまして。私はエスタリザ・クロノス。少々お話があるのだが…お時間いただけるだろうか?」






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 冒険者ギルド「賢者の館(けんじゃのやかた)」の一階ロビーの奥には応接室がある。未だ熱気の冷めないロビーの喧騒からは離れ、静寂の中、応接間のテーブルを挟んで8人が顔を合わせていた。



 エスタリザはギルド職員のメイドにお茶を頼むと、7人に向き合った。彼女がその額当てを取り外すと、紅い宝石のような瞳が皆を見つめてくる。一同は軽く自己紹介を交わした。



「人界に3人しかいないアダマンタイト級冒険者、時の番人(ときのばんにん)の二つ名を冠するエスタリザさんからの話とは、光栄ですね」



 キースは少し照れながら言葉を発した。



「私も直々に言葉を交わしたいと思っていた。亡国の戦士と呼ばれる諸君とはね」



 クールな笑みをみせつつ、エスタリザは7人それぞれの顔を伺う。セシルが話を切り出した。



「話とは… 2年前の件でしょうか?」



「ああそうだ。あなた方は彼の魔皇四天王第一将グランゾーラとの対峙経験がある。そのことで聞きたいのだが、そもそも話せる内容は既に何度もギルドや国へは通達しているだろう。話せることは…な」



「……………」



「………ふふっ、やはりな」



 エスタリザは間を感じ取って軽く笑った。



「問い詰めるつもりはないが、やはり世に出回っている話は突拍子もない話でな。嫌なことを思い出させるようで悪いがあなた方は2人も手練を失っている、プラチナ級冒険者2人をだ。そして援軍が駆けつけた時には全員が満身創痍(まんしんそうい)だったと聞く。なのに倒したのは当時のシルバー級冒険者であり、しかも一騎打ちだという。誰もが不思議に思っただろうな」



「フッ… 全くだな」



 ゼネスが相槌をうつと、エスタリザがゼネスを見据えた。



「付け加えるとゼネス、あなたがその場にいたのにかかわらず、というのが益々奇怪な話だな」



「フンッ… 俺が手も足も出なかった魔人を、あ奴がいとも容易く屠ったのは紛れもない事実なのでな。奇怪と言われてもどうしようもない」



「その彼女が、どのような方法で彼の魔人を屠ったのか、詳細を訪ねると皆揃いも揃って口を閉ざす。それは、あなた方がその情報が世に出回れば混乱を招くと判断しているからです」



「……………」



 その場に緊張が走る。



「ふうっ… 話を変えましょう」



 エスタリザはため息をつくと、誕生日席のソファに腰を下ろした。他の7人もやっと着席を果たす。



「1年前、私の冒険者チーム『青天照(せいてんしょう)』がウルバニア皇国の水の都の郊外にいた時の話だ。」



「ご存知の方もいるかと思うが、私のチームは4人構成。アダマンタイト級のバルゴス・カイゼル、クリスタル級のロウメイ・リクタ、同じくクリスタル級のイライザ・リ・フランソワーズ。そのうち私とバルゴスの2人は街道でローブに身を隠した謎の者とすれ違った。うちのバルゴスは野生の勘で動く動物みたいな男なのだが、その彼がローブの者とすれ違う瞬間咄嗟にその者と距離をとり、次の瞬間には彼の得意な「大車輪」という上位武技をその者めがけて放っていた」



「結果一瞬で武技ごと蹴りで破られたバルゴスが片足で地面に踏みつけられ、それを見た私は強敵と判断し法具リゾルデレイピアの奥義「白刃の舞(しらはのまい)」をその者にしかけたが、素手でレイピアを弾かれ逆にそのまま胸ぐらをつかまれてしまった」



「なんだと!?」「アダマンタイト級2人が一瞬で無力化されたのか!?」



「初めての経験で、バルゴスは恐怖に怯え、私などは失禁寸前だったな… その者は物凄い殺気を放ち、ローブから覗かせたその両目は赤黒く鋭かった」



「まさか…それって!?」



「ああ。あなた方のお仲間のメサリア殿だ」



「メサリーが!?」



 聞いてたクオリアが腰を抜かしてソファに仰け反る。



「私たちはいきなり襲い掛かったことを謝り、許してもらった。しかし、バルゴスが感じ取った強大な畏れも事実にして、アダマンタイト級2人の攻撃が軽くあしらわれてしまったのもまた事実。その場にいた誰もが彼女の深淵を垣間見た。彼女はクリスタル級などではない… 人類最強は彼女だ!」



「…ま、違いないですね。僕はもう驚きもしないですよ」



 キースが動揺を隠すように言う。



「やはりあまり驚かれないのだな、あなた方は。2年前の件では更に信じがたいことが起こったと私はみている」



「面目ないでござる」



「…その一部始終を街道で見ていた通行人たちがいてな、恐らく彼らが言い出したのだろう… 深淵のメサリアと。幸い私たちの敗北の噂は広まってないようで何よりだが」



「なるほど、その一件でしたか」



「つまりだ。私たちのチームですら彼女の力は疑ってない。出来れば詳細を聞きたかったが… まあいいだろう。実は帝国のデューラン殿下がメサリア殿との接触を図っているらしいとのことだが、先ほどここの賢者殿にお聞きしたら既に魔大陸(ミストレムリア)へ旅立ったと仰っていた」



「ミストレムリアへ!?」



「帝国の勇者がメサリアを!?」



「ちなみに深淵のメサリアと破錠のクレステル、両人を帝国は最重要人物として探している」



「クレステルもですか!!」



「それを伝えておきたかった。近しいあなた方が何か情報を入手したら是非私たち、もしくは帝国側に一報入れて欲しい… それだけだ」



 そういうと、エスタリザは部屋の入り口で待機していたギルド職員のメイドを招き入れ、紅茶を人数分注がせる。そしてテーブル中央にあったポッドを取り寄せ、蓋を開けると中から角砂糖を6個ほど自分の紅茶へ投入した。良くかき混ぜてから自分の口へと運び込む。その手はプルプル震えていた。



「…ふぅ。あの時の話はトラウマに近い… 未だに思い出すと背筋が凍るようだ」



 エスタリザは少々青ざめていた。それと同時に、その場の誰もが人類最強と呼ばれる目の前の女性にここまで影響を与えるメサリアの存在に圧倒されていた。



「フッ… 今思えばあ奴のとんでもない力を目の当たりにした時、あまりにも非現実的すぎてな、笑いがこみ上げて来たのを覚えている」



「実はあの時が初めてでしたよ、ゼネス殿の固い表情が緩んだのを見たのは」



「なんすかなんすかぁ、俺も旦那のレアな表情見てみたかったなぁ~~」



「エスタリザさん! 申し訳ないですわ、私たちのメサリーがそのようなことを!」



「ハハッ。失敬なことをしたのは私たちの方だ。しかし、メサリア殿にもこれだけの仲間がいてホッとしている。彼女もまた人の子なのだな」



「……………」『 果 た し て 人 の 子 な の だ ろ う か ! ? ! ? 』





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