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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
12/61

12.開戦 ~裏と表の戦い~

自分で書いておいてアレですが、キャラが一人歩きしてしまい毎回予想通りの展開になりません。

キャラクター紹介⑧ ユノレヴィア(登場予定キャラ)

挿絵(By みてみん)




 《今より3ヶ月後の話》




 [ディアステラ帝国 地殻断崖東 影の平野(かげのへいや)]




 ディアステラ帝国の西側国境地帯は影の平野と呼ばれている。朝から正午にかけての6時間程しか陽を浴びることのない平野で、風が吹き荒れていることから帝国の民たちはほとんど寄り付かない。その原因はもちろんオデュッサイル地殻断崖の存在だ。


 影の平野は地殻断崖の麓へ近づけば近づく程陽の昇る時間は短く、風も強まる。何故ならば正午を過ぎたあたりで太陽が地殻断崖に隠れてしまうからだ。またその天然の壁は大気の風を受け、行き場を求めた風が麓へと上空へと急激に方向転換する暴風域でもある。


 そんな土地では作物もまともに育たないため、帝国の民たちのほとんどが国土の東側に集中的に住んでいた。それは南の大国クルス・オグナでも同じことが言える。


 そんな人が寄り付かない様な土地でも、影の平野は1000年も前から帝国で重要な役割を果たしてきた。それは魔王軍との戦の舞台としての役割だ。魔王軍は地殻断崖から攻め込んで来る。この1000年間ほぼ例外なく影の平野は魔王軍との戦闘の中心地であった。



「全軍~~待機じゃああ!!」



 《ザザッ》



 一際大きな号令と共に、帝国軍4万ほどの兵士達が足踏みを揃えた。季節は冬の真っ只中。帝国軍兵士たちは真っ白な雪の大地に足跡をしっかりと残して整列をしている。その武装は冬使用で防寒対策がなされ、甲冑の下にはぶ厚めの布地が見え隠れしている。寒さの割りには薄着ともいえるが、あまり厚着をすると戦闘に支障がでるのだろう。


 全軍の中央の列の切れ目を、後方から前方へと1人の重装備の大男が歩き進む。



「ラグロスめ。予定が狂うたではないか。前日に我らに深夜の強襲を止めると律儀に一報入れおって。3ヶ月前から月読み姫様が仰られていた新月の夜という予見も外れてしもうたではないか! がっははははは!!」



 重装備の指揮官たる大男の笑い声が空にこだまする。帝国軍の総指揮を携わる彼こそが、長年魔王軍との戦いを繰り広げて来た男、オードラー将軍だ。その太い髭と眉毛が彼の荘厳なオーラに拍車をかける。




「お待ちしておりました、将軍」



 布陣した帝国軍の前方で待っていたブロンド髪の青年が将軍を迎える。帝国軍の若き大佐『アルケイン・ウィンヒルド』だ。



「アルケインか、魔王軍の方はどうだ?」



「はい。あちらも布陣を終えたようです。総勢およそ2万といったところですね」



「がはははは。馬鹿正直な男だなラグロスよ、情報通りではないか。ワシは奴のそういうところを気に入っておる。魔人ながら好敵手に相応しき猛者よ」



「ですが何故ラグロスは新月の強襲を止めたのでしょうか。魔王軍には利がないように思えますが」



「奴は闇に紛れずに正々堂々と戦いたいのだよ。だから開戦を午前9時にずらすと言いおった」



「我々人相手であれば、闇であろうとなかろうと関係ないと、そういうことですかね?」



「いや、奴はそんな慢心はせぬ男よ。奴は戦を楽しむ傾向があるからな、そういう性分なのだろう」



「将軍は随分と彼のことを評価しているようですね」



「ふ。気に入らんか? 長年の付き合いというものだこれは」



「滅相もございません。失礼致しました!」



 帝国軍側から遠目に見渡す限り、相手の軍は魔人とオーガやオーク、使い魔(魔物)の混合軍のようだ。そしてそれはいつもと変わらぬ戦いを予想させる。だが今回少なくとも帝国軍側は、いつもとは違う展開になるだろうという期待があった。それは今回初参戦の勢力に対しての期待だ。



「ラグロスよ。今回いつもと同じと思って侮ると痛い目をみるぞ? ワシも長らく顔を突き合わせてはおるが、戦場であ奴を見るのは今回が初だ。果たしてどうなるか」






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 [ディアステラ帝国軍 後方天幕]




 帝国の勇者デューラン・ディアステラはいつもの如く白銀の甲冑を装備していた。若干色黒の肌と肩ほどある黒い髪、髭を多少生やしており獣のような鋭い目と眉毛が印象的な彼のイメージはその白銀の鎧とは程遠く、野生的で本能的な獣という方が正しい。清閑な佇まいも白銀の鎧も、彼が勇者だから身につけているといった表層部分でしかないと言われれば納得がいくほどだ。



「お待たせいたしました」



 そう言って、天幕を開いたのは色白の四角メガネをかけた茶髪前分けの青年だ。彼は黒いローブで全身を包んでいる。装備といったものは殆ど身につけておらず、紅い宝石とクリスタルで出来た長めのロッドを手に持っていた。如何にも悪役と言った感じのマジックキャスターがそこにいた。



「これはこれは、アイングリフ殿。お待ちしておりました」



「デューラン様、今回一緒に戦えることを光栄に思いますよ」



 魔法省魔導研究部機関長のアイングリフ・ロギアはそういうと、軽くお辞儀をした。



「それはこちらのセリフですよアイングリフ殿。今まで議会で顔を合わすだけで、共闘するのは初めてですからねぇ」



「いやはや、何ゆえ研究職の身の上でして、ほぼ日の光を浴びることなく研究室に籠もり続ける毎日ですからね。初の共闘と言いましたが、私にとっては初の実戦でございます」



「なんと!! 初の実戦が魔王軍との戦いとは!!」



「いやいやお恥ずかしい限りで。しかし嬉しく思いますよ、私の研究開発してきた魔法を試せると思うとね、ククク」



「…いつもの白衣と違って黒いローブだと雰囲気が違いますね」



「まぁあえて選びましたよ。悪役っぽいかなぁとね、ククク」



「そうなんですね。今回は大魔導師ロンベル・ギニアス殿が参戦されないので急遽お声をかけさせていただきました」



「あぁ、大魔導師さまは前回やらかしましたからねぇ。有能そうに見えて、実は結構地雷ですからね彼女は」



「いや、まぁ………」



「聞きましたよ。確か魔王軍の風使いに顔を覆うローブを吹き飛ばされて、自分の素顔が皆の前に晒されたと同時に発狂して、味方もろとも魔法攻撃とは… 有り得んでしょう?」



「……………」



 デューランは先の戦闘を思い起こした。アイングリフの言うとおり、あの大魔導師ロンベル・ギニアスは普段のおっとりした大らかな喋り方からは想像し難い行為に及んだのであった。





『見ぃぃたぁぁなあああああぁぁあぁぁあああ゛あ゛あ゛!!?? ワシの顔を見たなぁぁああきしゃまら!!! 許さんぞおおお美しき者どもおおおおおおお!!!』『お、お止めください大魔導師さま!! 味方もおります故!!』


『うるしゃい!! きしゃま楯突く気かごのぉぉぉぉおおおお、おのれええええええ゛え゛え゛上゛位゛魔゛法゛|シ゛ャ゛ン゛タ゛ー゛ス゛ト゛ー゛ム゛《サンダーストーム》!!』『大魔導師様~~ご乱心を~~!!』『大魔導師さま~~~!!!』





「あれは悪夢でした…」



「ククク、でしょうね。良いんですよ、あんなの誰が見ても大醜態でしょう。あのクソババア。僕はあの方がどこでどう盗み聞きをしていようといまいと、時々こう呼んでますよ」



「恐れ入ります… 正直私はアイングリフ殿の実力を未だ見ていませんので、攻撃と防御魔法に超特化型と言われている貴方の戦いを見るのが楽しみです」



「すぐに見れますよ。なにせ開幕と同時に僕の持つ最強の切り札を放てとのオードラー将軍からのご命令ですので。では前線へ参りましょうかデューラン様」






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 《グォォォン!!》《ギャッ!! ギャッ!!》《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!》



『もともと御することに向いておらん魔物と亜人の混合部隊だ。いくら間隔を置いて指揮官魔人を配置しているからといっても所詮は魔物、(えさ)を目の前にしてもう数分と持つまい…』



 獣帝ラグロス・ヤングルムンドは深い鼻息をつく。



 《フシュゥゥゥウウウウウウウウウウウウ!!》



 白い鼻息が寒空へと消えてゆく。彼はその大きな(ひづめ)を前に出し、一歩、また一歩と最前列の前へ踏み出した。獣帝の姿を一言で言い表せば『二足歩行する巨大な黒山羊(くろやぎ)』だ。全身は黒い体毛に覆われ、物凄い筋肉で膨れ上がっている。その豪腕は長く、直立した状態で地面へと拳が届く。


 その湾曲した二本角は龍のモノとでもいうかの如く極太にして巨大、瞳は紅く光を放ち、大きな口はいかなるモノでさえ噛み砕き得る。堂々と戦う性分と人語を操ると知らずにラグロスを見た者であれば、間違いなく残虐無慈悲な極悪な魔物と恐れるであろう。


 ラグロスは全魔王軍の前に堂々と現れた。



「わが名は魔皇四天王第3将、獣帝ラグロスである!!!!!!! さあ脆弱なる人間どもよ、我にその力を示せ!!! その力を浴びせろ!!!! 我は逃げも隠れもせぬぞ!!!!!」



 《オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!》



 魔王軍全軍が雄たけびを上げる。



「全く、芸が変わっとらんわラグロスめ。まぁそのお陰で今回のこの作戦が成り立つわけじゃがな!!!」



「やはりマゾですねあの獣帝は、オードラー将軍」



「まぁ奴がマゾっ気全開なのは超有名だからなぁ、がっはははははははは!!」



「さあ、我に貴様ら人間の最高の一撃を!!! 最高の快感を与えよ!!! それをもってして開戦とする!!!! ハリー!!ハリーー!!ハリィィィイイイイ!!」



 《オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!》



 再び魔王軍全軍が雄たけびを上げる。地鳴りのような振動が帝国軍側へと伝わった。



「では、そのお言葉に甘えて、強烈な一撃お見舞いしましょうか…」



 帝国の魔導師アイングリフ・ロギアはわざと見えるように上空を飛び、帝国軍最前列の真上でぴたりと静止した。



「んん? なんだあの人間は、見たことがないぞ。それに飛空魔法だと!?」



 ラグロスがアイングリフを見つめる。



 アイングリフが黒いマントを右腕で軽くなぎ払うと、腰あたりに隠してあったであろう魔導書が目の前で静止し、そして自動でページが捲られ始めた。彼は眼鏡を指でクイッと持上げながら詠唱する。



「灼熱の業火を纏いし飛礫(つぶて)よ、眼前の全てを圧壊(あっかい)せよ!_____



「ん??」



「……………おい、まさか!?」



 次第に天の色が緋色に染まると、緋色の雲を押しのけて巨大な紅い隕石が顔を覗かせた_____



 《 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 》




 【 天 位 魔 法 …   メ テ オ ロ ギ ア ! ! ! 】






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 《時は再び遡り、開戦より3ヶ月前》




 [亜人国家クルス・オグナ ヴァナン公衆浴場]




「っぷはぁぁーーーーっ!! んまいっ!!」



 タオル一枚羽織った栗毛ブロンドエルフが左手を腰にやり、右手にある牛乳瓶の中身を一気に飲み干した。



「まぁ、何あれ下品ねぇ」「やだわぁー」「どういう育ち方したのかしら」《ひそひそ》



「んん? なんか、視線を感じるわね…」



「先輩っ! ちょっと何やってるんですかぁ、そんなはしたないい」



「は、はしたないとは聞き捨てならないわね。何って風呂上りの儀式に決まってるじゃない」



「風呂上りの儀式…ですかぁ?」



 メサリアとクレステルはヴァナンを旅立つ前にもう一度風呂に入りに来ていた。ヴァナンへ到着した初日に、預かったクリスタルオーヴの半分のマナを補充してしまい、それを確認したオルデイルは正式に二人の交換条件を聞いたのであった。



「何よ、ノーブルムースじゃこれが普通よ普通。アナタ知らなかったの?」



「あ、私ノーブルムースでは人目を避けて人がいない深夜帯しか温泉入らなかったので… でもこの辺じゃあノーブルムースの風習とは違うみたいですよ、この反応!」



「まぁ、何あれ! あんなに大きくてはしたない!」「あらやだ、ほんとにいやらしい形だわ!」「牛よ牛!」《ひそひそ》



「そういうメサ、タリアちゃんの方がはしたないんじゃないのかしら… ホントいやらしい身体つきしてるわ、うしゅしゅ」



「え゛っ゛!!?」



 二人はとりあえず更衣室隣の休憩所を出た。再び更衣室へと戻る。



「先輩。考えたんですけど、もうその偽名を呼ばなくてもいいんじゃないかなって。検問をやり過ごすための偽名ですし…」



「それもそうね、メサ、メサリアちゃん! 危うくタリアが本名と勘違いし始めるところだったわ」



 そう言うとクレステルは更衣室の自分の荷物置きの籠から魔導書を取り出した。彼女はそのまま詠唱する。



「元の配置へ戻れ、マルチロック!」



 クレステルの腰まであるアンバランスな髪(右側だけが長く、左側はショートボブ)の長い部分があっという間に三つ編みにされ、瞬く間に元の髪型になった。



「その魔法便利ですねぇ」



「これは一種の封印魔法。アタシが使える数少ない封印魔法の一つ」



「なるほどなるほど」



「メサリアちゃん… 流石に私も気づき始めているけど、メサリアちゃんがただの人じゃないってことくらい」



「え゛え゛っ゛!?」



「昨日の件。5000キロザイオンを一日で貯める程のマナを持っているなんて尋常じゃないし、一クリスタル級冒険者でも絶対にあり得ない。それを私やオルデイルさんに見せてる時点でそこまで隠す気はないのでしょうけど」



「……………」



「い、いつか話す気になったら話して欲しいわ。あなたの正体を、ね?」



「全く、先輩らしいこと言うじゃないですか…」



 メサリアはどこか諦めた風に微笑みながら頷いた。



「いずれ必ずお話しますよ。恐らく近いうちに…ね」



 二人が公衆浴場から出てくると、待ち合わせ通りの場所にオルデイルがいた。彼は昨日会った時のような腑抜けた情けない佇まいとは明らかに違っていた。シッカリとした佇まいで背筋はピンと伸び、大人の余裕すら感じる。その顔にはほんのりと笑みすら伺えた。



「よぉ、お前さんたち。朝から風呂とはいいねぇ、オジサンも誘ってくれれば良かったのによぉ!」



「嫌ですよ」「嫌」



「はっはははは! それじゃあとりあえず出発しますか! 最初は南へ向かうぞ」



「南ですね」



「おうよぉ。しかしまぁ、なんというか… まさか一族追放されて人生終わりだと嘆いていた二日前の自分には想像できなかったわぁ… またこんな気分を味わえるなんてなぁ!」



 先行くシルフの中年の足取りはやけに軽く、まるでスキップでもしているかのようだ。



「感謝するぜ、お前たち。二人は俺の解放者だ!」






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 [亜人国家クルス・オグナ 砂の海]




 クルスオグナの南側に位置する広大な砂漠、通称「砂の海(すなのうみ)」は国土の約4分の1を占める。見渡す限りが砂景色だが一般的に言われている砂漠と違うのは、足で歩ける硬砂(こうさ)と歩こうとするとたちまち足が飲み込まれ沈んでしまう柔砂(じゅうさ)という2種類の砂で出来ていることだ。二つの砂は見分けがつかず、誤って柔砂に足を踏み入れたら底なし沼のように身体ごと飲み込まれ、自力で這い上がることは困難だ。


 基本的に移動手段は徒歩だが、柔砂においては特殊な造りの船で海のように進むことができる。砂の海と呼ばれる由来だった。


 メサリアたちのヴァナン出立から既に2週間が過ぎていた。一行は砂の海の約3分の1を南下しきった場所にいた。



「水の精霊よ、我に集いて潤いをもたらせ… アクアマリン!」



 《ぶしゅわああああああああああああああああああ》



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛生゛き゛返゛る゛ぅ゛ぅ゛!!」



「ちょっと先輩どいてください! 水が汲めません!!」



「俺にも水をくれぇー、もう喉が渇いてしょうがねぇ!」



 メサリアはしょうがないですねという顔で、水が放出される場所に頭ごと突っ込む二人を眺めた。その様子はかなり滑稽であった。



「ああああああああああああああ嫌だ嫌だぁ、お風呂に入りたいいいいい!!!」



 3人は既に1週間以上風呂に入れていなかった。再び香ばしい臭いが漂う。



「ちくしょう。まだ夏よりはマシだと思うしかねぇ! そもそもこのご時勢長旅で風呂に入らないなんてことはありふれた話だ。そこらへんに沢山転がってるぜ。定住してる奴等なら毎日風呂入ってるだろうが、長旅するなら香水とか消臭剤を持ち歩くのが基本だろ?」



「いやまぁ、私達は東から来たので、東の土地は緑にも水にも結構恵まれてましたし、街も結構点在してましたからね、風呂に入れなくても2日間ってくらいでしたよ」



「あーいいよなぁ東はそういうイメージあるなぁ。まぁお前らそろいもそろって都会っ子ってぇことよ」



「オジサン臭いいい」



「うるせぇな! この中じゃクレステル、お前さんが一番臭いわ、なぁメサリアちゃん?」



「ええ、多分この中じゃ先輩が一番臭いますね」



「うああああああああ!! しょうがないじゃない、アタシ昔から新陳代謝すごいんだから、汗とかダクダク吹き出てくるし!!」



「もう少しの辛抱だ。あと数時間南へ進むと古い遺跡がある。今日はそこに泊まろう」



「遺跡…、それはなんの遺跡ですか?」



「あぁ。確か天に昇る道だったとか言われている古い塔だな」



「天に? まさか浮遊大陸(ハイファジア)への転送遺跡かもしれませんね」



「ハイファジアか、ありゃあ最近だと3、4年に一度真上をよぎるくらいの頻度になっちまったなぁ。確か東の方だと一年に2回は通過するんだろ?」



「あー、浮遊大陸は春と秋にシデン地方からヴァルキュディス山脈を越えて私達の故郷の少し西側を通過してたわね、ねぇメサリアちゃん」



「そうですねぇ、懐かしいですねぇ。南の海にあるクラウディア教第二のメッカと呼ばれているエウロプリエ自治区には有名な天界遺跡があって、毎年2回ほど遺跡の転送装置から調査団が浮遊大陸へ送られているはずです」



「め、珍しい植物などが育っているらしい」



「詳しいなお前ら。まぁ恐らくこの辺じゃあ浮遊大陸の軌道からずれちまったから用済みになったんだろ。かなり昔に破棄された感じの遺跡だからな」



 オルデイルが先頭を行き、後からメサリアとクレステルが横並びで付いて行く。若干臭いキツメの先輩と並びたくないのか、メサリアだけ半歩程先を歩いていた。一行が砂漠に入ってからというもの、道中誰とも会うことがない。それ以前に3人は道を歩いていなかった。硬砂と柔砂の区別が付くと言うオルデイルを先頭に、ただひたすら砂漠のど真ん中を歩いていく。



「それにしても、メサリアちゃんには感謝しかねぇぜ。まさかクリスタルオーヴを2日だけで満タンに補充しちまうとはなぁ」



「これも私たちの目的のためですから!」



「いまどきの冒険者たぁミストレムリアまで冒険しちまうとはなぁ、恐れ入ったよ」



「いや、そんなところ行くのアタシたちくらいよ」



「まぁどの道シルフが大切に守っているルートだ。よそ者に使わせるつもりはねーが、クリスタルオーヴを満タンにしてくれたとなれば話は別だ。十中八九許可が下りるだろうな。まぁ実際は降りるんじゃなくて昇るんだけどな! 俺たちシルフは風の回廊(かぜのかいろう)と呼んでいる。地殻断崖に縦に入った亀裂の道で、亀裂の最下部から上昇気流が常に出ている。俺らシルフは羽根を開けば勝手に地殻断崖を登れるが、お前らだと多分気球にでも乗ることになると思うぞ」



「上昇気流の亀裂ですか。楽しみですね、先輩」



「うん。ワクワク」



 クレステルはそわそわしながら本当に楽しみにしている様子だ。


 ふとメサリアは自分の掌を握って拳を作ってみせる。開いて握ってを何回か繰り返し、自分の中のマナ量を感じ取っていた。どうやら二週間前に注ぎ込んだ10000kzもの消費した魔法力はとっくに全回復しているようだった。一般的に魔法職の人がその日に消費したマナ量は一回の睡眠である程度回復するとされている。戦闘後などに関しては2日もあれば全回復するといった感覚だ。


 しかし今回メサリアは初めて、膨大な魔力を放出するという経験をした。10000kzというマナ量は尋常な消費量ではなかった。よって、どれくらいで回復するか彼女は不安に思っていたのだが、大して心配する必要はなかったようだ。





 数時間が経ち、時刻は夕暮れとなる頃に一行は遺跡へとたどり着いた。横幅のかなり太い石造りの塔で、塔の上層部は風化してかなり削れ落ちている。塔の周りには石造りの集落が密集しているが、いずれもが既に使われている気配はなく、廃墟としてそこに存在していた。



「よーし、今夜はこの廃墟で夜風を凌ぐかぁ… 久々に砂の上で寝なくてすむぜ!」



「もう寝て良い?」



「おいおい早すぎるぜクレステル。まずはオジサンのシルフの里直伝の手料理をご馳走しちゃる。って…おーいメサリアちゃん、どこ行くんだ?」



「…少し周って安全を確かめて来ます。お二人はここにいて下さい」



「あそっか、そりゃそうだよな。オジサンすっかり危機意識が抜け落ちてたわ。頼む!」



「メサリアちゃん、ごめん、頼むぅ。アタシ、少し仮眠取るわ。ね、眠い…」



「……………」



 メサリアの目付きが鋭くなる。遺跡へ着いたあたりから彼女は周りを警戒していた。そして、その警戒は脅威の確信へと変わった。魔力を放つ何者かがこの遺跡に潜んでいる。そして、その者はこちらに確実に気付いている。



『この膨大な魔力量と、的確に標的を定めている殺気。間違いない…魔人がいる!』



 メサリアはクレステルとオルデイルがいる場所とは、塔を挟んで反対側の区画へ来ていた。そして故意的に道の行き止まりへとその殺気を誘うと、立ち止まった。メサリアは頭にかかっていたフードを取り払う。すると、たちまちその殺気が背後から猛スピードで襲い掛かって来た。殺気が背後に迫ったその瞬間、メサリアは後ろを振り向く。



 《シャアアアアアアアアアア》



 人影から伸びる無数の蛇の影がメサリアを襲った。その瞬間彼女は瞬時にそれを回避し、逆に影のおおもとの背後へと回りこみ、これを行き止まりの壁へと追い込んだ。それと同時に彼女の鋭利に尖った鉤爪が、強襲者の喉もとに突きつけられた。


 メサリアの眼球は赤黒く、瞳は燃え盛る炎の如く変色を果たし、強襲者へと強烈な殺気を叩き返した。



「貴様、何者だ?」



 そう呟いたメサリアの声はとても冷徹で、人の温もりとは無縁そのものだった。



「クッ、抜かりましたか… よもやコレほどの同族が人界に潜んでいるとは………」



 メサリアが動くと強襲者の顔が夕日に照らし出された。その者は白い一本角を生やし、石のような灰色の髪の毛と肌を持ち、その無数の髪の毛の先には蛇の頭がついていた。背丈はメサリアほどの小柄な男で、その身にまとう薄汚いローブは灰色の髪や肌と相まって、周りの砂景色に溶け込むには持って来いな様子だ。



「つ、強い!! よもや動けないとは… それに先ほどから私の石化の視線を喰らって尚普通に活動しているとは…」



「クゥエイス!!?」



 メサリアはとっさにその者の名を呼んだ。



「なっ!!?? 何故私の名を知っているのですか!?」



「……………」



「そ、その漆黒の二本角、リディアスさまと同じオロス系の種族の者か? しかし、コレほどの圧力…この鉤爪」



「……………」



「!!?? 何故…貴女は泣いているのですか? 強襲者の私を前にして…」



「生き延びていたか…」



 メサリアは喉もとへ突きつけた鉤爪を解くと、強襲者と向き合った。彼女のブロンド髪は夕日を受けて紅く染まっていた。その両目からは涙が滴り落ちる。



「ま、まさか!! そ、そんな!!」



 クゥエイスは膝からガクリと地に足を着いてその身体を震わせた。その瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。その姿ははたから見ればおぞましい姿の魔人が泣き崩れるという滑稽極まりない様子だった。鬼の目にも涙とでもいうべきか。



「ジュピタリア様… 生きておられたのですか!!!」



 メサリアは正体を隠すことも忘れ、クゥエイスを抱擁した。二人は身を寄せてしばらくの間ひたすら涙を枯らした。



「あの時、私と勇者以外の者は敵味方含め全員命を散らしたと思っていたわ。クゥエイス、あなたもディライサの槍を受けて倒れたじゃないの…良くぞ無事で…」



「私もあの時死ぬはずでした、しかし最後の一撃を喰らう寸前に自分を石化させたのです。石化が解けたのは50年後くらいでしたが、その時には既に私の友はおらず、魔人の者たちからジュピタリア様はフレイダと相撃ちになったと聞かされました」



「そうだったのね…」



「それを聞いて私は何度も命を絶とうと思いましたよ、ジュピタリア様のお傍へ逝きたいと願い。しかし、魔人たちを纏め上げて体制を整えねばなりませんでした。どうかお許し下さいませ」



「さすがは私が育てた子ね、優秀だわ。あなたが子供の頃からお世話していたからね」



「ジュピタリア様は私の育ての親も同然でございます! 良くぞご無事で… しかし、そのお姿は一体。それに喋り方も…?」



「クゥエイス、落ち着いて聞きなさい。私は勇者と相撃ちになり、死ぬ間際に転生魔法を行使したのよ」



「転生魔法?? そのような魔法をお使いになったとは…!!」



「つまり私は転生後の姿。今の私は人なの」



「なんと………!!??」



 それからメサリアは、2年前のグランゾーラとの戦闘も含めこれまでのことをクゥエイスに掻い摘んで話した。ひと通り話し終えると、今度はクゥエイスが語りだす。自分が魔皇四天王の第4将だということも含めて話した。




「まさかのジュピタリア様が人側だとは…それを聞いて私も、今後どうすればいいかわからなくなりましたよ」



 クゥエイスは脱力感とともに視線を地面へと移す。



「悪いわね。でも直接魔人と対立してるわけでも、魔人を滅ぼそうとしているわけでもないわ。だから安心して」



「ええ、それは心配してませんよ。ジュピタリア様は賢明なお方ですから。今回の旅も我々魔人を打倒するものとは無縁のようですし」



「もちろん、今の魔王が人を滅ぼすと言い出したら立ち塞がるとは思うけどね、人として」



「それはそうでしょうね。因みに言いますと、人を滅ぼす意図を持っていた魔人はグランゾーラくらいだと思われます。リディアス様はそのようなことはしないお方ですので。普段から落ち着いておられるので話もし易いですし、かつてのジュピタリア様の方が人を滅ぼす勢いはあったかもしれませんよ?」



「え゛っ゛!?」



「まぁそれはさておき、私は今すぐにでもジュピタリア様の配下に下っても良いと思っている所存であります。いかがなさいますか?」



「え゛っ゛っ゛!?!? そんな簡単に?」



「育て親ですし…」



「えーーーー!? どうしよう、本当に…配下に加わっても構わないけれども。あなた四天王よね、人界にいたらまずいんじゃ?」



「ジュピタリア様、お聞きしますが人が知っている四天王とは誰のことでしょうか」



「人の知っている? それは…やはり獣帝ラグロスって獣人と、2年前に現れたグランゾーラと、あれ? 二人だけしか知らない!?」



「はい、私も第2将のイクシリスも実は人界を侵攻した経験はありませんからね」



「じゃあ私の時と違って、今戦ってるのはラグロスの軍勢と帝国軍だけってこと?」



「左様で」



「え? もしかして私の時のほうが侵攻とかしてた感じ?」



「それはもうバリバリに。人側もこちらに攻め入ってましたからねあの頃は」



「え? それってもしかして今の魔王の方がおとなしいんじゃ?」



「リディアス様はあまり目立った動きをされてませんね、確かに」



「……………」



 メサリアはかなりショックを受けた。



「とりあえず。クゥエイス、あなたを皆に紹介するわ。ついて来て」



「ハッ! ジュピタリア様!」



「あ、あと今の私の名前はメサリアよ。間違ってもジュピタリアとは呼ばないでちょうだい」



「ハッ! ジュピ…メサリア様!」



「様はつけないで!」






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亜人娘タリア 目の比較

挿絵(By みてみん)


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