BBA
第4次元に存在する虚の体に刻み込まれた魔術式が起こす引力により、周辺の粒子が集められ、肉体が組成されていく。
ようやくマトモな領域に辿り着いたようだ。
俺はゆっくりと目を開けた。
そこは、森の中であった。自分が降り立ったせいで、自分の立つ場所を中心に地面が剥き出しになった円が出来ていた。その円の中は、俺以外の生命体が一切として存在しない空間となった。
不死の身体は、大多数の犠牲によって成り立っているのだった。
――ガサッ。
物音のする方へ振り返る。そこには、少女がいた。
人間だ。久しぶりに見た。俺以外の人間。
色々と情報を集めたいところだ。早速、コミュニケーションを試みる。
少し歩み寄って、
「あ、あのぉー」
「ヒィっ……!!!」
少女は座り込んだまま勢いよく後退りしていく。
「僕は、決して怪しい者じゃアリマセン……! 少しだけ、話を聞かせて欲しいんです……」
少女は尚も後退を続け、顔の前で手を振って、拒絶の反応を見せる。
「全裸の男の、何処が怪しくないだって?」
全裸ァ?
突然の介入。嗄れた声だが、静かな森にはよく響く。
少女の背後から、みえたのは老婆の姿だった。
「お、おばあちゃんっ! ……助けてよぉ、きゅうに風が吹いて……この人っ……」
俺、全裸だったのか。忘れてたぜ。
「アシュリー、お前は早く村へ戻りな」
老婆は厳しい声を発し、アシュリーと呼ぶ少女を追い返した。そして、改めてこちらに向き直る。
「やはり、アタシの勘は衰えていなかったようだ」
「ええっと……」
「魔王の使徒め、人の姿に化けたところで、この私の目を欺けると思うなよ!」
そう吐き捨てると、老婆は右手に持っていた杖を振り翳して、ごく僅かの間にブツブツと呟くと、老婆の前方空中に針状の氷が無数に現れた。
「まだまだ現役じゃボケェ! 成敗してくれるわァッッ!!!」 と叫び、また杖を豪快に振り回す。すると、その動きに合わせて、氷がで俺を目がけて飛んでくる。
「やっべ」と言いつつも、意外な感覚だった。
目に見える光景が思考に対して遅れて見えるのだ。これなら、氷の矢も見切れる。
1発目を半身になって躱すと、間髪入れず次の矢が飛んでくる。
屈んで避けても、飛んで避けても。氷の矢はまだまだ襲いかかってくる。
今度は趣向を変えてか、頭上から複数の矢がまとまって降り注いで来た。避けるように走り出す。
背後から、矢が地面に刺さる音が、鮮明に聞こえてくる。
老婆を左目で見て、森の中へ逃げ込む。視界が悪い場所なら、氷の矢は役に立たないはずだ。
盛り上がった木の根を飛び越えって、どんどん奥へ突き進む。
――何なんだ、あのババア! 魔王の使徒って言ったのか? 俺を何と勘違いしてんだよ! クソォッ!
すると、今度は轟音が空を震わす。
走っていた俺の横を、後ろから火炎の砲撃が突き抜けた。
「逃がすかァァァァァッ…!!!」
ババアは物凄い形相で次々と砲撃を繰り出す。その度に周辺の木々を焼き散らしていく。
アレ、と。ちょっと待てよ、と。咄嗟のことで、ついつい普通の反応をしていたが。
別に避ける必要は無いじゃないか。死ねたら、ラッキー! くらいの感覚で良いんじゃないの?
このままただ逃げているだけじゃ、永遠に終わらねぇ。もしくは、ババアの寿命で終わる。…………いや、そこまで待っていられるか。先に死ぬのは俺だ。
こうなったら、自らその攻撃に当たりにいってやる。
俺は回転する脚を止め、振り返った。
「さあ、来い、ババア! 俺を殺してみろォッッ!!!」




