表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

風に吹かれて

 360度に広がる真っ赤な荒野。強い風が吹き荒れる。俺はちょうど砂嵐の中を歩いている。


 この荒れ果てた地に、俺は封印されていた。


 封印される以前――と言っても、どれほど前なのかは今のところ把握していないが――確か、この辺りは王国郊外に位置していた。肥沃な大地が広がっており、多くの作物が育てられていたのだ。


 まあ、俺と戦士のせいでめちゃくちゃに荒れてしまったんだけど、これほどではなかった。これはもう荒れ方のベクトルが違う。少なくとも、緑は見えていた。


 だが、なんだココは。原型も留めていない。砂、礫、岩だらけのだだっ広い荒野。進めど進めど荒野荒野。空には暗雲が垂れ篭め、雷鳴が激しく響く。


 オマケに、ここの空気は生命体を滅ぼす成分で構成されている。


 もし、世界に『最果ての地』が存在したのなら、多分こんな感じなんだろうな。 


 全ては、あの封印魔術の副作用なのかもしれない。


 俺を6畳の闇の間に閉じ込める為だけに創造された封印魔術。それは世界中から結集された数百万人の精鋭魔術師の命と引き換えにして成り立った。


 その魔術は、それを維持するために、尚も周囲の生命エネルギーを吸収していたのだろう。


 どんだけ俺を警戒していたんだよ。


 て、当たり前か。だって俺は、不死身の真魔王だもんな。


 ここ、笑うところだぜ。ははは。


 にしても、代わり映えしない景色だなあ。結構な時間は移動しているのに、一向に進んだ気がしない。


 鬱蒼とした森の中を歩くのも、視界が明らかな砂漠の中を歩くのも、どちらも景色が変わらないので、同じ場所をぐるぐると繰り返し歩いてしまうものなのかもしれない。


 砂漠には常に強い風が吹いているので、足跡はすぐに消えてしまうため、それを指標にも出来ないのだ。


 ……強い風? ……砂? ……身体を塵にする空気?


「フッ……」


 思わず笑みが零れた。


 俺は、何をしようとしているんだ。ははは。理性はとうの昔に捨ててきた。さあ、力を抜け。初めての試みだ。自身の再生能力を任意で操作出来るのか。


 再生能力を停止させるんだ。


 さあ!


「アハハ、これは、また、違った気分だな……」


 皮膚表面から、徐々に黒い微粒子が風に攫われていく。白い骨が顕になり、それも同じように……。


 内臓がボロボロと崩れ落ちていく。ついに体を支えきれなくなり、ドサッ、と砂上にうつ伏せた。


 もしかすると、死ねるんじゃないのか!? 身体を塵に分解する空気に触れているのだから、死ぬのは当たり前だが。


 再生能力を止めたまま。塵になれば。風に吹かれて遠くへ散らばれば。死。再生されることもなく、永遠の死を手に入れることが、出来るのではないのか。そう、淡い期待を抱いていた。だが……。


 不思議な感覚だ。体は全て塵と化した。


 その塵1粒1粒に俺の意識が存在して、風に吹かれる塵の集合体が俺という存在になった。


 確かに任意で再生能力の操作をすることは可能だった。だが、塵と化した今でさえ意識が存在するのは、果たしてただ「不死身」であるゆえなのだろうか。


 自身の経験から推測するに、身体の生命活動維持が完全に困難となった場合を『死』と定義され、その時は自動で完全再生が行われる。


 今の試みにより判明したのは、身体の一部欠損つまり生命活動を行うにあたり支障をきたさない範囲であれば、その再生を自らの任意で中止させることが可能であった。


 ただ、今のこの状態。塵となった今、俺は生命活動を行えているのだろうか。確かに意識はある。だが、これを生命と呼べるのか。


 俺は、俺が思っていた以上に、死ねない身体になっていたのかもしれない。それは、悲しむべきことだろう。また1歩人間から離れてしまった。


 ただ、今はこの風に身を委ねよう。しばしの休息だ。


 風に流されてはるか上空を吹かれている。


 死ねなかったが、この思いつきは正解だった。人間の脚で移動するより、風になった方が簡単だった。


 身体の感覚として理解した。離れていた距離にあった塵たちがある1点に引かれているようだった。


 この『不死身』の特性。


 理解した。今のこの状態というのはやはり『死』と定義されている。しかし、その塵を再構成しようと力が働いているのだが、風が強すぎてその力が及んでいないのだ。


 そして、『不死身』の特性として、使える部品はまた使え。勿体ないの精神というものが存在している。


 例えば、手首を切り落としたとして、また新たな手首がニョキっと生えて来るのでは無いのだ。その落とした手首が再結合される。


 それはその分裂した単位が極々小さかったとしても、同様だと思われる。


 しかし俺を構成していた塵の全てが今の風の範囲にあるわけではないだろう。途中で落ちた塵もあるはずだ。


 あまりに離れ過ぎた場合は、その部位を引き寄せてくるよりも、手近なモノで再構成させた方が簡単だから。


 その塵の分は、他の場所――例えば空気中から頂戴した成分を利用して再構成が成されるはずだ。


 だが、今は、それが存在しない。何せ人を塵にする空気だ。そんな成分の中に、人間を構成している成分はありやしない。


 つまり、今『不死身』の力は働いている。俺も生きている。言わば、不完全再生状態なのだ。『不死身』は再生したくても再生しきれない状態にある。


 風に流されて、体を再生出来る領域に辿り着けば、自ずと俺の体は元の人間の姿に戻るだろう。


 多分、その領域には俺以外の人間が存在しているはずだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ