脱出、希望の光
俺は死ななかった。また生きてしまった。
世界は俺のことを封印して、死んだも同然だと思っているのだろう。
だが、それは間違いだ。俺は死んでいない。
死ねないんだよ!!!
封印なんてクソ喰らえだ。いっその事なら、殺してくれよ!!!
それが不可能だって………だから、永遠に、臭いものには蓋をしとけというのか!!!
ふざけるな!!!
蓋をされた身にもなってみろ!!! このザマだ!!!
永遠に死ねない体で、永遠に等しい時を、ただの真っ暗闇で過ごせというのか!!!
ああ、この世に地獄が存在るというのなら、まさにここが地獄の果てだ!!!
このままでは、餓死を繰り返すだけだ。埒が明かない。俺は、生きているんだぞ。このまま、真っ暗闇の封印の中で、永遠を過ごすなんて、そんなの真っ平御免なんだよ!
クソォッ!!! ガっ……!!!!!!
舌を強く噛みちぎる。怒りのせいで痛みは殆ど無かった。意識が朦朧としていく。暗闇の中、さらなる闇の底へと沈んで行く。
目覚めた。ステータスを確認し、経験値が得られていることを再確認する。
黒い闇の中に存在する封印の障壁。
それに、助走をつけて、思い切り殴り掛かる!!!
――バンッッ……………。
ビクともしない。当たり前だ。
拳が砕けてしまった。それどころか上腕骨も折れてしまった。筋繊維もいくらか千切れた。しかし、問題ない。直ぐに元通りに回復する。
問題なのはそんなことではないのだ。
今、現時点で魔王を凌駕する突きを繰り出せる俺が、全く歯が立たない封印の壁。
でも、それは「今」の話だ。
憎むべき俺の唯一の特性「不死身」を、今回のこの場合だけには、有利に働く。
俺が自らの手によって俺を殺すと、俺を殺したことによって、俺に経験値が入る。それを何度も続ければ、レベルが上昇し、自ずとその他の値も上昇していく。
これを、封印を破壊できるまで繰り返す。
俺は、封印を破壊して、外に出る。そして世界に思い知らせてやる。
俺が生きてるってことを。中途半端な死と、生き地獄はもうお終いだ。
外の世界で、今度こそ、堂々と永遠の死を手に入れるんだ。
これはただの八つ当たりで、嫌がらせで、自己満足だ。でも、俺にはそれしか無いんだよ。
改めて覚悟を決め、俺は俺を殺し始めた。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
…………………何度も。
そして、ついに、その拳が、闇を突き破った。
――光だ。
その一筋の光は、まるで天から降りてきた蜘蛛の糸のように煌めいて見えて、全ての希望を孕んでいた。
涙が溢れた。
――嗚呼、俺に永遠の死を。
光は闇を消し去り、封印は雲散霧消した。
光を見て、俺は泣いた。この上なく泣いた。
永遠の死を望んでいるのはただの妄想で、実はふつうに生きていたいだけなんじゃないのかと自分を疑った。
そんな迷いはすぐに消滅した。
地面というものを久方ぶりに踏んだ。この表現ではいささか軽すぎる時を過ごしていたが。
外気に触れた。光を浴びた。
だから、なんとなく感覚が麻痺していたんだと思う。
目の前に広がる光景は、真の闇に比べれば、余程感情を動かすには十分なモノだったと思う。
見渡す限りの赤茶けた荒野。砂漠。砂砂砂。砂嵐。
あまりに殺風景で、殺伐とした光景なはずなのに。
どこか懐かしさを感じていた。
自分の体を久し振りに見た。
なんだか様子がおかしい。
皮膚から黒い靄のようなものが漂っている。触ると、指に煤のやうなものがついた。
常に皮膚が再生されている。
靄を放つ腕を軽く叩くと、皮膚が砂みたいにボロボロと崩れ落ちて、腕が地面に千切れ落ちた。
落ちた腕は見る間に、灰のような、塵のような、さびのような、とにかく粉々に崩れて、風に攫われて、跡形もなくなった。
息を吸うと、気管や肺がボロボロになっていく感覚がわかる。
なるほど。ここの空気は……ヤバイんだ。理解した。
俺のような瞬間再生能力が無い、ただの人なら、すぐに塵と化す。
どうりで生物の気配もないわけだ。
皮膚表面が脆くなっているので、気を付けながら、歩き始めた。
「さてと、どこへ向かおうか」
足の裏が溶けて、歩き心地が悪い。
「そう、どこかにいるはずだ。俺を殺してくれる強い人が」
俺は希望に満ちた気持ちで、歩みを進めた。
永遠の死を求めて。




