潜入開始
難攻不落を極めるレナード城、その所以は特殊な地形にある。
北のエルトラ山脈と、南のララス山脈に挟まれた渓谷に位置し、西のフェニキア側には2重の関門、東には城壁で繋がった3つの砦が連なっている。
フェニキアがアルフォード王国に侵攻しようとした場合、2重の関門を突破し、城を攻略した後、砦を制圧せねばならず、20万以上の兵力を以ってしてもレナード領を落とす事は難しいのだ。
少数の部隊がエルトラ山脈やララス山脈を越えて侵攻して来る事もあったが、西方騎士団や近隣都市からの援軍、更には王国正規軍や近衛騎士団が撃退してきた。
余談ではあるが、エルトラ山脈はミリアムの出自であるらしい。
かつて、エルトラ山脈を越えて侵攻してきた傭兵部隊の鎮圧に向かったミラルダがミリアムを拾う事になったのだ。
南東よりレナード領に入った王都守備隊は、ララス山脈の南側に駐屯している。
私達6人の別動隊は敵の内情を探るため、ララス山脈を北上し砦の裏側に回り込もうとしていた。
「もうすぐ敵地のド真ん中に入る。準備は良いか?」
「はい、アイリス様!」
「あー、ちょっと良いか?」
私は険しい斜面を覆いつくす木々の間で立ち止まり、後に続く5人の兵士を眺めた。
「何でございましょうか?アイリス様。」
「それだ…。」
「それ、と申しますと?」
「こっから私達は傭兵として敵に紛れ込む。もう少し傭兵らしい態度と言葉遣いは出来ないのか?」
「そうは申されましても、長らく軍属の身である我々には難しいかと。」
「そこは演技で何とかしろ。そうだな、ジークを真似すれば良いんじゃねーか?」
「ジーク様を真似て演技ですか…」
「んじゃー、練習も兼ねて一人ずつ自己紹介でもしてもらおうか?」
「コホンッ、えー、自分はエギルでご…ます。」
「あー…酷いな。一人称は俺と言え。はい次!」
「お…俺はラパンです、アイリス様!」
「馬鹿かオマエは!敬語敬称は使うな。はい次!」
「俺はモーリス…」
「よしよし、良い感じだ。それでオマエは?」
「ジェフリーだ…」
「お!?良いんじゃないか?もう少し太々しい感じが出せればジークっぽいな。んで最後のオマエは?」
「オレは、ヘンリーっス!」
「お…おぅ、小物感が半端ないが、上出来だ。」
「アザーっス!俺の弟がこんな感じなもんで…」
「まぁ良いだろう…。この森を抜けたらレナード領の中枢に入る。気を抜くなよ!」
彼らの言動に一抹の不安はあるが、バレなければ問題ないだろう。
そして私達は森を突き進み、砦の裏側へと辿り着いた。
北西には堅牢な城がそびえ立ち、万敵を寄せ付けない威圧を放っている。
そして遠く東に見える砦の前には、かなりの軍勢が集まっているようだ。
あれはやはり王都守備隊を警戒しての守備部隊で間違いないだろう。
一体どれほどの戦力が集まっているのか、ここからでは判断できない。
「お前ら、こんな所でなにしてやがる?」
突如背後から、周囲の状況を見渡している私達に掛けられた声で背筋が凍る。
ここは上手く誤魔化してやり過ごさなければ、面倒な事になるだろう。
「いやー、ちょっと道に迷っちまって…。」
「ほぉ…迷子か。しかし、女の傭兵とは珍しいな。」
「戦うしか能のない私が手っ取り早く金を稼ぐには、傭兵になるのが一番ですから…」
「その器量なら体を売った方が早いんじゃねーか?なんなら俺が買ってやろうか?」
「これでもダメな旦那とガキが帰りを待ってるんで…」
「そうか…気が向いたらいつでも相手になってやる。アンタなら言い値で買ってやろう。」
傭兵はエロ爺と同じ目で私を舐め回し、ニヤリと微笑んだ。
「覚えときます…。ところで、城下町はどっちですかね?」
「ここからだと北東に行けば見えて来る筈だ。」
「ありがとうございます!ヘンリー、オマエがこっちだって言うからだろ!」
「あ、スンマセン!」
「じゃあ、私達城下町に行きますんで。」
「ああ、またな!」
私達はそそくさと傭兵の元を去り、北東にある城下町を目指した。
多少ヒヤヒヤはしたが、問題ないだろう。
随分時間が掛かってしまったが、夕闇が迫る頃、私達は漸く城下町に辿り着くのだった――
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