雌伏の地に至りて
新たな戦力が加わり、国境の街アストレアを目指し東進を続ける。
その道程では毎日、僕を含めて新戦力の練兵が行われた。
と言っても、件の走り込みが僕達に課せられた訓練だったのだが、その数は数百人に増え、中継都市を経由する度に膨れ上がって行った。
1ヵ月後、アストレアに到着する頃には1000人近くもの戦力が加わった。
しかし、その殆どが戦を知らない少年達であり、武器を持った事すらないのは言うまでも無い。
アストレアに到着して間もなく、アルテミシア王女と宰相閣下、そして近衛騎士達とザックスが、聖教国ハイネシアへ向けて出立する。
僕達は見送りのために西門に集まった。
そこには行軍を共にした王都守備隊や、新兵達、更にはアストレアの多くの市民達が詰め寄せ、声援を送っている。
「わっ、とっと…」
「大丈夫ですか?ザックス…」
「だ、大丈夫です!」
初めて騎馬に乗るザックスが手綱を強く握り締め、必死にバランスを取っている。
そして堂々と騎馬に跨るミラルダとミリアムがザックスの横に並び、生温かい目で見守っている。
「騎乗者の怯えや緊張は馬にも伝わるものだ。馬に全てを任せ、気持ちを楽にすれば良い。」
「はい、ミラルダ様!」
「ミラ様、やはり騎馬も扱えぬようでは足手纏いかと。彼もここで待機させた方が良いのでは?」
「いや、ザックスには近衛見習いとして、一刻も早くパーシバルの穴を埋めてもらわんとな…。」
「習うより慣れろってか?嬢ちゃん達も相変わらず強引だな。」
「ジークよ、お前は逆にのんびりし過ぎではないか?」
「急いては事を何とやらだ…。まぁコイツの場合は大丈夫だろうがな。」
「ああ、数日でアレを身に着けたと聞いたぞ。」
「そうだな、後はミラルダの嬢ちゃんに任せた方が良いかもしれん。」
「私に?」
「コイツの剣技、知ってんだろ?」
「ベルガー殿の剣技か…私も幾度か目にした程度だが。」
「ベルガー様をご存知なんですか!?」
馬上で話を聞いていたザックスが、急にベルガーという言葉に反応したせいで大人しくしていた馬が嘶き、振り落とされそうになる。
「知っているも何もベルガー殿は私が幼い頃に近衛騎士を率いていた方だ。私の先々代の近衛騎士団長に当たる。」
「そうだったんですね…」
「ってな訳だからザックスよ、後はミラルダの嬢ちゃんに剣技の方を伸ばしてもらった方が良いだろ?」
「はい、よろしくお願いします!」
「あまり自信がある訳ではないが、了解した。では、そろそろ行くとしよう。」
僕達が盛大に見送る中、アルテミシア王女を乗せた馬車が動き出した。
それに付き従う近衛騎士の騎馬達、そして恐る恐る騎馬を駆るザックスに大きく手を振り、しばしの別れを告げた。
これから春が訪れるまでの数か月間、僕達にはやらなければならない事が山積している。
まずは武器や兵糧などの物資の確保。
そして、街を防衛するための砦や、兵を休ませるための宿舎の設営。
更に、戦に向けて本格的な練兵を開始しなければならない。
僕達は雌伏の地アストレアで着々と戦の準備を進めるのだった――
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