集結する若き力
ザックスが負傷したアレンを抱え、僕達全員が崩れた天井の瓦礫を越えると、負傷したビトルフの少年達が壁際に集められ、呻き声を上げていた。
未だ意識を失っているネイザンとリカルド達もその中に混じっているようだ。
そんな少年達をジークとミリアム、そして9人の近衛騎士が取り囲んでいる。
「貴様ら…俺にこのような狼藉を働いて、タダで済むと思うなよ!」
顔中を青アザで腫らしたリカルドが喋り辛そうにしながら、ジークに対して苦言を呈している。
「お前ごときガキに何が出来るってんだ?」
「俺はバーグマン家の嫡子、リカルド・バーグマンだぞ!」
「ほぉー、だからどうした?」
「侯爵家の嫡子であるこの俺に対するこの行い、万死に値すると知れ!」
「結局、力が有るのはお前の父親であって、お前は何の力も持たないただのガキだ。」
「くっ…」
「それに、俺達はアルテミシア姫直属の部隊だ。お前こそ姫さんの部隊に手を出して、ただで済むとでも思っているのか?」
「アル様に叛旗を翻す逆賊は死罪が妥当だ。」
そう冷たく言い放つミリアムの言葉に、リカルドは唇を噛んだ。
「待って下さい!彼は僕を狙ってこの騒動を起こしました。それに、命令されてやった事だと思います。命だけは助けて下さい!」
「お前も姫さんの部隊を指揮する指揮官の一人なんだぞ?」
「はい、それは重々承知しています。」
「ったく、お前は甘ったれたヤローだな。分かったよ、好きにしな…。だがな、お前を狙う敵を残す事になるってのは忘れんな!」
「…はい。」
「貴族であるこの俺が、下賤の輩に助命されるだと!?そんな事は許さん!お前に助けられるぐらいなら死んだ方がマシだ!!」
「リカルド…」
「殺せ!さあ早く殺すが良い!!」
僕は無言で、喚き散らすリカルドに歩み寄り、思い切り頬を引っ叩いた。
「甘えているのは君です!」
「な…んだと…」
「君は、いずれ沢山の人の命を支え導く領主となる人間です。そんな君は簡単に命を無駄にして良い訳がない!自分の使命と責任を放棄し、矜持のために死を選ぶなど、甘えでしかありません!」
「ふざけるな!お前なんかに何が分かる!」
「自分のためだけのちっぽけな矜持しか持たない人間の事など分かりません!」
「貴様ッ、言わせておけば!!」
「ビトルフの街の皆さん、僕達は多くの国民を守るため、アルテミシア王女そしてトラキア戦役の英雄達と共に戦います。彼のような小さな人間に従うよりも、僕達と共に戦いませんか?」
リカルドに従い、僕達を襲った少年達は顔を見合わせ、騒めいている。
「彼よりも強い矜持を持ち、共に戦う意志のある者は、明日、街の広場に来て下さい!」
「正気か!?お前達を襲った連中だぞ?」
ジークが驚いた顔で僕に問いかける。
「はい、彼らは自らの意志で僕達を襲った訳ではありません。彼らの中に少しでも強い矜持があるならば、必ず共に戦ってくれると信じています。」
「そんなもんかねー…。んじゃ、そろそろ帰るとするか!」
「はい!」
「ミリアムの嬢ちゃんと近衛の皆、済まんな、今日は助かった。」
「ああ、構わん…。だがファクト、戦場ではこうは行かんぞ。甘えを捨て、敵対する者は迷わず殺せ、良いな。」
「…はい。」
こうして無事に廃倉庫から救出された僕達は、ビトルフの街で納屋を借り、夜を明かす事となった。
勿論、僕達を助けに来てくれたミリアムと近衛騎士達は僕達と別れ、野営地へと戻って行った。
翌日――
街の入口で本隊の到着を待ち、アルテミシア王女と市長との会談の間、僕達は約束の広場へと向かった。
信じているとは言ったものの、彼らが共に戦ってくれる自信がある訳ではない。
不安を抱えながらも広場に到着した僕達は、驚くべき光景を目にした。
広場を埋め尽くす程の人の群れ…昨日の少年達のみならず、数百人の少年達が集まっていたのだ。
やはりリカルド達3人の姿は見当たらなかったが、廃倉庫で死闘を繰り広げたネイザンや、近隣の街の少年達が集まっているようだ。
アレンらクレメンテスの少年達が言うには、近隣の街で縄張り争いをしていた時に敵対していた各街の頭が参加しているらしい。
僕達は広場の中央を目指し、人垣の中を堂々と行進する。
騒めきと好奇の目が次第に集まり、僕達が広場の中央に陣取ると、静寂が訪れ、張り詰めた緊張感のようなものが辺りを包んだ。
ザックスに背中を押され、一歩前に踏み出した僕は、広場の隅々まで届くように大きな声で彼らに語り掛けた。
「僕達と共に戦うため集まってくれた皆さんには、心から感謝します!およそ半年後、この国に未曽有の内乱が巻き起こるでしょう。僕達はそれに立ち向かうべく兵を集め、聖女様と共に戦います!」
「おい…勘違いするな、俺は国やお前達のために戦うつもりはない!」
僕達の前に進み出たネイザンは、昨日の激闘が無かったかのように、堂々と胸を張り、強い覇気を放っている。
「俺は、俺達の縄張りと、手下共を守るために戦う。無駄死にするつもりもない…忘れるな。」
「はい、それで構いません。むしろ僕達も、平和な王国を築くため、多くの人々を守るために戦います。ここに集まってくれた皆さん一人一人の命もまた、僕達の守るべきものだと考えています!」
「おいお前ら!この中には長年抗争を繰り返してきた奴らもいるだろう。だが、今この時をもって俺達は仲間だ!仲間の命は俺が守る!もしも俺の仲間が窮地に立たされた時、お前らが守ってやって欲しい。良いな!!」
ネイザンの一言で、広場を埋め尽くす少年達から割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「お前が俺達の指揮官だな?」
「はい。」
「もし、俺達の命を粗末に扱うようなら容赦はしない…。それとアンタ、名は?」
「シリウスだ…。」
「そうか、この俺をあそこまで追い詰めたのはアンタが初めてだ。覚えておこう…。だが、負けを認めた訳ではない、いづれケリを着けさせてもらう。」
「…勝手にしろ。」
こうして僕達に、更に多くの仲間が加わる事となった。
今はまだ、戦力と呼ぶには余りにも若い彼らだが、恐らくその意志は王国中のどんな部隊よりも強く、固い絆で結ばれている。
将来、成長した彼らの部隊は王国最強の戦力となって行くだろう。
僕は鳴り止まぬ歓声の中、絶対に彼らの命を無駄にしないという新たな誓いを立てるのだった――
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