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深淵を知る者  作者: Gary
雌伏の地にて時の至るを待つ
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形勢逆転

 僕達の前に横たわる瓦礫の向こうから、ガラガラとずり落ちながらも瓦礫の山をよじ登る音が聞こえる。

こちらもクレメンテスの少年達に声を掛け、瓦礫の山を登っているのだが、なかなか思うようには行かないようだ。

先に瓦礫の山の頂上を占拠した方が優位になる事は言うまでもない。


「自分が行きます!」


 痺れを切らしたザックスが瓦礫の山へ向かって歩き出す。


「お願いします。ただし、魔法には十分警戒して下さい。頂上から顔を出した瞬間を狙い撃ちされるかもしれません。」


「解りました!」


 魔力のコントロールを身に着けたザックスは、飛び跳ねるように瓦礫の山を登って行く。

想像以上の速さで頂上付近に辿り着いたザックスは、慎重に山の向こう側を覗き見る。

その瞬間、炎の礫ファイヤーボールがザックスの頭をかすめて飛来して来たが、崩れた天井を突き抜け、空の彼方へと飛んで行った。

僕は出来るだけ安定した足場を登り、ザックスに近付いた。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫です。」


「向こうの様子はどうでしたか?」


「魔術師が2人、魔法を放つ準備をしていました。数人は瓦礫を登っていたようですが、今はその気配がありません。」


 リカルドは魔力を温存し、残る取り巻きの2人が迎撃態勢を取っているのだろう。

瓦礫の登攀とうはんを中止したという事は、自分達の優位性に気付いたという事か。

と言うのも、既に袋のネズミとなった僕達は、瓦礫を登り、待ち受ける敵を突破しない限りこの場を脱出する事は出来ない。

対して、リカルド達は無理に瓦礫を越えて攻め入らなくとも、数的優位な状況で山を下りて来る僕達を各個撃破すれば良いのだ。

つまり彼らは、脱出するために向って来る僕達を待っているだけで、僕達全員を始末する事が出来る。


「どうしますか?」


「そうですね…少々危険ですが、瓦礫を投げつけるなどして魔法を誘発する事は可能ですか?」


「なるほど、魔法を無駄撃ちさせて魔力を消耗させるのですね?解りました、やってみます!」


 そう言ってザックスは顔を出しては引っ込め、隙を見つけては小さな瓦礫を投げつけ、数回魔法の誘発に成功した。

しかし、敵もバカではない。

誘発させられている事に気付いたのか、ザックスの挑発に乗って魔法を放つのをピタリと止めてしまった。 

「ありがとうございます、ザックス。もう十分です。後はそのまま様子を伺っていて下さい。」


「解りました。」


「一体何をやっている?」


 ネイザンとの闘いで消耗していたシリウスが回復したようで、怪訝そうな表情で僕の元に歩み寄って来た。


「シリウスさん、もう大丈夫なんですか?」


「ああ…問題ない。しかし、なぜ攻めない?今のザックスなら、お前が魔法で援護すれば充分に活路は開ける筈だ…」


「いえ、そう簡単には行きません。向こうにいるリカルドは相当な使い手です。僕の力で勝てるかどうか…」


「そうか、ならば俺が行こう…」


「待って下さい!」


「ここを突破する以外に道はあるまい…」


「そうです、だからこそこれ以上無理をする必要はありません。」


「どういう事だ?」


「もうすぐです、もう少しだけ待ってもらえませんか?」


「チッ、勝手にしろ…」


「ファクト!入口の方から誰か来ます!」


「数は?」


「10人程度です!」


「そうですか。一人で来ると思っていましたが、助かりました。」


 僕は大きく息を吸い込み、山の向こうへ向かって大声で叫ぶ。


「僕達は瓦礫の向こうです!そこにいるのは全員敵です!」


 静まり返る廃倉庫に僕の精一杯の叫びが木霊する。


「そうか…ったく、世話を掛けさせる。」


「彼らに罪はありません、なるべく殺さないで頂けますか!」


「はぁーっ、めんどくせぇなーおい。」


 山の向こうで少年達の間から騒めきが沸き起こる。


「なんだぁテメーらは!」


「ん?あいつらの保護者ってトコか?なぁ、嬢ちゃん。」


「知らん、さっさと片付けるぞ!」


 こうして山の向こうで激しい戦いが始まった。

泣き叫び逃げ惑う声、少年達の怒声と呻き…

僕達の援軍は圧倒的な強さで、少年達を一方的に蹴散らしているようだ。


「あの声まさか…」


「はい、ジークさんとミリアムさん、それに恐らく近衛騎士団の皆さんですね。」


「何故だ…どうして師が来ると解った?」


「僕達はビトルフへ来る前にジークさんに行き先を告げました。僕達の帰りが遅ければ心配してここへ駆けつける…。ただそれだけの事です。」


「しかし、当ても無くこの広い街を彷徨えば、もっと時間が掛かってもおかしくなかった筈だが?」


「魔法で合図を送りましたから、恐らく気付いてくれると思っていました。」


「魔法?…そうか、誘発させた敵の炎の礫ファイヤーボールか…」


「そうです。僕達が全員無事に脱出するには援軍を呼ぶ他ありませんから。それも、僕達にとって最強の援軍をです。」


「チッ…後で何を言われるか…」


 時折、魔法の火柱の光が辺りを照らすが、ものの数十分で廃倉庫に静寂が訪れた。

もはや僕達の元に駆けつけた最強の援軍の勝利を疑う者はいない。

僕達は全員無事に窮地を脱する事に成功したのだ――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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