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深淵を知る者  作者: Gary
雌伏の地にて時の至るを待つ
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宿敵との再会と窮地の訪れ

 リカルド・バーグマン、この付近一帯を領するバーグマン侯爵の御曹司であり、ビトルフの街に現れたのも何ら不思議な事ではない。

しかし、思わぬ闖入者ちんにゅうしゃの出現で動揺しているのも確かだ。

廃倉庫に集まる少年達にとって、彼はどのような立場なのかは解らないが、僕にとって敵である事には変わりないだろう。


「リカルドの若旦那、ボスがクレメンテスの奴らにやられました!」


 廃倉庫に集まる少年達の一人が、リカルドにネイザンの敗北を報告した。

その一言で、彼らにとってリカルドは味方である事が判断できる。


「あのネイザンが負けただと?クレメンテスにも骨のある奴がいるようだな。」


 僕達を取り囲む少年達の一角が2つに分かれ、その間をリカルドと取り巻きの2人が歩み寄って来る。

リカルドの後ろの2人は、学院時代にもリカルドに付き従っていた僕と同期の院生で間違いない。


「久し振りですね、リカルド。」


「フッ、そうか…お前か…手間が省けたな…。お前を捕えるために苦労してボンクラ達を集めて待っていたんだ…」


「そういう事ですか…」


「あの臨時講師がウォーロックだと聞いた時には驚いた…。そのウォーロックの弟子になったお前がリィンフォルトを救うとはな…」


 僕達の戦力を集めるために流した風評は、大きなリスクも抱えている。

それは、敵に内情を知られてしまう事と、僕達の行動が筒抜けになってしまう事だ。

宰相閣下は恐らくそれを理解した上で、ジークと500人の王都守備隊を僕の作戦に同行させるのだろう。

だが今は、ジークも500の兵もいない。


「生け捕りにすれば腕の1本や2本無かろうと問題は無い。あの時の借りは返させてもらおうか!」


「くっ…」


「どうした、顔色が悪いぞ?それはそうだ。あの女がいなければ、お前などクズ同然の虫ケラなんだからな。」


「確かにそうかもしれませんが、僕も黙ってやられる訳にはいきません!」


「ほう、この俺に盾突くのか…良いだろう、相手になってやる。」


 敵は魔法学院の魔術師3人と100を超えるビトルフの少年達。

対して僕達は、戦闘不能のアレンとシリウス、ザックスと34人のクレメンテスの少年達。

ネイザンとの戦いで消耗しているシリウスはしばらく動く事も出来ないだろう、となると魔法が使えるのは僕だけだ。


「ザックス、アレンとシリウスを連れて倉庫の奥へ!クレメンテスの皆さんも奥へ引いて下さい!」


 ここへ来た時ネイザンが陣取っていた寝台の奥には敵がいない。

廃倉庫の入口方面にはリカルドを中心として、少年達が分厚い壁を作っている。

この状況で彼らを突破して、廃倉庫を脱出するのは難しいだろう。

強行突破で全員無事に脱出する事は不可能だ。

僕はジリジリと後退しながら術式の展開を始めた。


「術式か。何をするつもりか知らないが、この俺に魔法で勝てると思っているのか?」


 そう言ってリカルドと取り巻きの2人は術式の展開を始めた。

僕の術式も完成しつつあるが、間に合うか解らない。

いや、絶対に間に合わせなければならない。

術式を展開しながら後退した僕は、果敢にも身構えるクレメンテスの少年達に合流した。


 魔法には魔法で対抗するしかない。

魔法も使えず、何の武装も持たない彼らには、魔法による攻撃を防ぐ手段はなく、一撃で勝敗が決してしまうだろう。

それだけは何としても回避しなくてはならない。


 額から流れる汗が頬を伝う。

術式の展開が間に合わなくとも、魔法が失敗しても、多くの犠牲が出てしまう。

僕が撒いた種のせいで…僕の力が及ばなかったせいで…。

一瞬、幼い頃の孤児院での惨劇が頭をよぎる。

もう二度と僕の目の前で、あのような惨劇を繰り返す訳にはいかない。

僕はあの時とは違う、今は残酷な運命に立ち向かう力を持っているのだから。


「時間切れだ、何をしようともう遅い!」


 その瞬間、廃倉庫を埋め尽くす程の巨大な炎のつぶてが3つ、奥に固まる僕達に向って放たれた。

炎の礫ファイヤーボール、僕の予測していた通りの魔法だが、その威力は想像以上のものだ。

あれが直撃すれば、即死は免れないだろう。

もちろん僕とシリウスならば、魔法で何とか即死は免れるだろうが、完全に無効化するのは難しい。

行動不能に陥る程の重傷を負うのは間違いないだろう。


 だが、そんな結末には絶対にさせない。

炎の礫ファイヤーボールの熱風が額を焦がすほど迫って来たその時、僕の術式が完成し、瞬時にその効果を発揮する。

巨大な3つの炎の礫ファイヤーボールは、僕達の眼前で上へ跳ね上がり、崩れかけた廃倉庫の天井に直撃する。


 僕が発動した魔法は、炎を検知し、軌道を変えるという単純なものだ。

しかし、これもまた僕だけが使える世界で初めての合成魔法に他ならない。


「何ッ…下がれ!」


 リカルドの驚きに満ちた叫びが廃倉庫に響き渡る。

その瞬間、もろくなっていた天井が崩れ、僕達と彼らの間に瓦礫の山が横たわる。

これで僕達も身動きが取れなくなったが、敵も手出しが出来なくなった。


 この廃倉庫に入った時から脆くなった天井を崩壊させて脱出する作戦を考えてはいたが、僕の魔法では威力が足りず、かといってシリウスに頼もうにもネイザンとの闘いで消耗してしまったのであきらめていたのだ。

まずは僕の計算通りに事が進んでいる。


 惜しむらくは僕達とリカルド達の配置が逆であれば、すぐにでも撤退が可能であったが、四方を壁と瓦礫に囲まれた僕達に退路は無い。

ここからは持久戦になるだろう。


 僕は崩れた天井を見上げ、夕闇に染まった空を見詰めるのだった――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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