ネイザンとの死闘
僕達を含め大勢の少年達が見守る中、アレンに勝利したネイザンとシリウスが対峙する。
シリウスはネイザンを鋭い視線で睨みながらも、歪んだ笑みを浮かべた。
「今日は気まぐれで、こいつらに付き合って来ただけなんだがな…フッ、面白い事になったもんだ…」
「面白いだと?舐めるなザコが!」
「舐めてなどいない…この力を試すには丁度良い相手だと褒めているんだ…」
「貴様ッ!」
「どうした…構えないのか?」
「ザコ相手に構えなど…」
ネイザンが言葉を放つ途中で、一瞬にして間合いを詰めたシリウスは、大きく振りかぶった右の拳を叩き込む。
それまで余裕を見せていたネイザンだったが、恐るべきスピードで放たれる攻撃に反応し、咄嗟に両腕を交差させて受け止める。
床に堆積した埃を舞い上がらせて、防御姿勢のまま数メートル後ろにずり下がったネイザンは、目を見開き感嘆の表情を見せている。
シリウスの圧倒的な速度と攻撃力に驚いているようだ。
線の細いシリウスからは想像も出来ない攻撃に驚くのは当然だろう。
しかもそれは、生まれ持った特殊な能力ではなく、最近使い方を覚えたばかりの能力なのだから舌を巻くばかりだ。
リィンフォルトでの戦いで双凍剣の片割れを使っていた事と、ジークの言っていた事を考えれば、恐らく彼が持つ本来の力は、氷結系の能力だと推察できる。
あの爆発的な魔力のコントロールと氷結系の魔法が組み合わされば、戦場では獅子奮迅の活躍が期待出来るだろう。
しかしその反面、長時間の使用には耐えられず、スタミナ切れを起こした場合に無防備な状態に陥ってしまうという欠点も抱えている。
今この瞬間にもスタミナ切れに陥り、危機的状況を迎えるのではないかと一抹の不安を禁じ得ない。
「ザコを相手にビビっているのか?」
防御姿勢のまま動こうとしないネイザンに対して、シリウスは皮肉な笑みを浮かべ、威圧するかのようにゆっくりと歩み寄る。
「おのれ…この俺が貴様ごときに恐れるものかッ!」
ネイザンは怒りに任せ、勢いに乗った大振りの拳を放つ。
それは、アレンを吹き飛ばした時の拳よりも遥かに強力で、恐るべき破壊力が込められているようだ。
しかしシリウスは、ネイザンの全力の拳を片手で受け止め、その勢いを吸収して身体を捻り、上段の後ろ回し蹴りをネイザンの頭部に叩き込む。
またしても咄嗟に反応したネイザンは片腕でシリウスの回し蹴りを受け止めるが、ガードなど無関係にネイザンを吹き飛ばし、彼はゴロゴロと床を転がった。
「ぐっ…クソがぁ!!」
ムクリと起き上がったネイザンは、懲りもせず再びシリウスに襲い掛かった。
左右の連撃を軽快に捌き、下段の蹴りを受け止めるシリウス。
そして再び襲い掛かる左の拳を姿勢を低くして躱すシリウスだが、そのままガクリと膝を付き、流れるような動きが止まってしまった。
まずい…案じていた通り、シリウスのスタミナが切れてしまったようだ。
このままではネイザンの拳の格好の餌食になってしまう。
やはりネイザンも一瞬の隙を見逃す筈は無く、ここぞとばかりに強力な右の拳を叩き込む。
この街に来る途中もそうだったが、シリウスは少しのインターバルを挟まなければ断続的に魔力のコントロールをする事が出来ないのだ。
このままではアレンの二の舞になってしまう。
しかしシリウスは必死に歯を食いしばり、襲い掛かる拳を受け止め、その勢いを利用して巨躯を誇るネイザンを投げ飛ばした。
ズシリという振動が廃倉庫を揺らし、白い誇りが舞い上がる。
片膝を付いたまま息を荒げるシリウス。
そして、白目を剥いてピクリとも動かないネイザン。
この闘いはシリウスが勝利したのだ。
廃倉庫に一瞬の静寂が訪れるが、それも束の間、沸き起こる罵声と憤怒の叫びが僕達を襲い、穏便にこの場を去る事が難しい状況に陥ってしまった。
100を超えるであろう少年達を退けなければ、この廃倉庫から出る事は出来ないだろう。
味方の少年達に被害を出さず撤退するには、僕が魔法を使い、血路を開く他は無い。
意を決して術式を展開しようとしたその時、廃倉庫の入口から聞き覚えのある声が響き渡った。
「貴様ら、何を騒いでいる!」
僕は声の主に視線を向けると、そこには学院時代、浅からぬ因縁を持っていたリカルドの姿があった――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




