アレンの猛攻
お互いに睨み合いながら間合いを測るアレンとネイザン。
いつしか周囲には廃倉庫に屯する少年達が集まり、野次を飛ばしている。
廃倉庫の少年達の数は、ざっと100人を超えるようだ。
完全に取り囲まれてしまった僕達は身動きが取れない。
彼らの闘いの行方がどうあれ、穏便にこの場を去る事は難しいだろう。
今のうちに何か手を打っておく必要がある。
脱出方法を考えながら廃倉庫内を見回していると、彼らの闘いが始まった。
低い姿勢で一気に間合いを詰め、懐に入り込もうとするアレン。
それに対してネイザンは、打ち下ろし気味の拳を放つ。
あの巨体からは想像も出来ないほど速い攻撃にアレンの身を案じるが、彼は軽快なフットワークで側面に躱し、同時に脇腹へ痛烈な拳を叩き込む。
「ククク…その程度か?」
ネイザンは歪な笑みを浮かべ、アレンに向き直る。
アレンの攻撃はネイザンに全くダメージを与えていないようだ。
それでもアレンは果敢に飛び込み、怒涛の連打を叩き込む。
何発かは急所を直撃している筈だが、ネイザンの鍛え抜かれた鋼鉄の肉体にはまるで通用していない。
アレンは猛攻を続けるが、次第に呼吸が乱れ、動きが鈍くなってきている。
そして一瞬の隙を衝かれ、ネイザンの拳がアレンの顔面を捉えた。
外野の少年達から一斉に沸き起こる歓声。
そして吹き飛ばされたアレンは、高揚している外野の少年達の中に突っ込む。
鼻血と涎を垂れ流し、ヨロヨロと起き上がるアレンだが、まだその瞳からは闘志が失われていない。
しかし、たった一撃で致命的なダメージを受けてしまった。
もうこれ以上攻撃を食らうと、立ち上がる事も出来ないだろう。
「もう終わりか?」
「はぁはぁ…っざけんな…」
「アレン君、もう止めて下さい!」
「アニキ…俺にも意地ってモンがあるんスよ…」
彼にとって僕の制止の言葉は逆効果だったようで、闘志に燃える視線で鋭くネイザンを睨み付け、全身のバネを使って飛び掛かる。
高く飛び上がったアレンに、ネイザンの迎撃の拳が襲い掛かる。
空中で攻撃を回避する事は不可能だろう。
僕が諦めかけたその時、アレンは空中で身体を捻り鋭い膝蹴りをネイザンに突き刺した。
アレンの膝はネイザンの顎先を捉え、同時にネイザンの拳がアレンの脇腹を掠める。
どんな攻撃も寄せ付けなかったネイザンが、ガクリと膝を付き、虚ろな瞳で地面を見詰めている。
アレンの攻撃が脳を揺らし、脳震盪を起こしているようだ。
一方アレンは、掠ったとはいえネイザンの攻撃を受け、脇腹を押さえながら地面をのたうち回っている。
今のうちに攻める事が出来ればアレンにも勝機はあるが、かなりのダメージを受けている状態で立ち上がる事が出来るのか解らない。
逆にネイザンが意識を回復してしまえば、アレンは止めを刺され、確実に戦闘不能に陥るだろう。
僕達が息を飲んで見守る中、先に立ち上がったのはネイザンだった。
彼は首を振り、混濁した意識を正常に戻し、ゆっくりとアレンに近付く。
「ザコが…やってくれたな!」
ネイザンはアレンの胸倉を掴み、大きく拳を振りかぶる。
「死ねっ!」
ネイザンの剛拳がアレンに迫り、僕は顔を背けた。
これで確実に決着が付いてしまうだろう。
後はどうにかしてアレンを連れ、全員無事にこの場を撤退する方法を考えなくてはならない。
しかし、周囲に群がる少年達から聞こえてくるのは、ネイザンの勝利を讃える歓声ではなく、恨みに満ちた罵声や罵倒だった。
僕は恐る恐る顔を上げ、ネイザンとアレンの姿を確認する。
そこには、ネイザンの拳を片手で受け止めるシリウスの姿があった。
突然の事態に顔を歪め、驚いた表情を見せるネイザンだが、邪魔が入ったという事よりも、渾身の一撃が片手で受け止められた事に驚いているようだ。
「…俺に闘らせろ。」
シリウスの登場でネイザンは、胸倉を掴んでいたアレンから興味を失ったように手を離し、シリウスに対して身構える。
「ぐ…アニキ…」
「チッ、邪魔だ、引け…」
アレンは歯を食いしばり悔しそうな表情を浮かべながら、這いつくばって僕達の元へ戻って来た。
「大丈夫ですか!?」
「ファクトのアニキ…すまねぇ…負けちまいました…」
「そんな事は良いんです、早く傷の手当てを!」
「大丈夫っス…問題ありません…オイ、誰か…肩貸してくれ…」
いつしか騒がしい外野の野次が止み、息を飲む静寂が廃倉庫に満ち溢れる。
手下に支えられて立ち上がるアレンと共に、僕達はシリウスとネイザンの闘いの行方を見守るのだった――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




