ビトルフを束ねし少年の首領
かつて宿場町として栄えたビトルフは、リィンフォルトやクレメンテスに比べると、かなり小規模な都市である。
しかし、いたる所に点在する食事処や酒場には活気が溢れていた。
というのも、ビトルフ近郊には大規模な採掘場が幾つもあり、今では国内有数の鉱物資源産出地として有名なのだ。
街を行き交う人々の大半は、汚れた作業着を着ている屈強な男達であり、採掘場で働く鉱夫達だという事は一目瞭然である。
目抜き通りをゾロゾロと歩く僕達の正面から、数人の少年達が楽し気な笑い声を上げて向かって来る。
それを目にしたアレンは、ズボンのポケットに手を突っ込み、鋭い眼光を放ちながら先頭に歩み出て、向かって来る少年達の前で立ち止まった。
「テメーら、確かネイザンの手下だったな?」
アレンは眉間に皺を寄せ、少年達の一人に顔を突き出す。
「あぁん、何だテメーは!?」
少年も負けじと眉間に皺を寄せ、額と額がぶつかり合う程に顔を突き出す。
「俺が誰だか知らねーのか?」
「ああ、思い出した…そのツラぁ、クレメンテスのアレンだな?」
「知ってんなら話が早ぇえ、ネイザンの所に案内しろ!」
「その程度の数で殴り込みか?良い度胸だな…」
「ハンッ、ハッタリかましてんじゃねーぞコラ!」
「引き籠りの坊ちゃんは、世情ってもんを知らねーらしいな…」
「あ?何が言いてーんだ?」
「ククク…良いだろう、付いて来な!」
無言で歩き出すビトルフの少年達に続いて、僕達の一団もゾロゾロと彼らの後を追う。
一見して只事ではない雰囲気を漂わす行進だが、街を行き交う人々は気に留める様子も無い。
暫く歩いた僕達が辿り着いたのは、打ち捨てられ廃墟のように佇む巨大な倉庫だった。
かつては採掘された鉱石の保管場所として使われていたらしく、壊れた籠や腐った木箱などが散乱している。
ビトルフの少年達に続いて中に入ると、ヒンヤリと冷たい空気に満たされているが、所々崩れた天井から差し込む光でそれほど暗くも無い。
その光に照らされて、倉庫を埋め尽くすほどの少年達が蠢いている。
ニタニタと笑う少年達の間を抜け倉庫の最奥に辿り着くと、顔中に刀傷を刻み、ジークほどもあろうかという大柄の男が、ボロボロになった巨大な寝台に腰掛けていた。
「ボス、クレメンテスのアレンをお連れしました!」
「あのチビか…そろそろ潰そうと思っていたが、手間が省けたな。」
「誰がチビだって?コノ木偶の坊が!」
「威勢だけは一人前だな…。それで、この俺に何の用だ?」
「ネイザンよ、アンタに話がある。」
「何だ?」
「アンタも俺達の仲間になれ!」
「何を言い出すかと思えば、そんな戯言を吐きに来たのか?」
「戯言じゃねーよ、俺は本気だ!」
「この俺が弱者の仲間に?下らんな…。」
「俺はもう、勝った負けたのシマ争いなんざー卒業した。なんなら俺の街を明け渡しても構わねー。」
「それで、どうするつもりだ?」
「聖女様のために戦って国を救い、いつか英雄になる!」
「ククク、ハーッハッハッハ!聖女だ?国だ?英雄だ?俺はガキの妄想に付き合う積もりはない…。」
「妄想なんかじゃねーよ、明日には聖女様とトラキア戦役の英雄がビトルフに到着する。」
「その話は知っている…。だが、俺達のような底辺の人間が戦に出ても捨て駒にされるのがオチだ。」
「そうかもしれねー…だが、勝ち続ければいつかは!」
「くどい!それが妄想だと言っている…。貴様は武装した騎士に勝てるのか?魔術師の魔法に対抗出来るのか?ましてや薄弱の王女に付いて勝てるとでも思っているのか?」
「ああ、そのつもりだ!」
「では、今ここで証明して見せろ…。」
ネイザンはゆっくりと立ち上がり、アレンと対峙した。
小柄なアレンとは比較にならないほどの巨躯を誇るネイザンは、巨大な壁の如くアレンの前に立ちはだかる。
「アニキ達は手出し無用っス!」
「しかし!」
「ここは俺の力を見せつけねーと、スジが通らねーっスから!」
「…分かりました、でも無茶はしないで下さい。もし太刀打ち出来ないようであれば僕達が代わります!」
「ザコが何匹来ようと同じ事だ…。」
「ザコはテメーの方だ、行くぞ!」
こうして、ビトルフの少年達を纏めるネイザンと、クレメンテスの少年達を纏めるアレンの闘いが幕を開けるのだった――
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