競争
翌日、僕達はいつものように早朝から西を目指して走り出す。
ただ、この日からは僕達2人だけではなく、クレメンテスの少年達35人が訓練に加わる事になった。
「ファクトのアニキ!」
「何ですか?」
「訓練って言ってましたけど、こんな朝っぱらから何をするんスか?」
アレンは僕の隣を追走しながら、興味深々と言った面持ちで尋ねてくる。
「訓練は既に始まっています。」
「マジっスか!で、一体どんな訓練なんスか?」
「クレメンテスまで戻って、次の野営地まで引き返すだけの走り込みです。」
「え、ちょっ、それだけっスか!?」
「そうですが…何か?」
「地味っスね…」
「確かにそうですが、ただ走っているだけではないんですよ?」
「どういう事っスか?」
「魔力のコントロール…つまり、魔力を作り出して体内に循環させ、身体能力を強化するんです。僕の場合は基礎体力の強化のためでもあるんですが…」
「魔力っスか…。じゃあ俺らには無理っスね…」
「そんな事は無いと思いますよ。」
「え?でも、俺らは魔法なんか使えねーっスよ?使えてりゃー今頃、魔法学院に入学してエリート街道まっしぐらっスから…」
「魔法が使えなくとも、魔力を作り出す事が出来るとしたらどうでしょう?」
「そんな話、聞いた事もねーっスよ…」
「ここにいるザックスも魔法を使う事が出来ません。」
「はい、ですから自分はリィンフォルトの自警団に入団しました。」
「そんな彼でも魔力を作り出し、その魔力で身体能力を強化する事が出来るんです。」
「マジっスか?」
「信じられませんか?では、実際に見てもらった方が良いかもしれませんね。ザックス、お願い出来ますか?」
「もちろん!」
「そうですね…では、ここからクレメンテスの街までザックスと君達で競争をしてもらいます。」
「了解っス。」
「もしザックスに勝てたら、今日の夕飯は肉増しにしましょう!」
「聞いたかテメーら!ザックスのアニキに勝ったら今夜は肉増しだ。俺らの本気を見せてやろうぜ!」
「オーーッ!!」
「肉のために命を燃やせ!!」
「オオーーーッ!!」
「さぁ、開始の号令を!」
一旦立ち止まった少年達は街道に横一列で並び、闘志を漲らせ、真剣な表情で微かに見えるクレメンテスの街を睨んでいる。
ザックスは街道の脇にいる僕の隣で腕を組み、余裕の表情を見せている。
「それでは、用意!」
僕の声に反応して、少年達は各々思い思いの態勢で身構える。
「始めッ!!」
まさに猪突猛進。
僕の声に解き放たれた少年達は、怒れる猪の如く街道を突き進む。
そんな中、ザックスは僕の隣で少年達の後ろ姿を眺めていた。
「ザックス、君も早く出発して下さいよ!」
「いやいや、彼らに魔力のコントロールを知ってもらうには、少しばかりハンデを設けないと説得力がありませんから。」
「それはそうですけど、大丈夫なんですか?」
「自信はありますが、肉のためだけにあれだけ本気になれるのには驚きました…。」
「はは…。ザックス、絶対に負けないで下さいね。肉増しなんて勝手な事をしたら王都守備隊の皆さんに怒られてしまいますから…」
「大丈夫ですよ、その時は自分も一緒に謝りますから。」
「そういう問題ではないんですけど…」
「冗談ですよ。先に行って昼飯の準備をして待っています。」
「お願いします!」
ザックスは優しく微笑み、少年達の後を追って街道を走り出した。
僕も遅れ馳せながらもそれに続く。
ここからだとクレメンテスの街まで、僕の足で1時間といったところだろうか。
気が付くと、凄まじい速さで駆け抜けるザックスが、遠く前方を走る少年達を追い抜き姿が見えなくなってしまった。
僕も早くあの力を身に着けなければ、半年後に控える戦で足手まといになってしまうだろう。
しかし、実際に術式を展開しなければ、魔力が作り出せているのかどうかも解からない。
目を瞑りながら文字を書くような感覚だろうか。
そんな事を考えながら街道を走り続けた僕は、少年達の到着から随分遅れてクレメンテスの街に辿り着いた。
少年達は数日前の僕達のように街道の脇に転がり、荒い呼吸を繰り返している。
そしてザックスは呆れた顔で、少年達に水を飲ませて回っていた。
「ああ、ファクト、お疲れ様です!」
「はぁ、はぁ…すみません…遅くなりました…」
「では、少し休んだら昼食にしましょうか。」
「はい…それで…勝負の方は…」
「もちろん、負ける筈はありませんよ。」
「良かった…」
「や…やっぱスゲーっスね…」
僕の近くで横になっていたアレンがムクリと身を起こし、ザックスを見詰めている。
「魔力のコントロール…信じてもらえましたか?」
「実際にあんなもの見せられたら…信じない訳にはいかねーっス…」
「どうですか?…もし、君達もあの力が使えたとしたら…」
「マジで俺達にも出来るんスか!?」
「たぶん努力次第…でしょうね…」
「努力次第っスか…。努力なんざクソ喰らえみてーな連中が集まった俺らなんスけど…あんなスゲー力が手に入んなら努力してみんのも悪くねーかなって…そう思うっス…」
「その気持ちがあれば、いつか…ジークさんのような英雄になれるかもしれませんね…」
「この俺が…英雄…。ハハッ、冗談みてーな話っスけど、アニキの言葉なら信じられるっス…」
「アレン…」
「よっしゃ、テメーら!いつまでもヘバってんじゃねーぞ!」
こうして、彼らクレメンテスの少年達も僕達の訓練に参加する事になった。
いつの日か英雄と呼ばれる事を夢見て――
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