少年達の再来
翌朝、極度の疲労と怪我で動けないシリウスは、積荷と一緒に輜重車に乗せられて運ばれる事になった。
僕とシリウスは、いつものように訓練のために隊列を離れ、街道を西へクレメンテスの街を目指して走り出す。
僕達はシリウスを助けただけなのだが、騒ぎは起こさないようにとジークに釘を刺されるのだった。
僕は走りながら昨日の戦いを思い出す。
「昨日のシリウスさん、凄かったですね…。」
「そうですね。自分が本気で魔力を使ったとしても、あの瞬発力と攻撃力は出せそうにありません。」
「やはり固有魔法が関係しているんでしょうか?」
「どうでしょう?自分には魔法に関する知識が皆無なので解りません。」
「僕も頑張らないと、2人には随分と差を付けられてしまいましたから…。」
「ジーク様が焦る必要はないと仰っていたので、気長に頑張るしかないですよ。それに、自分も完全にコントロールしきれているとは言えませんし…。」
「そうですね…ただ、シリウスさんの事を考えると、僕も無茶をする必要があるのではないかと思ってしまうんです。」
「あんな無茶は止めて下さいよ!助かったから良いようなものの、危うく命を落とすところだったんですから。」
「はい…」
魔力のコントロール、そして固有魔法…魔法を志していたにも拘らず、今まで知り得なかった力が僕には必要なのだ。
気持ちは焦るばかりだが、一朝一夕には習得できるものではない。
今はただ、体を動かすしかないのだ。
街道を走り続けた僕達は、正午前にはクレメンテスの街に辿り着いた。
休憩がてら街道の脇で簡単な昼食を摂った僕達は、早々に来た道を戻り、行軍に追いつかなければならない。
「さて、そろそろ出発しないと、またジーク様に怒られてしまいますよ?」
「そうですね…行きましょうか…」
僕は革袋の水で喉を潤し、ゆっくりと立ち上がる。
日頃の走り込みのせいで脚がパンパンだが、これくらいで弱音を吐く訳にはいかない。
ザックスも僕に続いて立ち上がるが、怪訝そうな顔でクレメンテスの街の入口を凝視している。
「どうしました?」
「あれは、昨日の…」
「昨日の?」
ザックスの言葉が気に掛かり、彼の視線の先を辿って行くと、そこには簡素だが武装を身に纏った少年達の姿があった。
確かに幾人かは、昨日あの空き地で戦っていた少年の顔に間違いない。
「物騒ですね…」
「昨日の報復でしょうか…。気付かれる前にここを離れた方が良いでしょう。」
周囲は広い草原に囲まれており、隠れる場所は無さそうだ。
僕達は姿勢を低くし、街道を東へ向かった。
もし少年達に気付かれてしまったら、戦闘になるかもしれない。
無駄な血は流したくないのだが、少年達が武装しているのなら魔法を使わなければならないだろう。
「いました、あそこです!」
僕達は背後から聞こえる声にビクリと身を震わせる。
どうやら少年達に見付かってしまったようだ。
こうなってしまっては、何事も無く逃げ切るのは困難だろう。
僕は覚悟を決め、振り返る。
こちらに駆け寄って来る少年達の数は次第に増え、遠巻きに僕達の周りを取り囲む。
少年達の襲撃を警戒して、僕達は背中を合わせ様子を伺っていると、昨日シリウスと戦ったリーダー格の少年アレンが、2人の少年に支えられて僕達の前に進み出て来た。
「随分穏やかじゃないですね…昨日の報復ですか?」
アレンは僕の問い掛けに対して、目を白黒させながら勢い良く首を横に振り、片膝を付いて顔を上げた。
「昨日の無礼はお許し下せぇ!」
「はぁ…」
僕は、昨日とは打って変わって下手に出るアレンの言動に困惑する。
「知らなかったとはいえ、昨日の事は謝らせて欲しいっス…。」
僕達の周りを取り囲んでいた少年達は、アレンに倣って片膝を付き、一斉に頭を下げる。
「すんませんした!!」
「い、いえ、そんな…元はと言えばシリウスさんが原因ですから、こちらにも非があると思います。」
「そんな、滅相もないっス…。あの、もし良ければ昨日の事は水に流して、俺達も仲間に入れてもらえないっスか?…この通りっス!」
アレンは更に深々と頭を下げて懇願する。
「あの…どうしてそんな…」
「リィンフォルトでの戦い、そして聖女様の話を聞いたんす。俺達も聖女様のために戦いたいと思いまして…」
「聖女様…もしかして、アルテミシア王女の事ですか?」
「はい、そうっス!」
「…わかりました。」
「マジっスか!?よっしゃー、聞いたかテメーら!!」
騒めく少年達の姿を見て、不安そうにしていたザックスが小声で話しかけて来る。
「良いんですか?こんな事、勝手に決めてしまって…」
「大丈夫です、これも僕の策の一環ですから。それにしても、こんなに早く効果があるなんて思いませんでした。」
「例の風評作戦という事ですか?」
「はい、その通りです。」
「…あのー、もし良かったらなんスけど、これからはアニキと呼ばせてもらっても良いっスか?」
「アニキですか!?」
「ダメっスか?」
「いや…、まあ、ダメではないですけど…」
「じゃあ決まりっスね、ファクトのアニキ!それとザックスのアニキ!」
僕達は顔を見合わせ、引きつった笑いを浮かべた。
「あのー…それで、シリウスのアニキはどこに?」
「彼なら本隊の中にいますが?」
「シリウスのアニキにも昨日の事を謝りたいんスけど…」
「分かりました。では、一緒に本隊に合流しましょう!」
昨日戦った少年達が仲間に加わるとは思ってもみなかったが、リィンフォルトで始動した僕の作戦は、早くも効果を発揮したのだ。
そして僕達は、少年達の一団を引き連れ、街道を東に駆け出すのだった――
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