シリウスの死闘
周囲にガラクタが積み重ねられた空き地の中央で、頭から血を流しフラフラになったシリウスと、アレンと呼ばれていたリーダー格の少年が睨み合う。
アレンはクルクルと手首を回し、脇を締めて小さく構える。
アレンの身長はそれほど大きくない。
むしろ、対面にいるシリウスの方が若干大きいだろう。
しかし、剥き出しの腕は筋肉が太く盛り上がり、その攻撃の威力が強力である事を物語っている。
さながらジークを小型化したような体格と言えるだろう。
一方シリウスは腰を落とし、懐の深い構えでアレンと対峙する。
それほど筋肉質ではないが隙が無く、岩を叩き割った時のジークの構えに似ている。
恐らく、ジークから格闘術も教わっているのだろう。
数分の睨み合いの後、先に仕掛けたのはアレンだった。
素早く軽快に間合いを詰め、シリウスに拳の連打を繰り出す。
街の不良少年達を纏めているのだから、相応の実力を持っているのも当然だろう。
シリウスはアレンの連打に対して内側に攻撃を弾き、アレンの側面に回り込もうとしているが、アレンのフットワークと攻撃速度がそれを許さず、対処しきれなかった拳を何発か食らっている。
そして、不意に放たれた回し蹴りがシリウスの脇腹に突き刺さり、彼は地面に転がった。
「ハンッ、その程度の実力でデカい口叩きやがって!」
「ぐっ…まだだ…」
シリウスは苦痛に顔を歪ませ、歯を食いしばりながら立ち上がる。
土埃に塗れフラフラになってはいるが、その瞳から闘志の炎は失われていない。
再び襲い掛かるアレンの連打に反応する事が出来ず、顔面に強力な一撃を食らったシリウスは、鼻血を吹き出しながら後ろに倒れた。
あれほどの攻撃をまともに受けてしまっては、もう起き上がる事も出来ないだろう。
「しぶといヤローだったぜ…さて、次はテメーらだ、覚悟しやがれ!」
「待…て…」
僕達の方に振り返るアレンの後ろで、シリウスが生ける屍のように起き上がる。
「シリウスさん、もうこれ以上は止めて下さい!」
「黙…れ…、俺は…絶対に…負けられない…このガキにも…ザックス、お前にも…」
「コノ、死に損ないめ!くたばれ!」
振り向きざまの強力な右拳がシリウスを襲う。
立っているのが不思議なくらいにズタボロのシリウスには、あの攻撃を回避する事は出来ないだろう。
そして、食らってしまえば今度こそ起き上がる事が出来ないどころか、最悪命に係わるダメージを受けてしまうかもしれない。
微動だにしないシリウスに拳が迫り、もう駄目だと諦め、僕が目を閉じようとしたその時、シリウスの姿が消え失せアレンの拳が空を切った。
一瞬驚きの表情を見せたアレンが、側面から攻撃を受け、吹き飛ばされる。
あまりにも一瞬の出来事で何が起きたのか解らなかったが、そこには拳を振り抜いた格好のシリウスと、地面に倒れるアレンの姿があった。
「っのヤロー!!」
怒りに満ちた叫び声を上げながら立ち上がったアレンだが、次の瞬間には勢いよく吹き飛び、ガラクタの山の中に激突した。
またしても一瞬で間合いを詰め、拳を振り抜いた格好のシリウスの姿が目に映る。
そしてシリウスは、そのまま前のめりに倒れてしまった。
「一体何が…僕には何も見えませんでした…」
「魔力のコントロール…」
「本当ですか!?」
「はい、あの強さと速さは間違いなく魔力をコントロールしたものです!」
僕達は急いでシリウスに駆け寄り、肩を揺らした。
「シリウスさん、シリウスさん!大丈夫ですか!?」
「ぐっ…お…俺の…勝ちだ…」
「急いで野営地に連れて行きましょう!」
命に別状はないようだが、専門知識がない僕達には判断できない。
僕は意識を失ったシリウスをザックスの背中に乗せ、空き地を立ち去ろうとする。
「待て…よ…」
僕達を呼び止める声に振り返ると、ボロボロのアレンがガラクタの山から這いずり出て来た。
「テメーら…何者…だ?」
「…僕は第24代目ウォーロック、神炎のアイリス様の弟子で、ファクトと申します。彼は元リィンフォルト自警団のザックス、今は近衛騎士団の従者という事になっています。そして君を倒した彼はシリウス、不死身の傭兵、ジーク様の弟子です。」
「なっ…!?」
アレンは驚いたまま硬直し、唇だけが魚のようにパクパクと震えている。
「トラキアの…英雄の…弟子…か…」
「はい。」
「ッハハ…俺らの街に…来ていたのは知ってる…そうか…俺が…勝てる相手じゃ…なかったのか…」
「怪我は大丈夫ですか?」
「ああ…そんなヤワな鍛え方は…してねー…」
「そうですか。では急ぎますので、失礼!」
僕達はそのまま空き地を後にして、行軍を続ける本隊に合流した。
シリウスの状態を見たジークが宰相閣下を呼ぶ程の大事になり、一時騒然とするが、打撲と極度の疲労以外特に問題は無いようで、2~3日もすれば回復するという事だ。
ほっと胸を撫で下ろす僕達は、ジークと宰相閣下に長時間の説教を受け、心身共に疲れ果て、泥のように眠るのだった――
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