個に宿りし力
クレメンテスを出立したアルテミシア王女の一団は、再び東を目指して行軍を開始した。
舞い散る紅葉が大地に降り積もり、冷たい風が紅葉を躍らせる。
「さてと、今日からまた訓練を始めようと思うんだが…」
ジークは僕達の顔を見渡し、顎を摩りながら思案している。
「どうかしましたか?」
「お前らが真面目過ぎるもんでな…どうしたもんかと思ってよー。」
「僕達は半年の間に強くなる必要があるんです。手を抜いている余裕なんてありません!」
「特に生真面目なザックスはブッ倒れるまで力を使うわ、負けず嫌いの優等生はボロボロになって帰って来るわ…半年後の戦いの前に潰れちまうんじゃねーかと思ってな。」
「師よ、潰れてしまうのなら、そこまでの人間という事ではないのか?少なくとも、そんな奴は戦場で使い物になどなるまい…。」
「まぁ、そうなんだけどよ…。俺はお前達が魔力のコントロールを身に着けるのに半年は掛かると見越していたからなー。」
「半年…ですか?」
「ああ、出来の悪い俺なんか習得するのに3年も掛かっちまった事だ。たかだか4日で身に着けたザックスには驚いちまったぜ。」
「3年!?そんな…僕なんかが半年程度で身に着けるなんて不可能ですよ…。」
「俺は出来が悪いっつったろーが。お前の師匠なんか言ったそばから使いこなしやがったんだぞ?」
「さすがですね、師匠は…。」
「お前なら魔法の素養もあるし、半年もすれば使いこなせると思っているんだがな。もちろんシリウス、お前もだ…。」
「チッ…」
「だから焦る必要はねーんだ。」
「だとしたら、街と野営地を往復する訓練は4日目以降達成不可能なのでは?」
「お前は…真面目か!?もう一度言うぞ、真面目かお前は!!」
ジークは呆れた顔で首を振っている。
「あのなー、こんなもんマトモに考えれば不可能だって気付くだろ?だったら、行程の緩い内に残りの日数分の酒を買っておいて、適当に時間を潰して夕刻に帰って来るだとか…色々あんだろーが!」
「あっ…」
「ったく、あの爺さんを唸らせる策略の天才なんだろ?お前は…。もう少し卑怯な手段も使うべきだな。ましてやこれからは、多くの仲間の命が掛かった戦が待ってんだ、勝つために手段は選ぶなよ?」
「はい…」
「それとシリウスよ、お前のプライドが許さねーんだろうが、焦って無茶したところで身に着くもんでもねーんだ。ザックスが異様に早かったのは固有魔法が関係してんだろうな…」
「固有魔法?」
「学院じゃー禁忌の魔術って事になってるから、知ってる筈もねーんだけどよ。この国でも知ってる奴は限られてるんだが…。確か、魔術研究機関の第1分室…お前の爺さんが取り扱ってる分野だったと思うんだが?」
「奴の話はするな!!」
シリウスは突然、褐色の肌を紅潮させ、瞳に強い怒りの炎を宿して怒鳴りつけた。
「おっと、悪りぃ悪りぃ、この話はタブーだったな…。とにかくだ、その固有魔法ってのが個人の能力の根幹を決めてるんだ。」
「…つまり、僕達魔術師が扱える属性を決めるのは、その固有魔法の性質という事ですか?」
「その通りだ、理解が早くて助かる。ただ、固有魔法を持っているのは魔術師だけじゃねー。恐らく、全ての人々に等しく何らかの固有魔法が備わっている物だと俺は思っている…。」
「全ての人々は等しく魔法を扱う事が出来るというのですか!?」
「いや、それは少し違うな。そもそも魔法とは、体外の事象に干渉する事の出来る力だ。そういった性質の固有魔法を持っている者だけが魔法を扱う事が出来る。」
「なるほど…ではザックスの固有魔法は、一体どんな性質を持つ物なんでしょうか?」
「さぁな…俺にも解らん。というより、自分の固有魔法を扱うどころか、知る事が出来た者なんて殆どいねーんだ。偶然でもなけりゃ、知らずに一生を終える…。」
「ジークさんは、ご自身の固有魔法を御存知なんですか?」
「ああ、知ってるが大したもんじゃねぇ。それよりも俺の知る中じゃ、お前の師匠が最も強力な固有魔法を持ってるんじゃねーか?」
「師匠の固有魔法…それはどんな魔法なんですか?」
「お?なんだ、知らねーのか。確か…あー…名前は忘れたが、一瞬で都市一つを灰にするほどの魔法だ…。」
「そんな…師匠がそれほどの力を持っていたなんて…。」
「あーっと、教えねー方が良かったのか?とにかくだ、あの歳でウォーロックに選ばれるからには、相応の力を持ってるって事だ。」
「大丈夫です、教えて頂いてありがとうございます。」
「とまぁ…話は逸れたが、今日からの訓練は特に課題を設けたりしねー方向で行こうかと思ってる。要するに、適当に走り回って行軍に遅れねーように夕刻には野営地に戻って来る…これだけだ。」
「はい!」
「適当にとは言ったが、お前達の安全面も考慮して街道を往復する程度にしてくれよ?良いな!」
僕達の返答を見届けたジークは欠伸をしながら、随分と先へ進んでしまった本隊を追って歩き出した。
そして、野営地の跡に残された僕達3人は、この日の訓練を開始するのだった――
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