野営地への帰還
地平線の向こうに夕日の殆どが沈む頃、漸く次の野営地が見えてきた。
本当にギリギリだが、ここまで来れば何とか日没までには到着できそうだ。
その時、僕とシリウスの肩に担がれているザックスがビクリと痙攣し、意識を取り戻した。
「ゴホッ、ゴホッ、ここは…」
「チッ、漸くお目覚めか?野営地はもう目の前だ…」
「そうですか…街から戻って来る途中で急に体力の限界が来たようで、気を失ったところまでは覚えているのですが…」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。不甲斐ない自分をここまで運んで頂いて、ありがとうございました。」
ザックスは礼を言いながら僕達の肩から離れ、独りで歩こうとするが、足に力が入らずに膝を付き、そのまま前のめりに倒れてしまった。
「チッ、無理しやがって…」
シリウスは悪態をつきながらもザックスの腕を取り、肩に掛ける。
「そうですよ、こんなボロボロになるまで頑張ったんですから。」
僕とシリウスは再びザックスを支え、歩き出す。
そして、野営地に着く頃には完全に夕日が沈んでしまっていた。
「おーう、戻って来たか、早かったなー。」
僕達の到着を待っていたかのように、野営地の外れで寝そべっていたジークが立ち上がり、僕達を出迎える。
「早い?師よ、もう夕刻の期限は過ぎているのではないか?」
「ああ、時間切れだ。だが、こんなに早く戻って来るとは思わなかった。」
「チッ、初めから間に合わないと踏んでいたのか?」
「まぁ、そんなところだ。しかし、その様子からすると、ザックスが魔力のコントロールを身に着けたようだな。」
「はい、何とか扱えるようにはなりましたが、途中で力尽きてしまって…」
「上出来だ。まさか、こんなに早く身に着けるとはな…。しかも優等生と天才を差し置いて凡人のお前が最初とはなー。」
「チッ、何が優等生だ。こんな事では笑い話にもならん…」
「え、ちょっと待って下さい!シリウスが優等生なら僕が天才ですか!?」
「天下のウォーロックに認められ、あの爺さんを唸らせる奴が何を言ってやがる。」
「そんな…僕なんか…」
「そうだ、お前なんて今のザックスに比べれば、まだまだだ。まー今日のところはザックスに免じて合格って事にしてやるよ。来い、腹減ってるだろ?」
「はい、ありがとうございます!」
「それにしても、お前ら3人で肩を並べて…青春だなー。協調性の欠片も無い優等生の、こんな姿を見られるなんて思ってなかったぜ。」
ジークは顎を摩りながらニヤリと笑い、それを見たシリウスは慌てて肩を振り解き、舌打ちをしながらそっぽを向く。
ザックスの全体重が僕に圧し掛かるが、必死に支えて野営地の中を進んだ。
ザックスのお陰で夕食にありついた僕達は、自分達でも驚くほどの速さで平らげ、すぐに昨日と同じ天幕で横になる。
「昨日はちょいとばかし飲み過ぎちまってなー、暫く酒は見たくもねえ…。それに明日はザックスも歩くのがやっとだろう。そこでだ、次の街まで後2日、訓練はお預けって事にしねーか?」
「チッ、また甘い事を言ってくれるな…」
「何を言ってやがる。魔力のコントロールも出来ない奴が、明日の90㎞を完走出来ると思うか?」
「チッ…」
「まぁ、魔力のコントロールが出来たとしても、お前らの体力じゃーブッ倒れるのがオチだがな。」
「はい、身に染みて痛感しました…。」
「行軍に送れる訳にもいかねーんで、明日から目の届く範囲で自主練でもしてくれ。次の街からまた訓練を再開するぞ。」
「はい!」
翌日から僕とシリウスは、隊列の先頭から殿までの間を往復するだけの訓練を始めた。
なるべく魔力のコントロールを意識しつつ、体力強化のために走り続ける。
やはりシリウスとは随分と距離的な差を付けられてしまうが、魔力のコントロールはまだお互いに出来そうもなかった。
そして僕達は、最初の中継点となるクレメンテスの街に到着するのだった――
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