特訓3日目
行軍3日目、早朝から野営地を出発した僕達は、今日もリィンフォルトを目指して走り出す。
全身が重く、足が筋肉痛で張り裂けそうだ。
しかし、弱音を吐く訳にはいかない、僕達は強くならなければならないのだから。
今日の行程は往復50㎞。
正午にはリィンフォルトに到着しなければ、期限の夕刻には間に合わないだろう。
やはり僕が足を引っ張る形になっているが、ペース的にはギリギリ間に合う速度を保っている。
今日はザックスが僕にペースを合わせ、随伴して走ってくれている。
勿論シリウスとは既に、かなりの距離を離されてしまっているが…。
暫くしてザックスは、先頭を走るシリウスの背中をぼんやりと見詰めながら語り掛けてきた。
「少し気付いた事があります…。」
「な…何ですか?」
「自分は剣を振るう時、無意識に魔力を作り出していたのではないかと…。」
「ほ…本当ですか!?」
「あまりにも感覚的な事で確証はないのですが、元自警団長ユースと戦った時も、フォルティス川で暗殺者と戦った時も、リィンフォルトの街で王都守備隊と戦った時も、いつも以上の力を出していたような気がするんです…。」
「だとすると…その力をコントロールする事が出来れば…。」
「はい。ただ、意識的に力を出そうとしても、上手く行きません。」
「何か…切っ掛けがあれば…コツを掴めるかもしれませんね…。」
「君はどうですか?」
「僕は…足に魔力を集めようとしているのですが…走りながらでは難しいですね…。」
「君ですら難しいとなると、そう簡単には出来そうにないですね…。」
僕達はその後も、試行錯誤を繰り返しながらリィンフォルトを目指して走り続けた。
いつの間にか姿が見えなくなるほどシリウスに距離を離され、それでも必死に走り続けた僕達は、ギリギリ正午にはリィンフォルトの街に辿り着く事が出来た。
東門の脇に転がるように倒れ込んだ僕達は、柔らかい草の上で空を見上げながら、荒い呼吸を繰り返す。
汗が滝のように吹き出し、いつまで経っても呼吸は落ち着かず、起き上がる事さえ出来ない。
そこへ、いつの間にかシリウスが現れ、倒れ込む僕達を見下すように眺めている。
どうせいつものように、遅い!と悪態をつかれるのは覚悟しているが、今は言い訳をする余裕すら残されていない。
「チッ…」
いつもの舌打ちが聞こえたかと思うと、僕達の顔面に冷たい水が降り注いだ。
火照った体に降り注ぐ冷たい水は心地良いが、そろそろ呼吸が困難になってきた。
シリウスはガボガボと水を吐き出す僕達を見てニヤリと笑い、冷たい水の入った革袋を投げて寄越した。
「食え…」
そう言ってシリウスは、布に包まれた何か固い物を僕の鳩尾に投げ落とし、少し離れた所に腰を下ろした。
僕は吐き出しそうになりながら布を解くと、包みの中にはパンと干し肉が入っていた。
「これは…」
「チッ、最低限の情けだ…。食ったらさっさと出発するぞ…」
「あ…ありがとうございます!」
「チッ…礼などいらん、早くしろ…」
僕達は吐き出しそうになりながらも、パンと干し肉に貪りつき、革袋に入った冷たい水で流し込む。
これで少しは回復出来た。
もう少し休んでから出発したいところだが、あまり時間も残されていない。
シリウスから例の酒瓶を受け取ると、すぐに次の野営地へ向けて走り出した。
独り先頭を走るシリウスとの距離が少しずつ離れて行く。
だが、焦る事はない。
このままのペースを維持出来ればギリギリ夕刻には間に合うだろう。
僕は次第に離れて行くシリウスの背中を見て、ふと思いついた事を口にする。
「ザックス…あの…シリウスを敵だと思うのはどうでしょう…」
「敵…ですか?」
「はい…アルテミシア王女の命を狙う敵です…追い着かなければアルテミシア王女は殺されてしまうと…」
「なるほど、そうすれば無意識にでも走る事に魔力を使えるかもしれませんね。」
「これで…少しでもコツを掴めれば…」
「やってみましょう!」
パンと干し肉の恩があるにも拘らず、シリウスを敵と思い込むには気が引けるが、それでも魔力のコントロールを身に着けるため、強引にあの後ろ姿を暗殺者の風貌と重ね合わせる。
この先におわすアルテミシア王女を守るために、僕達は彼に追い着かなければならないと…。
暫くは並走していた僕達だったが、ザックスは必死の形相を浮かべ、次第に足を速めて行く。
気が付くとザックスは、シリウスに追いつくのではないかと思うほど距離を縮めていた。
もしかするとザックスは、走る事に魔力を使う事が出来たのかもしれない。
僕も負けじと意識を集中し、走り続けるのだった――
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