訓練2日目
翌日、僕達は再びリィンフォルトへ向かって走り出した。
本隊の行軍距離は1日におよそ10㎞程度、つまり今日僕達が走らなければならない距離は最大で30㎞という事になる。
全速で走り続けたとして3時間で戻って来る事が出来る距離である。
夕刻までには余裕を持って到着出来そうだ。
しかし、明日以降から余裕が無くなってくる…。
単純に計算すると、明日から50㎞、70㎞、90㎞、110㎞、そして次の街に辿り着く。
流石に70㎞を超える距離を夕刻までに走り切るとなると、早朝から出発しなければ絶対に間に合わない。
余裕のある今日にでも魔力のコントロールを身に着けなければ、行軍に追い着く事さえ難しくなってしまうだろう。
「はぁ、はぁ、すみません…はぁ、遅く…なりました…」
やっとの事で街の東門に辿り着くと、昨日と同じように先に到着した2人は僕を待ちながら休息していた。
「チッ、遅過ぎる…貴様、舐めているのか?」
「そんなつもりは…」
「誰にでも向き不向きはありますから、仕方のない事です。」
険悪な雰囲気の僕達の間にザックスが割って入り、僕を庇ってくれている。
しかしそれは、シリウスの感情を逆撫でする結果になってしまった。
「この調子だと明日はギリギリ間に合うかもしれないが、明後日以降は絶望的だぞ、分かっているのか!」
「はい…その事についてなんですが…」
「貴様には不可能だ…諦めて故郷へ帰れ…」
「…生きていれば戦える…戦える限り、僕は諦めたりしません!」
「チッ、勝手にしろ…だが、俺の足を引っ張るようなら、この戦いから降りてもらおう。」
「…分かりました。」
「ファクト!君がいなければアストレアでの作戦はどうなるんですか!?」
「心配いりませんよ…僕は絶対にこの訓練を乗り越えて見せますから!そのためには今、ここで特訓をしませんか?」
「特訓…魔力のコントロールですか?」
「はい。明日以降の訓練を乗り越えるには、やはり全員が魔力のコントロールを身に着ける必要があります。」
「確かに、明後日以降は自分も自信がありません…。」
「チッ、好きにしろ…俺は俺のやり方でやらせてもらう…」
そう言い残して、シリウスは街の中に消えて行った。
「仕方がありませんね…、僕達だけでも特訓しましょうか!」
そして僕とザックスの2人は、東門の近くで特訓を開始した。
しかし、一体何をどうしたら良いのか皆目見当もつかない。
「君は魔法を使う時、どうやって魔力を作り出しているんですか?」
「そうですね…僕の場合は、作り出そうとしている術式に意識を集中して、指先に向けて体中の力を集めるような…」
「指先に力を…ですか。」
「はい、何というか、こう…血に力を込めて、一点に集めるような感覚です。」
「血に力を込めて一点に…」
僕達は暫くの間、奇妙なポーズを取ったまま立ち尽くし、傍から見れば邪教の儀式のような近寄り難い空間を作り出していた。
「おい!貴様ら、何をやっている?」
突然の呼び掛けに我に返った僕達は、自分達の意味不明な格好に赤面し、恐る恐る声の方に顔を向けると、呆れた顔で立ち尽くすシリウスが目に映った。
「金だ、金を寄越せ!」
「お金…ですか?」
「チッ、師に頼まれた酒を買って来る…さっさと寄越せ!」
「あっ、はい!よろしくお願いします!」
僕は手を差し出すシリウスに、ジークから預かっている小銭袋を放り投げた。
「それと…何の儀式か知らないが、止めておけ。街の人間が騒いでいた、もうすぐ自警団がやって来る…」
「いや、これは、その…はい、気を付けます…」
「チッ…」
シリウスは、一際大きな舌打ちを残して再び街の中へと消えて行った。
僕達も赤面しながら門の陰に移動し、シリウスの帰りを待つ事にした。
「魔力を作り出すのは難しいですね。」
「僕も魔力を作り出す事は出来ますが、それをコントロールするのは難しいです。」
「やるしかありませんから、頑張りましょう!」
「はい!」
「帰り道は、少し意識しながら走ろうと思います。」
「僕もそうします、もちろん足を引っ張らない程度にですが…。」
こうして、昨日と同じ酒瓶を持って合流したシリウスと共に、次の野営地に向かって走り出す。
魔力をコントロールする方法を模索しながら――
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