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深淵を知る者  作者: Gary
雌伏の地にて時の至るを待つ
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訓練の真実

 ジークの元からリィンフォルトへ向かって走る事30分、道程の丁度半分を過ぎた辺りだろう。

整地された街道は起伏も少なく、走行に支障はない。

先頭を走る彼らから随分離されてしまったが、このペースだと期限の夕刻まで充分過ぎるほど余裕がある。


 素手で岩を割る程の男が考えた訓練なのだから、きっと一筋縄では行かない何かがある筈だ。

例えば、僕達の力では運びきれないような大樽に入った酒が用意されているとか、或いは僕達の行く手を邪魔する人や物が配置されている可能性も考えられる。


 そういえば、どこでどの程度の酒を買って来るのか聞いていなかった…。

街に着いたらシリウスと相談してみるしかないだろう。


 そうして、邪推をしながら走る事30分。

僕が街の東門に辿り着くと、先に到着していた2人は門の脇に腰掛け、休憩しながら僕の到着を待っていた。


「遅い!」


 シリウスは想像していた通り、苛立ちを浮かべながら立ち上がり、僕に怒鳴りつけた。


「はぁ、はぁ…すみません…」


「大丈夫ですか?少し休みますか?」


 それに対してザックスは心配そうに僕に駆け寄り、革袋に入った水を差し出してくれた。


「ありがとうございます…大丈夫です…。それよりシリウスさん…どこでどの程度の酒を買わなければならないのか…御存知ですか?」


「知らん…」


「では、ジークさんの行き付けの酒場を御存知ですか?」


「…ああ、知っている。」


「それはどこでしょう?」


「チッ…着いて来い、こっちだ。」


 僕の何が気に食わないのかは分からないが、ザックスを除く同年代で初対面の人間に嫌われる癖が僕にはあるらしい…。

別に仲良くするつもりもないが、これから共に戦う仲間なのだから、もう少し普通に接する事は出来ないのだろうか。


 ミリアムとは死神の大鎌デスサイズの一件以来、少しだけ打ち解けたような気がする。

共に戦う機会が訪れたなら解決するのだろうか…。

何にせよ僕達には時間が必要であり、その時間は半年も残っている。


「ここだ…」


 シリウスに案内されて辿り着いた酒場は通りに面し、歴史を感じさせる趣のある佇まいをしている。

まあ、悪く言ってしまえば、どこの街にでもある古臭い老舗のオンボロ酒場といった風体だ。


 中に入ると、昼間だというのに薄暗く、柔らかい木の香りと鼻に衝くアルコールの匂いが入り混じった独特の香りが僕達を包み込んだ。


「おやー、早かったじゃないのさ。」


 店の奥でテーブルを拭いていた恰幅かっぷくの良い夫人が僕達の姿を見付けると、外見に似合わない優雅な動きで僕達の前にやって来た。


「アンタ達、ジーク様のお弟子さんでしょ?」


「はい…そうですが…。」


「今取って来るから、ちょっとそこで待ってなさいね。」


 夫人はカウンターの中に入り、なにやらガサゴソと探し物をしているようだ。

あの感じだと、運びきれない程の大樽が出て来る事はあるまい…。

何が飛び出すか少々怯えながら夫人を待っていると、僕の肘から先程度の大きさの細長い酒瓶を持って僕達の前に戻って来た。


「はいよ、銀貨1枚だ。」


 僕はジークに預かった小銭入れを開き、中を確認する。


「銀貨は無いようなので、銅貨20枚でお支払いします。」


 そう言って僕は小銭入れから銅貨を取り出し、近くのテーブルに並べた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ…丁度だね。ありがとさん!」


「こちらこそ、ありがとうございました。」


「まいどさん、またね!」


 感じの良い笑顔を浮かべる夫人に頭を下げ、丁寧に酒瓶を背負い袋に入れた僕達は、再び街道を駆け出した。


 帰り道に何か仕掛けてあるかもしれないと、警戒しながらではあったが、野営どころか未だ行軍中のジークに追い着く事が出来た。

やはり、僕は2人よりも遅れて到着したのだが…。


「おう、早かったな。」


「はぁ、はぁ…これで大丈夫ですか?」


「ああ、そうか悪りぃ悪りぃ、女将さんには話しておいたんだが、店の場所を教えてなかったな!」


「シリウスさんが…知っていました。」


「ガハハ!そうか、なら良かった。」


「あの…これだけ…ですか?」


「ん?これだけだが、何か問題でもあるのか?」


「いえ…訓練というからには、何かこう…特別な試練のような物があるのかと考えていましたから…。」


「ああ、確かにこれで終わりじゃーない。」


「では、一体何が…」


「次の街に着くまで、これを毎日繰り返してもらう!アストレアに着くまで3つの街を経由するが、その全ての街でも同様にだ。」


「毎日ですか…。」


「そうだ。行軍が進むほど街までの距離は長くなり、必然的に時間も掛かるだろう?」


「そんな…それでは次の街に近付けば、夕刻に間に合わせるのは不可能なのでは…。」


「はぁ…魔力のコントロールの話をしたろーが。聞いてなかったのか?」


「ですから、何の関係があるのかと…」


「ダメだこりゃ…。しょーがねーな、いいか?魔力のコントロールってのは訓練すりゃ誰にでも出来る事だ。特にお前達魔術師なら、そう難しくはない筈だ。魔力をコントロールすりゃ、岩をも砕ける力を得る事が出来る。」


「つまり、魔力をコントロールして脚力を強化しろという事ですか?」


「そんな単純な事じゃねーが、そういう事だ。」


「しかし、それでは血液が足りなくなってしまいます!」


「あー、そうか。その辺の事も知らねーのか…。あのな、お前達魔術師が魔法を使うと血液を失う。そいつは当たり前の事だが、それは体外に事象変化を起こした場合のみだ。要するに、魔力を体内で循環させる分には血液は失われねーんだ。」


 つまり、術式で変換する前の魔力は体内で循環させれば血液を消費せず、変換してしまえば血液を消費してしまうという事だろうか。

とすれば、幾度か見た師匠の驚異的な体術にも説明がつく。


「学院では、知る事が出来ませんでした…。」


「まあ、あそこは色々と面倒な縛りが多い組織だからな…。つー事で、明日からは魔力のコントロールも意識して訓練に励んでくれ。」


「はい!」


 学院の外には、僕の知らない事が山程転がっている…。

あのまま学院に籠っていては、知る事は無かっただろう。

僕を、この広い世界に開放してくれた師匠に感謝しなくてはならない。

そんな事を考えながら、僕は野営地のテントで眠りに就くのだった――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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