最初の訓練
聖教国ハイネシアへと至る街道を総勢517名の一団が、東へと進んで行く。
アルテミシア王女と宰相閣下を乗せる馬車を中心に、500名の王都守備部隊が隊列を組み随伴する。
少し離れたところに近衛騎士の駆る10騎の騎馬が、敵襲を警戒しながら追従している。
ハイネシアとの国境の街アストレアまでの道程は、この布陣で行軍する事になっていた。
その布陣の最後尾にはジークとシリウス、ザックス、そして僕の4人が殿を務める。
「んじゃ早速だが、あまり時間もない事だし、訓練を始める!」
行軍が始まって早々、僕達の先頭を行くジークが大声で叫んだ。
「俺なりに幾つか考えてあるが、まずはお前達に最も足りない物…シリウス分かるか?」
「基礎体力…それに、魔力のコントロールといったところか?」
シリウスは横目で僕達の姿を一瞥し、瞬時に的確な返答を返した。
「流石は優等生、その通りだ。戦いに於いて結局最後に物を言うのは基礎体力に他ならない。それと同時に魔力のコントロールを身に着ける訓練を行う。」
「はい!」
シリウスは頷き、僕とザックスは大声で返事をした。
「よろしい。ではファクト、魔力とは一体何だ?」
「血に宿る力…、僕達魔術師は術式を通してそれを変換し、魔法を行使します。」
「そういや、ファクトは魔法学院出身だったか。そいつは魔術師特有の考え方だな…。ザックス、お前はどうだ?」
魔法を扱えないザックスに、魔力の事を聞いても答えられる筈がない。
魔力を制御できるのは魔法を扱う事の出来る者だけであるから、それ以外の人間には縁の無い物だと僕は思っていた。
しかし――
「戦いの中で、感情や意志といった精神的な力を肉体に還元し、爆発的な身体能力を発揮する事があります。それが魔力なのではないでしょうか?」
「その通りだ。精神的な昂りが血液に作用して強大な力を生み出す、これが魔力の発生するプロセスだ。」
学院時代、精神論講師が言っていた気合だの根性だの、そういった類のものは魔術師にとって関係のないものだと思っていた。
しかし、それがあながち間違いではなかった事に、僕は少なからず衝撃を受けた。
「どうしたファクト、もしかして魔力を持っているのは魔術師だけだと思っていたのか?」
「はい…。」
「それは、魔術師が特別であるという認識を定着させるため、学院が流布しているデマだ。学院が存続するために必要な事なんだろうがな…。」
確かに、魔術師が特別な存在でなければ、学院に通う意義が半減してしまう。
「王国政府としても、魔法を扱える者を管理するためには学院の力が必要だからな…。おっと、今のは公言する事じゃねーから聞かなかった事にしてくれ。」
「師よ、話が逸れている…。」
「ああ、悪りぃ悪りぃ。要するにだ、全ての人間は等しく魔力を作り出す事が出来るって話だ。その魔力を魔法に変換できるのが、お前達魔術師って事になる。」
「つまり、術式を学べば誰でも魔法が使う事が出来ると?」
「いや、そーいう訳でもないんだがな…。とりあえずその辺の話は後だ。そうだな…。」
そう言ってジークは近くの大きな岩に歩み寄る。
「俺は魔法が使える訳じゃねーが、魔力のコントロールが出来ればこんな事も可能だ。」
ジークは精神を集中し、気合と共に大きな岩へ拳を叩き込んだ。
ミシリと音を立てて亀裂が走り、大きな岩は真っ二つに割れる。
信じられない光景に僕達は、息を飲んだ。
「うーん、もうちょい派手に割れてくれりゃー、説得力もあったんだがな…。」
「いえ…充分凄いです。」
「そうか?」
「はい…。」
この人に逆らうのは得策ではないと実感した僕達は、青ざめた顔で頷いた。
「そんじゃ、お前らに金を渡す。今からリィンフォルトに戻って酒を買って来い。」
「酒ですか…?」
「夕刻までにはこの先の野営地に戻って来い、良いな?」
「これは訓練なのですか?」
「そうだ。それと、魔法を使っても構わんが、遅れたら晩飯抜きだ!」
「これと魔力のコントロールに何の関係が?」
「そいつはテメーで考えろ!ほら、急がねーと晩飯抜きだぞ!」
硬貨の詰まった小銭袋を投げ渡された僕達は、歩いて来た道を逆走しリィンフォルトへ駆け出した。
基礎体力の向上という意味では、走り込む事は理解できるが、魔力のコントロールと一体何の関係があるのだろうか?
僕達は疑問を抱きつつも、街道をひた走るのだった――
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