出立の朝
ガサゴソと袋に物を詰める音で目覚めた僕は、ぼんやりと部屋の中を見渡した。
窓の外はまだ陽も差しておらず、蝋燭の灯りが部屋を照らしている。
まず目に映ったのは、短く刈り揃えられた金髪の少年の後ろ姿、あれは…ザックスだ。
昨晩、僕とザックスは自警団の館の一室を与えられ、彼との相部屋で眠りに就いた。
「やあ、おはようファクト!」
身を起こした僕に気付いたザックスは、明るく挨拶を投げかける。
「ふわ、あぁー。おはようございます。」
「昨日は良く眠れましたか?」
「緊張と疲れのせいか、久々に熟睡したような気がします。」
「それは良かった。では今から顔を洗いに行きませんか?早くしないと出立に間に合わなくなりますよ?」
「ああ…そうですね。行きましょう!」
まだ重たい瞼を擦りながら、僕達は館の裏手にある井戸へと向かった。
冷たい外の空気が、否が応にも眠気を吹き飛ばす。
「いよいよですね…。」
使い古した布で顔を拭いながら、ザックスは東の空を眺めている。
「そうですね…。」
「自分は、旅をするのが初めてなんです。目と鼻の先にある王都にすら行った事がありません。」
「シルフィアで生まれ育った僕も、今回が初めてです。」
「不謹慎かもしれませんが、まだ見ぬ世界への期待と不安、そして緊張で、あまり眠れませんでした。」
「大丈夫ですか?」
「はい、この程度、行軍には支障ありません。」
「僕はもう緊張の連続で、慣れっ子になってしまいましたよ。」
僕は愛用の眼鏡を掛け、皮肉を込めた微笑を浮かべた。
「君の緊張に比べれば、自分なんてまだまだですね…。数々の戦いを勝利に導き、王女殿下やフェスター卿に認められるなんて、本当に君は凄い!」
「そんな…僕も必死で…凄くなんかないですよ。」
「トラキア戦役の英雄達に認められる君を見ていると、自分も誇らしく思います。君と共に戦えて本当に良かった!」
「僕もザックスの活躍に何度も救われました。ザックスがいなかったら、今頃どうなっていたか…。」
「いえ、自分は一度だって君の役に立つ事ができなかった…。それがとても悔しいんです!」
「ザックス…」
「半年後、今よりもっと強くなって、君の役に立ちたい。君が窮地に立たされた時、自分の剣で活路を開けるように。だから、この先も共に戦ってくれますか?」
「勿論です!僕もザックスに負けないくらい強くなってみせます。そして、共に王国の未来のために戦いましょう!」
互いに強い意志を瞳に宿らせた僕達は、固い握手を交わした。
思えば僕にとって、ザックスは初めての友と呼べるだろう。
初めての友を失う訳にはいかない、そのためには今よりもっと強くならなければ…。
そして――
朝日が顔を覗かせる頃、2万人以上の人々がリィンフォルトの周囲を埋め尽くしている。
その殆どが、行軍の準備を終えた王都守備隊で、続々と西へ向かって出立していた。
「そいじゃまぁ、そろそろ私も行くとしますかー。」
「師匠、お気を付けて!」
「ああ、オマエもな!」
そう言って師匠は、僕の肩に思い切り平手打ちを叩き込む。
「ジーク!コイツの事、よろしく頼む。」
「20年物のネレイスの件、忘れんな!それと、死ぬなよ。」
「誰に物を言ってやがる、私は泣く子も黙るウォーロック様だぞ?」
「はんっ、よく言うぜ。すぐに泣くのはテメーの方だろ?」
「うるせーよ、バカ!じゃあな!!」
「ああ、半年後また会おう!」
師匠は背中を向けたまま大きく手を振り、王都守備隊と共に西へと向かって行った。
「さて、俺達も出発するぞ!」
師匠と別れた僕達は、アルテミシア王女の一団と共に東を目指す。
半年後、師匠も驚くような力を必ず身に着けてみせる。
僕は決意も新たに、歩みを進めるのだった――
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