新たなる師
作戦会議を終えた僕達は、行軍の準備をする時間を与えられた。
出発は明朝。
既に王都のルイス王子には、リィンフォルトでの戦いの顛末が伝わっているだろう。
そうなると、王都から大軍が送られてくる可能性が高い。
少しでも戦力を温存しなければならない僕達は、少しでも早くリィンフォルトを離れる必要があるのだ。
会議室を出た僕と師匠は、廊下を先行くジークとシリウスの背中に声を掛けた。
「よーう、ジーク!」
「おう、どうした、アイリスの嬢ちゃん。」
「出発前に頼んでおきたい事があってなー。」
「ん?俺に頼み事なんざ珍しいな。」
「まあな…。」
「その小僧の事か?」
2人の視線が集まり、僕はビクリと身を震わせた。
シリウスは相変わらず不機嫌そうな顔で腕を組み、そっぽを向いている。
「ああ、オマエにファクトの修行を頼みたい。」
「おいおい、俺が魔術師に教えられる事なんざねーぞ?」
「いや、今はオマエが適任だ。それに、オマエの弟子も魔術師ではないのか?」
「まぁ、そうなんだけどよ。」
ジークはボサボサの頭を掻きながら、溜息を漏らす。
「闘い方を教えろって事なんだろ?」
「ああ。」
「ったく、弟子1人でも手を焼いてるってーのに、2人も抱えて面倒見ろってか?」
「シルフィアで20年物の酒が手に入ってな。私の名前で酒場にリザーブしてある。」
「銘柄は?」
「ネレイス、それも献上品として作られた特等級だ。」
「本物か!?」
「ああ、間違いない。」
「王都に豪邸が建つほどの値打ち物だぞ?」
「父の友人から譲り受けた物なんだがな、私には手を付ける資格がない…。」
「そうか…。なら、遠慮なく頂こう!っつー事だ小僧、よろしくな!」
そう言ってジークは岩のような手を差し出し、僕と握手を交わした。
「ほら、お前もガキみてーにいつまでもスネてねーで、挨拶したらどうだ?」
「チッ、馴れ合いは御免だ。俺には関係ない…。」
シリウスはそのまま廊下を進み、館を出て行った。
「気を悪くしないでくれ、アイツにも事情があってな…。小僧なら歳も近いし、アイツの良き理解者…いや、ダチになってくれねーか?」
「わかりました。自信は無いですが、僕にできるなら…。」
「よし、んじゃまぁ、明日からよろしく頼む!」
そう言ってジークは背を向け、ヒラヒラと手を振りながら館を後にした。
「シリウスと言ったか…あの少年、出会った頃のオマエと同じ目をしていたな。」
「僕と同じ…。」
「ああ、今のオマエは過去の呪縛を抱えながらも、しっかりと前を見ている。あの少年は、呪縛に囚われたままなのかもしれんな…。」
「僕に彼を導く事が出来るでしょうか…。」
「そう難しく考える事は無い。それに、今の私がここにいるのもオマエに出会ったからだ。」
「いえ、そんな、僕は何も…」
「胸を張れと言ったろ?オマエには力がある。だが、まだまだオマエは未熟だ。半年後、今よりもっと力を付けて再会しよう。良いな?」
「はい!」
こうして僕は、明日から師匠と離れ、ジークの元で修行を積む事になった。
戦乱の時代は幕を開けてしまった。
僕は一刻も早く強くならなければならない。
アルテミシア王女を助け、王国を平和に導くために――
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