戦の顛末
終戦を迎えたリィンフォルトの街に、夜の帳が降りる頃、近隣の都市に避難していた市民が続々と帰還し、本来の賑わいを取り戻す。
王都守備隊は街の北側、王都方面の街道に駐屯し、恐る恐る帰還してきた市民に事情を説明しながら街へと案内する役割を与えられていた。
自警団本部の館にある会議室に集まった僕達は、今後の作戦について話し合う事になった。
「まずは、今回の戦について。ファクトよ、簡単に説明してくれんかの。」
宰相閣下に指名を受けた僕は立ち上がり、会議に参加している面々を見渡した。
アルテミシア王女、トラキアの英雄達、ザックス、シリウス、そして僕達と戦った王都守備隊指揮官のハンク将軍…。
錚々たる顔ぶれが集う中で、その視線を一身に受け、極度の緊張感が膝を震わせる。
「で…では、ご説明致します。」
僕は緊張で乾いた喉にゴクリと生唾を飲み込み、言葉を続ける。
「僕達は、アルテミシア王女を含む総勢175名の戦力で、王都守備隊2万の兵と戦いました。そして、攻城戦の経験がない王都守備隊に対して籠城策で対抗します。これは、その後に続く策を警戒されないための布石に過ぎません。」
「では、援軍が到来するという話は…」
「ハンク将軍、あれは時間を稼いでいるように見せるための嘘です。」
「嘘…か、では国王陛下が崩御されたというのは?」
「それは、本当の話です…。」
「そうか…」
「援軍を待つ籠城策を完全に信じさせた後、北門をわざと破らせ、宰相閣下に降伏を宣言して頂きました。これにより、総大将であるバルト卿を広場におびき寄せたのです。」
「なるほど、あの用心深いバルト卿を釣り出すには、信憑性のある敗北を演出する必要があったという訳だ…。」
「はい、その通りです。その後、全軍の注意を引くためにアルテミシア王女に偽の死を演じて頂き、バルト卿を討つという作戦でした。」
「王女殿下の死には本当に驚いた…。だが、なぜこのような回りくどい作戦を?」
「それは、貴方達2万の王都守備隊に、丸ごとアルテミシア王女の御味方になって頂くためです。」
「確かに、トラキア戦役の英雄達が揃っていながら、犠牲者が出ていなかった事に、籠城戦の時点で少々疑問には思っていた…。もし我々が恭順の意を示さなかったならば、本気を出した英雄達によって甚大な被害を被っていたのだろうな…。」
「はい、しかしそれは最後の手段であり、そうはならないと確信しておりました。」
「我々の立場を考慮しての作戦だったと、そういう事なのだな…。」
「はい。この無益な戦いに於いて、犠牲者はバルト卿一人で充分なのですから。」
「一つ、聞いても宜しいか?」
「はい、何なりと。」
「まさかとは思うが、この作戦を描いたのは、君なのか?」
「滅相もございません!僕は宰相閣下の策を擬えたに過ぎません。」
「ふぉっほっほ、謙遜するでない。この作戦は間違いなく、この子の描いたものじゃ、儂は少々下準備と手解きをしたに過ぎん。」
「やはりそうですか…。若さ故の甘さのようなものを感じておりました。しかし、これ程の戦力差を覆し、剰え我々2万の兵全てを味方に引き入れるとは、称賛に値します!」
「いえ、僕は…そんな…」
「まーったく、一国を預かるエロ爺と、2万を率いる優秀な指揮官に認められたんだ、もう少し胸を張ったらどうだ?」
「アイリスよ、エロ爺は余計じゃわい!」
「さっきから私とミラルダの胸を見比べてるヤツが良く言うよ!」
「なっ…それはじゃな…」
目を泳がせる宰相閣下に、呆れた顔をしながら溜息を吐き出すジーク。
「ったく、爺さんも大概にしろよな…。それはそうと、これからどうするつもりだ?2万の兵を手に入れたんだ、このまま打って出るのか?」
「ジーク殿、それは余りに危うい行為だ。」
「というと?」
「国王陛下が崩御された今、ルイス殿下は王位を継承するために、バラン殿下との戦を避けては通れない。バラン殿下の率いる王国正規軍12万と戦うために、それ以上の戦力を有していると考えられる…。」
「ゴホン、それについてじゃが…」
一同の冷たい視線を浴びながらも、気を取り直すように咳ばらいをして、宰相閣下が語り出す。
「どうやらルイス殿下はフェニキアと繋がっておるようでな…、フェニキアの属国となる代わりに、バラン殿下に対抗し得る戦力をフェニキアより借り受けているという事じゃ。」
「フェニキアというと傭兵部隊か…厄介な相手だな。」
「さて、ファクトよ、お主ならどうする?」
「僕ですか!?」
「そうじゃ、お主の考えに興味があっての、聞かせてくれぬか?」
一同の期待を込めた眼差しが僕に突き刺さる。
既に宰相閣下には先の先まで見通した策があるのは重々承知している。
間違っていたとしても、お咎めがある訳でもないだろう。
宰相閣下が興味を示すほどの才が僕にあるのか疑問に思うが、師匠に言われた通り、胸を張って話すべきかもしれない。
僕は背筋を伸ばし、大きく深呼吸をして、ゆっくりと口を開くのだった――
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