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深淵を知る者  作者: Gary
王国争乱
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決着の一矢

 北門から一斉に押し寄せる王都守備隊が街を埋め尽くす。

外壁の上で戦っていた近衛兵や民兵達が捕らえられ、広場に整列し、ひざまずいている。

その中には当然、師匠やミラルダの姿もあった。

捕えられているミリアムは、背格好の似た民兵が変装した偽物であり、彼女と面識のある者なら偽物である事に気付いてしまうかもしれない。

だが、少しでも時間が稼げれば、バレてしまっても問題はない。


 同時に自警団の館で待機していた宰相閣下とジークは、縛り上げたアルテミシア王女を連れて、広場の中央にしつらえられた演壇に登壇した。

宰相閣下がおごそかに口を開くと、広場を埋め尽くす王都守備隊が静まり返る。


「告!アルフォード王国宰相フェスター・バルテュースの名にいて、ここに降伏を宣言する!」


「我々は降伏を受諾させて頂きます!」


 軍馬にまたがり、演壇の前に進み出たハンク将軍が、高らかに宰相閣下の降伏宣言に応えた。

王都守備隊から一斉に勝利の歓声が沸き起こる。


「願わくば将兵の命の保障を約束願いたい…。」


「臣民に刃を向けるはやぶさか故、これ以上無益な抵抗をせぬならば約束致そう!」


「済まぬな、ウィシャート殿…」


「フェスター卿…」


「ええい、何をやっておるか!皆殺しにせよと命じた筈だぞ、ハンク将軍!」


 そこへ後方より、過剰な程の護衛を引き連れて、敵の総大将バルト卿が姿を現した。


「民こそ国のいしずえ…、無抵抗の臣民を手に掛ける事など、我々には出来よう筈がございません。」


「儂からもお願い申し上げる!臣民の無事と引き換えに、アルテミシア殿下の御命を献上致します故…。ジークよ!」


「はっ!」


 ジークは先端に半月状の大きな刃の付いた巨大な戦斧、クレセントアクスを構え、縛られたアルテミシア王女の背中に振り下ろす。


「なっ、待て!止めんか!」


 吹き上がる鮮血に、王都守備隊の兵達までもが目を覆う。

ドサリと演壇に転がるアルテミシア王女…広がる真紅の血潮が演壇に広がり、したたり落ちる。


 広場に集まる全ての人々の視線はアルテミシア王女に集まり、息を飲む静寂が街を支配する。


 機は熟した。

バルト卿を仕留めるには今をいて他にはない。

僕はテラスから旗を振り、敵兵の中に紛れ込んだザックスに合図を送った。


「ミリアムさん、お願いします。恐らくチャンスは一瞬です!」


「ああ、任せておけ!」


 バルト卿の乗った馬は巨大な盾を持った護衛に囲まれ、目視する事は出来ない。

護衛の周りには、魔術師と思われる風貌の者達が取り囲んでいる。

恐らく、宰相閣下が予測していた王都魔法学院の者達であろう。

魔法に対する防御も完璧といったところだろうか。

バルト卿は予想していた以上に臆病だと見える。


 そして、バルト卿を取り囲む護衛達の近くで騒めきが起こる。

あれはザックスに違いない。

しかしザックスの奮闘虚しく、警備に隙が生じる気配は無く、以前にも増して警戒を強める結果に終わってしまった。


 僕にはもう、どうする事も出来ない。

僕は悔しさと怒りで拳を強く握り締める。

他に何か方法は無いのか…。

いつだって僕は無力だ。

僕に力が無いせいで多くの命が失われてしまうかもしれない…。

遠い記憶の彼方に焼き付いた、あの時の様に…。


 僕が諦めかけたその時、奇跡は起きた。

突如出現した巨大な氷の牙が護衛達を襲い、隊列が乱れ始めたのだ。

あれは、どこかで見た記憶がある…。


 再び出現する巨大な氷の牙に、バルト卿を護る隊列は完全に崩壊した。

混乱する護衛達の隙間から垣間見えたその姿は、蒼白の刃を構えるシリウスであった。


「あれは…双凍剣デュアルフリーズブレード!!」


 フォルティス川での戦いで僕達を襲った暗殺者が持っていた魔法の武器エンチャントウエポン双凍剣デュアルフリーズブレードの片割れがシリウスの手に握られている。

しかも、シリウスの放つ氷の牙の大きさは、暗殺者が使っていた時よりも遥かに巨大で、凄まじい威力を誇っている。


「あのバカ者は、口先だけではなかったようだな…。」


 そう言ってミリアムは力強く弓を引き絞り、狙いを定める。

隊列の崩れた護衛達の隙間から、怯えながら辺りを見回すバルト卿の姿が見える。

チャンスは今しかない、が…。


「ちぃっ!奴め、鋼鉄製の防具で身を固めている。私の弓では仕留められん!」


 頭をすっぽりと覆うフルフェイスヘルムに、継ぎ目のないフルプレート、確かにこれでは矢を撃ち込む隙間が無い…。

再び訪れた窮地きゅうち、もう猶予ゆうよは残されていない。


 ザックスの起こした騒ぎは鎮圧され、シリウスも善戦はしているが、敵兵に囲まれて身動きが取れそうにない。

もう彼らに頼る事は出来ない。

今度こそ僕が何とかしなければ…。


 せめてあのフルフェイスヘルムさえ無くなれば…。

いや、あれは金属製の兜だ。

僕の魔法であれば何とか出来る筈だ。

目標となるフルフェイスヘルムに対象を絞るのはとても難しいが、やってみる価値はある。


「ミリアムさん、バルト卿の兜は僕が何とかします!」


「フン、ならば早くしろ!もう時間がない!」


 そう言われても術式が組み上がるには、もう少し時間が必要だ…。

この距離ならば金属探知系の術式を最長距離で組み込まなければならず、あの小さな兜だけを対象にするには複雑な工程が必要だ。

そのため、主軸に据える魔法は単純なものに限られる。

単純な魔法…僕が幼い頃、見様見真似で初めて使った物資運搬用の浮遊魔法だ。


 ここにまた、世界で初めての魔法が完成する。

組み上がった金属探知と物質浮遊の合成魔法は、見事にバルト卿の頭を覆うフルフェイスヘルムを吹き飛ばした。

その瞬間、ミリアムの矢がバルト卿の脳天に突き刺さる。


 崩れるように落馬するバルト卿の姿を見て、騒然とした辺りの空気が凍り付く。

この一撃で、リィンフォルトにける戦の趨勢は大きく僕達に傾いたのだった――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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