勝利を決する策略
ハンク将軍との対話が終わり、僕は胸を撫でおろした。
ここまでの流れは全て予定通りに進んでいる。
布石は整った。
後は最も重要な仕上げが残っている…。
ハンク将軍の命令により、王都守備隊の攻撃は更に勢いを増す。
少々煽り過ぎたのかもしれないが、あまり戦闘を長引かせては多くの犠牲者を出す恐れがある。
今のところ両軍の死傷者の数は、想定していたよりも少ないだろう。
破城槌の攻撃を受けている北門の扉が、ミシミシと悲鳴を上げている。
北門が破られるのも時間の問題だろう。
僕は隣で梯子を押し返している近衛騎士に駆け寄り、できるだけ小さな声で告げる。
「ガラハドさん、後の指揮をお願いします。」
「ああ、任された。幸運を祈る!」
「はい!」
僕は近衛騎士ガラハドに背を向け、北門の外壁を駆け降り、全速で合流地点へと向かった。
合流地点である広場に面して建てられた大きな屋敷のテラスに辿り着くと、既に待機していたザックスが、待ってましたと言わんばかりに駆け寄って来る。
その後ろではシリウスが壁にもたれ掛かり、人気のない広場を見詰めている。
「ファクト!随分早かったですね。首尾はどうですか?」
「予想以上に上手く行っています。間もなく北門から敵兵が雪崩れ込んで来るでしょう。」
「いよいよですね…。」
「はい。2人には作戦通り僕の合図で動いてもらいますが、問題ありませんか?」
「問題?ふざけるな…。貴様の指図は受けん、俺は俺のやり方で戦わせてもらう!」
シリウスが不機嫌そうな顔を浮かべ、僕達の横を通り過ぎた。
「待って下さい!貴方はたった独りで2万の兵と戦うつもりですか!」
「貴様の指図は受けんと言った筈だ…。」
「オマエはアル様やフェス爺様を危険に晒すつもりか?」
階段を駆け上がり、少し遅れてやって来たミリアムが、身勝手な行動を取ろうとするシリウスの前に立ちはだかる。
「その前にケリをつける、俺独りで充分だ…。」
「アイ様やジークに出来ない事が、オマエに出来るとでも思っているのか?」
「フン、下らん…。」
「勝手にしろ、バカ者が!」
シリウスは振り返る事無く階下へと消えて行く。
ここにきて不安要素が出来てしまったが、もう作戦を変更する事は不可能だ。
「私もオマエの指図で動くのは不本意だが、ブラッドとの戦いではオマエの策が勝利へ導いた。フェス爺様も信用しているのだ、私も信じよう。」
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
「あのバカ者は抜けたが、作戦に変更はないか?」
「はい。では念のため作戦の確認をしておきましょう。」
この戦いを終わらせる最後の作戦はこうだ。
まず、押し寄せて来る敵兵に対し、宰相閣下が降伏を宣言する。
そこで敵総大将であるバルト卿を広場におびき寄せる。
その頃には味方は全て捕えられ、自由に動けるのは僕達だけになる筈だ。
同時に王都守備隊の装備を身に着けたザックスとシリウスが、バルト卿に接近する。
しかし、シリウスが身勝手な行動を取ったせいで、ザックスの単独行動になってしまう。
宰相閣下が敵の注意を引き付けているうちに、僕がタイミングを見計らって合図を送り、王都守備隊に扮したザックスがバルト卿の護衛を無力化し、ミリアムの弓でバルト卿を仕留める。
用心深いバルト卿は、必ず多くの護衛を引き連れているに違いない。
護衛に阻まれてしまっては、ミリアムの射撃の腕を持ってしても仕留めるのは難しいだろう。
それにもし、そこで仕損じてしまっては警戒され、後退したバルト卿を仕留める事が出来なくなってしまうばかりか、全員の命が奪われてしまう。
チャンスは一度きりしかないのだ。
「シリウスさんの行動が気にかかりますね…。」
「あのバカ者が余計な事をしなければ、何も心配はいらないのだがな…。」
「ザックス、君に最も危険な役を押し付けてしまって申し訳ない。大丈夫ですか?」
「心配は無用です。必ず成功させてみせますよ!」
「騒ぎを起こして護衛の気を引くだけで構わない。後は私が何とかしよう。」
「解りました、やってみます!」
その時、北門の方で大きな歓声が沸き起った。
恐らく敵の破城槌によって門が破壊されたのだろう。
「御武運を!」
ザックスは奥歯を噛み締めながら大きく頷き、階下へと消えて行く…。
遂に、この戦いの最後の作戦が動き出そうとしていた――
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