集う英雄達
荒々しく開け放たれた扉から現れたのは2人。
1人は、無精髭を生やした隻眼の男で、左のこめかみから頬まで左目を貫いて浮き上がる刀傷が印象的だ。
傷だらけで剥き出しの分厚い筋肉を露出させ、この場には相応しくない汚らしい格好をしている。
もう1人、刀傷の男の影に線の細い銀髪の少年が佇んでいる。
年の頃は僕と同じくらいだろうか、神経質そうな硬い表情で、切れ長の三白眼が他者を寄せ付けない独特の雰囲気を醸し出している。
「おーう姫さん、それに爺さん、今戻ったぜー!」
刀傷の男の粗暴な言葉遣いは容姿に相応で、この部屋にいる全員の視線が突き刺さる。
「ん?誰かと思えば、アイリスの嬢ちゃんじゃねーか!久しぶりだなーおい。」
「ああ、オマエも相変わらずだな、ジーク。」
ジーク…もしやとは思ったが、この刀傷の男があの不死身の傭兵ジーク・パトリオットその人だった。
宰相閣下にジーク…ここに来てから僕の想像は覆されてばかりだ。
「そこの小僧は、もしかして…嬢ちゃんのコレか?」
ジークは小指を立ててヒラヒラと手首を返す。
随分と古風な表現だが、その表情から恋人を差していると推測できる。
「バカ言え、私の弟子だ。」
「嬢ちゃんが弟子!?そっちの方が驚きだな。かく言う俺もコイツの面倒を見てるんだがな…。ほら、挨拶しとけ。」
「シリウスだ…。」
ジークに押し出されるように前に出た銀髪の少年は、表情一つ変えずに冷たい視線を向けてポツリと言い捨てる。
「不愛想なヤツだがよ、実力だけは確かだ。まぁ、爺さんに押し付けられたようなモンだがな…。」
そう言って彼らは、近くの席に腰を下ろす。
「愛国者を名乗りながら自由気儘な放蕩暮らしを続ける馬鹿者に、仕事を斡旋しただけじゃろう?」
「テメェの命を賭けて国を救ったんだ、長い休暇を取ったところでバチは当たらんだろう?」
「あぶく銭で2年もゴロゴロしとった奴が何を言っとるんじゃ…。」
「おーおー、耳が痛ぇわ!それよりも、この面子が集まったって事は、またぞろ戦争でも始まんのかい?」
「なるほど…偶然に見えるが、トラキア戦役のメンバーがここに集まったのは全てエロ爺の策略って事か。」
「策略とまで言わんが、読み通り事が進んでくれて助かっておる。偶然による必然じゃな。」
「それで、一体何が始まるんだ?」
「残念じゃが、もう既に始まっておる…。」
「街に戻った時点でキナ臭い雰囲気はしたが…。」
「国王陛下が崩御なされた…。」
その言葉を聞き、アルテミシア王女を覗き見ると、今にも泣き出しそうな暗い顔で俯き、歯を食いしばっていた。
「そうか…、やはりな。エロ爺がこんなところにいる理由など、それくらいだろうな。」
「儂の力が及ばぬばかりに、このような結果を招いてしまった。」
「と言うと?」
「国王陛下はアルテミシア様を次期国王に決めておられたが、儂は諸侯を説得する事が出来なかった…。それ故に不毛な兄弟争いが始まってしまったのじゃ。」
「なるほど、死神の大鎌を動かしてアルテミシアを暗殺しようとしていたのも、それが原因ってー訳だ。」
「ふむ、ルイス王子の金の流れを調べておったら、死神の大鎌に辿り着いたのじゃ。そしてシルフィア魔法学院の不自然な動きから、アイリスがこの街に至ると推測して、ジークを使って王都を脱し、この街に来たという筋書きじゃ。」
「それで?これからどう動くんだ?」
「ジークよ、王都の動きはどうじゃった?」
「昨日の朝っぱらから王都守備隊が全軍出撃しやがった。」
「アルテミシア様と儂の首だけで2万を動かすか…豪気なもんじゃ。」
「さすがの爺さんでも予測できなかったのか?」
「いや、既に幾つか手は打っておるが…その前にファクトよ、君の考えを聞かせてもらえぬか?」
雲の上の人達の話を、ただただ聞いている事しか出来なかった僕に、宰相閣下から突然の白羽の矢が立てられる。
あまりの事に頭が真っ白になり、混乱してしまったが、突き刺さる全員の視線で我に返り、しどろもどろになりながらも僕は自らの考えを語るのだった――
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