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深淵を知る者  作者: Gary
王国争乱
52/124

宰相、フェスタ―卿

 ミラルダの先導で辿り着いたのは、僕達が数日前に訪れた事のある、自警団の本部として使われていた館だった。

外観や内装に大きな変化は無く、依然として趣味の悪い調度品が並んでいる。


 館の一角にある広い会議室に入ると、正面にはアルテミシア王女、そしてその傍らに質素な青いローブを身にまとった老人が鎮座していた。

僕達の入室に気が付いたアルテミシア王女は、勢い良く立ち上がり、大きな瞳を潤ませて叫んだ。


「アイリス!ミリアム!良かった…、心配したのですよ!」


「済まない、心配をかけた…。」


「もったいなき御言葉、ご心配をお掛けして申し訳ございません…。」


 そう言って師匠とミリアムが深く頭を下げたので、僕もそれにならう。


「今回の働き、誠に大義でした。私のためだけでなく、多くの民の安寧が約束されるでしょう、心より感謝しております!」


 アルテミシア王女もまた、僕達に対して頭を下げた。

王女という高貴な立場にあっても、高慢な態度は取らず、礼節をわきまえ、身分を問わずこうべを垂れる。

アルテミシア王女が多くの民に慕われる理由は、こういったところにあるのだろう。


「よせ、私達は当然の事をしたまでだ。それよりもエロ爺、ミリアムの足を診てやってくれ。敵に不覚を取って、思ったよりも重症かもしれん…。」


 まさか、あの威厳など全く感じない、青いローブのみすぼらしい老人が宰相閣下なのか?

確かに、師匠はエロ爺と呼んでいた…。

僕が勝手な誇大妄想をしていたのは仕方のない事だろうが、だとしても天下の宰相閣下が、あのようなみすぼらしい老人だったとは拍子抜けである。


「良かろう。まったく、久方ぶりの再会じゃというのに人使いが荒いのぉ…。」


「つべこべ言わずに早くしろ!」


「その短気も相変わらずじゃな…、嫁の貰い手も見つからんぞ。」


 みすぼらしい老人は、苛立つ師匠を尻目に、ミリアムの左足に巻き付けられ、黒い血に染まった布を解くと、入念に傷口を観察している。

そして老人は、見た事も無い術式を組み上げ、傷口に魔法を注ぎ込む。


 治癒魔法――

この分野の魔法は僕も学んでおきたかったのだが、シルフィア魔法学院の蔵書にも一切の記述はなく、習得する事が出来なかった。

全ての治癒魔法は教会によって管理され、門外不出の秘術として扱われているために、教会でも高位の者にしか使用を許されていないのだ。


 ミリアムの傷が、光に包まれながらゆっくりと塞がってゆく…。


「破傷風の兆候が表れておった。あと少し遅れていれば危ないところじゃったな…。」


「ありがとうございます、フェス爺様。」


「ほっほ、無事でなによりじゃ。アイリスよ、お前さんも怪我をしているようじゃが?」


「私のは大した傷じゃない、大丈夫だ。」


 確かに師匠は肩口から胸の辺りまで血液の刃に斬られ、切り裂かれた服の隙間から傷口が露わになっている。


「強がっとらんで診せてみんか…、いや見せてくれ!頼む!」


 …老人の鬼気迫る表情を見ると、師匠がエロ爺と呼んでいた理由を理解した。


「死んでも断る!」


「つれないのぉ…」


 師匠に睨まれ、残念そうに席へ戻ろうとした老人は、さり気なく師匠の尻に手を伸ばし、ニンマリと微笑む。


「ミリアムの治療の駄賃じゃ、釣りはいらんぞ。」


「こぉの、エロ爺が!!」


 本気で術式を展開し始めた師匠を、僕とミラルダで何とか取り押さえ事なきを得るが、師匠の怒りが収まる事は無く、しばらくの間、宰相閣下に向けられた視線に強い殺気が宿っていた。


 温かい飲み物が運ばれ席に着いた僕達は、死神の大鎌デスサイズの居城で起きた出来事を報告する。

ブラッドとの死闘の詳細を聞いた宰相閣下は、じっと僕を見つめて感心したように頷く。

その双眸そうぼうは先程の色情狂の眼とは違い、宝物を見つけた子供のような輝きを宿している。


 宰相閣下に認められるなど身に余る光栄だが、エロ爺たる一面を見てしまった後では、その喜びも半減してしまう。

沸き起こる複雑な感情と闘っていると、アルテミシア王女と宰相閣下が在室しているにも拘らず、荒々しく広間の扉が開け放たれた――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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