救国の英雄
リィンフォルトへの帰還途中に魔力を取り戻し、ブラッドに受けた傷も随分と良くなってきた師匠に対して、ミリアムは未だに足を引きずっている。
すぐにでも治癒魔法か、医術による治療が必要だ。
しかし、4日振りにリィンフォルトの街に帰還した僕達は、慌ただしい街の様子に違和感を覚えた。
「悪者退治が終わったってーのに、随分とキナくせーな…。」
確かに師匠の言う通り、目に付く家屋の鎧戸は堅く閉ざされ、大仰な荷物を背負った人々が行き交っている。
まるでリィンフォルトの街が戦争に巻き込まれるような、そんな緊迫した空気が街全体から漂っている気がした。
「ミリアム!」
これからどうしたものかと、街の入口に立ち尽くす僕達に向かって、喧噪の中から聞き覚えのある声が発せられた。
白銀の鎧を身に纏った声の主が、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てて駆け寄って来る。
「ミラ様!」
「ミラルダ!」
「ミリアム、アイリス殿、そしてファクトも、無事で何よりだ!」
「心配をかけたようだな…、済まない。」
「元はと言えば貴公が提案した作戦だ、必ずやり遂げると信じていた。それに、トラキア戦役の英雄ともあろう者が、暗殺者風情に遅れは取るまい。」
「当然だ…と、言いたいところだが、少々敵を侮っていたようでな…。」
そう言って師匠は、添木を当て、黒く血の滲んだ布を巻き付けたミリアムの左足に視線を向けた。
「なるほど…確かに、ミリアムがこれ程の怪我を負うとは、かなりの使い手だったのだな。」
「ああ、とにかく早急に治療するべきだが、当てはあるか?」
「それならば都合が良い。」
「と言うと?」
「フェスタ―卿がこの街にいらっしゃっている。」
「なっ…、あのエロ爺がここに!?」
「それに、ジークも一緒だ。」
「おっおい…、揃い踏みじゃねーか!」
「殿下も心配されている。着いて来い、こっちだ!」
僕達はミラルダの案内で、行き交う人の波を掻き分け進んで行く。
「師匠!」
「んー、どうした?」
「フェスタ―卿とは、まさか宰相閣下の事ですか!?」
「ほぉ、良く知ってんなー。」
「国民である以上、知らない方がどうかしていますよ!あの宰相閣下ですよ!?」
「んー、そんなもんか?私にしてみれば、ただのエロ爺だぞ?」
さすが当代随一のウォーロックと考えた方が良いのだろうか…。
師匠の貴人に対する接し方が破綻している。
宰相閣下といえば、国王に代わり内政を執り仕切り、外交や軍事、貿易や財務など、国家に関わる全ての政務を執行する人物である。
国王に次ぐ最高権力者として、国民の中で宰相閣下の名を知らぬ者などいない。
そんな宰相閣下を、ただのエロ爺扱いするなど、師匠だけであろう。
気の遠くなるような激しい頭痛が襲って来る。
「そ…それで、その、ジークさん?とは一体…」
「あー、アイツか?あのエロ爺も含めて、トラキア戦役で共に戦った戦友ってヤツだな。」
「なるほど、それで揃い踏みと…」
揃い踏みという事は、今この街にトラキア戦役を勝利に導いた英雄達が集結している事になる。
アルテミシア王女を旗印に、全軍の指揮を執った宰相閣下、ウォーロックである師匠、主戦力であった近衛騎士団と王国正規軍、そして遊撃隊として数々の戦果を挙げた傭兵部隊…
確か、その傭兵部隊を率いていたのは、不死身と呼ばれた傭兵…ジーク・パトリオット!
僕はあまりの事態に、後頭部を打ち抜かれたような衝撃を受ける。
手の震えが止まらない。
誰もが知っている救国の英雄、戦記の中だけで語られる雲の上の存在が、今まさに僕の目の前で集結しようとしているのだ――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




