王位継承者
アルフォード王国の北東、サンドラ帝国と広く国境を接するこの一帯では、長年激しい戦いが繰り広げられてきた。
大陸を帝国の旗の下に併呑する…その先の千年の繁栄のために。
確かに考え方としては正論である。
がしかし、文化や風習、言語、人種を超えて、人類が一つになる事などありえない…。
それは歴史が物語る人類の業だ。
ましてや、軍事力に物を言わせた徹底的な帝国主義を掲げ、侵略によって併呑したところで、真の恭順など望むべくもなかろう。
我々は王国の盾となり、帝国の牙から豊かな国土と臣民を守らねばならない。
王国の剣となり、歪んだ帝国の思想を切り刻まねばならない。
そのために我々は前線に立ち、多くの尊い血を流し戦い続けて来た。
しかし――
「伝令!」
「何事だ?」
早朝の澄んだ冷たい空気と温かい日差しが、伝令を告げる兵卒と共に仄暗い天幕へと流れ込む。
にも拘らず、軍議のため余を中心にテーブルを囲む3人の重鎮達は眉間に皺を寄せ、重苦しい雰囲気を漂わせている。
「先程、王都守備兵およそ2万が軍備を整え南進を開始致しました!」
「南進?馬鹿な、一体どこと戦うつもりだ?」
「妙な動きですな…。」
王国の盾の異名を持つ鉄壁の守護神グレン将軍が、重厚な鎧を軋ませながら腕を組み、対面に座る軍師に視線を向けた。
「ふむ、漸く尻尾を出しおったか…。」
我が軍最高の軍師オルガが、皺だらけの気難しい顔に一層深い皺を寄せ、事の深刻さを物語っている。
「オルガ卿、王都では一体何が起きているというのかね?」
「ふむ、結論から申し上げると反逆でございます…。」
「反逆!一体誰が…。」
「ふむ、バラン殿下の弟君…ルイス殿下でございます。」
「ルイスが!信じられん…」
「ふむ、その兆候はお見受け致しましたが、実際に事を起こしたとなると、国王陛下が崩御なされたと愚考致します。」
「父上がお亡くなりになられただと!?」
「ふむ、心よりお悔やみを申し上げます…。」
「気遣い、痛み入る…。では、早急に王都へ戻らねばならぬな!」
「ふむ、それは少々危険を伴うかと存じ上げます。」
「危険…というと?」
「ふむ、先程も申し上げましたように、ルイス殿下が次期国王であらせられるバラン殿下に反逆なされた状況でございます。国王陛下はお世継ぎを定められぬまま崩御なされました、それ故にバラン殿下の御命を狙うのは必定かと…。」
「しかし、余が王位を継がねばならぬのだ、このまま王都に戻らぬ訳にもゆくまい!」
その時再び天幕の裾が開かれ、慌ただしく下士官が頭を垂れる。
「御報告致します!」
「今度は何事だ!」
「はい、帝国軍本隊と思われる兵、推定7万が、戦線を離れ北上中との事!」
「ふむ、三国連合と手を組みおったか…徹底的に我が国を潰す積もりじゃな…」
「何!?撤退したのではないのか?」
「ふむ、一時的にではございますが、間違いなく撤退したと考えてよろしいかと存じます。」
「その真意は?」
「ふむ、この先我が国が直面するのは王位継承権を巡っての内乱でございます…。我々は内乱によって疲弊し、自ら戦力を失う事になるでしょう。帝国は戦線を維持し、圧力を掛けるだけで我が国の戦力を減らす事が出来るのでございます。」
「だがしかし、我々正規軍12万に対抗し得る兵力が国内に残されてはいまい。戦にもならぬのではないか?」
「ふむ、ルイス殿下は三国連合、特にフェニキアとの繋がりがあると情報が入っております。フェニキアの傭兵、恐らく10万以上の軍勢との戦になると愚考致します。」
「では、南下した2万の兵の動きは、我々を挟撃するための物か?」
「ふむ、その可能性もございますが、もう一人の王位継承権を持つ者に向けられた物ではないかと思われます。」
「もう一人の…アルテミシアか。まさか、妹にまで手をかけようとするとは…。」
「ふむ、それもまた権力の持つ業でございましょう。」
「して、我々はどう動く?」
「ふむ、グレン将軍と2万の兵を前線に残し、残る全軍で王都へ進軍するべきかと愚考致します。」
「よし!グレン将軍、前線は任せた。」
「ハッ、お任せ下さい!」
「レオン将軍、その力で王都への道を切り開いてくれ!」
「承った…。」
口数こそ少ないものの、我が国に絶対の忠誠を持ち、その絶大たる力で常に前線で戦ってきた歴戦の将軍は、圧力を感じる程の闘気を放ちながら天幕を出て行った。
王国の剣の異名を持つレオン将軍がいるならば、フェニキアの傭兵など恐るるに足らぬ。
即刻愚かな弟を屈服させ、余が国王となり強き国を作らねば、我が国に未来はないのだ――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




