王宮に蠢く者
天高くそびえる王宮の窓から見える景色はいつもと変わらず、どこまでも続く青空と太陽の日差しが眩しく降り注ぐ。
眼下には市井の軒並みもまた、どこまでも続き、街路に溢れる民衆の喧噪がここまで聞こえてくるようだ。
「フン、下らん…」
ポツリと口をついて出るいつもの口癖を吐き捨てると、背後からノックの音が聞こえてくる。
「入りたまえ。」
両開きの書斎の扉を開け放ち現れたのは、最近では見飽きた顔ぶれである。
豚のような醜い容姿を上等な衣服で包み込み、卑しい笑みを浮かべるバルト卿、そして常に暗鬱な表情で顔をしかめ、深く刻まれた皺を更に深く掘り込んだベルムス卿、2人の貴族だった。
「ルイス殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しく…」
バルト卿は深く頭を下げ、チラリとこちらの様子を伺ってくる。
「前置きは良い、要件は何だ?」
「はい、良い知らせと悪い知らせがございます。」
「ふむ…悪い知らせから申してみよ。」
「死神の大鎌が妹君の暗殺に失敗致しました…。その後死神の大鎌は壊滅…どうやら、かのウォーロックが連中の味方に付いた模様でございます。」
「…あの神炎の娘か?」
「はい。トラキア戦役の英雄…敵前線の都市を魔法一つで跡形もなく焼き払った、強大な力を持つ娘でございます。」
「まったく、愚妹め…余の慮外を引き寄せる…。それで、良い知らせというのは?」
「混乱を避けるため、まだ公にはなっておりませんが、御父上…国王陛下が崩御なさいました。」
「そうか、遂にか!この時をどれほど待ちわびた事か!」
「この件に関しましては、ごく一部の者しか知りません。多少は時間が稼げるかと思われます。」
「ふむ…して、宰相はどうしておる?」
「それが…国王陛下崩御の知らせを受けた後、八方手を尽くして捜させておりますが、皆目…」
「何!?王都から消えたと申すのか?」
「はい…そのようでございます。」
宰相であるフェスタ―卿の裁可無くして次期国王の地位を得る事は儘ならず、故に次期国王の座を手に入れるため、脅迫、監禁、あらゆる手を尽くしてでも奴に認めさせなければならない。
それが無理ならば、暗殺して子飼いの者を宰相に就かせ、国王の座を得れば良いと画策していたが、我々の監視の目を掻い潜り、王都を抜け出すとは…。
「アルテミシアは、未だリィンフォルトに滞在しているのだな?」
「はい、街を出たとの情報は入っておりません。」
「ならば、宰相はそこへ向かった筈だ。」
「トラキア戦役に縁のある者が集まりつつあると?」
「何の因果か分からぬが、恐らく間違いない。」
「それでは早急に手を打たねばなりますまい…。」
「リィンフォルトに兵を送れ、理由など何でも良い!そうだな…神炎の娘を死神の大鎌の一味に仕立て上げよ。」
「兵の数はいかほどに?」
「2万だ。アルテミシア諸共、宰相、神炎の娘、近衛の連中も皆殺しにせよ!」
「しかし、それではバラン殿下に対する備えが無くなってしまいます!」
「心配するな、兄上との決戦に際して、フェニキアから続々と兵力が集まりつつある。」
「そうだな?ベルムス卿。」
「はい…滞りなく…。」
「おお!それは心強い。」
「よし、それではすぐに出陣の準備に取り掛かれ、明朝には出立せよ!」
「はい、必ずやルイス殿下のご期待に応えて御覧に入れます!」
慌ただしく書斎を退室する2人の背中を見送り、ほくそ笑む。
邪魔な兄上と妹を始末すれば漸くだ、漸く、余が国王の座に君臨する。
フェニキアの属国と成り下がったとしても、手の打ちようは幾らでもある。
王都の中枢を握っている余に地の利は有る。
故に軍事力に勝る兄上にも、衆望に勝る妹にも、負ける道理はない。
自然と零れ出る高らかな笑い声が、静かな王宮に鳴り響いた――
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