死神との死闘の幕開け
最初に動いたのは、シャズだった。
胸部に巻かれた皮のベルトから両手で合計8本の針を抜き、周囲にばら撒くように投げつけて来た。
広間の床に散った8本の針は、いつでも必殺の凶器に変わる。
その全てに注意を払わなければ、死角からの攻撃で致命傷を受けるだろう。
一方、敵の首領ブラッドは、曲刀を構え隙を伺っている。
彼の体の周りを螺旋状に漂う血液の帯は、どのように使われるのか見当もつかない。
そして師匠は、ブラッドに斬られた傷口を押さえ、肩で息をしている。
これまでの戦いで失った血液、そして何より今も傷口から流れ出る血液の量を考えると、もう魔法を使う余裕はないと思われる。
これ以上無理をさせる訳にはいかない。
僕は術式を展開させる。
最初に発動させるのは、冷気の凍土。
この状況を考えると、僕にできる事は敵の足止め程度だろう。
今、僕達の中で最も有効な攻撃手段を持つ、ミリアムの弓に頼るのが最善と考えられる。
広間の床が白い靄に覆われ、次第に気温が下がって行く。
僕の魔力では床上5センチ程度を覆うので限界だが、敵の動きを封じるには充分だ。
その時、師匠がブラッドに向かって走り出した。
僕は師匠の予想外の動きに一瞬呆気に取られるが、すぐに次の術式の展開に取り掛かる。
師匠の行動は敵も予想外だったらしく、僕に狙いを定めていたシャズは師匠に向かって床に突き刺さっている針を飛ばし、ブラッドは後方に飛び退いて迎撃態勢を取る。
そして師匠の危険を察知したミリアムは、シャズに向かって3連続の矢を放つ。
「チィッ!」
師匠に向かって飛来するシャズの針がバラリと床に転がり、ミリアムの放った3本の矢が空中でピタリと動きを止めた。
そしてそのまま方向を変え、それを発射したミリアムの元に高速で舞い戻る。
敵に放った筈の矢を、軽々と回避するミリアム。
その時、ブラッドに駆け寄る師匠が魔法を発動させた。
それに合わせ、僕も魔法を発動する。
「氷の吐息!」
「高圧爆縮火炎魔法!!」
鳴り響く爆音――
僕の氷結魔法がブラッドの動きを封じ、炸裂した爆発はブラッドを直撃した。
いや、直撃したのはブラッド本人ではなく、ブラッドを守るようにドーム状に広がった血液の盾の方だった。
爆発の熱風で僕の拘束は溶け、血液の盾で守られたブラッドは無傷だ。
この2人には僕達の攻撃が、まるで通用しない…。
そして、ブラッドを守っていた血液の盾は、無数の小さな粒に別れ、激しい雨のように一斉に師匠を襲う。
こちらに後退しながら回避する師匠だったが、数発被弾して血を流している。
その時、爆風の影響で天井が崩れ、小さな瓦礫がブラッドの肩にぶつかった。
小さな舌打ちが聞こえる。
この一連の攻防で敵に与えたダメージは、たったこれだけだった。
荒い呼吸を繰り返す師匠は、敵から庇うように僕の前に立ち、小さな声でボソリと呟く。
「奴の能力は分析できたな?」
「はい…、完璧ではないでしょうが、おおまかには。」
「よし、では策を言え!」
「僕がですか!?」
思わず声を上げて驚いてしまった自分に憤りを覚える。
「私じゃ何も思いつかない。オマエなら出来る筈だ…。いや、オマエにしか出来ない!」
「僕にしか、出来ない…」
「オマエの魔力は弱い。弱い故に考え、策を練り、強敵達と渡り合ってきた。学院での実技講習を思い出せ…。」
そうだ、あの時から僕は自分の弱さを受け入れ、勝つための手段を考え、策を練り、戦ってきた。
だが、諦めずに戦う事を僕に教えてくれたのは、他でもない師匠自身なのだ。
「そんなオマエだからこそ出来ると私は信じている。」
「僕を、信じる…?」
その言葉が僕に向けられたのは生まれて初めてだった。
王国最強であるウォーロックが僕を認め、信じてくれている…。
誰よりも弱い魔力であるこの僕を。
過去に囚われ、何も見えなかったこの僕を…。
心の奥底から力が湧いて来るような気がした。
師匠の信頼に応えたい。
僕に戦う事を教えてくれた師匠の思いに報いたい。
「わかりました、やってみます!」
「ミリアム、オマエもファクトの策に協力してくれ。」
「アイ様がそう言うなら、従います。」
ミリアムは納得いかない表情を見せているが、師匠の頼みなら聞いてくれるだろう。
僕は今この場にある、あらゆる状況を分析して、戦いに勝つための策を考えるのだった――
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