師との再会
焦土と化した林を抜けると、次第に木々の密度が増してゆく。
先頭を行くミリアムに追跡を任せ、僕は周囲を警戒しながら森の中を進んで行く。
暫く進むと、ミリアムがポツリと呟く。
「おかしい…」
「何かあったんですか?」
「アイ様の足跡…、歩き方が変だ。」
「戦いで負傷したのではないですか?」
「いや、それにしては血痕が見当たらない…。」
ミリアムの鋭い視線が突き刺さる。
僕に無言で何か心当たりがないのか促しているようだが、僕には見当もつかない。
先程の林を焦土に変えた魔法の痕跡も、初めて目にする光景だ。
あの恐るべき破壊力は、もしかすると大量の魔力を消費するのかもしれない。
「師匠は強力な魔法を使って、血液が不足しているのかもしれません…。」
「そうか…、急ぐぞ!」
ミリアムはそう言い放った瞬間、これまでの速度とは比べ物にならない程の速さで、飛ぶように森の中を駆け出した。
僕も慌てて後を追うが、全力で走っているにも関わらず、次第に距離が離れて行ってしまう。
待ってくれと叫んだところで、彼女は僕を置き去りにして先に進んでしまうだろう。
僕は暗闇に包まれた森の中で、彼女を見失わないように必死に走り続けるしかなかった。
僕の肺と心臓が悲鳴を上げ、限界を迎えようとしたその時、前方でミリアムが立ち止まった。
やっとの事で彼女に追い付くと、そこから森が開け、朽ちた廃墟が姿を現した。
いかにも死神の塒に相応しい佇まいの廃墟を見ると、僕の恐怖心が膨れ上がる。
「アイ様はこの中だ、行くぞ!」
律儀に僕を待っていてくれたのか、立ち止まって様子を探っていただけなのかは分からないが、僕が彼女の後ろに辿り着くと、再び彼女は恐るべき速さで廃墟の中へと進んで行った。
少しだけ休ませて欲しいものだが、急ぐ気持ちは僕も同じだ。
僕は肺と心臓の悲鳴を聞き流し、再び彼女の後に続く。
廃墟の中に侵入しカビ臭い廊下に辿り着くと、彼女は姿勢を低くして、片手で止まれと合図を送って来る。
僕にとってその合図は願ったりの事なのだが、状況を考えると楽観はできない。
廊下の先に続く広間の中から話し声が聞こえる。
その中に師匠の声も混じっているようだ。
この廃墟の中で、その空間だけが燭台の炎に照らされている。
僕達は敵に気取られぬように、ジリジリと広間に近付く。
「敵は3人…、他に気配は無い。」
ミリアムは小さな声で、僕に敵の情報を囁いた。
中央に曲刀を構える男が1人、その左には両腕の千切れたハゲ頭の男、そして右側には頭に包帯を巻いた長身の男…。
僕も広間の中の様子を確認する。
2人の男は見た事も無いが、右側にいる長身の男には見覚えがある。
あれは…シルフィアを出た時に襲って来た、針使いのシャズだ!
そう思った瞬間、師匠と3人の男達との戦闘が始まってしまった。
微動だにしない師匠…、突然倒れるハゲ頭の男…、シャズの笑い声…、そして曲刀に…いや、曲刀に追従する何かに斬られる師匠…。
僕とミリアムは慌てて師匠に駆け寄る。
「師匠!」
「アイ様!」
「オマエ達、どうして…。」
「大丈夫ですか師匠!怪我は…。」
「大丈夫…ではないが、まだ戦える。それよりも、アルテミシアは無事か?」
「部下達とリィンフォルトへ帰還した。問題ない。」
「そうか、なによりだ。ならば、奴らを始末すれば作戦終了だ!」
「女子供が相手とは、楽しませてくれるなぁ、シャズよ。」
「ブラッドの旦那ぁ、あの小僧には借りがあるんで、俺に殺らせてもらえませんかぁ?」
「良かろう、好きにしろ。」
「よぉ、小僧!あん時の借りは返してもらうぜぇ、死んで償いな!」
この2人の男を倒せば作戦終了という事は、ブラッドと呼ばれたあの男が死神の大鎌の首領で間違いないだろう。
この場にいる全員が身構える。
2対3…人数はこちらが有利だが、師匠は負傷しており、この中で僕が最も弱く、足手まといになるのは間違いない。
何より、敵の首領ブラッドの能力が不明である。
戦力的には、こちらが圧倒的に不利な状況だ。
今まさにアルテミシア王女を囮とした作戦の、最後の激闘が幕を開けようとしていた――
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