オリジンを持つ者
燭台の炎が揺らめき、広間にいる3人の男達の影を照らしている。
細心の注意を払って様子を伺っていると、広間の中心でギーグがブラッドと思われる男に報告をしているところだった。
「イギギ…お頭、オレ様やられた…。腕イダい!そうだろ?」
「腕の1本や2本でガタガタうるせぇな!それにコイツ、糞漏らしてますぜ。くせぇんだよ!」
「グギギ…黙れシャズ、あの女強かった。そうだろ?」
「テメェが弱ぇんだよ!」
「オレ様強い!でもあの女、化物だった。そうだろ?」
「あの女?何者だよソイツは。」
「魔術師アイリス!オレ様の腕焼いた。そうだろ?」
「アイリスだって!?おいおい、マジかよ。あのウォーロックのアイリスだろ?俺もその女と戦ったがよ、それほど強ぇって訳じゃなかったぜ?」
「イギギ…ガキにヤられた奴が強がるな!そうだろ?」
「んだとコラ!ブラッドの旦那ぁコイツ殺っちゃって良いですかい?」
「…勝手にしろ。だが、その前にギーグ、お前が連れて来たネズミを退治してからにしたらどうだ?」
勘づかれた!
完全に気配を消していたにも拘らず、私の存在に気付くとは…。
探知系の能力持ちか、はたまた恐ろしく勘が鋭いのか、この状況では判断できない。
ブラッドは瓦礫の上から立ち上がり、ギーグとシャズは臨戦態勢を取る。
「第24代目ウォーロックのアイリスだな…。そこにいるのは分かっている、出て来い!」
「ちぃっ、分かったよ!」
観念した私は、広間にを照らす燭台の灯りの中に姿を晒した。
こうなったら、敵がどんな能力を持っていようとも全力で戦うしかない。
全力といっても、できればあの力は使わない、使いたくない…。
「グギギ…オレ様、殺す!そうだろ?」
「テメェ、あん時は世話になったなぁ。ブッ殺してやるから覚悟しろ!」
「ククク、良いだろう、私に会った事、あの世で後悔しな!」
3対1…かなりの使い手3人を相手に、圧倒的不利な状況だ。
ギーグの重力で拘束されれば、私は殺される。
しかし、あれだけの傷を負っていれば、もう使える魔力は限られている筈だ。
シャズの針をばら撒かれると、どこから攻撃されるか分からない。
物理的な方法で防がなければならないが、魔法しか使えない私とは相性が悪い。
ブラッドは、曲刀を片手に術式を展開している。
見た事もない独特の術式…。
恐らく、私と同じように何らかの固有魔法を使う事が出来るのだろう。
固有魔法――
私の不滅の炎がそれに該当する。
魔法を扱う事が出来る人間の血に刻まれた魔法の根源。
同じ属性を持つ他者が、その術式を真似たとしても扱う事が出来ない、その人間だけが持つ魔法だ。
一般的に使われる魔法は、その固有魔法の属性を使った応用でしかない。
しかし自分の属性が解っても、固有魔法を使う事が出来る人間は限られている。
それがどんな性質を持つ固有魔法なのか、術式すらも固有のものであり、自分の固有魔法を知る事すら難しいのだ。
私の固有魔法も子供の頃に、術式をデタラメに真似た結果、偶然発見した。
それほど固有魔法を扱える者、もとい自分自身の固有魔法の術式を発見した者とは希少な存在なのだ。
そんな希少能力、固有魔法を発動させようとしているブラッドは、何としてでも発動前に潰してしまいたいところだが、既に臨戦態勢に入っている2人がそれを許さないだろう。
まずは深手を負っているギーグを瞬殺、その後シャズもなるべく早く倒す事が出来れば、ブラッドと1対1の状況が作り出せる。
そうすれば、後はブラッドの固有魔法を見切れるかどうかに掛かって来る。
しかし、私の考えは甘かったようだ。
私が行動を起こすより一瞬早く、ギーグの重力魔法が私を縛り付け、身動きが出来なくなってしまった。
そこへシャズの針が、私の心臓目掛け真っ直ぐに飛来する。
もう後がない…。
私の固有魔法を使えば、未知の固有魔法を発動しようとするブラッドを含めて、3人の強敵を一瞬で焼き殺す事が出来るだろう。
もう限界だ、やるしかない!
そう思った瞬間、ギーグがドスリと音を立てて前のめりに倒れた。
多量の失血による昏倒…、もう立っているのもやっとの状態だったにも関わらず、これ程の重力魔法を使えば意識を失うのは当然だろう。
しかし、私を縛る重力から解放されたのは良いものの、既にシャズの針が私の心臓を貫こうとしていた。
「クハハハハ!手応え有りだなぁ!」
ポタポタと鮮血が零れ落ち、ひび割れた床を濡らす。
…大丈夫だ、致命傷にはならなかった…。
シャズの放った針は、咄嗟に心臓を庇った右手を貫通し、胸に刺さってはいるがギリギリのところで心臓には到達していない。
私は左手で針を引き抜き、高速で術式を組み上げる。
歓喜に満たされたシャズの顔が一瞬で驚愕の色に変わり、再び針を放とうとするが、もう遅い。
既に私の術式は組み上がっている。
「高圧爆縮…!!」
いや、遅かったのは私の方だ…。
ブラッドの振り下ろす曲刀が、私の頭上に煌めく。
物理攻撃!?
強い魔力を感じるが、ブラッドは魔法ではなく曲刀での斬撃を放って来た。
私は咄嗟に後方へ飛び退き、斬撃を躱す…。
鋭い風圧を放ち、鼻先を掠める曲刀――
いや、それだけではない。
曲刀に追従する赤黒い何かが、私を肩口から斜めに切り抜けた。
傷口から吹き出す血飛沫…。
ほんの一瞬反応が遅ければ致命傷を受けていたが、傷はそれほど深くない。
だが、この一撃で随分血を失ってしまった。
恐らくこれで、私の固有魔法、不滅の炎を一瞬放つ程度の魔力しか残っていない。
私は更に後方へ飛び退き、ブラッドを睨み付ける。
ブラッドの周りを螺旋状に纏わり付く赤黒い何か…。
あれは…血液か?
「流石だな、ウォーロック。魔術のみならず、反応速度も体術も一流とはな…。」
「オマエもな、ブラッド。固有魔法が使える奴をこの目で見るのは、オマエで4人目だ…。」
「ほぉ、光栄だな。だが貴様に次は無いぞ、ウォーロック!」
私にもう余力は残されていない。
もし不滅の炎を使って、あの2人のどちらかが生き残ってしまえば、私の命もそこで終わりだ。
ブラッドの固有魔法も、血液を使うところまでは判明したが、未だ謎に包まれている。
私は一体どう戦えば良いのだろうか――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




