近衛騎士団長の行方
鬱蒼と茂る森の中、そこは夜の闇と相まって不気味に広がり、疎らに差す月明かりがなければ歩く事さえままならない。
そんな視界の限られた場所で、ミリアムは敵陽動部隊の残した痕跡を辿り、僕達を先導する。
僕も痕跡を見つけようと試みるが、何一つ発見する事は出来なかった。
流石にミリアムは、若くして近衛騎士団の副団長を務める事だけはあると言って良いだろう。
月の位置から考えると、今は深夜1時を過ぎた頃だろうか。
僕達は開けた窪地に差し掛かり、足を止めた。
辺りには濃い血の匂いが立ち込めている。
ここでミラルダと敵陽動部隊の戦闘があったのは間違いない。
ミリアムは弓を構え、ランスロットは腰の長剣を抜き、周囲を警戒したまま、ゆっくりと窪地の中心へと向かう。
そこには、血溜まりの中に倒れる全身鎧に身を包んだ巨漢の男と、なぜか周囲に無数の石ころが転がっていた。
ここまで動く者の気配は無い。
敵は撤退したか、もしくは全滅しているのだろう。
ランスロットは吐き気を催すような血の匂いの中、巨漢の男の死体をじっくりと調べている。
「この刺し傷はミラルダ様のもので間違いありません。」
確かに巨漢の男が身に付けている全身鎧の背には大きなひび割れが走り、その中心から大量の血が流れている。
ミラルダが腰に下げていた武器は突剣だったような気がするが、果たして突剣でこれほど強固な鎧を打ち壊し、心臓を貫くような芸当が可能なのだろうか。
「ミラルダさんは無事なんでしょうか…。」
「平民と一緒にするな。様を付けろ、バカ者が!」
ミリアムは小さく舌打ちを鳴らしながら、僕を怒鳴りつけた。
僕の失言であるのは認めるが、彼女の僕に対する態度がいつも刺々しい。
僕が何か気に障るような事をしたのだろうか。
気を取り直して、僕達は窪地を囲む崖の上に回り込み、夥しい数の死体を発見する。
どの死体も急所を一突きで貫かれており、ミラルダ様の実力が想像を遥かに超える物だと実感せざるを得ない。
死体が手に持つ皮紐は、どうやらスリングと呼ばれる投石武器で、窪地の中心に散乱していた石ころの正体が掴めた。
ミラルダ様は、巨漢の男と戦っている間に、崖の上から投石攻撃を受けていたのだろう。
ここまでミラルダ様の姿が見えないという事は、無事である可能性が高いが、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
その時、突然走り出したミリアムに、敵襲があったのかと緊張するが、どうやら倒れているミラルダ様を発見したようだ。
「ミラ様!ミラ様っ!」
見たところ少し返り血を浴びているが、大きな怪我はないようだ。
「ミリ…アム…、ミリアムか…。私は…一体…。」
「大丈夫ですか!お怪我はありませんか!?」
「ああ…大丈夫…そうだ。」
「良かった…」
ミリアムは涙を浮かべてミラルダ様の手を強く握り締めている。
「少々無理をしすぎたようだ…。心配をかけて悪かった…。」
「いえ、ミラ様が無事なら私は…」
「それより、状況を聞かせてくれ。アルテミシア殿下は御無事なのか?」
ミリアムとランスロットは、ここに至るまでの経緯をミラルダ様に話して聞かせた――
「そうか…アルテミシア殿下が御無事ならば問題ない。」
「後はアイリス様を捜索しなければなりませんが…」
「アイリス殿の事だ、予定通り死神の大鎌の拠点へ向かっているに違いない。済まないが私は暫く戦えそうもない…。私を置いて先に行ってくれ。」
「そんな事は出来ません。」
「私はもう動くのもやっとだ…。私を連れて行けば足手まといになる。」
「ランスはミラ様を連れて街に戻って、アル様と合流しろ。私とアイ様の弟子でアイ様を捜しに行く!」
「ミリアム…、そうか、了解した。アイリス殿の事は任せた。」
「はい、必ず連れて戻ります!」
こうして、一度街道に戻った僕達は師匠を捜すため、街道を北上する。
ミラルダ様はランスロットの肩を借りて、アルテミシア王女と近衛騎士達の向かったリィンフォルトへ帰還した――
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