双凍剣・デュアルフリーズブレード
蛇に睨まれた蛙…。
僕達の置かれている状況は、まさにその通りになってしまった。
敵の指揮官が持つ強力な魔法の武器で、近衛騎士パーシバルが一瞬にして倒れてしまった。
仰向けに倒れている彼の顔面からは血の気が失せ、白目を剥いている。
最早生存は絶望的だろう…。
時間を稼ぐという意味では、お互いに睨み合っている今のこの状況は望ましい事なのだが、敵がその気になればこの場の全員を皆殺しにしてアルテミシア王女を追う事も可能な筈だ。
敵の指揮官が行ってきた態度や言動も頷ける。
ならば何故、すぐに強行突破せずに睨み合いを続けているのか。
面倒だと言いながらも戦いを楽しんでいるような、そんな雰囲気を漂わせていると感じているのは僕だけだろうか。
僕達は敵を取り囲んではいるものの、彼の眼光一つで本能が体を動かし、ジリジリと後退させてしまう。
「どうした、来ないのか?ならば、こちらから行かせてもらおう。」
そう言って敵の指揮官はぐるりと僕達を見回し、ザックスに視線を合わせる。
彼の視線に晒されたザックスは、手に持った長剣を強く握り締める。
それを見て、ザックスの両隣にいた近衛騎士達が盾を構えたまま、ザックスの方へ半歩移動する。
彼らは身を挺してでもザックスを守るつもりだろう。
敵の指揮官は何の身構えも無く悠々とザックスに歩み寄る。
しかし、その歩みには微塵の隙も感じられない。
恐ろしい程の修羅場を幾つも潜り抜けてきた者だけが持つ風格、師匠も時折同じような雰囲気を漂わせているので、彼の実力は容易に想像できる。
ザックスが危ない。
僕が何とかしなければ…。
何故だか解らないが、僕の魔法が通用しなかった。
そんな僕に何が出来るのか…。
敵の指揮官は不意にザックスへと飛び掛かる。
近衛騎士が盾を突き出し、ザックスを守ろうと飛び出すが、あの距離からでは間に合わない。
金属がぶつかる甲高い音――
ザックスは敵の斬撃の初動を長剣の切っ先でいなし、大きく軌道を変えたようだ。
冷気を纏った白い靄が、斬撃の軌跡をなぞるように煌めく。
直接斬撃を受けなくとも、あの靄に触れた物は全て凍らされてしまう。
初撃を捌いたとしても、すぐに2撃目3撃目が続けてやってくる。
敵は両手に同じ魔法の武器を持っているのだ。
あれは確かどこかで見た覚えがある…。
僕が必死に記憶の引き出しを漁っている間に、ザックスは長剣を使って見事に敵の魔法の武器を捌いている。
その隙を衝いて近衛騎士の槍が敵に襲い掛かるが、軽々と身を翻し、後方へと飛び退く。
その時、僕の記憶の引き出しの奥深くに眠っていた情報を、朧気ながらも思い出した。
あれは確か、シルフィア魔法学院の図書室にあった蔵書に書かれていた筈だ。
双凍剣――
100年ほど昔に作られた片刃の双剣で、強い氷の魔法が込められている。
その材質は、伝説と謳われるほどの希少金属、ミスリル銀で作られていると記述されていた。
そして、その刀身に帯びたあまりにも強すぎる魔力の影響で、扱う者をも凍らせてしまうという。
敵は自分自身も凍らせてしまうような魔法の武器を扱っている。
いや、扱えるように氷結を無効化する魔法を施しているのではないだろうか。
僕の放った氷結魔法、氷の吐息が無効化されているのだから間違いないだろう。
しかし、敵が扱う魔法の武器の実態が判明したところで、僕には手の打ちようがない。
氷に対して炎の魔法を放ったところで、あの反射神経と身体能力では容易に回避されてしまうだろう。
当たらなければ意味がないのだ…。
「その剣捌き、どこかで見た覚えがあると感じたが、小僧、貴様はベルガーの縁故の者か?」
「この剣技はベルガー様より受け継いだものです!」
「そうか…、あの男には大きな借りがある。」
そう言って敵の指揮官は漆黒の外套を脱ぎ捨て、顔を露わにした。
「見ろ、この忌々しい傷を!」
彼は顔面を斜めに深く刻まれた傷をなぞるように、右手に持った魔法の武器で指し示す。
「奴に付けられた傷だ!俺にとって最大の屈辱!忘れ得ぬ憎しみの傷跡だ!」
彼の顔が怒りに歪み、血走った瞳がザックスを強く睨んでいる。
「奴をこの手で殺しても憎しみは消えなかった。奴に関わる全ての者を殺し尽くすまでは、この屈辱は拭えない!」
「そうですか…貴方がベルガー様を!貴方だけは絶対に許しません!ベルガー様の仇、覚悟して下さい!!」
普段は温厚で真面目なザックスの顔にも怒りが溢れる。
このままでは不味い、冷静さを欠いては魔法の武器の餌食になってしまう。
ザックスの恩師であり、僕の師匠も称賛していたベルガーでも勝てなかった男に、ザックスが太刀打ち出来る筈がない。
近衛騎士達の援護があったとしても、あの男には傷一つ付ける事は出来ないだろう。
僕は焦りと苛立ちに苛まれながらも、必死に考える。
ザックスを救う方法を――
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