闇の狩場
私は闇夜に蠢く影を追い、街道を南へと駆ける。
夕刻に通った道だ、地形は把握している。
西の森へと入って行った蠢く影達。
私も街道を外れ、森に入る。
随分アル様と離れてしまった、引き返すべきか…。
いや、災いの芽は小さいうちに排除すべきだろう。
私は鬱蒼と茂る木々の中を突き進み、大樹の陰に身を隠す。
敵の動きが止まった…。
殺気を放つ敵の気配が、森のそこかしこから感じられる。
私は大樹の陰から顔を覗かせ、周囲を観察する。
月の光は森の木々に遮られ、深い暗闇と静寂が森を支配している。
敵は巧妙に身を隠し、こちらの出方を伺っているようだ。
敵は暗殺者集団だとミラ様が言っていたので、身を隠す事が得意だと思われる。
しかし、森で育った私には目に見える物だけでなく、気配や微かな物音、そして息遣いから、敵の居場所を感じる事が出来る。
前方のやや開けた場所を中心に、その場所を取り囲むように敵が待ち構えている。
これ以上踏み込んでいれば危ないところだった。
私の弓の必中距離にいるのが、約半数の15。
昼間の開けた場所であれば今の3倍の距離を狙えるだろうが、暗闇で視界が制限されているうえ、森の木々が障害となっている。
私の携行してきた矢の本数は22、敵の数は30丁度。
一射一殺したとしても8本足りない計算だ。
問題ない、私ならやれる。
私は意を決して、大樹の陰から飛び出す。
開けた場所を中心に半円形に展開された布陣の、右側面から回り込むように戦えば、敵の集中攻撃に晒される事は無いだろう。
まずは3射。
急所を射貫かれた敵は呻き声を上げながら、絶命する。
残り19本、敵は27。
続けて2射、1射、3射。
そこで私は木陰に隠れて息を整える。
矢は残り13本、敵は21。
すれ違い様に倒れた敵の死体を見ると、その殆どが弓を持っていた。
矢の本数は問題なく足りそうだ。
チャンスがあれば敵の矢筒から、根こそぎ矢を回収すれば良い。
やはりこの程度の敵ならば瞬殺だ。
再び木陰を飛び出した私は、12射を放つ。
途中、いよいよ敵の反撃があったが、あんな初動の遅い矢など目を瞑ってでも避けられる。
敵が誤射して木に突き刺さった矢を2本ほど回収できた。
これで矢は残り3本、敵は15。
残り半分、そろそろ敵の矢を奪わないと、私の矢も底を尽きそうだ。
それに、敵も半数になって動きを変えて来た。
こちらの動きに合わせて包囲の輪を形作る敵。
直近の敵を射殺し死体に駆け寄るが、その手に握っていたのは短刀だった。
「ちぃっ!」
私は苛立ちを露わにして舌打ちをする。
残り2本…。
もうあまり猶予はない。
再び駆け出し、前方の敵2人に狙いを定める。
この左右どちらかの敵が弓を持っている事を願う。
すると、右の敵が矢を放ってきた。
私は左に転がり、放たれた矢を躱すと、ニヤリと笑って2射を放つ。
そのまま右の敵の死体に駆け寄り、血に染まった矢を奪い取る。
15本…充分だ。
敵は残り12、このまま一息に終わらせてやる。
私は大きく深呼吸をして息を整え、最後の突撃を開始する。
2射、3射、そして1射…。
「外した!?」
確実に急所を狙ったにも関わらず、最後に放った1射が空を切り、木に突き刺さる。
動揺した私は再び木陰に身を隠す。
明らかにおかしい。
この暗闇で私の矢を躱す事の出来る人間など、そうはいない筈だ。
ミラ様やアイ様でも難しいだろう。
偶然か?
いや、警戒するに越した事はない。
私は注意深く敵の気配を探る。
敵は残り7人、間違いない。
この中に私の矢を躱すほどの手練れがいる可能性もある。
ここは慎重に、1人ずつ確実に殺して行った方が良いだろう。
敵の気配に向かって突撃した私は、横からの矢を躱し、1人を殺す。
すぐに前進して、もう1人。
更に視界の端に映る敵影に向かって渾身の矢を放つ。
すると私の放った矢は敵影を突き抜け、暗闇に包まれた森の奥へと消えて行く。
確かに私は確実に敵の眉間を狙って矢を放った。
そして矢は回避されもせず、敵を突き抜けた。
気配を探るが、既にそこには敵はいない。
そして私は1つの答えに辿り着く。
あれは…魔法だ――
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