近衛騎士ミラルダ
フォルティス川の戦いから遡る事、数刻前――
テントで仮眠を取っていた私は、部下の告げる敵襲の一言で飛び起き、ミリアムの元へ駆けつけた。
どうやら、アイリス殿の弟子が施術した探知魔法が敵襲を感知したようで、先に集まっていた部下達も戦闘準備を整えつつあった。
「数は30程度…」
地面に耳を押し当て、足音を聞いていたミリアムが、私に敵の数を告げる。
「たった30か、ずいぶんと舐められたものだな。私が行こう。ミリアム、アルテミシア殿下を頼んだ。」
無言で頷くミリアムを背に、私は暗い森の奥へ向かって行った。
暗黒で蠢く敵は、私の気配を感じると踵を返し、更に森の奥へと引き返して行く。
この動きは明らかに陽動…しかし、このまま捨て置く訳にもゆくまい。
私は罠に警戒しながらも、全速で敵を追いかけた。
敵もこちらの戦力を知っている事だろう。
ならば自ずと、こちらの作戦も想像できよう。
私、ミリアム、そしてアイリス殿の主力3人による各個撃破、それが最もアルテミシア殿下を危険に晒すリスクが少ない作戦に他ならない。
しかし、ここで襲撃してきたという事は私達の、真の行軍目的は知らないと思って良いだろう。
幹部クラスの敵を発見した場合は、生きたまま捕らえるか、あるいは重傷を負わせ逃走したところを尾行し、敵の拠点を発見するだったか…。
正直、私には自信がない。
動く敵は全て屠らなければならない。
それが戦場に身を置く者の鉄則であり、幼い頃より父上に教え込まれた生き残るための術なのだ。
例え親兄弟と戦う事になったとしても、敵ならば屠らねばならないのだ…。
そういった意味では、父上こそ屠るべき敵だと思わねばならないだろう。
私にとって、乗り越えねばならない最大の障壁なのだから…。
王国の剣と謳われ、王国最強の部隊『真紅の獅子』を率いるレオン将軍、その娘として私は生まれた。
娘である私は、将軍となるために育てられるのは必然だろう。
私は、生まれた時から定められた道を歩む他なかったのだ。
親のぬくもりを知るより先に、剣の重さと鎧の冷たさを知った。
それでも、偉大な父上のお役に立てるなら、私は良かった。
周りの期待に応えねばならない重圧が、毎日のように私にのしかかってきた。
それは私が努力すれば良いだけの事、父上の期待に応える事が私にとって何よりの喜びなのだから。
ただ、どんなに期待に応えようとも、どんな功績を挙げようとも、私が私として扱われる事は無いのだ。
私は『将軍の娘』であって、私を私として扱ってくれる人間など存在しない。
いつの頃からか私は私を見失ってしまった。
だから私は父上を越え、私を取り戻さなければならない。
しかしアルテミシア殿下は、そんな私を私として見て下さったのだ。
ミリアムは『将軍の娘』ではなく、姉のように慕ってくれている。
アイリス殿は『将軍の娘』ではなく、戦友として共に戦ってくれる。
部下達は『将軍の娘』ではなく、良き上官として従ってくれる。
私の居場所はここなのだ。
絶対に守ってみせる。
例え私の身に何が起ころうとも…。
そしていつの日か偉大なる父上を越え、私を取り戻すのだ。
私は決意を新たに、暗黒に包まれた森を疾走する――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




